ヒラメは沖縄県を除く日本各地の沿岸に生息。若魚は「ソゲ」と呼ばれるが成長は早く、1歳を迎える頃には30cmくらいに育つ。 釣りの対象となるのは40~70cmクラスがメインだが、最大で80cm~1mになる。砂泥底を好み、水深20~200m前後の海底に棲むが、エサを捕る際には全身を使って中層まで泳ぎ上がったり、小魚を追って長距離を移動することもできる。
ライトタックルで増したゲーム性と入門のしやすさ
冬の寒さが深まるにつれ、身厚になってますます食味が増すヒラメ。ほぼ全国に生息し、マダイと並んで船釣りでは昔から人気のある高級白身魚だ。特に大きなものは「大判」「座布団」などと呼ばれ、ベテランも熱望するターゲットになっている。
ヒラメは鋭い歯を持つフィッシュイーター。砂地底の根周りに潜み、イワシ、小サバ、小アジといった小魚類や、イカ、甲殻類なども捕食する。船釣りではこの習性に合わせ、生きたイワシによる泳がせ釣りでねらう。イワシは小型のカタクチイワシを使う場合もあるが、今回訪れた外房大原を含め、普通は「中羽サイズ(=15cm前後)」 のマイワシだ。
ヒラメ釣りが盛んな千葉県や茨城県ではエリアごとに解禁時期が設定されている。千葉では夏から解禁する外川、飯岡、片貝沖などの外房北部に続いて、10月になると外房南部の太東、大原、御宿沖が解禁になる。大原沖では冬に入ってイワシの群れが北から徐々に南下してくるとともに、それに付いた良型ヒラメも移動してくるのだ。
外房のヒラメ釣りは「横流し」で行なわれる。横流しとはエンジンを停めた状態で船の側面に風を受けながら流して行く方法のこと。船全体で横方向に広い範囲を探れるメリットがある。左舷と右舷のどちらが潮上(または潮下)になるかは船の向きによるが、一日の釣りの中で片寄りが出ないように船長が調整してくれるのが普通だ。潮上側は船の下にラインが入る形になってやや窮屈だが新しいポイントには先にエサが入る。潮下側はラインが沖に伸びる形になり軽いオモリでも釣りやすい。一長一短だが、今回お世話になった長福丸の藤井俊輔船長もいうように、釣りも潮上のほうがしやすいという人もいる。いずれにしても、大切なのは自分の仕掛けの状態をきちんとイメージして釣ることだ。
そして、ここ数年で大きく変わったのがタックルだ。現在、外房のヒラメ釣りではPE1.5号のミチイト、40~60号のオモリを使う、いわゆるライトタックル(LT) の釣りが人気を高めている。ロッドも軽量化し、女性でも終日片手で操作していられるほどになった。何より、タックル全体の感度が増すことで、海底形状やヒラメのアタリもより敏感に把握できるようになり、ベテランにとっても釣りの楽しさが増したことが人気の拡大に寄与している。長福丸のヒラメ乗合船は、ライトタックルもノーマルタックル(PE3~4 号、オモリ80~120号)も同じ船に乗れるが、レンタルを含めて最近はほとんどの人がライトタックルを選択しているそうだ。
片手で一日釣りができるライトタックルの登場でヒラメ釣りはぐっと身近になった
ロッドは大きなウネリを回避したり、貴重なアタリで食い込みを妨げないという点では6:4調子がスタンダードとされるが、ライトタックルならではの操作性や感度の面では最近の船釣り用モデル(ヒラメ船用を含む)の7:3調子も釣りやすい。この日もロッドはライトゲームBB Type73・MH200の(7:3調子、2m)をセレクトした。
ロッドは「ライトゲームBB Type73・MH200」。電車釣行も視野に入れ、ライトゲームロッドとしては珍しいセンターカット2 ピース構造を採用。オモリ負荷20~80号で、アジ・マルイカ・マダイ・イサキ・根魚五目・マゴチ・アマダイ・テンヤマダイ・ライトヒラメと幅広く対応し、船釣り入門にもぴったりの1本だ
