2024/08/27
コラム
FlyFisher バックナンバー 01 / 安田龍司が実践する「ナチュラルの釣り」
安田龍司さんが行なう「ナチュラルの釣り」。
今までの考え方とは違う部分もあるため、なかなか飲み込みづらい。
これまでの疑問点を改めてお聞きした。
スイングは横、ナチュラルは縦という線引き
Q1:「スイングの釣り」と「ナチュラルの釣り」の違いは何ですか?
A: 超、端的にいうなら、フライが流れを横切るか横切らないか、です。スイングはフライが流れを横切っていて、ナチュラルはレーン上を流れているというか。視覚的に見えるところで表現するなら、フライラインが横方向に流れの抵抗を受けているか、縦方向に流れているか、ということかもしれません。
Q2:ナチュラルの釣りの利点は?
A: スイングで釣れないときがあるとうといいすぎかもしれないけれど、ナチュラルのほうが有利なときがあるから、でしょうか。やはり活性の低い時とか、プレッシャーが高い時ですよね。ドライフライのナチュラルドリフトとスケーティングを考えていただければわかりやすいかもしれません。ただ、スイングは結果的に面で釣っていけるので、魚が反応するかどうかは別として、いい意味で取りこぼしがないんです。だからスイングのほうが、結果的に成果が出やすいというのは確かかもしれません。だからナチュラルで釣れる魚ばかりじゃないというのは充分に理解しているから、ナチュラルをやったあとにそのまま流してスイングに移行するというのが現実です。ナチュラル終わって即、回収というのはよほどのピンポイントでないかぎりやりません。
流し方について 流心にすべてのラインを入れる
Q3:ラインの角度と流れの位置関係は?
A: 一番気にするところは流心の幅です。たとえば、自分が持っているラインがシンクティップであれ、フルシンクのシューティングヘッドであれ、仮に10mだったとします。本当はそんな長いのは使わないですが、そしてねらいたい流心の幅が、5mしかなかったとする。そうするとラインのほうが長いので、それを狭い流心でナチュラルで流そうと思うと、相当ダウンにキャストして、流心の幅の中に全部フライラインが収まる角度で釣らないとナチュラルは成立しないんです。つまり流心と流心じゃないゆるい流れと両方にまたがってしまうとスイングしてしまいます。逆に流心の幅が仮に20mとか広かったら、直角に投げても一応ナチュラルはできます。ようは同じ流速のところにフライラインが入っていることが重要なんです。だから僕がメインで使っているラインはフルシンクだったら各種シンクレートの最短で3m、最長で6・5mです。シンクティップはら5〜7m。そしてこの釣りで絶対的に必要なのは軽いランニングラインです。中空ナイロンの6〜8号を使っています。
Q4:ロッドの動かし方を教えてください。
A: 上流45度から下流45度くらいにラインが流れるに合わせて倒していくイメージです。この、ロッドを倒す間がナチュラルに流れるということです。それは必ずしも自分の正面からスタートじゃなくて、下流に少し送り込んでからでも、ロッドは上流45度に保持しておいてから下流へ倒してドリフトさせる感じです。だから送り込むフライラインの位置がどこにあっても、ロッドを送り込む角度というのは変わりません。
Q5:キャスティングでオーバーターンさせる理由は?
A: フルシンクのヘッドを使う時はよくやります。シンクティップではそれをやってもあまり効果が出ないのですが、オーバーターンさせる最大の目的は、できるだけ「沈み波」の中にフライもラインも全部まとめて落としたいということなんです。「沈み波」というと難しいかもしれないけれど、いわゆるしわの寄った流れ。鏡状のところではなくて、流れと流れがぶつかって、底に向かうような流れです。そこにまとめて落とそうとすると、きれいにターンして真っ直ぐ伸ばすと難しいので。だからある程度オーバーターンさせて1ヵ所にまとめて落とします。
ドリフト時のリーダーの形状について フライ先行にする必要はない
Q6:ドリフトさせている時のラインテンションは?
A: 基本は張らず緩めずっていう感じです。張りすぎちゃうとレーンから外れてスイングしちゃうし、緩めすぎちゃうとアタリが取れない。慣れるまではシンクティップで練習するといいと思うのですが、シンクティップのボディーの浮いている部分が手前に寄ってくるか寄ってこないかで、送り込むスピードが正しいか正しくないかの判断はできます。フルシンクのヘッドでやったときは、ランニングラインがナチュラルだと、よっぽど速い流れじゃない限り、若干たれ下がり気味になります。で、その状態をずっと維持できていれば、おそらく横にはそんなにスイングしていないと判断します。ところが途中からピンと張り出したときには、横方向に力がもう加わり始めるから、そこではもうスイングが始まっている。このドリフト中は、瞬間的に完全なテンションフリーになることはあると思います。理想はドリフト中にテンションフリーでなおかつアタリがわかるぎりぎりのテンションをキープする、ということですが、現実的にはできていないと思います。
Q7:ドリフト中のリーダーの形はどうなっているのでしょうか?
