2024/09/19
コラム
25SSフラッグシップウェーダー奮闘記③ ソックスについての考え
アパレル担当のエドワードです。
前回に引き続き、25年発売予定のウェーダー、ウェーディングシューズの開発奮闘記をお届けしたいと思います。
今回はソックスに関するお話です。
ソックスのこだわりについて
早いもので9月になりました。寂しいことに、禁漁まであとわずか。私のホーム河川は渇水が続き、釣果としては大満足、ということがほぼ無く7〜8月を終えてしまいました。しかし、夏に釣果が出ないときに限って、晩秋に最高の魚が釣れる、というパターンをよく経験します。今年もこのパターンにハマると良いな、と思いつつ週末を楽しみに過ごす毎日です。
恒例となりつつある、「シマノ トラウトコレクション2024」もまもなく第2弾が終了します。(第2弾の応募期間は、9/30迄)是非、晩秋の立派な鱒を自慢してくださいね。
さて、ここまで私、エドワードは25年春に発売予定の、フラッグシップウェーダー(通称:PROウェーダー)の拘りを記事で語ってきました。今回は、第3回として、「拘りぬいたソックスの素材と構造」についてお話しします。ちなみに、ここまで2回のブログ記事はこちらになります。
前回の記事では、ウェーダーの防水透湿生地について、どんな糸を選定したのか、そしてどんな狙いで生地を作り上げたのかについてお話ししました。今回は、もう一つの生地となる、「クロロプレンソックス」についてのこだわりになります。
ウェーダーの弱点、ソックス部分
まずは簡単にシマノのウェーダーの歴史から。
シマノが初めてウェーダーを発売したのは1989年。最初は鮎釣りを、実用的だがスタイリッシュにアパレルを見せたい、という思いから始まりました。
ロッドやリール、自転車部品よりは年下ですが、それでも36年の歴史を積み重ねてきています。
様々な製品を開発し、また修理を承る中で、ウェーダーの弱点となる部分は、大きく2カ所であると考えています。それは、ソックス周辺部分と内股周辺部分。どちらも、着用中に擦れや負担が大きく集中することで、ダメージが蓄積して漏水の要因となることが多いです。私自身、ウェーダーを履いて最大1日8㎞程度移動します。ずっとこの2点を擦り続けながら歩いていたら、そのダメージは膨大なものになりますよね。
内股周りの工夫は後の記事でお話しするとして、今回はソックス周りに絞った解説をします。
ソックス周りでも、ダメージになりやすい部分は、
①ソックス本体
②ソックスの接続部
③グラベルガード
の大きく3つに分かれます。この3つ、漏水の起こりやすい理由と、その対策について、順を追って説明します。
研究を重ね採用した、高品質クロロプレンソックス
まずは①ソックス本体 について。
世の中のソックスタイプのウェーダー、ほとんどがクロロプレン素材を使用しています。「ネオプレン」と呼ばれることもありますが、実際はどちらも同じ素材です。(ネオプレンはデュポン社が商標を取得しています)
クロロプレンの特徴としては、「耐寒性」「保護性」「防水性」「耐久性」「ストレッチ性」があり、他にはウェットスーツやブーツなどに使用されています。クロロプレンは発泡ゴム(ゴムに発泡剤を加えて発泡させた多孔質のゴム素材)であり、小さな気泡が多数含まれています。
この構造により、軽量でありながら優れた断熱性とクッション性を提供します。
このクロロプレン、素材の優劣が存在します。使用する分子量調整剤や重合温度により、中の気泡とその気泡の周りにある壁に特性が生まれるのです。
優劣の差が、ウェーダーにおいてはどこに響くか?
一番は「耐摩耗」です。
ソックス部分からじわっと水漏れを感じたことはありませんか?そんな時ソックスを確認しても、不思議と穴が開いてない、ということ多いです。なぜこのような現象が起きてしまうのか、図を用いて説明します。
一般的な釣り用ソックスウェーダーの、クロロプレン部の断面拡大図のイラストです。白い丸が気泡、水色部分が気泡の壁になります。
履いていると、
このような状態になります。
この時、クロロプレンにはアングラーの体重と、地面からの圧力、内部の足が前後に動くことによる擦れ、様々なベクトルでの負荷がかかっています。
これにより、クロロプレンはつぶれ+コスレというダブルのダメージが加わります。この圧により、クロロプレンは
このような感じで、気泡が大きくなっていきます。(黒丸が広がり、灰色の丸になるようなイメージで気泡が大きくなっています。)
このことで、気泡同士が繋がってしまっているのは分かりますか?また、気泡がつぶれ、クロロプレンの素材自体が薄くなっていきます。
すると…
水がクロロプレンの気泡の迷路をたどり、足内部にまで到達してしまうのです。そのうち目に見えない穴が開き、足裏がじわっと濡れる漏水が起こってしまうのです。
これが、「穴が開いていないはずのソックス足裏部分から水漏れを感じてしまう」メカニズムです。
それでは、このPROウェーダーはどうしたか。とにかくコスレ、摩耗に強いクロロプレン素材を研究し、採用しました。
ポイントとは【気泡が小さい】【気泡の並び方が均一】【気泡壁が堅牢】の3点です。
圧力や摩耗が起きても、もとの構造をしっかりキープし続けられる、高品質なクロロプレンを数種類の素材から選び出しました。
このソックス素材、驚くほどへたりにくいです。しばらく使っていと、ソックスは結構へたってしまいますが、PROウェーダーのソックスはしっかり立体感を保てています。
このクロロプレン漏水の仕組みを聞くと、ソックスをもっと労わって使おうと思いますよね。
私は必ず地面ではなくスノコやグランドシートの上で着替え、靴内部に小石が入ってきたら面倒でも1回脱ぎ、出すようにしています。長持ちの秘訣です。
やりこむアングラーの悩みを解決した、ソックス接続部
次に、②ソックスの接続部 について。
フラッグシップウェーダーの開発をスタートする前に、あるお客様から悩みの相談を受けました。「ほぼ毎日ウェーダーを履いて釣りをするのですが、どのウェーダーを履いても、最初にファブリックとソックスの接続部が剥がれ、浸水します。シマノ製品も同じでした。接着剤が弱いのですか?ここどうにか強くできませんか?」
そのお客様の履いたウェーダーを一度見せてもらうと、内部で接続しているソックスが少しずつ剥がれている状況でした。
ただ、接着剤はしっかりと強固なものを使っており、経年劣化でダメになる、ということは起こりがたいはずでした。
それではなぜ内部から剥がれているのか?
