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2025/02/28

コラム

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Backstory of GRAVITATOR 最終話

Backstory of GRAVITATOR 220 第三話
Backstory of GRAVITATOR 220 第三話

アメリカからの要望で始まったグラヴィテーターの企画だったが、試行錯誤の過程ではあえて日本サイドだけで開発を進めてきたという。
「日本国内で徹底的に設計を突き詰めたほうが、結果的に世界で通用するルアーになる」

ボディシェイプの決定

開発着手から約1年。第4形態に進化したグラヴィテーターは、外観にいくつかのアレンジが加えられた。もっとも重要な変更点は「ボディの幅」。これまで手掛けてきたサンプルよりも、数ミリ薄く設定することを決めた。

「本来、飛距離を確保するためには、ボディにある程度のファット感がほしいんです。もともとジョイント部が折り畳まれるおかげで空気抵抗は減らせますが、それでも厚みがあったほうがウエイトも積めるし、よく飛ぶ。ただ、この時点で僕たちが優先したのは『もっとキレを出したい』という課題だったんです」

ここまでの3種類のサンプルでは、全体のシェイプは大きく変えず、細部やパーツの形状などを工夫することで「キレ」を追求してきた。それでも満足のいくアクションにはあと一歩、届かない。そこで「ボディ幅の変更」という大鉈を振るうことにしたのだった。

第3弾までのサンプル(左)よりも、ひとまわり薄くなった第4弾のグラヴィテーター(右)。理想的なキレを生む最後の一押しになった

第3弾までのサンプル(左)よりも、ひとまわり薄くなった第4弾のグラヴィテーター(右)。理想的なキレを生む最後の一押しになった

ボディ側面がフラットなのは、効果的に水を受けて伸びのあるグライドアクションを出すため

ボディ側面がフラットなのは、効果的に水を受けて伸びのあるグライドアクションを出すため

「こうしたリップレス型のビッグベイトが左右に首を振ると、まずはボディ側面で水を受けます。この面が広くて平らなほど、伸びのあるグライドアクションを出しやすい。体高があるBtスラプターが大きくスライドするのも同じ原理です。ところが、ボディが分厚いと抵抗になってブレーキが掛かってしまう。『キレ』を出すには、薄くすればするほどいいという理屈です」

そしてもうひとつ、ヘッドまわりのデザインも刷新された。前回まではアーマジョイントを踏襲した丸みを帯びた形状だったが、奥田学のサジェスチョンにより、下アゴをえぐるような鋭い顔つきに変わる。

ルアーの「顔」はいちばん最初に水を受ける重要なパート。第4弾サンプル(左)から「キレ」を増すために下アゴ側を削った。目玉が大きくなったのはアメリカからの要望だった

ルアーの「顔」はいちばん最初に水を受ける重要なパート。第4弾サンプル(左)から「キレ」を増すために下アゴ側を削った。目玉が大きくなったのはアメリカからの要望だった

ジョイント部分の内側に、曲がる角度を調整するためのパッドを配置。当初は固定式だったが、最終的には脱着可能な「ジョイントパッド」に落ち着いた

ジョイント部分の内側に、曲がる角度を調整するためのパッドを配置。当初は固定式だったが、最終的には脱着可能な「ジョイントパッド」に落ち着いた

「もともとのデザインでは、ルアーの唇のあたりに溝がありますよね。溝は前からうしろへ向かって、斜め下へと刻まれています。グラヴィテーターの頭に当たった水が、この溝に沿って流れると、ごくわずかではありますが、ルアーを斜め上方向にリードするような力が働いてしまうんです」

グライドアクションは左右へのキレがほしいのだから、上に向かう力は余計ではないか、邪魔させたくないよね、というのが奥田の見立てだった。結果、下アゴを削って細く絞ることで泳ぎ出しもシャープになり、アクションの初速向上に繋がったという。幾重にもわたる変更と改善を経て、グラヴィテーターの「キレ」は、ようやく納得のいく完成度に到達したのだった。

地道な反復作業のはてに

いよいよ開発も最終局面に突入。ボディシェイプが決定され、あとは細部を仕上げていくプロセスに入った。細くなった鼻先には、第5弾のサンプルから「横アイ」が採用された。

「強度だけを考えると、一般的なラインアイと同じく縦アイのほうが優れています。でもこのルアーは横方向のアクションが持ち味なので、直結するにせよ、スプリットリングやスナップを使うにせよ、ラインとの接続部分ができるだけ上下にズレてほしくない。そこで、安定して規則的なグライドアクションが出せる『横アイ』を選択しました」

