2024/12/13
コラム
アオリイカファーストのティップエギング~石川県中能登・富来漁港出船~
富所潤さんが「イカ先生」と呼ばれるようになったのは、医師として能登半島に赴任していた20年以上前のこと。船、陸を問わずアオリイカ釣りに通い、漁師さんと交流を深めるなかで、現在のティップエギングに通じる釣法や道具が作られていった。
INDEX
志賀町(しかまち)の富来(とぎ)漁港とその周辺は、そのころに通った馴染み深い場所。能登半島の西南部、金沢と奥能登の間にあたる当地は西浦エリアと呼ばれ、従来釣り人が多い。アオリイカのティップエギング乗合も流行前から行われており、半島の東側と同じく、全国からファンが訪れる。
アオリの釣期は秋から冬にかけて。当地の遊心丸では今年、例年より一週間遅れの9月3日から出船している。
富所さんが富来漁港を訪れたのは10月上旬、徐々に良型が交じり始めるとともに気難しい日も増えてくるころだった。
当日の天候は雨のち曇り。風は東寄りで毎秒5~6m。表面海水温は前日の25度から20度に降下、潮も濁り気味で苦戦が予想されたものの、港近くの水深20mで同船者9名と釣り始めると、富所さんは早々に1杯目を釣り上げる。
能登西岸らしい海蝕崖となだらかな山並みを遠くに眺めつつ船は小移動を繰り返し、流すたびに船上では竿が曲がりアオリイカが取り込まれる。
ただし風が強まると場所によっては2.3ノット、時期的に30~40m近い深場を狙うため、2ノット以上で流れる場面が増えてくる。
こんなときはエギを重くする。30、40、ときに50gでないと、1セット誘った後の再着底が分からない。
富所さんもセフィアアントラージュ3.0号にシンカーを足して重さを調整するものの、すぐにシンカーを軽くし、場所によっては外している。
当然、着底まで時間はかかるし、シャクリとポーズを1セット行って再着底させようとするとエギが流されてしまうので1セットで回収・再投入になる。
これでは釣りにくいのでは? と思うが、本人は涼しい顔で回収・再投入を繰り返す。そして重いエギを使う同船者よりもペースよくアオリイカを掛け、大型も手にしている。
「船が早く流されて釣れていないと、エギを重くして早く底に着けたくなりますよね? でも、重くしてもそれほど釣れない、そんなときはエギをゆっくり落とすことで長い時間イカに見せて、しっかり誘って、長めに止めてみるんです。そしてアタらなければためらわずに回収して、一回ずつでいいからゆっくり落とすことを繰り返します」
つまりこういうことだ。エギを重くするのは釣り人の都合であって、決してアオリイカが抱きたくなるか、否か、ではない。ならば、釣りにくくても着底が分かるギリギリの重さで、アオリイカが欲しがる動きを演出する。
いわば、アオリイカファースト。
そのプロセスは表面的な動作だけでなく観察と思索に根ざしている。だから、奥深く面白い。これこそ能登の自然とともに構築されたティップエギングの魅力の一端だ。
能登半島の西側では冬の季節風が強まるとともに出船回数が限られてシーズンオフになる。しかし近年、季節風の時期が変わってきているという。
FISHING TACKLE
【取材協力】石川県志賀町富来漁港・遊心丸
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