A: ナチュラルの釣りの場合、ドロッパーに重たいフライをつけている時はリーダーの全長は長くても9フィートまで。フライが1本で、タイプXのラインでどかっと沈める時は7フィートから7フィート半くらいです。逆にインターとかシンクティップのあまり沈まないものでやっているときは、もうちょっと12フィートくらいまで。そして重要なのは、リーダーとフライラインがだいたい同じ流速に乗せること。実はフライ先行かどうかはそれほど気にしていません。フライ先行にしようとすると、そこからフライはスイングを初めてしまいます。スクールでも「フライ先行にしても釣れないんですよ」という方が少なからずいらっしゃるのですが、ナチュラルの釣りではこちらからフライ先行にする必要はありません。それはこれまでの経験から、自信をもって言えます。
Q8:ドリフト中にリーダーが絡まることはないのですか?
A: 僕も実はそれはすごく不安があったんです。だけど、ドロッパーに重いものをつけようがどうしようが、キャスティングでトラブることはあっても、ドリフト中に絡んで釣りができなくなるということはほぼありません。水中でのリーダーの形は、犀川みたいに底流れの速い川へ行くと、素直に流れるので、いったんフライとリーダーとフライラインの位置関係が決まってしまったら、あとはそんなに変わらないと思います。ところが、中部地方でいうと長良川みたいに石の大きい川へ行くと、底流れは複雑に変化するので。リードフライもドロッパーも軽いものを使っていると、底流れに入って、それの位置関係が変化して、結果的にからむことはあります。でもぐちゃくちゃに絡むということはありません。水中のリーダーの形を気にするより、張らず緩めずで縦に縦に送り込んでいくことを心がけたほうがよいです。
Q9:ラインが沈んでいるイメージは?
A: キャストして、沈んで、そのまま一定の層が流れていくみたいなイメージです。
Q10:ナチュラルに流す距離は?
A: 短いです。理屈としてはロッドを倒せる長さぶんということですが、15フィートのロッドを使っていてもせいぜい5m。僕は3mうまく流れたらいいと思って釣りをしています。それだけできれば充分に釣るチャンスはあります。キャストしてラインが着水して、ねらった深さまで沈めるまでの距離が必要なので、単純にフライが移動している距離はもっと長いです。でも、いいレーンに入ってうまく沈んだなと思ってから、いい状態で流せる距離というのは非常に短いです。
魚とのコンタクトについて 線というよりも点の釣り
Q11:アタリ出方は?
A: 手に伝わります。あれ、ちょっと重くなったかな?くらいの時も往々にありますし、底石の大きい川になればなるほど、ナチュラルがうまくいくとアタリが取りづらいのは事実です。やっぱりティペットとかフライの周りはかなりたわみも出るでしょうから。だから小さい魚が瞬間的にフライをくわえたようなアタリは、ほぼ伝わってきていないと思っています。そもそもそういう魚はねらっていない、というのもあります(笑)。大きい魚の時でも、じわっと重くなるだけとか。これはあくまでも僕の想像なのですが、大型の魚は小さなエサのためにはそれほど大きく動かないと思っているんです。あんまり自分が定位しているところから大きくずれたところだと、小さいエサを食べに行っても消費エネルギーのほうが大きくなってしまうので。僕はわりと小さめのフライを使うことが多いのですが、大きい魚は自分のすぐ近くにきたものは寛容にくわえてくれるんじゃないかなと。そうなると、フライをくわえたときに、そもそも魚がそんなに動いていないので、スイングみたいに追いかけてきて、反転するという衝撃は伝わってこない。だから結果的に、根掛かりしたのとあまりかわらないんです。だから、結構感度のいいロッドを使っていたりすると、石だったらわりと硬い感触で、「あ、今何かに引っかかったぞ」とわかるけれど、魚の場合は硬くはないのでじわっと重くなる感じになります。
Q12:フッキングのコツはありますか?
