阪本智子の船釣り探見!

阪本智子の船釣り探見!
全国の沿岸に分布。ほぼ周年釣ることができるが、3~6月、9~11月ごろが最盛期。岩礁や砂礫底の海底付近を好み、普段は比較的深い場所にいるが、2~8月の産卵期は沿岸の浅海へやってくる。稚魚は浅場の藻場や岩礁帯で生活し2~3年で深みへ移動。頑丈な歯を持っており、エビやカニの硬い殻を噛み砕いて食べる。

第6回 相模湾・平塚沖のコマセマダイ釣り

目次
  • 1:昔から変わらない船釣りの王様
  • 2:船長の指示ダナは厳守しよう
  • 3:正確にタナを取るための「タナ合わせ」
  • 4:置きザオでじっくりねらう
  • 5:寄せエサはパラパラと少量を利かせる

昔から変わらない船釣りの王様

船釣りの対象魚として、押しも押されもしない王様がマダイ。日本人が最も古くから食べてきた魚の1つでもあり、その骨は約5千年前の縄文時代の遣跡からも出土している。鮮やかなルビー色に青い宝石のような点がちりばめられている姿も美しく、食べれば上品な白身はプリッとした弾力の中に甘みが広がる一級品だ。
マダイは伝統漁法も含めて地域や季節により多彩な釣り方があるのも特徴。現在の船釣りで楽しまれているものだけでも、寄せエサを使うコマセマダイの釣り、エビエサを使うシャクリマダイや一つテンヤの釣り、さらにルアーを使うタイラバやインチクの釣りとさまざまな釣法がある。
陸に目をやれば平塚や大磯など湘南の海岸線が広がる
今回、阪本さんが挑戦したのは湘南エリアでのコマセマダイ釣り。駿河湾や東京湾ではすでにこの釣りを経験しており、良型も釣ったことのある阪本さんだが、相模湾は初挑戦となった。
船中一尾目は東京の三品さん。「釣りは年中マダイです(笑)」

船長の指示ダナは厳守しよう

出船は午前7時。船には阪本さんのほか、シーズンを通じてコマセマダイの釣りがメインという常連さんや、この日がコマセマダイ初挑戦というお客さんが6名乗船。
「この釣りはとにかく船長さんの指示ダナを守ることに集中しています。今日は大きなのが釣れたらうれしいな~」と阪本さん。コマセマダイの釣り、とりわけこの日も行なった海面からタナを取るコマセマダイの釣りは、船長から指示されたタナを守る“チームワーク”がとりわけ大切。これにはマダイの習性が関係している。
探見丸があれば水深や魚の反応もいち早く確認できる
マダイは喰い気があると海底付近から浮き上がってきて宙層でエサを食べ、また海底に戻るという行動を取る。一方、警戒心はとても強い。
海面からタナを取るコマセマダイの釣りでは、釣り始めに船長が「カゴビシ(またはコマセカゴ+オモリ)をこの深さに持ってきて」というタナをアナウンスする。釣り人は仕掛けを投入後、この指示ダナよりも仕掛けの長さ分だけ余計にカゴビシを沈めたところからシャクリをスタート。その後、指示ダナまでカゴビシを持ってきてアタリを待つ。
コマセカゴはLサイズでオモリは80号。仕掛けは船宿指定。片テンビンに接続する際は間にクッションゴム1m(φ1.5~2mmを入れる
「上からタナを取るコマセマダイの釣りは、やる気のある魚をなるべく上ずらせ、警戒させずに釣っていくのがねらいです。その時、たとえば誰か一人がコマセカゴを周囲より大きく下げていたり、あるいは着底させてしまうと、魚が浮きにくくなってしまいます。きっちりタナを合わせてもらえるとうれしいですね」と船長。
シャクリは最初に大きく1回、その後、指示ダナまでカゴビシを巻き上げるまでに大きく1~2回というのが基本だ。シャクリのあとは置きザオ。寄せエサに興味を持ったマダイが底から上がって来たところに、長いハリスの先に付いたオキアミが落ちて来るか漂っていると、「ガガガン」と見事に明確なアタリが出る……ことをイメージして釣る。
尾の先端をカットしたオキアミにはこのようにハリを刺す。オキアミを丸めて付けると落下時に水流抵抗を受けてハリスがよれてしまうので注意

