2020/05/29
コラム
逃さなかったワンチャンス大分県佐伯市米水津棹立近くの無名瀬
冷たい水の中で活動量を落としたグレは、目の前にツケエサを届けなければ口を使わないシビアな相手。魚影の薄い二級ポイント、強風、当て潮、喰い渋りといった過酷な条件に田中修司さんが立ち向かう。
名もなき地磯へ
大分県佐伯市の米水津は全国的なグレ釣りのメッカとして知られ、人気釣り場が目白押し。ところがグレ釣り大会が重なったこの日は未明から大盛況で、魚影の濃さを誇る名礁は大会の舞台として使用されることとなった。
各渡船が大会参加者を磯へ渡し終えた静けさの中、田中修司さんが上礁したのは名もない地磯。強い北西風が吹くという予報が出ているが、背後に高い岩がそびえ立つこの場所なら、とりあえず安全に竿を出すことができる。
さっそく高場に立って海中の様子をチェックすると、船着けより右側には大きなハエ根がせり出していて、左側には沈み瀬が点在していることを確認できた。潮は沖へ向かって左から右、風も同じ方向で吹いているという条件。満潮時刻は30分後というタイミングを迎えていた。
グレ釣りシーズン終盤を迎えるころの海水温は年間を通して最も低く、田中さんが予想しているのは小さなアタリを確実に取る必要があるシビアな釣り。
「水が冷たいと、グレは体力を温存するために浮き袋をあまり使わなくなります」というのがアタリが小さい理由で、ロッドは繊細なテクニックに対応できるファイアブラッド グレ 1-530 クレバーハントを選択した。
残り続けるツケエサ
最初にチョイスしたウキはシマノ/CORE ZERO-PIT DVC TYPE-Dの00。仕掛けは二段ハリスの半遊動仕掛けで、0.3号のエステルラインを1cmほど使ってなるほどウキ止めをセットする。東向きとなる釣り座は、朝の時間帯は完全な逆光だ。
20mほど沖を狙って釣り始めると、ツケエサのオキアミ生はそのままの状態で帰ってきた。後打ちのマキエを10杯ぐらいウキに被せているにもかかわらず、まるで魚の気配が感じられない。
水温の低下でエサトリが少ないことはある程度想定内だが、それよりも厄介だったのは強い風で、潮と風が同じ方向となっているため仕掛けの張りを作りづらい。風上に向かって投じた仕掛けは、潮の流れに阻まれて6mまでしか入っていかず、口ナマリとして5号のジンタンを打って対応した。
1時間ほど経過したところで潮が緩んできたので、ガン玉を外す対応で活路を見出そうとした田中さんはウキをCORE ZERO-PIT DVC TYPE-Dの000にチェンジし、ウキがサスペンドした状態から仕掛けを入れていくパターンへと移行する。しかし、この仕掛けでさらに沖を狙ってみても、ツケエサが取られることはなかった。
「下げ潮はほとんど動いていないですね。深いタナまで探ってみても見込みはなさそうです」
一度もツケエサを取られないまますでに5時間余りが経過したが、強い横風に耐えつつ高い集中力を維持することができているのは軽快な操作性を備えたクレバーハントのおかげ。必ずチャンスが巡ってくることを信じ、ひたすら仕掛けを打ち返す。
ついにきたチャンス
それまで遠投気味に狙っていた田中さんが、一転してハエ根のキワ付近を狙い始めた。そっと息を殺し、静かに仕掛けを投入。マキエはウキを囲むように散らし打ちしている。
身をかがめて全神経をウキの周囲に集中していると、場面は急転直下。スーッと入っていったストッパーの動きは待望のアタリだ。ウキ止めがウキに乗って加速するまで待った田中さんが、次の瞬間にクレバーハントを大きくしならせると、胴に乗ってきたのは明らかに本命とわかる確かな重量感だった。
ハエ根に向かわないように丁寧に魚をいなせば、あとはロッドの反発力が獲物を浮かせてくれる。ファイアブラッド タマノエを手にしたところで、もはや田中さんの勝利は確定した。
タモに収まったのは43cmの口太で、丸々とした体形が目を引く重量級。この日最初のアタリが、見事に釣果へと結びついた。
「さっき一瞬だけ風が弱まって、そのときにチラっと見えた魚影がグレっぽかったんです。もしかしたらマキエに反応して出てきたのかもしれない。そう思ったら他に手はありません。絶対に喰わせようとしつこく狙いました」
ようやく口を使ってくれたグレの価値は、田中さんの笑顔が雄弁に物語っていた。
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