阪本智子の船釣り探見!

東京湾・羽田沖のタチウオ釣り
タチウオ:北海道以南の全国沿岸に棲息。大きさは最大で1.5mほど。沿岸部の表層~水深400m前後の海底に群れて生活している。場合によっては汽水域に入ってくることもある。全身が銀色に輝き、食べても美味しいが、触っただけで切れる鋭い前歯を持っているので、持つときはフィッシュグリップや手で首にあたる部分をしっかりと握る

東京湾・羽田沖のタチウオ釣り

目次
  • 1:冬でも浅ダナで釣れる!
  • 2:使うのはオモリ60号のライトタックル
  • 3:エサを連続的に動かす小刻みなシャクリでねらう
  • 4:優しいシャクリを心がけよう
  • 5:本命もゲット。大原沖の魚の多さも満喫

冬でも浅ダナで釣れる!

新年の1月6日、阪本さんが訪れたのは、千葉県浦安の老舗船宿である吉野屋。この日のお目当ては、年末から正月にかけて、手堅い釣果が続いていた東京湾のタチウオだ。オモリ60号のライトタックルでねらえる状況が続いているという。
食べても美味しいタチウオの重い引きを楽しもう
アタリを出すまでの駆け引きと、掛かってからは引きの強さで釣って楽しく、そのうえさばきが簡単で美味しいタチウオは人気の釣りもの。近年の東京湾では周年ねらえるようになってきているが、とはいえ夏は浅ダナ、冬は深ダナというのが一つの定番パターンになっている。
水温が低下する12月にもなれば、釣り場はだいたい東京湾口の深場ポイントである観音崎沖あたりに絞られていくというのが例年のパターンだ。
ところが今冬はちょっと事情が違う。エサとなる小魚の動向なのか、はたまた海流の影響なのかは不明だが、まず12月に入っても川崎や横浜周辺で陸から良型のタチウオが釣れると釣り人の間で話題になった。その後、好釣果の話は木更津周辺や千葉の湾奥エリアなど対岸に移ったが、遊漁船も大きくは同じで、タチウオが湾口まで行かないむしろ湾奥で釣れる状況が続いていた。
この日の釣り場をタチウオ船担当の岩淵裕介船長に尋ねると、「移動する時はパッといなくなってしまう魚なので、今日も必ずとは断言できませんが、ここ数日好調の羽田沖に行ってみます」とのこと。羽田沖とはつまり川崎エリアだ。水深は30mほど。やはり浅ダナねらいのような状況が続いているという。

使うのはオモリ60号のライトタックル

この日のタックルは、サオが1.9m、7:3調子のライトゲームロッド(シマノ ライトゲームSS Type73 MH190)、リールがPE2号を巻いた小型電動リール(シマノ フォースマスター600)。ミチイトにはリーダーなしでスナップサルカンを付け、その先に40cmの片テンビンをセット。あとはテンビンに船宿指定の60号オモリと船宿オリジナルの2m1本バリ仕掛けをセットする。1本バリ仕掛けのハリスはフロロ7号、ハリがケン付きのサーベルフックの2/0だ。結果的にこの日の釣り場は30mまでとなったので、手巻きリールでも全く問題なかったが、日並みによっては深場に移動することもあるので、その場合も考えると電動リールがラクである。
タチウオ釣りはタックルと仕掛けがシンプルなのも魅力
ミチイトにPE2号を使うライトタックル。サオはラクにグリップできるⅩシートを採用した「ライトゲームSS Type73 MH190」、リールは親指1本で巻き上げをコントロールできる「フォースマスター600」の組み合わせ
仕掛けは船宿オリジナルの2m1本バリ仕掛け。40cmの片テンビンとオモリも無料で借りられるが、紛失した場合は実費を支払う
釣り座に着き、阪本さんが最初に行なったのがエサの準備。エサはコノシロの切り身が船で配られ、これを1つずつハリに付けて使うが、配られたものをあらかじめ加工&整形してやると釣果アップに繋がる。とはいえ難しいことはなく、水中で動かした時に余計な水流抵抗を受けてズレたりしないように、端の形をハサミでカットして整えればOK。阪本さんはハリを刺す側の端を三角にし、反対側は斜めにカットする方法を取っている。
あとはエサのセンターに真っ直ぐハリを縫い刺すが、その方法はイラストを参照。大切なのはこの釣りで行なう連続的なシャクリの最中にエサがズレないこと。それによって、切り身のエサをルアーのように安定して海中で動かせるようにしておくことだ。
エサはコノシロの切り身が船で配られる。写真は阪本さんがハサミでカットし終えたもの。三角にした側の身側からハリを刺し入れる
ハリにエサを付けた状態。エサのセンターにまっすぐハリが通り、エサに余分な曲がりが生じていなければOK
そのほかに用意しておきたい小物が、(左上から時計回りに)プライヤー、ハサミ、フィッシュグリップ
タチウオの前歯はカミソリのような鋭さがあるので、フックを抜く時はプライヤーを使うのが安全だ

