2025/01/28
コラム
Backstory of GRAVITATOR 第一話
2017年のBtフォース、2019年のBtスラプター、そして2022年のアーマジョイント。
隙のないラインナップが整ったかに思えた。
シマノのビッグベイト・シリーズだったが――?
「グラヴィテーター220」の担当者が語る、新たな挑戦と試行錯誤の物語。
海の向こうからのリクエスト
「"GRAVITATOR"という名称は、アメリカからの提案だったんですよ。GRAVITY(=引力)からの造語で、バスを引っぱってくる力のあるビッグベイト。そういうシンプルな意味を込めたフレーズです」
このルアーの企画がスタートしたのは今から約2年前、2022年のことだった。登場したばかりのアーマジョイントを見たアメリカのスタッフから「この延長線上で、アクションの異なるアイテムがほしい」というリクエストがあったのだ。
「向こうではビッグベイトのことを、"グライドベイト"と呼ぶのが一般的です。ロッドワークでスーッ、スーッと大きく左右に滑らせて(=GLIDE)釣ることが多い。日本だと小刻みに首を振らせたり、ラインをたるませてスローにS字で泳がせるのが主流ですが、それとは需要が違うんですね。つまり、アーマジョイントではカバーできない領域があったわけです」
2022年に登場したアーマジョイント190は、2ジョイント3ボディ、いわゆるボディ3連結の構造になっている。キャスト時に深く折り畳まれることで飛躍的にキャスタビリティを向上させたわけだが、その一方で、伸びのある「グライドアクション」をねらって作ったアイテムではなかった。
スーッと泳がせると、ある一定のストロークまで進んでボディが折れ曲がるため、ブレーキが掛かる。狭いスポットで丁寧なテーブルターンを行なったり、ただ巻きで魅力的なアクションを演出するのは得意だが、アメリカのアングラーたちが求めるテイストとは異なっていたわけだ。
「アーマジョイントの構造のメリットを生かしたまま、グライドアクションが出せるルアーは作れないのか――。これが、グラヴィテーター開発の出発点でした」
無理難題からの出発
投げるときは、ボディがしっかり折り畳まれてほしい。
だが水中で操作するあいだは、折り畳まれてほしくない。
コンセプトを言葉にするのは簡単だが、ここには明白な「矛盾」があった。
「正直に言って、無理難題ですよ。僕がルアーデザイナーだったら断ります(笑)」
それでもひとまず試作品を起こしてみることになった。この時点で製品化が不可能だとわかれば、開発はすぐに中止されていただろう。そして次の画像が、シマノのルアー開発者から上がってきたファーストサンプルである。
頭部のデザインはアーマジョイントを踏襲しつつ、水中で伸びのあるアクションを生みやすい「ワンジョイント2ボディ」を採用。また、ボディの横倒れを防ぐために胸ビレ状のパーツをつけてある(のちに不採用となるが、これについては第二話以降で)。
「このファーストサンプルでいちばん重要なのは、ジョイント部にマグネットを効かせて、いわば半固定式にしたことです。ロッドワーク程度の弱い力ではジョイントが完全には曲がらない。でも振りかぶってキャストすれば曲がってくれて、空気抵抗を減らすことができる」
この構造なら、イケるんじゃないか――?
釣り道具としてはまだ不完全な状態ではあったが、可能性を感じさせてくれるファーストサンプルの出来に、開発のゴーサインが出た。「無理難題」の壁を、まずひとつ突破した瞬間だった。
「ただ、磁石だけでは固定する力が弱かったんです。ちょっと強めにジャークするとすぐにボディが曲がってしまった。メタニウムHGでリーリングジャークするならOKでも、コンクの400でPEラインを使って同じことをやるのは無理でした。ましてやパワフルなアメリカ人が使うことを考えると、もっと別のアイデアが必要でした」
こうした課題を踏まえて、開発者が新たな工夫を凝らした第2弾のサンプルが上の画像だ。通常、ジョイント部分を貫くワイヤーはシンプルな直線形状をしているものだが、あえてそこを「湾曲させる」という発想がウルトラCだった。
「ここで急に化けましたね(笑)。グラヴィテーターの開発者は、これまでにいくつもジョイント構造のルアーを手掛けてきた経験と蓄積があるので、あーでもないこーでもないと手を動かしているあいだに、なにかひらめいたのだと思います。ちなみにここまではシマノ社内での話で、プロスタッフやアングラーの手を借りずに進めてきました。なぜそれができるのかというと、奥田さんがいるからです」
ルアーの構造についての障壁は突破できる見込みがついた。しかし、はたして実釣性能はどうなのか? ビッグベイトに深く通暁したアングラー、奥田学との共同作業がこのあたりからスタートする。
(第二話へ続く)
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