正確にタナを取るための「タナ合わせ」

港を出て間もなく、この日は水深50m地点でまず「タナ合わせ」を行なった。電動リールのカウンターに表示される数値は、ゼロ設定を行なったあとでも、通常、実際の水深とは若干の誤差が出る。そこで自分のカゴビシが海面から何mの位置に来たかを正確に把握するには、PEラインに着いた色と目印(10mごとに色が変わり、1mごとにマーキングがされている)で判断するのが基本なのだが(それにはミチイトの先のスナップも正確にPEラインの色の変わり目に付いていることが必要)、もうひとつ、実践的な方法として、当日にカウンターの数値が実際の水深とどれくらいずれるかをあらかじめ把握しておくとよい。「慣れた人ばかりであればこのタナ合わせは必要ありませんが、今日は初めての人もいるので、釣り場に着く前にまず一度タナ合わせをしてもらいます」と船長。
水深50m地点に着き、「はい、ここでタナを確認してみてください」というアナウンスが流れた。阪本さんがオモリ(+カゴビシ)の着底した瞬間の数値を確認すると、水深よりプラス2mの「52」と表示されていた。つまり、この日はこれくらいのズレが出ると頭に入れておけば、後の釣りがより正確にできるというわけだ。
他の乗船者が「釣れてしまった」アマダイ。味もよく人気のターゲットだが、コマセマダイ釣りではカゴビシが下がり過ぎている証拠なので注意

置きザオでじっくりねらう

この日は2月下旬。一年の中では最も水温が低い季節である。マダイ釣りではサクラの花が咲く頃に浅場で色鮮やかな通称“サクラダイ”がねらえる春の乗っ込みシーズンと、夏場の高水温が徐々に下がり、マダイの群れが深場にかたまりだして、越冬前にエサを荒喰いする晩秋の2シーズンが好期といわれるが、春まだ浅いこの時期は大ものねらいのチャンス。数の代わりに釣れればサイズが期待でき、ベテランもこの時期に自己記録更新を期待する人が多いため、皆さん熱心に通っているのだ。
コマセマダイの釣りはサオの性能も重要。船の揺れを吸収し、かつ適度な誘いも行なってくれるものはチャンスが大きい
「今日はだいたい底から10~12mの深さで指示ダナをアナウンスしています。ポイント自体の水深は60~70mですね。仕掛けは8~9mで統一してもらっていますから、ハリが一番下に来た時で底から1~2mを漂うイメージ。マダイの活性が高く、もっと宙層まで捕食に上がってきそうだと判断すれば、指示ダナはもちろん上げますよ」と船長。
とはいえ、当日は潮が澄み、海水温も前日から1℃下がって15℃というコンディション。朝から何度か仕掛けを下ろすが船中に反応はない。手を替え品を替えのどちらかといえば“せわしい釣り”が好きという阪本さん。「待つのって苦手なんですよね~。誘ってみようかなぁ(笑)」と思案しつつ、しばらくは船の動きとサオの柔軟性を活かし、じっくり置きザオでねらうことに集中した。ロッドはマダイ専用のアルシエラマダイ20-250。オモリ負荷20~100号で、シリーズ中最も柔軟に設計されたモデル。この季節の神経質になったマダイにも違和感を与えずエサを喰わせられる。
投入~シャクリ
この釣りに挑戦して戸惑うのが長いハリスの処理。基本としてカゴビシは仕掛けを船に上げている間は常にオケの中に置き、ハリスはなるべくからまないようにして足もとに置く。投入の際はリールのクラッチをまず切り、片手でテンビンのアームを持ったら、さらに反対の手でハリ付近のハリスを持つ
カゴビシから先に海に投入。ハリスが送り出されていったら、船べりにハリが引っ掛からないようにフォローしながら(写真)、最後にハリを船の外に向けて放す。タイミングが遅れて手にハリが刺さらないように注意しよう
指示ダナ+仕掛け分の深さまでカゴビシが到達したら投入を止め、仕掛けが馴染んだ頃合いを見計らってシャクリに移る
仕掛けの落下中はスプールに指を添えてフォロー
シャクリはロッドエンドをしっかり脇に挟み、利き手をロッドの裏側に添えるとスムーズにできる
●リールのドラグは必ず調整
リールはスプール近くのラインを手で持って強く引いたときにジリジリと出るくらいに調整する。タイは口が硬いのでドラグが緩すぎるとハリの刺さりが甘くなってバレにつながり、きつ過ぎると大型が掛かったときにラインブレイクする。
●待ち時間は6分を目安に
置きザオでアタリが出ない場合、仕掛けの回収は6分待ってみてからを1つの目安にしてみよう。その際は、6分待って仕掛けを引き上げたときに、カゴの中にわずかにコマセが残っているくらいにカゴビシの窓の開けぐあいやシャクリも調整できているとよい。

