2023/08/03
コラム
ヒットにつなげるための適水勢とは。初春の米代川で狙うフレッシュランのサクラマス。
4月の解禁を皮切りに、全国から多くのトラウティストが訪れる初春の米代川。そんな川でサクラマスを狙うのは、東北エリアでこの魚を追い続けて30年という豊富な経験を持つ佐藤文紀さんだ。このサクラマスは、川へ遡上してくるのは産卵に備えるためであり、捕食行動をほとんど取らないと言われている。一筋縄では行かないこの釣りは、初春と言えどまだまだ厳しい寒さの中で、ひたすらキャストを繰り返すストイックな釣りだ。そんな独特の難しさが求められる釣りでも、ヒットにつなげる上で大切なポイントがある。ここでは、これまで様々な経験を積み重ねてきた佐藤さんだからこそ見いだせる、サクラマス釣行におけるポイントについて紹介していきたい。
氷点下の気温の中で川に立つ。サクラマスは釣り人の忍耐が試される釣り。
まず秋田県にはサクラマスで有名な河川として、米代川、子吉川、雄物川がある。この3つはトラウティストにとって秋田の3大河川と呼ばれることも多く、海でたくましく育ったサクラマスが産卵のために遡上してくる貴重な川だ。そんな3大河川の中で、佐藤さんが釣り場として選んだのは米代川。川幅が広く釣り場のポイントも多いことから、この河川を選択した。このサクラマス釣りは、ヒットにつなげるにはサクラマスの闘争本能に訴えかける必要がある。「ルアーを縄張りに侵入した異物として認識させることが、ヒットにつなげる上では基本の考え方です」と佐藤さんが教えてくれた。そして今回の実釣当日は、4月の下旬だが冷え込みが厳しく、早朝は気温がマイナス2℃になるほど。さらには強風という体感温度がより低く感じる要因も加わって、アングラーにとっては肉体的にも精神的にもタフさが求められることとなった。
ポイント選びの重要性。自分を信じて投げ続けるために。
そんな釣り人にとっては寒さ厳しい中でも、サクラマスは強くたくましく泳いでいる。その様子を、毎年実釣しながら観察している佐藤さんが言うには、いくつかの共通点があるとのことだった。まず海から遡上したばかりのサクラマスは、まだ海でエサを食べていたときの名残が残っていることが多いとのこと。これから産卵に備えて捕食しなくなるとは言え、シーズンの序盤ではまだエサを食べる意識のある個体が残っており、チャンスの確率は高いとのことだ。さらに、サクラマスの行動パターンとして、日中は遡上を意識した個体がほとんどだが、夜になると障害物の周りに見を潜めて定位していることが多いという。佐藤さんの考えでは「サクラマスは夜目が利きにくいのだと思います」とのことで、安全な場所に身を隠して夜を過ごしていることが多いと考えているとのことだった。
これは逆に考えると水中に太陽光が指すタイミングは、サクラマスの行動意識に大きく影響を与えているとも言える。「水面に太陽光が入り始めたタイミングがチャンスになることも多いです」とこれまでの経験を元にサクラマスの傾向について解説してくれた。これらを念頭において、佐藤さんは米代川の中流域をポイントとして選択。「ここは大きな岩が点在しています。また、流芯側で流れの影響で深くなっている場所です」とポイントを選んだ理由を教えてくれた。繰り返しになるが、サクラマス釣りはひたむきにキャストを繰り返すことになる釣り。このポイント選びがその後の明暗を分けると言っても過言ではないだろう。
下流側に下って行くのが基本の釣り方。適水勢を見極めるコツ。
