2020/04/24
コラム
水深700m超のアブラボウズをゲットせよ!限界を突破する深海ジギングの世界
手巻きのジギングにとって限界ともいえる水深1000mの世界。そこを突破するには気力・体力と同時に信頼できるタックルが必要だ。ようやく完成した強力タックルの数々を手に、山本啓人さんが相模湾のアブラボウズに挑んだ。
深海を直撃する必殺ウエポン!イージーペブル700g&900g
深海ジギングの魅力とタックルの開発
読者の皆さんは「ディープ」と聞いてどのくらいの水深を思い浮かべるだろうか。100m?それとも200m?水深100mがディープと言われていた時代はとうの昔で、いまや300mは普通に守備範囲。そしてさらに深海へと、そのステージは拡大するいっぽうだ。 スロー系ジギングの名手・山本啓人さんは、早くから深海の釣りを模索してきたアングラーの一人。ジギングを幅広く楽しむいっぽうで、ここ5年ほどは深海のアブラボウズに魅せられ、釣行を重ねてきたという。
– 狙う水深は浅くて600m、深ければ900m超。想像するだけでタフな世界だ。いったいその魅力はどこにあるのだろうか。
「アブラボウズは釣り上げると泣く人もいる。それくらいきつい釣り。でも深海で一番大きなサイズが狙えることが魅力です。なにしろ100㎏を超える魚がいる。カンパチもですが、アブラボウズの100㎏も絶対に釣りたい魚です」。
そんな山本さんが今回訪れたのは、相模湾・長井港の竜海丸さん。夏場のキハダゲームで屈指の実績を誇る船宿として、オフショアアングラーにはよく知られた存在だ。相模湾を知り尽くした船長は深海の釣りにも精通しており、全幅の信頼を寄せて取材をお願いした。
– ところで、新しい釣りを開拓するにあたり、常に大きな壁となって立ちはだかるのが専用タックルの問題。もちろん深海ジギングも例外ではない。なにせジグの重さも、リールのキャパも、ロッドの強さも前代未聞。代用するものが何もないのだから。
「水深的にも道具的にもベニアコウまでは可能というのが僕の考え。だからそこまでやれるタックルはどうしても欲しかった」と山本さん。
– 差し当たり、どうしても必要になるのがヘビーウエイトのジグだ。電動リールを用いたエサ釣りでは、オモリの代わりに2kgもある鉄筋を使うこともあるが、手巻きのジギングでは現実的ではない。そこでウエイトは700gと900gに設定し、イージーペブルに白羽の矢を立てた。
「経験上、この水深で引き重りがあったら人間の体がもたないことは分かっている。理想は引き抵抗が少なくて潮の影響を受けにくく、それでいてしっかり横を向いてフォールしてくれるジグ。そこを突き詰めてイージーペブルにたどり着きました」。
– ロッドはオシアジガー∞(インフィニティ)に新たにラインナップされたB61‐10。10番パワーはとてつもなく強い棒のようなイメージだが、実際はムチっとしたインフィニティの良さと、今までになかった強烈な粘りを併せ持つロッドである。
「B61‐10はアブラボウズやベニアコウを狙うためのロッドですが、カンパチや大型根魚狙いで、もっと深いポイントを、もっと速い動きで攻めることも想定して作っています。しゃくっていて楽だし、パワーもトルクもあって使いやすいロッドです」。
リールは新登場のオシアジガー4000。実はここが、タックルの要となる部分だ。深海ジギングというと重いジグ、ヘビーなジャークが頭に浮かぶが、山本さんは「実は体力的にもろに来るのはリール。疲労の原因の大半はリーリングによるものと思って良いでしょう」という。
– 十分なラインキャパシティと巻き上げのパワー、本体とハンドルの剛性など、従来のタックルで最も不安があったのがリールなのだ。それを改善するため、山本さんは自身の経験をフルに詰め込んだ。
「僕はジガー4000があるからこそ、深海のジギングが成立すると思っています。PE3号を1200mというキャパシティ、インフィニティドライブ、HAGANEボディに冷間鍛造のハンドル、巻き上げが楽なギア比、交換可能なスプールなど、僕の希望をすべて満たしてもらいました。だから魚を掛けるまでも、掛けてからも、回収も楽。考えられないくらい巻きが軽い。そこが楽になることの意味はホントに大きいんです。巻き上げパワーもスゴイですよ。今までずっとジガーを使ってきた人もびっくりするくらい。度を越えた強さです」。
– このリールにオシアジガー MX4 PE 3号を巻き、リーダーはオシアジガーリーダー マスターフロロ 60ポンド(18号)を3ヒロ結んでいる。その理由は?