エサは活きイワシ! 送り出し方を覚えよう
ヒラメ釣りの朝は早い。日の出前のまだ暗い時間に乗船。釣り座にタックルをセットしおえる頃に出航。沖合に向け1時間弱移動する。釣り場は大原~太東にかけての沖合。水深は15m前後で遠くには太東岬などの陸地が見える。
夜明け前の乗船。釣り座をセットしたら一度キャビンへ移動
生きエサのイワシは船のイケスに用意されたものが船上で配られる。足もとのバケツには2~3尾をキープ。欲張って多く取っておいても弱りやすいだけなので都度足せばよい。
エサは生きたイワシ。なるべく丈夫な状態で海底に送り出す
イワシにハリをセットし、オモリとともに海底近くに沈めて泳がせ、ヒラメが襲いかかってくるのを待つ。オモリが着底したらタルミを除いて一度底ダチを取り、その後、海底からオモリを少し切って、船のウネリに合わせてトーン、トーンとオモリが底を叩くくらいで待つのが基本だ。この日の船宿推薦仕掛けは捨てイトが40cmでハリスが80cm。オモリを底から1mほど上げ、イワシが海底から50cmくらいのところを泳いでいる状態をイメージする。
ヒラメは砂地の中でも根のある場所の際やちょっとしたカケアガリに付くといわれる。大切なのは底ダチをまめに取り直すことで、それによりイワシがあまり底近くから離れてしまわないようキープしながら、根掛かりも回避する。なお、イワシの群れが濃いような場合は、探見丸などの漁群探知機で群れの反応がある層を把握し、その下限までイワシを引き上げて泳がせておくのも効果的だ。その場合はオモリを底から1mよりもさらに上げることもある。
イワシのセット方法
イワシは桶の水の中から出さずにハリをセットできるとベター。ウロコが剥がれにくくなる。イワシを捕まえる際は、観賞魚用の魚すくいが用意されていれば利用するとよい。イワシの頭部を軽く押さえるように手に収めたら、まず親バリのハリ先を口の中に入れ、目と目の間にある硬い部分から外に抜く。この時に柔らかい部分に刺してしまうと、海中ですぐに逃げられ、エサがない状態で釣ることになるので気をつけよう。
親バリは頭の硬い部分にしっかり通す
次に親バリに繋がっているシングルフックやトリプルフックの孫バリを、イワシの腹側もしくは背側に掛けてこちらもハリ先を外に出す。ヒラメはエサをねらったあと、最初の一撃を腹側にくわえることが多いともいわれるが、腹か背かで船宿のおすすめがある場合はそれに従えばよい。孫バリは大ものが掛かった時の強度はシングルフックが上だが、近年はサイズを問わず掛かりのよいトリプルフックも広く使われるようになっている
トリプルフックの孫バリは1本のハリ先を腹(または背)に通す。なお、シングルフックの場合はハリ先を肛門から入れて浅く刺し通す
投入は穂先にミチイトが絡んでいないことを確認したら、イワシ、オモリの順で海面に着くように行なう。オモリだけを先に投じると思わぬところにハリが刺さって怪我をする危険もあるので注意。仕掛けが落ちていく間は、スプールを軽くサミングしてスピードをコントロールする
潮上&潮下 それぞれの戦略
釣り座が潮上になった場合は、潮下の人よりも仕掛けが先に入るので、確実に底ダチを取って釣り逃しのないようにしたい。ラインを送ればそのまま仕掛けを上げずに探り続けることもできるが、「潮下の人と同じような場所を釣ってももったいないですし、慣れないうちはオマツリも起きるので、無理をせず早めに仕掛けを入れ直すようにしてください。仕掛けを入れ直すのはアタリを出すうえでも有効で、特に潮が濁っている時は、オモリが再着底するタイミングでヒラメが飛び付いてくることがよくあります」と船長のアドバイス。
