2025/09/03
コラム
難攻フィールド・島根県中海に挑む|奥田学×ビッグベイトシーバスゲーム

ビッグベイトシーバスの“道場”

無風。コンディションは決して良いとは言えない。
現代のフィールドは“投げて巻くだけ”で、釣れるほど甘くないのは周知の事実。
奥田学さんが訪れた島根県松江市の「中海」は、「宍道湖」と日本海を繋ぐ日本では数少ない連結汽水湖。豊富な栄養素を含む汽水環境によって育まれた、濃い魚影と多彩な魚種が釣り人にとって魅力的なフィールドなのだが、ことシーバスフィッシングにおいては昨今ハイプレッシャー化が進み、一級と呼べるポイントにおいてもルアーパワーとテクニックが要求される、いわばビッグベイターの修行場のようなエリア。
釣行に訪れた梅雨の狭間のタイミングは最高気温は35度の真夏日。釣行の直前で状況が激変したというネガティブな事前情報しかないタフな状況下、奥田さんの歓喜の声が中海に響いた。
シーバスアングラーの基本を煮詰めたようなフィールド

天候のコンディションに左右されないマンメイドストラクチャー。
中海のビッグベイトゲームで意識するベイトはやはりコノシロ。とはいえ、聖地と呼ばれる東京湾や熊本のように固まったベイトは無く、釣果の鍵となるのは地形変化や流れの変化、目に見えるストラクチャーなどのシーバスフィッシングの基本となるような要素。だからこそ、アングラー自身が持つポテンシャルが強く求められるのだ。
乗船したオスギスタイルの杉谷船長と奥田さんが朝イチにまず選んだポイントは、杭が立つポイント。セレクトしたのは「グラヴィテーター220SF」。キャスト時にボディのフロントとリアが分離して折りたたまるという独自のアーマブースト機構により、ビッグベイトの弱点であるキャスト精度と飛距離を克服したグライド系ビッグベイトだ。
杭打ちではゆっくりと移動するボートに合わせてルアーをトレースするコースを先読みし、キャストポイントを決めていく高度な技術が求められる。空中でカーブしやすいビッグベイトの杭打ちをほとんどノーミスで行うのは至難の技なのだが、グラヴィテーター220SFはキャスト中に一切ブレる様子もなく、奥田さんの思い描くポイントに次々と吸い込まれていく。実に気持ちの良いテンポで迎えた、乱立する杭の中で潮のヨレが発生している一級ポイントに差し掛かると、グラヴィテーター220SFを操る奥田さんの愛竿「キャプチャー167XHー5」が大きく弧を描いた。
早かった“道場破り”

朝イチの杭打ちを制し、実釣開始から僅か1時間で仕留めた74センチ。釣った直後に奥田さんから発せられた「最高やね!」のコメントには、ネガティブな釣況を念入りに下調べしたうえで、それでも盤石の備えで挑んだ事へのプレッシャーから解放された感情が溢れていた。それほど価値のある一本。
奥田さんの語るヒットパターンは「杭の向こう側へ投げて高速で近づけてから、若干の喰わせの間を持たせたグライドアクション」。一見模範的かつシンプルなパターンのように思えるが、グラヴィテーター220SFの高速域でも破綻せず、エラーの極めて少ない左右へ飛ぶアクション性能に加えて奥田学の卓越したテクニックが合わさった結果のシーバスだ。決着こそ早かったが、決して簡単な“道場破り”ではない。
“無”の午後

流れの当たる瀬、当たらない瀬、沈みテトラ等の釣れる要素となりうるエリアは一通りチェックする。
会心の一本を釣りあげた後、訪れた午後の“無”の時間。中海のボートシーバスにおける時合いのトリガーとなりうる風が吹かないのだ。コノシロパターンのビッグベイトゲームと聞いて思いつくようなベイトボールを割る水中ボイルは、梅雨時期の中海だと起こりえない。
オープンウォーターの景色の中、ベイトの絡む流れや地形変化を狙いシルエットとアクションで誘い出す釣りを繰り返す。厳しい状況下、やはり一瞬風が吹いたタイミングに瀬に面したポイントでジャイアントペンシルベイトのドッグウォークに反応したシーバスはフッキングには至らず。やはりシーバス道場。一筋縄ではいかない。
確実に魚のいるポイントを求めて

地形変化や沈みテトラ等のポイントをランガンする合間、朝イチにキャッチした杭をチェックしに行きたいと言う奥田さん。効率的にポイントを探る、またボートプレッシャーを希薄にさせるために風は非常に重要な要素ではあるものの、常に吹き続ける予報ではなく突発的に一瞬吹くような天候では先ほどのバイトも再現性が薄いためであろう。魚が確実に着いている杭に思いを馳せていた。
潮が緩むタイミングに杭打ちを開始してしばらくした頃、Btスラプターでチェイス。パターンかと思われたグラヴィテーター220SFの高速リトリーブからのグライドアクションから一変、スライド幅が大きくややサイズを落としたBtスラプターを杭に当たるほどタイトにアプローチさせて得た反応である。
中海のボートシーバスは「アプローチの差、ルアーの動かし方の差、セッティングの差など、ちょっとした差でチャンスの回数は変わる。そこが大切。」と奥田さんは語る。その言葉を見事に体現したのは、今回の釣行のラストキャストだった。
訪れたラストドラマ

杭打ちでのチェイスからヒントを得て、再度バイトチャンスを得るも喰いこまずに悔しい状況で迎えたラストキャスト。
限りなく“無”に近い状況から、確実に魚に近づいてきていると感じ緊張感が漂う船内。時間的にも最後となる流し、奇しくも1本目をキャッチしたポイントに近い位置だ。最後のポイントでセレクトしたBtスラプターは奥田さん曰く、シーバスの餌。ややレンジが下がるようウェイトチューンが施されている。
そんな絶大な信頼をおいたBtスラプターを杭周辺の1m圏内にキャスト。これが本当に最後のチャンス。
間をもたせたリーリングジャークで大きくアクションさせつつ、杭をかすめるようスライドさせるアプローチは本釣行で何度も見た光景だったが、毎投数分の狂いもない。そしてスライドしながらBtスラプターが杭を抜けた瞬間に水中で大きな影がギラりと光り、絞り込まれるキャプチャー1711H-SB/2。
渾身のファイトでキャッチしたシーバスは現場最大サイズの80センチ。魚体にダメージもなく、ピカピカのMAXコンディション。これこそが中海シーバスゲームの醍醐味なのだ。奥田さんの歓喜の声が中海に再び響いた。
今回奥田さんが使用した「グラヴィテーター220SF」に「Btスラプター」はすでにシーバスビッグベイトシーンでは定番となりつつあるが、改めてミノーやワーム等でも反応しないようなタフな状況を打破できるルアーだと再認識できた。
今回のランカーシーバスに興味を持った方は、アングラーの習熟度によって魚へのアプローチの引き出しが大きく進化する魅力的なビッグベイトゲームに是非ともチャレンジしてみてほしい。

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