「PE3号は人間が耐えられ、大物も獲れる最大公約数的な号数です。これが4号になると相当きついし、2・5号では怪物クラスが来たときに不安もある。ただ、2・5号の可能性は今後も探っていきたいと思っています」
リーダーに関しても、強度や水キレの良さなどを総合して絞り込んでいるとのことだが、もう一つ特筆すべきはノットの長さだ。山本さんは結び目の編み込みを20cm以上取っていた。これは大物がヒットしたときの抜け防止対策とのこと。はやる気持ちを抑え、時間をかけてしっかりシステムを組んでいたのが印象的だ。
シャクリのストロークは速く、大きくが絶対条件緩慢な動作は通用しない
ひと流し1時間!長期戦覚悟のタフゲーム
実釣は穏やかな天候に恵まれるなか、7時10分に一投目を投入。この水深になると、落とすだけでも8分〜10分を要する。一般的にアブラボウズがシャローに上がってくるのは、産卵が絡む春先から初夏にかけての時期。それでも650m前後と深いのだが、それ以外の時期は700mから1000mのレンジを狙うのがセオリーだ。 陳腐な例えで恐縮だが、これは東京タワー(333m)やあべのハルカス(300m)の2倍から3倍。フィッシングショーでおなじみの、横浜・みなとみらいの一角にそびえ立つ横浜ランドマークタワーも約300mだから、その深さをイメージしてほしい。しかも、それだけ沈めて、ヒットレンジは底から10mまでが目安というシビアな世界なのだ。深海の釣りでは2枚潮、3枚潮は避けられず、そこに速い潮流が加われば底を取ることも難しい。
– そもそもこの水深になると、着底そのものが分かりにくいのだが、山本さんによればアタリも明確には出ないことが多いという。巨体にも関わらず、アタリはアカムツより小さいことも普通にあるそうだ。
「それにバイトがあってもすぐに走ったりするわけではないので、最初は根掛かりのような感じ。動き出すまでは魚かどうかわかりません。長い時はこの判断に数分かかることもあります」。
そんな世界だからシャクリのストロークは速く、大きくが絶対条件。動くものに強く反応するアブラボウズに、緩慢な動作は通用しないのだ。山本さんは、ロッドを海面から頭上まで一気に振り上げてジグを動かす。
7時39分、一回目の流しを終了。ジグを回収する。巻き終えたのは7時50分。投入から回収まで、ひと流しの所要時間は小一時間といったところだ。
手巻きでの回収を見守る船長は「うちはルアーのお客さんも多いけど、こんな人は滅多にいないね」と笑う。
結局朝一のチャンスはノーバイトだったが、これをどう解釈すべきかと尋ねると、「アブラボウズは朝だから釣れるとかではなく、いい場所につけて、そこに確実に仕掛けを入れていくことが大事」と船長。
山本さんも、「もう4年半アブラボウズを追いかけているけれど、自分の経験では陽が上がってから釣れることが多いと感じています。暗いうちは浮いているアブラボウズが、陽が昇ってボトムに戻るためタナを絞りやすくなるんです」。
つまり、まだチャンスはあるということだ。
異変を感じて渾身のフッキング30分におよぶファイトで本命アブラボウズをキャッチ!
残り10分!最後の流しでついに本命がヒット!
引き続き丁寧に探っていくも、これといったアタリもないまま4回の流しが終了。5回目の投入は11時20分だった。1回の流しに1時間前後かかることを考えると、これが最後のチャンス。普通の取材なら延長という選択肢もあるが、過酷な深海ジギングでは体がもたない。この一投が勝負だ。山本さんは10分かけてジグをボトムに送り込み、ジャークを開始。アタリがないまま時間だけが過ぎていく。
11時55分、あと10分で船長から回収の合図が出るタイミング。万事休すか? と、その時、山本さんのロッドがアタリを捉えた。根掛かりのように止まったロッドをあおり、2度、3度と鋭いフッキングを行う。フォールで喰うことが多いアブラボウズだが、この時はシャクリでのバイト。果たして本命なのだろうか?
ここからは長い闘いだ。回収するだけでもきつい巻き上げに魚の重量とパワーが加わって、その過酷さは容易に想像できる。しかし山本さんは慌てることなくリールを巻き、30分かけて水面まで引き上げる。船長のギャフが決まり、取り込まれたのは20㎏オーバーの本命だった。ヒットルアーはイージーペブル900gのゼブラグロー。フックは相手のサイズとパワーを考えて、太軸のシングルフック(#7/0)を前後1本ずつセットしていた。
– 5時間に及ぶ投入とジャーク、回収を繰り返したうえでの大型魚とのやり取り。かなりのハードワークのはずだが、ファイトを終えた山本さんにはまだ余力がありそうに見える。
「大変は大変ですけど、リールにパワーがあるから巻きやすかった。楽に巻けるのでもっと小型かと思っていましたが、まずまずのサイズで良かった。やりました!船長のおかげです!」
手探りの釣り、初めての釣り場で、わずかなチャンスを活かして結果を出した山本さん。そこに大物がいる限り、深海への挑戦はまだまだ続く。
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