2021/08/16
コラム
ロクマル夢釣行 巨チヌの聖地でぶん曲げろ 長崎県対馬市浅茅湾「ハサマ」「大船越の筏前」
チヌのロクマル三大聖地の一つに数えられる長崎県対馬市浅茅湾。不思議なことに、ここ十数年、チヌの釣果情報はあまり出てきてない。
過去をたどると名だたる名手が、我こそはと挑んだ歴史が刻まれているのだが……。
シマノクロダイフィールドテスターの百合野崇さんは、満を持して巨チヌの秘境に挑んだ。
ロクマル生息の条件
シトシトと降り止まない雨のなか、瀬上がりしたのはハサマという瀬。
これから潮が下がっていくタイミングだが雨に打たれた木の葉が海面を覆っていた。 幸い干満の差が大きく浮遊物を押し流してくれる。
百合野さんは鱗海スペシャル1-530を取り出し仕掛けを組む。初めての場所、しかも対峙すべき相手は60cmを超える巨体。2・5号の太ハリスをカムフラージュする濁り重視のマキエと小さな変化を捉える1号のPEラインが本気度を示している。
以前、百合野さんはチヌが60cm以上に成長する条件として、低水温期でも水温が10℃を下回らないこと、さらにエサが豊富なことを挙げた。
その点、浅茅湾は複雑に入り組んだリアス式海岸でシケることもなく、暖流の影響で冬でも比較的温暖でありマダイやマグロの養殖も盛んだ。
つまり、どのタイミングでレコードを破る大物の出現があってもおかしくはない環境である。
立ちはだかるロクマルの高い壁
マキエが効いたのか、2投目で手のひらサイズのチヌがアタった。
連日の雨で塩分濃度が薄まっているはずで、マキエの効果が現れるのに時間が掛かると危惧していたが杞憂だった。
ただ、ここから名手は苦悩する。仕掛けを入れ、ラインを張りマキエを被せて同調させる。常に張りを持たせてあるラインには何も変化がないのにキンクしていた。
これが厳然と立ちはだかる壁の向こうにいるチヌの正体だろうか。
ロクマルのイメージはパワフル。対パワーでやり取りする相手とばかり思っていた。
しかし、その前段階で思惑が外れた。その実像は、海面直下を漂うPEラインすらも動かすことなく海底にべったりと張り付いたまま動じない。釣り人にアワセの手掛かりは与えないが、食ったことだけは誇示する何枚も上手をいく老練さ。なんと、次の仕掛けの回収ではチヌバリが噛み潰されていた。ゾッとするが、ハリを見つめながらチヌに試されていることを思い知らされる。
筏前で持久戦
あやうく深い迷宮に誘い込まれそうになったが、瀬替わりの時間となった。
瀬渡し船ニューくろいわに乗り込み大船越の筏前という広く足場の良い瀬に移った。
ここは50mくらい沖に浮いている筏周辺がポイントで、筏の下にチヌが隠れていると船長は言う。
超遠投を得意とする百合野さんなら筏の際でマキエと仕掛けを同調させるのだろうと思ったが、足元から15m先のカケアガリを攻め始めた。
筏、ロープ、さらに目に見えない障害物に巻かれたら、どんなに太いハリスでもいとも簡単に切られてしまうからだ。
夕まづめの上げ潮に照準を合わせ、まずはマキエを十分効かせ、筏下から誘き出す。
そう、持久戦だ。
潮が引いてくると前に出て、筏との距離が縮まった。カケアガリは急激に落ちていて、そこからはなだらかに海底へと続いている。変化がある狙うべきポイントは深く落ち込んだ所。
ここにしっかりとマキエを蓄える。小さなアタリはエサ盗りではなくすべてチヌと頭を切り替えた。
前アタリだけで食い込まないときは、仕掛けに違和感を感じているためガン玉の位置をハリから離す。
百合野さんの得意とする高速スルスル釣法はマイナス浮力のウキを使い、いち早く底を取ることを優先するが、ここは浮力0号の鱗海 ゼロピット 遠投SPを仕掛けの中心に据えた。練りエサが沈みハリスが立ったらウキが沈んでいく設定だ。
マキエの濁りで仕掛けをカムフラージュするには、ウキや仕掛けの沈む方向を把握し、できるだけ長く状況を観察しておくことが重要なのだ。
チヌは学習能力が高く、長く生きた個体は生きる知恵をつけている。つまり、それを上回る技量が試される。
ロクマルを追い詰める
立ち込めていた雲が消え、山の奥に青空が広がった。
溜めたマキエの上に仕掛けと新たなマキエを重ねていくと中層でアタってきたのは50cm近いチヌだった。
マキエに寄ってきたチヌはさらに上から落ちてくるエサに浮上しながら食ってきたのだ。
追加の1尾は51cm。先ほどまでの沈黙が嘘のように仕掛けが引き込まれていった。
「チヌはかなり浮いてきています。もう少し深い場所へ移動しましょう」
筏前の水深が12m、そこから尾根を越えて500m歩いていくと水深15mのポイントがあった。そこはさらに奥に入り組む湾口となっている。
回遊が始まったのを察した百合野さんは、ロクマルが潜むポイントを探し求める。
明らかに活性が高く警戒心が緩んでいるはずだ。
夕まづめを待たずして、そのときがくるかもしれない。
深場まで送り込めるようイエローカラーの鱗海 ゼロピット 遠投SP 00号をセットしノーガンでゆっくり沈めていく。
ところが意外にも仕掛けがなじむ前にアタってきたのは53cmのチヌだ。
大台を超えると体高は厚く、鱗の輝きが違う。
「しっかりとマキエと合わせていればどこでも食ってきそうですね」
頭の片隅では、キンクやハリを噛み潰したロクマルの幻影が掠めたが、勝負は夕まづめの上げ潮。
いよいよ最干潮に近くになり、少し飛ばして静かに仕掛けを沈める。集中力はまったく切れていない。
百合野さんが使っているPEライン専用のBB-XハイパーフォースPE0815D XXGは190g。
「このリールを使うと他のリールは使えないですね」
持久戦の最中に軽量化されたタックルの恩恵を感じた。
ここでPEラインにチヌの動きが伝わる。これぞ干底のアタリ千金。筏から離れているので障害物に巻かれる心配はなく、竿をタメていれば浮いてくるのも速い。
このチヌは、なんと56cm。
重量感もさることながらスタイルが良く端正な顔立ち。
チヌの完成形を見たような気がした。
さあ目標到達まで、あと一歩に迫った。ところが、またしてもロクマルの壁が立ちはだかったのだった。はテキストのサンプルです。
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