2020/02/27
コラム
【第3回:新保明弘】晩秋の沖堤防で端境期の回遊魚を狙う!
年々、人気の高まりを見せるショアジギング。しかし、相手は気まぐれな回遊魚だ。重いメタルジグをキャストし続けても、チェイスさえないことも日常茶飯事だ。1日の釣りのなかで、何を考え、何をすればよいのか。このコーナーは、名手の釣りを追ったドキュメントストーリーである。釣れないときこそ、すべきことがある
沖堤防へ移動してサイズアップを狙う
ゆっくりと港を出た渡船は、5分も走らず堤防付け根の岩場に舳先を付けた。新保明弘さんはタックルを抱えてコンクリート製の階段を上る。上がった先からは足場のよい堤防が伸びていた。 ここは西伊豆田子の尊之島堤防。その名の通り、尊之島という離れ島に造られた堤防である。湾奥に位置する田子港を冬場の西風から守るために造られたものだろう。
– 前回でレポートしたように、この日の午前中は沼津の今沢海岸でサーフからの釣りを楽しんだ。状況は決してよくなかったものの、潮が緩むレンジを探し当ててショゴ(カンパチの若魚)を1尾キャッチすることができた。
「ここではサーフよりも大きい魚を狙ってみたいと思います。ブリ系ならワラサクラス、カンパチなら2kgまでかな。船長に聞いたら単発ながらワラサが出ているとのことなので、夕マヅメまで頑張ってみましょう」
– 尊之島堤防は足下から水深がある。時として速い潮が差すこともあり、その動きはサーフよりはるかに複雑だ。
「水深があるぶん、やはりサーフとはややアプローチを変えますね。遠浅でルアーを引くほどに浅くなっていくサーフでは横方向へのジャークが中心になりますが、足下まで水深がある沖堤では“縦の釣り”が多くなります。足場が高いぶんラインの角度がつくので、ジグのアクションも上下の動きに近くなりますからね」
【Check point!】
水深のあるポイントは「縦の釣り」
足下まで水深のある沖堤では、きちんとボトムまで探るために縦方向へのアプローチを多く絡めることになる。具体的には、速めのワンピッチジャークを中心としながらも、フォールの間を多めに取る、ロッドを立て気味にして積極的に上下のアクションを入れる、こまめにフリーフォールでボトムを取る、といった具合だ。
水深のあるポイントでのアプローチ
– まずはボトムまでメタルジグを落とし、ワンピッチジャークで巻き上げてくる。サーフでは新保さん自身が「ナントカのひとつ覚え」というジャカジャカ巻きが目立ったが、沖堤に移ってからは時折フォールの時間を長く取っているように見える。これも“縦の釣り”を意識してのことだろう。
「田子の海底は根が多いので、周辺には常時魚が着いていると思うのですが、日の高い時間帯はボトムから離れないことが多いんです。表層でベイトを追っているとか、何らかの気配があれば上からレンジを刻むんですけどね。そろそろ下げ止まりなので、その後の潮の動き始めで喰ってくるといいんですけどね」
しかし、期待の上げっぱなはノーバイト。メタルジグをローテーションし、時折トップウォータープラグで目先を変えながらキャストを繰り返すも、海からの反応は皆無である。
午前中のサーフでの状況、そして船長の話からして、新保さんもこの雰囲気をある程度は予想していたのかもしれない。気配がなくなったところで堤防付け根に移動して根魚の様子を伺う。それでも常に沖の潮を観察しているあたりは抜け目がない。
– この日は根魚の機嫌が悪かったようである。ほどなくして堤防先端へ戻り、回遊魚狙いに集中することに。
「沖に見える潮筋が近づいてくるとおもしろいんですけどね。まぁここでもワンチャンスでしょう。日が傾いてからが踏ん張りどころですね」
まだしばらくは我慢の釣りが続きそうだ。
【Check point!】
斜陽角によって魚のレンジが変化する
魚の活性が高く、表層で活発にベイトを追っているときは攻めるレンジを絞りやすいが、スイッチが入っていない状態の回遊魚はボトム付近から離れないことが多い。特に日光が海中に深く差し込む日中はこの傾向が顕著だ。しかし、日が傾いて海面への照射角が変わり、海中が暗くなると、途端に表層を意識してルアーに襲いかかることがある。斜陽角が浅い朝夕のマヅメは、鉄板の好時合なのである。
夕マヅメに値千金のショゴをゲット!
