阪本智子の船釣り探見!

阪本智子の船釣り探見!
アジ(マアジ):北海道から南シナ海までの全国の沿岸~沖合に生息。大きさは30cm前後が多いが、50cmに達するものもいる。走水沖は40cm超える「大アジ」が育つ海域のひとつ。釣期は3~12月で、夏から秋にかけてが盛期。

横須賀・走水沖の大アジ釣り

目次
  • 1:走水は大アジ釣りのメッカ
  • 2:速い潮流の攻略がカギ
  • 3:基本は底から3m。こまめに底を取り直そう
  • 4:スローな前半戦。その後にチャンス

走水は大アジ釣りのメッカ

7月上旬、阪本さんがやってきたのは横須賀市走水(はしりみず)の広川丸。走水は東京湾の出入口にある狭窄部、浦賀水道の三浦半島側に位置している。地名の由来は、神話の時代に日本武尊の軍船一行が、この地から対岸の房総半島へ水の上を走るように渡ったというものもあるが、釣り人の視点からは、やはり浦賀水道の速い潮流をそのまま言い表わしたものと思える。そんな走水は大アジ釣りのメッカとして有名だ。一年を通じてアジ専門で船を出している船宿が多数営業している。
走水の大アジ。足もとに泳がせているとまるでサバのよう
栄養豊富で潮が速い東京湾の入口はもともと美味しいアジが釣れる。その中にあって走水沖では、40cmクラスの大アジが他の海域に比べてはるかによく出ることが知られてきた。サイズは大きくても身には質のよい脂が乗っていて味は抜群。刺し身はもちろん、塩焼き、フライ、空揚げと何にしても美味しく、「走水の大アジ」は1つのブランドになっている。
今回お世話になった広川丸の安田隆史船長によれば、特に美味しいのは観音崎より中の東京湾の内側に居着いている大アジ。このタイプは身が金色がかっており、魚体に比して目が小さいのが特徴という。ちなみに観音崎より外側で釣れる、回遊型と思われる黒っぽいタイプのアジは、同じようにサイズは大きくても味は数段落ちるのだとか。
いずれにしても、長年の大アジ釣り人気で、今は昔ほど簡単には40cmアップが釣れる状況ではないそう。それでもよい時には45cmオーバーの良型が何尾もヒットする日がある。また、それよりも小さい中型のアジ(中羽)なら、今でも数も充分にねらえる。味のよさも「食べるならむしろこっちが美味しいと思うくらい(笑)」とお墨付きだ。

速い潮流の攻略がカギ

ベテランファンも多い走水の大アジ釣りだが、広川丸は入門者の受け入れにも熱心。「釣りをやってみた入門者が、面白いと思ってくれないとお客さんのすそのが広がらない。それで困っちゃうのは自分たちだからね(笑)」という安田船長。そんな雰囲気が船宿のHPにもにじんでいるせいか、最近は女性一人、女性同士、親子で「初めて来ました」というお客さんがずいぶん多いそうだ。「長野県から高速道路で来ました、という女性のお客さんがいらした時はびっくりしましたけど、彼女は今では、ふた月に一度遊びに来ていますよ」とのこと。
HPでも初心者大歓迎をうたう広川丸の特徴は女性や親子連れのお客さんの多さ。船長も積極的にサポートする
さて、そんな船長の「走水の大アジ釣り」を始めるためのアドバイスは、できれば「小潮・長潮・若潮」などの潮の動きの少ない日を選ぶこと。潮が大きく速い状況だと、特に入門者の場合は底ダチが取りにくく、その後の釣りの感覚も掴みにくいことが多い。すると当然ながら、面白さも感じにくい。ただし、たとえ大潮であっても、この日のように釣りをする時間帯の中に潮止まりのタイミングがあればチャンスはある。
「アジ釣りというと、船釣りの中でもお手軽というイメージが強いですけれど、走水の釣りには難しさもありそうですね。とにかく、大きくて美味しいアジが釣れるように頑張ります!」と阪本さん。もちろん、潮汐だけで釣果が決まるわけではない。あとは当日の状況の中で、船長のおすすめする基本的な釣り方を守ることが大切だ。
観音崎を望む走水沖は景色がよく気持ちがいい
船宿仕掛けは2本バリ。テンビンの先(持ち手のないほうのアームの先)にセットする
船宿指定の150号のビシ(アンドンビシ)に詰める寄せエサはイワシのミンチ。鉄製のリングとともに船で配られるので、ポイント到着前までは船の内側に向けてセットしておき、釣り場に着いたら外側に出して釣りを始める
付けエサはイカを食紅で染めた赤タンが配られる。広川丸のものはアミノ酸に漬け込んである
阪本さんの道具立てはロッドが『リアランサーX アジビシ150』、リールが電動リールの『フォースマスター800』の組み合わせを使用。ミチイトはPE4号
電動リールは船の電源も利用できるが、「電力丸」があればどんなポジションでもリールのパワーを最大限に発揮させられる
『リアランサーX アジビシ150』はオモリ負荷80~150号・1.5mのショートレングス。手返しよく釣りができ、短くてもグラス素材を生かした柔軟性がバレを防いでくれる