寄せエサはパラパラと少量を利かせる

寄せエサはパラパラと少量が出ているような状態がよい。カゴビシの窓は開けすぎず、「極端な話、隣の人のコマセで釣るくらいでよい時もありますよ」とは、同船したベテランさんの言葉だ。
右舷ミヨシで静かにチャンスをうかがう阪本さん。と、まず1尾目の本命をヒットさせたのは左舷大艫のベテランさんだ。しかし、その後は1時間以上、他の魚も出ず再びスローな時間が続く。
すると午前9時20分、マダイファンがとりこになるガンガンとサオ先を一気に絞り込むアタリ。「来ましたよ~。これはタイかな~!」と阪本さんの明るい声が響く。落ち着いてサオ掛けからロッドを外し、リールを手で巻いて、しっかり重みが乗ったところで電動の巻き上げに切り替えた。すさまじさはないが、ガガン、ググンとよく走る引きは本命の予感。弧を描くロッドのシルエットが美しい。
海面に見えたカゴビシを取り込み、サオ掛けにロッドを戻して、慎重にハリスをたぐっていく。無事タモに収まったのは、なんと良型のハナダイだ。「マダイじゃないのはちょっと悔しいなぁ~」という阪本さんだが、大きさもあり充分に価値ある一尾だ。
ロッドを絞り込んだのは良型のハナダイ
取り込みは無理せずタモのアシストを受けよう
この日は、終わってみれば船中で上がった“タイ”がこのハナダイを含む3尾のみという結果だった。そして最後のもう一尾は、左舷胴の間にいたベテランさんが、正午を過ぎてようやく「誘い下げ」で仕留めた良型マダイだった。ちなみにしっかり指示ダナを守って釣り続けた阪本さんは、昼前後に訪れた大アジのチャンスもしっかりゲットした。
庄三郎丸常連で地元の柏木さんが「誘い下げ」で仕留めた良型。こんな一尾が釣れればいうことなしだ
●アワセはサオが引き込まれてから
マダイの引きはいわゆる「三段引き」。サオ先を一気に絞り込んで訪れる。そこであわてず、サオをとったらサオ尻を腹に当て、ロッドを斜め45度以上に立ててファイトをスタートする。
●「誘い下げ」の実践法
コマセマダイ釣りでよく行なわれるのが「誘い下げ」のテクニック。上から下に落ちるものによく反応するマダイの習性を利用したもので、エサを自然に漂わせて反応がない場合にカゴビシの位置を下げてその先のエサも下方向に誘導する。やり方はいくつかあり、1.「手でスプールからイトを引き出してはは少しずつ送る」2.「ロッドホルダーからサオ尻を外し、サオ先を下に向けることでカゴビシの位置を下げる」などが代表的。誘い下げといってもエサをストンとフォールさせるわけではなく(ハリスが長いことからもそうはならない)、むしろ自然に漂わせる延長上でじんわりと下方向に誘導してやるイメージだ。
コマセマダイの釣りは、繊細ながら時に大胆にもなる気難しい相手と向き合い、静かに駒を動かして間合いを詰めていくチェスのような釣り。シンプルながら8mという長いハリスの先に付いたハリまで、いかに相手を誘導しきるかという駆け引きはやり込むほどに奥が深い。コマセマダイ釣りは秋も数がねらえる好期。今シーズンは未体験の人も、その扉を叩いてみてはいかがだろう?
この日、マダイのほかにチャンスがあったのは根周りを回遊する大アジ。こちらも指示ダナをしっかり守れていると釣果が出る