– 我慢の釣りといっても、新保さんは闇雲にルアーを投げているわけではない。さほど強い流れが入ってきているわけではないが、探せば何らかの変化が常にある。
「海を見ていて、少しでも“投げる理由”が揃った場所へキャストするようにしています。投げる理由とは、ヨレや潮目といった流れの変化。表層で魚が跳ねたりベイトが固まっている箇所、釣りを続けるなかで見つけた地形の変化も“投げる理由”である。ブリ系の魚は潮流に着くが、カンパチはカケアガリなど地形の変化に着く。釣れない時間であっても、考えるべきことはたくさんあるのだ。」
– やがて夕マヅメ。海面から照り返す西日が眩しくなった。渡船の回収時刻まで残り20分となった16時40分、いよいよラストチャンスかと思ったそのときだった。
「喰ったよ!」
ロッドの曲がりからして、魚のサイズよりもタックルが勝っていることは明らかだった。しかしこの魚は、この日の釣りの達成度を決定づける1尾である。取り逃がすわけにはいかない。新保さんのやり取りも、おのずと慎重になる。
– しばしのやり取りの後、玉網へ滑り込ませたのはショゴ。これより大きい魚を何尾も仕留めている新保さんだが、サイズではないのである。歓喜の声とともに見せたガッツポーズは、最後まで諦めずに攻めきったという達成感の証しなのだ。
「早朝のサーフで1尾、夕マヅメの沖堤で1尾。でも嬉しいですね。今日の釣りを評価するなら100点でいいんじゃないですか(笑)」
伊豆エリアでは回遊魚の端境期ともいえるこの時期、狙った場所で、考えた末に喰わせた1尾がもたらす喜びは格別なのである。
【Check point!】
沖堤でのポイントの見極め方
沖堤や沖磯であってもポイント選択の基準は同じ。ベイトがいればその周辺を狙うし、ヨレや潮目、ミオ筋といった潮流の変化も大きな目安となる。沖堤や沖磯は潮通しがよく、流れがあれば潮筋も比較的ハッキリしているため、サーフよりもポイントを絞り込みやすい面もある。しかし、潮通しがよいぶん流れは複雑かつ刻々と変化しているので、キャストごとに投入点を見定める必要がある。
タックルデータ
ワラサクラスに照準を絞ったPE2号タックル
尊之島堤防は港から出てすぐの沖堤だが、水深があって沖磯と同等のポテンシャルを秘めている。よってタックルも、沼津のサーフよりワンランク上げたPE2号、ロッドはMHクラス。3〜4kg前後のワラサ、2kg前後のカンパチあたりを想定して頑丈なものを使用した。
水深があるうえに時として速い潮が通すため、メタルジグはしっかりボトムを取れる60gが中心。ジャーク時のスライド幅が大きいロングタイプをメインにローテーションした。
【フィールドデータ】西伊豆田子・尊之島堤防
伊豆半島西岸のほぼ中央部に位置する田子はかつてカツオ漁で栄えた集落で、「田子節」と呼ばれる鰹節の産地として知られる。御前崎方面から流れる黒潮の分流が当たることから、メジナやイシダイといった磯釣りでも実績があるエリアである。
田子地区は大小の入り江を擁する典型的なリアス式海岸で、海底に根が多いことから常時回収魚が居着いている。潮の具合によってイナダやショゴ、ソウダガツオばかりの日もあるが、潮当たりがよければカンパチ、ワラサ、ブリ、ヒラマサなどがガツンと喰ってくることもある夢多き釣り場だ。
尊之島堤防は田子港を出てすぐの尊之島から突き出た堤防で、足場がよく潮通しがよいうえに、船道付近は25〜30mの水深がある。過去の実績は沖磯と比べてもまったく引けをとらない一級の沖堤だ。アカハタやオオモンハタなどのロックフィッシュも狙えるので、回遊魚のアタリが遠のいたときも退屈することはないだろう。春はアオリイカ狙いの釣り人で賑わう。
釣行日=令和元年10月30日
釣行時間=午前5時〜午前8時30分
天候=晴れ
風向き=ほぼ無風〜西の微風
潮回り=中潮 満潮6:48/ 18:12 干潮0:12/ 12:36(田子の浦)
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