エサを連続的に動かす小刻みなシャクリでねらう

「タチウオは料理しても美味しいので大好きです。釣る時に心掛けているのは、ラインに余計なタルミが生まれない安定したシャクリですね。どれくらいのシャクリ幅がよいかはその日によると思うんですけれど、初釣りなのでいろいろ試してみます!」と阪本さん。
タチウオは立ち泳ぎのような姿勢で群れており、エサを追う時は上へ上へと相手を追い掛けながら鋭い前歯で何度かアタック。その後、ガブリと噛みつく。そこで釣り方は、船長の指示ダナ下限まで仕掛けを下ろしたら、指示ダナの上限までいわゆる「巻きジャクリ」を続けてエサを動かし続ける。タチウオがエサを追い始めると、ガツガツというアタリが手に伝わる。そのまま逃げるエサを演出するようにシャクリを続け、サオ先が力強く引き込まれる感触が出たら、サオ全体を持ち上げるようにして乗せ合わせるのがコツだ。最初の小さなアタリでびっくりアワセをしたり、シャクリを止めてしまうとアタリが止まる。
シャクリはサオのグリップエンドを脇に挟んでテンポよく。ロッドを動かす幅自体は、斜め45度~水平くらいまでで充分だ
朝7時に出船した船は、両舷にお客さんが並ぶ盛況。およそ30分で羽田沖に到着すると、すでに多数のタチウオ船が風上を向いて並んでいた。目の前に羽田空港があり、頭上を着陸態勢の航空機が定期的に駆けていく。風はあるものの雲一つない日本晴れ。雪化粧した富士山もくっきりと眺められた。
風はあって気温は低かったが、正月らしい気持ちのよい晴天となった
船は周辺の海上をしばらく走り回り群れを捜す。やがてエンジンがスローダウンしたところで、「どうぞ。上から17~22mのタナでやってください」と船長のアナウンスが入った。すると間もなく「今、型出ましたよ~」と追加のアナウンス。見ると阪本さんとは反対の右舷のお客さんが銀色の魚体を足もとに抜き上げていた。
「あっ、今当たりましたね」と阪本さん。ツン、ツン、ツンと一定のリズムで、ハンドルを少し回しながらサオ先を下げ、そのまま今度はサオ先を少し持ち上げるシャクリを続けていた。すると〝トトトン〟とサオ先が震えるようなアタリが出たあと、サオがしっかり引き込まれる。開始10分経たずにこの日の1尾目。幅もあるきれいなタチウオだ。「このサイズがさっそく釣れてくれるのは楽しいですね!」と会心の笑顔だ。
レギュラーでこのサイズ。「ずっしり重くて楽しいです」

優しいシャクリを心がけよう

その後も、船長の指示ダナ下限から誘い始めると、飽きない程度に反応がある状況が船全体で続いた。釣り場も羽田沖から移動することなく、指示ダナもほぼ上から17~22mで変わらない。実は正月中に少し風邪気味になってしまったという阪本さん。途中、休憩も入れながらのペース配分で、正午には17尾目が釣れた。
この間、タチウオが釣れる状況は少しずつ変化。基本的には指示ダナの下限近くで釣れる時間帯が多かったが、ある流しでは上限近くにアタリが集中することもあり、あるいは仕掛けの投入や再投入中のフォール中に喰い上げてフッとサオ先が戻るアタリが出ることもあった。ただ、シャクリ自体は一日を通じて小刻みなものに反応がよかったようだ。「試しに電動リールでのゆっくりとしたタダ巻きもやってみましたが、今日は反応がありませんでした。1回につきハンドル3分の1回転くらい(フォースマスター600のハンドル1回転は53cm)で、イトフケを出さないように意識しながら、優しめにシャクると安定してアタリが来ます」とのこと。
しっかり重いアタリを感じたら、落ち着いてサオを持ち上げ乗せ合わせる
取り込みは、まずオモリが海面直下に来るまで巻き上げ、オモリを回収して船べりに置いたら、ハリスを魚の近くまで手繰り……
タイミングを計って一気に船内に抜き上げる

ハリスを太くして大型対策

アタリが好調な一方で、意外に多かったのがハリス切れ。この日のタチウオは「これって、ちょっといい型ですね」と阪本さんが感じたものにメジャーを当ててみると、だいたい1mを超えているという良型ぞろい。それもあって、船べりまで来た魚が海面でひと暴れしたところで、最後にスパッとハリスが切れてリリースという場面が実は結構あった。
後半、替えの仕掛けを購入しに船長のところへ行くと、「そうなんですよね。年末頃から型がいいのはうれしいんですが、皆さんハリス切れの場面が増えていて、苦肉の策で作っているのがこれです(笑)」と渡してもらったものは、通常はフロロ7号の通しハリスになっているところ、先端30cmほどが14号にしてある船長の手巻き仕掛け(1本200円)。
「全体を太くしてしまうとやはり喰いが落ちるんですが、これくらいなら大丈夫なようです」との言葉どおり、こちらに替えてからはハリス切れリリースが大幅に減り、タチウオの反応にも特に変化はなかった。船上で自分でハリを巻ける人なら、手もとにあらかじめ太ハリスを用意しておくのも一手だろう。
その効果もあって、午後も順調に釣果アップ。釣りすぎても食べきれないので、「今年の釣り始めにふさわしく、20尾を目指します!」という阪本さんは見事に目標を達成。船全体でも調子がよく、「こんなことはあまりありませんが、今日は皆さん好調なので少し早上がりします」と船長からアナウンスがあり、予定より1時間前倒しの午後1時に沖上がりとなった。ちなみにこの日のタチウオは脂の乗りも抜群で食味も申し分なし。今冬は期待大の東京湾タチウオに、ぜひ出かけてみてほしい。
この日は指4本かそれ以上が多かった