A: 大きいやつはそんなに合わせしなくても大丈夫ですが、40〜50cmの魚は、当たったら合わせないと結局フッキングしないことが多いです。向こう合わせではかかることが少ないんです。だからロッドの感度を少しでもあげたいんです。太いラインが出ていて、感度なにもないだろうと思われるかもしれませんが、張らず緩めずで流しているとやはりかなり違います。それでも魚がフライをくわえて、離していることに気づかないことがあると思っています。特に流れの緩い場所であれば、たとえば5m送り込むのだったら途中で1回止めて、少しテンションかけて、そこで若干スイングしてもいいから、ちょっとアタリを聞く、ということはします。
Q13:ポイントの見立て方は?
A: スイングの場合は、フライが魚と少し離れたところにあっても追わせるという意識が強いと思うのですが、ナチュラルの釣りはフライが流れたところに魚がいなければ、まず釣れません。この釣りは「縦の線の釣り」だと言われることもありますが、違います。僕の中では点の釣りなんです。このあたりは渓流のドライフライの釣り上がりと意識はほぼ同じです。ドライフライだって魚がくわえる場所はほぼ点じゃないですか。しかも手前もやれば奥もやるし、いろんな点を打っていきますよね。本流でも全く同じです。あやしいところがあれば、手前、次にちょっと遠くのあのポイント、もうちょっと立ち込んでさらに奥を今度は上流から流してみる、とか……。細かく幅と距離を分割して、ピンスポットで釣っています。実際の瀬なんかだと、底石があったりして、一度にうまく流せないことも多いですし。
フライについて ナチュラル系のフライをセレクト
Q14:この釣りに向いているフライは?
A: ナチュラルのときは、とにかく形が大きく変わらないフライです。テンションが抜けても、横からとか上から流れを受けても、です。もちろん若干は姿勢が変わっていいのですが。たとえばマラブー使ったストリーマーを仮にナチュラルでやったとするとおそらくストリーマーとして機能しないというのは想像つくと思います。だからそれに近いようなフライは、たとえウエットフライの範囲に入っていたとしても使いません。またクイルウイングのフライは、スイングのときはちゃんとした姿勢を保ったほうがよいかもしれないのですが、ナチュラルのときは、むしろ姿勢なんてきちんと保っていなくていいと思っています。というのは、実際の水生昆虫のニンフも、うっかり石から流れてしまったら、最初のうちは流れにもまれてひっくり返ったりとかいろいろするけれど、最終的に姿勢を立て直して、またどこかの石にたどりつくでしょう。別にその動きをまねするわけではないのだけれど、クイルウイングのウエットフライもいったんひっくりかえっても、最終的にまたもとに戻るようなバランスさえ保持してあれば、全く問題ないと思います。だからむしろ僕が使っているフライはクイルウイングであれなんであれ、上下のマテリアルの量の差をある程度はっきりさせておいて、1回ひっくり返っても、またもとに、早く立ち上がるようなイメージのフライが多いんです。結果的に、フライがひらを打つといういい方は僕はふさわしくないとは思うけれど、横を向いたものがまた立ち上がるイメージ。それがある程度、明確に動いたほうがいい場合があると思っています。ただ、そう言っておきながら矛盾するのですが、なぜソフトハックルも使うのかといえば、それは向きうんぬんではなくて、スリムなフライのほうが釣れるときがあるので使わざるをえない、というところです。
Q15:有効なフライカラーは?
A: 僕のフライボックス見て、ニンフっぽいとおっしゃる方が少なくないんです(笑)。そういう印象なのは、ソフトハックルが多いとかあると思うのですが、最大の理由はアトラクターがないからだと思うんです。やはりどうしてもナチュラル系の色になっちゃうので。ナチュラルのフライに赤や黄色が入ると……、個人的に結局アトラクター的に釣ったイメージになってしまうんです(笑)。まあここは趣味の問題ですね(笑)。逆にスイングの時にはそういうアトラクター的なフライをガンガン使いますし。ただ、ナチュラルの時は、釣れたけど、流し方で釣れたのか、フライのアピール力で釣れたのか、どっちだろうというのがわかりにくくて、自分的には面白くないんです(笑)。
プロフィール
安田 龍司 (やすだ りゅうじ)
[アドバイザー]
愛知県在住。フライフッシングに若くして出会い、ダブルハンドの釣りを極める。長良川のサツキマスや北海道のネィティブトラウト、九頭竜川のサクラマスなど、本流釣りのエキスパート。
特に九頭竜川のサクラマスに関しては知識が深く福井県や漁協などとも連携し、サクラマスレストレーションとしてサクラマスの自然再生、九頭竜川の環境改善などを目指して活動している。
この記事に関連するタグ一覧
関連記事
RELATED COLUMN