そしてサクラマスをヒットにつなげるコツとして、佐藤さんが意識していることを紹介してくれた。「サクラマスを狙うときは下流側に釣り下っていくことが多いです」とのこと。こうする理由としては、ルアーを最初から最後までしっかりと泳がせるため。特に佐藤さんが意識しているのは、ルアーの存在をサクラマスに認識してもらうことだ。また佐藤さんは「投げたら基本はタダ巻きで誘うことが多いです」とのことで、ルアーをしっかりと泳がせるには、回収時にややダウンクロスで戻ってくるくらいのイメージで引き続けることを意識しているという。「釣り上がっていく渓流とは逆で、そこが面白いところですね」と佐藤さんが言うように、タダ巻きが誘いの基本となるサクラマス釣りにおいて、流れに対して釣り下がっていくほうが効率が良いと教えてくれた。さらにキャストを繰り返す中で考えているのが、ルアーが無理なくちょうど良い引き抵抗で泳いでいるかどうかということだ。これは適水勢という言葉を使うとわかりやすい。この適水勢というのは、エサを使った渓流釣りの分野で使われることの多い言葉だ。適した水の勢いということで、魚が心地よく定位できる流れの速さを表すときに用いられる。佐藤さんはそれをルアーの釣りにも応用していて、ルアーの引き抵抗から流れの速さを確かめているとのことだった。それは長い経験を積み重ねて来たからこそできること。この感覚は人によって様々であるが、佐藤さんは「わかりやすい感覚だとルアーが程よい抵抗を受けて無理なく泳いでいる状態をキープするよう心がけています」と教えてくれた。
釣り場と太陽光の関係性。活性が上がるタイミングに集中する。
このように適水勢を意識するのは、その場所がサクラマスにとっても居心地のいい場所である可能性が高いためだ。佐藤さんの考えでは「サクラマスも必要以上に体力を使わずに泳げる場所を探していると思います」とのこと。魚の呼吸はエラを通して酸素を取り入れることで行われるため、流れが遅すぎると酸素を取り入れづらくなり、早すぎるとこんどは余計に体力を消耗してしまう。つまりは、その時その場所で、サクラマスにとっての適水勢があるわけだが、サクラマス釣りに置いてこの適水勢を意識しながらキャストを繰り返すことが大切だと教えてくれた。こうして、日が昇る前に釣り場に入ってキャストを開始した佐藤さん。使用したルアーは「MLバレット93F JETBOOST」で、カラーは目立ちやすさとケイムラ塗装を意識して「NチャートKベリー」を選択した。
長年の経験から勝負所を見極める。1匹の釣果がもたらすこの上ない満足感。
「ここは方角的に背中側から日が昇ってきます。水面に日が差したタイミングがチャンスになりそうです」とのことで、流れの速さを確かめながらキャストを繰り返す佐藤さん。次第に日も高くなり始めて、対岸に日が差し始めたその時だった。「キタ!喰いましたよ」と一気に手元へ緊張が走る。魚は足元にある岩陰からルアーを喰い上げてきたようだ。ラインが岩に擦れるのは避けたいところだが、ここで強引なやり取りをしてしまうとローリングして抵抗することが多いサクラマスは簡単にフックが外れてしまう。「ゆっくりと行きましょう」とすぐさま状況を把握して、勝負所を見極める佐藤さん。少しずつ魚を浮かせてこれからネットインするタイミングを見計らおうかというその時だった。ザバっと瞬時に魚をネットで掬うようにキャッチした佐藤さん。釣れた歓喜の直後に「やはりフックが外れましたね」と間一髪であったことを教えてくれた。サクラマス釣りはヒットさせるのも難しいが、さらにバレやすい釣りでもある。しかし冷静に勝負所を見極めた佐藤さんの判断に、長年この魚を追いかけてきた確かな経験と実力が隠れていたことを垣間見ることができた瞬間だった。「かっこいいサクラマスですね」と言うように、体高が高く筋肉質な銀色の魚体に目を奪われる。「元気なうちに帰ってもらいましょう」と優しくリリースして、今回は釣り場を後にした。このようにサクラマス釣りは準備にどれだけ時間をかけられるかが勝負を大きく左右するといえる釣りだ。それでも報われないことも多い釣りだが、魚に出会えた時の感動は、その分だけ大きな物になる。もし興味を持っていただけたら、限られたシーズンの中ではあるが、佐藤さんの釣り方を参考にして1匹とひたすら向き合う時間を楽しんでみてはいかがだろうか。
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