基本は底から3m。こまめに底を取り直そう

午前船の出港は朝の7時20分。充分に明るくなってからの出発なので支度にも余裕がある。ちなみに午後船もやっており、朝が苦手な人や遠方からの人は午後からの利用も多いとか。港を出た船は少し北に走り、陸側に横須賀市の猿島、沖側に第二海堡が望める走水~猿島沖のポイントに到着した。
乗船したらエサを受け取り、仕掛けのセットまでを終えて釣り座を整えておく
午前7時40分、水深41mの場所にイカリを下ろして釣り開始となった。
ビシは走水沖の速い潮流に対応した150号が船宿指定。「最近はライトアジの機会が多かったので、なんだか重い!」と阪本さん。とはいえ、釣り方の基本は同じなので、すぐに体が慣れてくる。
船を停めたポイントは、砂地底で近くに根がある場所とのこと。今の時期、潮が速いタイミングだと、ねらうのはだいたい水深40m前後だそうだ。周囲に見える他のアジ船も、水深37~38m、もしくは50mといったポイントを釣っているとのことだった。
釣り方は「底から3m」が基本の指示ダナ。ただし、潮が緩い時なら、実際は底から2~5mくらいにビシが収まっていれば多少タナがずれていても問題なく当たってくる。そんな時は、船の周りで群れがウロウロしている状況とのこと。
逆に潮が速くなってくるほど、アタリをだすのは難しくなるが、その時のコツや注意点は「寄せエサを一気に放出しすぎると、流れたエサにアジが付いて船から離れていってしまうので、寄せエサはポロポロと出ていくイメージで振り出す」「底ダチはまめに取り直す。基本的に仕掛けが吹き上がりやすいので、たとえば長い間置きザオでアタリを待つような釣り方は釣れにくい」などになる。潮が速い時は、2回目の底の取り直しでラインが10mほど余分に出ていくこともよくあるそうだ。
釣り方の基本
潮流の速い走水沖の大アジねらいは、底から3mまでのタナを探るのが基本。軽快なロッドワークで魚を手にしたい
ビシにスプーンを使って7分目を目安に寄せエサを詰める
手でビシの窓をしっかり閉める
2本のハリに赤タンを1つずつ付け、仕掛けが絡んでいないか確認したら、テンビンの取っ手を持ち海中に落とす
バックラッシュを防ぐためスプールに指を添えて仕掛けを落とす
着底したらすぐにリールを巻いて余分なタルミを取る(底ダチを取る)
海中のビシを真上に持ち上げるつもりで1回目のシャクリ
リールを巻きながらサオを下げる。この操作を2~3回連続して行なう
ビシが海底から3mに来たらサオを保持しアタリを待つ

スローな前半戦。その後にチャンス

この日は左舷ミヨシに座った阪本さん。前半はラインが船の下に入っていく状態で、少し釣りにくい時間帯が続いた。「なんだか難しいです!」とやや苦戦。そんな中、船中ファーストヒットは右舷トモに入っていた東京からのお客さん。上がったのは40cmほどの走水沖らしいグッドサイズだ。その後、午前9時過ぎに「そろそろ潮が緩んで来たかな」と船長が言ったところで、右舷ミヨシに入っていた親子組にヒット! とはいえ船全体でなかなか後が続かず、9時40分にイカリを上げてポイントを変えることにする。
この日の船中ファーストヒットは走水沖らしい良型を手にした飯原憲二さん
次のポイントは水深48m。指示ダナは同じ3m。しかしアタリの頻度は上がらず、干潮時刻まで30分ほどとなった午前10時に3回目の移動。そこではイカリを下ろさず、船を流しながら釣ることになった。水深は38m指示ダナは変わらずの底から3mだ。
するとこの頃から阪本さんも「ようやく仕掛けが立って釣りやすくなってきました(笑)」とスパート。すぐに中アジをキャッチした。その後はダブルでのヒットもあり(残念ながら取り込み時に1尾はリリース)、40cmオーバーの大アジは残念ながらお預けとなったが、丸々と太ったいかにも美味しそうなアジのアタリと引きを楽しめた。
潮が緩んできた後半は連続ヒットになった
小さなサイズならビシをバケツに置いてから自分でハリスを掴んで抜き上げてもよいが、2尾掛かっている時や中~大アジが釣れた時はタモ入れをサポートしてもらう
釣ったアジはエラの下にハサミを入れて接合部のようになっている部分を切り、しばらく足もとのバケツで泳がせれば簡単に血抜きができる。あとは早めに氷入りのクーラーへ。せっかくの釣果を美味しく持ち帰るためにも、クーラーへのこまめな移し替えは忘れないようにしたい。
さてこの日、ひょっとするとサオ頭では?というほど、連続ヒットを見せてくれたのは、お父さんと遊びに来て、右舷ミヨシで安田船長のサポートを受けながら頑張った小学2年生の男の子だった。「仕掛けが底に着いたら、6回ハンドルを巻いて待ってみよう」という船長のシンプルなアドバイスを守っていると、大人のようなシャクリは入れられないが、その釣り方が逆にマッチしたのか、ほどなく穂先がビビビンと揺れるアタリがよく出た。沖上がり後、「船長もとっても優しくて、なんだかいい雰囲気の船宿さんでしたね~(笑)」と阪本さん。釣果もさることながら、大人も子どももみんなで頑張った楽しい一日となった。
県内の相模原からお父さんと来ていた小泉マキア君はなんと連続ヒット
お父さんの直史さん(左)、船長、マキア君(右)でガッツポーズ
釣ったアジはハサミでエラの下を切り、足もとのバケツでしばらく泳がせると簡単に血抜きができる。その後はなるべく早めに氷を入れたクーラーに移す
特大サイズはお預けとなったが、まん丸と太った食べごろアジの釣りを楽しめた