それは履き方の癖によるものでした。
お客様は気付いていないようでしたが、履く時に指先をクロロプレンの角に引っかけ、めくってしまっていたのです。ファブリックとソックスの接続は、しっかりと強固な接着剤を使用していますが、高頻度でこのダメージを与え続けると、角からソックスは剥がれてしまいます。
このような蹴とばしに対し、角を無くすためにクロロプレンを斜めにカットするという加工をしました。簡単に聞こえますが、技術的に結構難しい方法です。
複雑なので、PROウェーダーのソックスの接続、イラストにしました。
斜めカットによって角が立っていません。さらに、剛性差緩和用、蹴とばし防止用の補強用テープを重ねることで、このトラブルが極限まで起きにくい工夫を加えました。これにより、足入れの際にスムーズに通せるようになったのです。
その差、通常のものと並べると一目瞭然。
するっと足が通る感覚、とても気持ち良いです。
実はこの構造、もう一つの狙いがあります。
読者の皆様は、ウェーダーを脱いだ時、下に履いているズボンのふくらはぎ周辺が、輪っかのような形でじわっと濡れていることはありませんか?
これの一番の要因、それは、「クロロプレン素材が透湿性をもっていないこと」です。点線より下、クロロプレンソックス部分は、透湿性が無く、釣行中にかいた汗が溜まりがちです。それにより、ここ周辺が汗をかくほど湿ってしまいます。暑い日にたくさん歩くと、特に足回りがびっしょりになっていることよくありますよね。
…私もそう思い、足首周りの濡れは仕方のないことだと捉えていました。しかし、足回りの濡れを研究すると、汗の成分だけではないことが判明しました。
ウェーダー本体に穴は開いてないのですが、外の川の水の成分が、内部に浸水していることが分かったのです。
悪さをしているのは、クロロプレン素材。クロロプレンは防水のはずですよね?それなのになぜ水を通してしまうのでしょう。それは、クロロプレンの構造が理由です。
通常の構造のウェーダー接続部を確認ください。
クロロプレン素材には、耐久性、快適性向上の為、クロロプレン素材の外側にジャージ素材が貼ってあります。このジャージは防水ではないため、長時間履いているうちに、毛細管現象で、水が上昇して内部に浸水を許してしまうのです。
接着剤をジャージに染み込ませて塗っているため、基本的には水は登れない(どこかでストップします)ですが、経年劣化や、接着剤の塗り方によっては、この現象が起こってしまいます。
それではここで、PROウェーダーの斜めカットの構造を見てください。
クロロプレン素材を斜めカット(赤点線部分)することで、同時にジャージ素材もカットでき、水を吸い上げない構造になっているのです!
この構造で、「蹴とばし防止」「水の吸い上げ防止」というソックス接続部の2大トラブルを起きにくくすることができました。やりこむ人ほどありがたみを感じていただけるような工夫が、アングラーのストレス軽減を実現したのです。実用新案を取得予定の、シマノの独自技術です。
擦れてもダメになりにくい、グラベルガード
最後に③グラベルガードについて。通常のソックスウェーダーのグラベルガードには、ファブリック生地もしくはクロロプレンをそのまま使用します。
例えグラベルガードに穴が開いても、ウェーダーの水漏れに直接影響しません。しかし、木の枝、ルアーのフック、岩の擦れ、、グラベルガードには大きなダメージが蓄積します。
PROウェーダーは、耐摩耗がファブリックより強いジャージ素材と、しっかりとした端の補強を採用しました。
アングラーにとって、永く相棒となるウェーダー。実使用には関係ないといえども、綺麗に使用したいですよね。
足回りのこだわりがもたらす効果
どこが破れてもダメなウェーダー、ただその中でも足回りの破れが一番アングラーにとってダメージが大きいのではないでしょうか。足の冷えは低体温症に繋がりますし、足回りはウェーダーを着ている以上ほぼ100%水の中に入る部分です。ですので、この部分には並々ならぬこだわりを詰め込みました。
また、穴が開いていないはずなのにじわっと水漏れを感じる現象、これもアングラーの不快感に繋がりますよね。汗が要因と思い、あきらめていたアングラーも多いと思います。(私もそうでした)そんな方にとって、納得していただけるクロロプレンの素材と、接続構造になると思います。
そんな、こだわりを詰め込んだPROウェーダー。現在、来年2025年の1月、全国の釣具屋様での発売予定で進行中です。詳細な情報については、製品ページの公開まで、しばしお待ちくださいませ。
今後もトラウトミーティングの記事で、月1でこだわりを語っていきます。
欲しい、と思っていただけると大変嬉しいです。
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