また潮下になった場合は、「潮下は軽いオモリでも釣りやすいです。仕掛けを送って船の遠くをねらうのも手ですね。送る時はたまにサビいて底を確認すると同時にアタリも聞きます。オモリを上げた時に、根に当たればズルズルという感触が止まることで分かりますし、ヒラメが食ってきた場合は、硬い根の感触とは違うグンと食い込む手応えでそれと分かります。ヒラメの反応があったら、タイミングをみて合わせてみましょう」。ライトタックルならではの感度のよさは、こんな場面でも生きてくる。
アワセはワンテンポ待って低い位置からゆっくり
朝6時の第一投から間もなく、右舷のミヨシ(先端)から2番目に釣り座を構えていた阪本さんにヒット! 船中でも一、二番目の早さで快調な滑り出しだ。サイズは1kgに満たない小型だったが、サオ先に伝わるたしかなアタリを確認し、一呼吸置いてゆっくり大きくサオをあおるようにしてアワセを入れると、グングンと確かな手応えでヒラメが乗った。シーズン初期のヒラメは1kgに満たないサイズの反応も多い。その際、ノーマルタックルでオモリが100号といった場合だと、「上げてみたら釣れていた」という場合も実は少なくない。その点、ライトタックルはサイズを問わず一尾一尾からの反応が明確で、魚とのやり取りが充分に楽しめる。
開始間もなく、さっそくアタリを捉えた阪本さん
日が上ってからはやや苦戦。ヒラメ釣りでもある程度の潮が利いていたほうが魚の反応はよいが、この日は太平洋に面した外房ならではの高いウネリがあり、アタリがあってもバレることも多く、引き上げたイワシにヒラメの噛み傷がくっきりと残っていることも。オモリもこの日は重めの60号が指定された。
バラシのあとに回収したイワシ。ヒラメの噛み跡がはっきりと残っている。惜しい!
8時半、船がタテに動く分の動きをロッドワークで吸収しながらねらっていた阪本さんに待望の本アタリ。よいポイントに当たったようで、左舷が潮上になる流しのタイミングで数名のサオが連続して曲がる。
速い潮の中でもゴツゴツゴツと伝わってきた感触に慌てず穂先を下げた状態をキープし、イチ、ニーの、サンとゆっくりとカウントを入れてから再度大きな動きでサオをあおるように動かす。
アワセは「ヒラメ40(秒)」という言葉があるくらい、昔から食い込みを待つのが定石とされるが、実際には生命感のあるブルブルっという初信を感じた後、サオ先に追加の重みが乗ったのを感じたところで一呼吸置き、ゆっくり大きく合わせればそこまで待たなくてもよい。
魚が乗ったら、ポンピングなどはせず、一定のテンションを保つようにリールを巻く。慌てず魚を水面まで浮かせたら、タモのアシストを受けてすくってもらおう。
うまく魚が乗ったら慌てずに一定のテンションで巻き上げよう
イワシを丸のみしたフィッシュイーター
釣ったヒラメは帰港までにしっかりと血抜きする。魚が落ち着いたところで白い腹側を表・背中側を手前にして置いたら、エラの付け根と尾の付け根の2ヵ所に丈夫なナイフの刃を入れて血管と骨を切断。頭と尾を持って内側に曲げると血が出るので、海水で洗い流したら、氷に直接当てないようにしてクーラーにしまう。これができれば帰宅後の食卓が華やぐこと間違いなしだ。
ねらって合わせた一尾に笑みがこぼれる阪本さん。ヒラメは大型ほど海面まで上がったあとにもうひと暴れするので、テンションを保ったまま最後まで気を抜かずにタモに誘導しよう
大原沖のヒラメ釣りは、例年秋から開幕し、年明けからアベレージサイズが2kgにアップしてハイシーズンとなる。ぜひ出掛けてみよう。