2024/07/05
コラム
エギングを科学する 座学編 海野徹也×湯川マサタカ
釣り人の考察は、学術的に正しいのか?そんな疑問を解決するべく、シマノエギングインストラクターの湯川マサタカさんが訪れたのは、海洋資源研究のプロフェッショナル、広島大学の海野徹也教授。アオリイカの性質や行動を学び、釣り人の経験と研究者の知見の融合による、更なるエギングの可能性を探求していく。まずは研究室での対談編。
魅力
湯川さんが訪れたのは、広島大学生物生産学部統合生命科学研究科。
生粋の釣り人でもあり、アオリイカの研究歴10年超の海野徹也教授との対談テーマは、ターゲットのアオリイカについて。
「僕は生態学的にもアオリイカって興味深いところがあって、湯川さんのように釣りも好きなので、その両方を兼ね備えている生き物ってすごく魅力的なんですよ」(海野)
「釣りもできるし、研究の対象にもなるところですね」(湯川)
そんな海野教授へ、釣り人側からの疑問を湯川さんが投げかけていく。
視覚
アオリイカがエギを確認するのは、目と腕にある感覚器による。耳はあるが内耳で小さな音は聴きにくいという。視力は0.6程度、一般的な魚類は0.1あるかないかなので、視力はかなり高い。
「ターゲット(エギ)のサイズによりますけど、(クリアであれば)見えるのは30m先ぐらいまでですかね」(海野)
大型のエギはより遠くからアオリイカに認識されている。
なお、アオリイカの暗闇での視力はまだ解明されていない。
音と振動
アオリイカを含む魚類の耳は水圧により人間のように穴は開いてはなく、体の内側にあり閉じた状態になっているので、音を聴くことは得意ではない。
耳よりも触腕にある感覚器で振動を感じ、エギを認識している可能性は高く、シャクリによるダートアクションは、弱った魚の振動として認識され、アオリイカにとっては絶好の捕食対象となる。
ただ、抵抗せずに食べられるのを待つエサは自然界には存在しないので、変化を与えることは重要になる。フラッシング(色調変化)やフォール後のワンアクションなどが有効なのもそれが理由だ。
反応
アオリイカは、周囲の仲間に警戒信号を出すことがあるという。その個体が群れに戻ると群れ全体が警戒するので釣りにくくなる。
エギの着水音も感じているので、そこに違和感があれば即警戒することに繋がる。なので湯川さんが常に言うように、ファーストキャスト、ファーストフォールが重要になる。
カラーに関しては、イカは色を見えずに細かく認識はできなと言われているが、明暗による差は感じているというのが海野教授の見解だ。同じカラーでも背景によって明暗の濃淡が変わる。深ければ暗く、浅ければ明るくなるので、アオリイカにとっては色は変化していることになり、それもまた刺激になる。
アオリイカは、自分の居るエリアによって、自身の体の色を変える。「イカ同士のコミュ二ケーションでも色を変化させる。そういったことから、目以外で、色を互い(イカ同士)に分かってんじゃないのとかを考えると、面白い」(海野)
嗅覚に関しては、実験で匂いはある程度は分かっているという。ただし、エサを認識するための匂いよりも繁殖行動への働き(フェロモン)が強い。
イカ墨
警戒信号とされているイカ墨だが、湯川さんはたまに真逆に捕食スイッチが入ることもあるという。そして、それはあると海野教授。
「イカってベイトをみんなで狩りをして食べる時に墨を吐きますよね。食べながら墨をビュッビュッとバックしながら吐いたりとか、仲間が横取りに来たときに吐いたりすることもあるので」(海野)
基本的にはマイナスだが、エギに付いた墨が固着した場合は逆にプラスの刺激になることもある。
触腕
タコの吸盤には味覚があるが、イカは解明されてはいない。イカだけが持つ触腕は、やはり触覚を管理し、エギの布張りとヌードの差は感じているという。ただ、実際の魚の表面はデコボコはしていないので、布張りは魚と認識するためよりも摩擦音や振動などの大きな刺激を与える役割があるのではと海野教授は分析する。
また、イカの視野は斜め下30度ほどで、両目で見える範囲(両眼視野)のターゲットしか捕食せず、触腕を照準のようにして距離感を測っているのではないかという。
エギを必ず正面で捉え、リアクションバイトをしないのはアオリイカの大きな特徴だ。
水温
イカの適水温は20度以上。
「15度を下回ると棲めなくなるので、それを避けるように避寒回遊(ひかんかいゆう)といって逃げるように回遊するっていうのが一般的な行動だと思う」(海野)
例外もあるが、それこそが個体差でもあり、北限が変わってきているのではないかというのがふたりの共通意見だ。
また、水温変化に対しては弱い。それは水温が1度変わることが生死に関わるからで、それだけ敏感にできてはいるが、どの器官で水温を感知しているかは分かっていない。
エサ
アオリイカのメインベイトはアジやイワシなどの多獲性魚類。エギの形状こそエビに似ているが、自然界ではエビは量を食べられる存在ではない。
ただ大事なのは、エギがエビか魚かではなく、エギの動きを「絶対に食べられる生き物」として捉えていること。
「クモの巣を揺らしたらクモがピューッとエサが掛かったと思って飛び出るじゃないですか。あれに近い物がある。それだけ刺激としては強いんだと思う」(海野)
長くて細いシルエットに反応しやすいのは、多獲性魚類のシルエットがそうなのと、腕で上手く抱けるサイズ感であることがその理由。長くても細ければ抱くのが事実だ。
また、ベイトを襲うのはもちろん捕食のためではあるが、興味本位で狩りを楽しんでいる節もある。
新しい釣り
ダートの動きは自然界ではめったに見ない動きで、アオリイカにとっては一生に一度あるかないか。だからこそ興味を示し、積極果敢に抱いてくるのも不思議ではない。
しかし、珍しいからこそ、新しい釣りの可能性も見えてくる。
「もしかしたら究極のエギって横(引き)かもしれません」(海野)
「それもすごい思ってて、常々。絶対に釣れますよね」(湯川)
「ぜひやって下さい。新しい釣りを」(海野)
「まだその釣り方の話は表に出したくないですね(笑)」(湯川)
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