ラインアイの下部には拡張性を高める「マルチアイ」を設けることに。ウエイトによる浮力調整、シーバスゲームなどでアシストフックを足すことも想定してある

ラインアイの下部には拡張性を高める「マルチアイ」を設けることに。ウエイトによる浮力調整、シーバスゲームなどでアシストフックを足すことも想定してある

第5弾のサンプルからはアクションを優先した横アイを採用。ふたつのパーツを抱き合うように組み合わせたのは開発担当のアイデアだった

第5弾のサンプルからはアクションを優先した横アイを採用。ふたつのパーツを抱き合うように組み合わせたのは開発担当のアイデアだった

なお、ラインアイの下部にはもうひとつ、シンカーやアシストフックを搭載するためのアイが設けられているのだが、このパーツがボディ内でどのように配置されているか、注目してほしい。「ラインアイ用のエイト環を、下部アイ用のエイト環で掴む」という特殊な仕組みになっている。

「下アゴを細くした結果、このふたつのパーツを内蔵するスペースが狭くなってしまったんです。とはいえ、パーツを入れるために太くするのは本末転倒ですよね。そこで開発担当がひねり出したのが『掴む』というアイデアでした。地味な部分ですけど、組み立てる際の手順もコストも増えてしまうので、普通だったら採用しない案だと思います」

グラヴィテーターには国内版・アメリカ版の2種類がある。前者はスローフローティング(SF)、後者はウエイトを増してスローシンキング(SS)に設定

グラヴィテーターには国内版・アメリカ版の2種類がある。前者はスローフローティング(SF)、後者はウエイトを増してスローシンキング(SS)に設定

初回カラー8色のうち「フラッシュブースト」は2色に採用。状況別に効果を発揮するカラーが揃っている

初回カラー8色のうち「フラッシュブースト」は2色に採用。状況別に効果を発揮するカラーが揃っている

そして最後の関門となったのがこのルアーの最大のギミック、ジョイント部分(=アーマブースト機構)の味付けだった。

キャスト時はしっかり折り畳まれ、操作中はジョイントの角度を抑制するこのシステム自体は、マグネットと特殊形状のワイヤーによってすでに完成している。あとは「どの角度に設定するのが最善なのか?」という問いに、適切な答えを出す必要があった。

最後まで悩みどころだったのが、ジョイント部分を「どの程度の角度に設定するか?」という問題。ひたすらテストを繰り返すことで答えを見出した
最後まで悩みどころだったのが、ジョイント部分を「どの程度の角度に設定するか?」という問題。ひたすらテストを繰り返すことで答えを見出した

最後まで悩みどころだったのが、ジョイント部分を「どの程度の角度に設定するか?」という問題。ひたすらテストを繰り返すことで答えを見出した

「角度をより深く設定すればより飛ぶけれど、フック同士が絡みやすくなる。許容できる角度はどこなのかを探るために、僕たちがやったのは、ひたすら投げることでした。シマノのテストプールや大阪湾でとにかく投げ込みました。何%の確率でフックが絡むのか、シマノ製品がクリアすべき基準が定められているので、一個のサンプルごとに最低でも100回は投げなきゃいけないんですよ。ふたりで50投ずつ分担すれば楽ですけど、開発担当が『ちゃんと100回投げてくれ』という生真面目な男なので(笑)、あっというまに腕がパンパンになるんです」

ルアー開発のゴール手前で待ち受けていたのは、体力勝負の地道な反復作業だったが、ここで手を抜くとすべての開発プロセスが水の泡になってしまうことを、開発に携わる全員が理解していた。

投げ続けるうちにルアーの特性に身体が慣れ、フックが絡まないキャストのコツがわかってくる。が、そうなったときはあえて上手すぎないキャストを心がけるのだという。初心者からプロに至るまで、どんなレベルのユーザーが使ってもトラブルを最小限にするための、アナログな気配りである。

こうして2024年の春、グラヴィテーターの最終形が完成した。

こうして2024年の春、グラヴィテーターの最終形が完成した。企画から約2年弱という歳月は、新しいルアーを生み出すには短いのではないですか? そう訊ねると、担当者は次のように答えてくれた。

「『構想10年』みたいなのもカッコいいですけど、長けりゃいいってもんじゃないと思うんですよ、ルアーの開発期間は。目標地点を決めて、そこへ向かって奥田さんを筆頭に全力で走りきった。やれることは全部やったし、今の僕たちにできるベストなものが作れたと、胸を張って言えます」

《終》

※記事内で紹介されている製品は、旧モデルの可能性がございます。

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グラヴィテーター 220SF アーマブースト/フラッシュブースト

ルアー

グラヴィテーター 220SF アーマブースト/フラッシュブースト

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