阪本智子の船釣り探見!

阪本智子の船釣り探見!
マダイ:体色は紫褐色を帯びたピンク色で、側面に瑠璃色の小さな斑点がある。尾ビレの縁が黒く、この点で近縁のチダイやキダイと見分けが可能。エサは甲殻類、小魚、貝、頭足類などさまざま。丈夫は歯でエビやカニの硬い殻も噛み砕いて食べる

外房・大原沖の一つテンヤマダイ釣り

目次
  • 1:シンプルなタックルで魚と駆け引き
  • 2:エビエサの使い方
  • 3:朝一番はチャンスタイム
  • 4:基本は底付近をしっかり釣ること
  • 5:本命もゲット。大原沖の魚の多さも満喫

シンプルなタックルで魚と駆け引き

9月上旬、阪本さんがやってきたのは外房大原港の「あままさ丸」。大原は今回のテーマである、一つテンヤマダイ釣り発祥の地だ。テンヤとは3~10号ほどのオモリ(もっと軽いもの、重いものもある)と、大きな親バリ、ハリスの付いた孫バリが一体となったパーツのこと。元々は型に流し込んだ台座状の鉛が付いたものをテンヤ、その鉛をさらにハンマーで叩いて沈みを速くするなどの成形を施したものをカブラと呼ぶといった違いがあったが、現在は厳密に分けられていない場合もある。
大原では元々、紀州から伝えられたマダイねらいの〝ビシマ釣り〟(ナイロンイトに複数の鉛オモリを付けた仕掛けでねらうマダイ釣り)が行なわれていた。大原沖から灯台のある太東崎沖にかけての沿岸一帯はマダイの好漁場。そうした伝統がある中で、エサ釣りでありながらルアーフィッシングのようなゲーム性の高さもある一つテンヤの釣りが編み出されていった。
いずれにしても、一つテンヤの釣りがこれほど人気を得たのは、感度のよいライトタックルでマダイという不動の人気ターゲットをねらうことができ、ひとたび魚が掛かれば細いPEラインとリーダーの先端にテンヤだけというシンプルな仕掛けで、魚の引きをダイレクトに味わえる痛快さがあるから。そして秋の大原沖では水深10~20mの比較的浅いポイントでマダイの喰いが活発になり、この釣りの入門にも最適な時期がやってくる。
サオは一つテンヤマダイのエントリーモデルで、取り回しがよく軽快な釣りをサポートする「炎月一つテンヤマダイSS240MH」を使用。リールも軽量かつ堅牢な「ストラディックC3000」。バランスの取れたタックルはアタリも多く拾えて釣りがいっそう楽しくなる。ラインはPE1号を使用
テンヤは「炎月一つテンヤⅡ」。この日は6 ~ 10号の出番が多かった。収納は複数のテンヤの親バリと孫バリがケースの中で絡まないよう、専用のケース(「炎月一つテンヤ・カブラケース」)を使うとよい

エビエサの使い方

一つテンヤにはエビエサをセットする。通常は船上で配られるが冷凍のためそのままでは使えない。出港前に解凍の準備をしておくとポイントに到着したときスムーズに釣りを始められる。
エビエサの解凍
エサのエビは船上で配られる。これを解凍して1尾ずつ使う
受け取ったエビはビニール袋を切ってまず中に水を入れる
その後、トレイにひたひた程度の量を残して余分な水を捨てたら、トレイをビニール袋から出して手もとに置く。しばらくしてエビが完全に解凍できたら、トレイの水は捨てる
一つテンヤへのセット方法
エビはハリにまっすぐな状態でセットする。ここでは入門者でもやりやすく、実績も充分なおすすめの方法を紹介。なお、すべての工程で、ハリは左右にずれず、エビの中心線を通るようにする
最初にエビの尻尾(末端部)をちぎる
まず孫バリをセット。頭近くの尾の身の真ん中にハリを刺し入れたら、そのままハリ先を頭の付け根で抜く
次に親バリを尾の身に刺す。最初にハリ先をちぎった尾の末端の上近くの中心部に刺す
そのままハリ先がなるべく尾の身の殻近くを通るようにしながら親バリを刺し入れる
ハリのカーブに沿って尾の身が丸まったところでストップしたら……
ハリ先を腹側に抜き、このようにエビがハリに対してまっすぐに付けばセット完了
エビエサにはいろいろな付け方がある。孫バリに付いたハリスが長い時は、このように孫バリを背中側に掛けてもよい

朝一番はチャンスタイム

「今日は風が強いのでちょっと大変そうですね。でも一尾でいいから本命のマダイを釣りたいです。マダイの引きはいつもドキドキします」と阪本さん。他にはどちらも県内からという男性のお客さんが2名。
全員の準備ができた午前4時30分に出港。マダイ釣りは夜明けの朝一番がチャンスタイムだ。釣り座に荷物を下ろした阪本さんは、船が動き出す前にサオを継ぎ、リールをセットして、ガイドにイトを通してからスナップスイベルを取り付けるところまで作業した。さらにエビの解凍準備までを終えてからキャビンへ移動。ここまでしておけば、最初のポイントに到着したところでスムーズに釣りを開始できる。ちなみに人によってはテンヤまでセットしてリールのスプールやガイドのフット部分にハリを掛けておく場合もあるが、その時はハリをサオのガイドリングには引っかけないこと。ガイドリングを傷付けてしまうと、細いPEラインが高切れを起こす原因になる。
港を出た船のエンジン音が高くなって20分ほど。やや沖合に出たところでスローダウンした。一つテンヤの釣りでは、ポイントが決まったところで船長が風上に船を向け、船の前にパラシュートアンカーを下ろして安定したところで「どうぞ。水深15mです」といったアナウンスが流れる。この日は前夜まで船が出る頃には雨が上がる予報だったのだが、カッパが必要なくらいの小さな雨粒が顔を叩く。なかなかのタフコンディションだが、午前中のうちに雨雲が抜けるという予報を信じて集中力を高めた。
使用するテンヤの号数は船長やスタッフにこまめに相談するとよい
エンジンが切られた船が、ゆっくりとポイントの上を通過し始める。水深は13m。阪本さんは船長に確認し8号のテンヤをセットした。そして第一投。まだうす暗い空を映して多少のウネリもある海面下に、スルスルとテンヤが落下していく。
すると早くも数投目。右舷ミヨシの阪本さんにファーストヒットが来た。一定のテンションでリールを巻き続ける間、定期的に穂先がガガガンと叩かれる。「マダイっぽいですよ」と天野船長とスタッフの松嵜さん。だが、惜しくもこの一尾は中層まで来たところでバレてしまった。

基本は底付近をしっかり釣ること

この日の潮回りは小潮。だが、「船は適度に流れるし、潮もいい感じで動いていますね」と船長。
一つテンヤの基本的な釣り方は、まず船長にアドバイスを受けて、使用するテンヤの号数を決める。可能な範囲で軽めのほうが喰いはよいとされるが、着底を感じられないと釣りが成立しないので、仕掛けを入れても「トン」と底に着く感触が分からなければ、無理せずに1つずつ使用号数を上げて行く。リールから出て行くPEラインの色を見て、船長が教えてくれる水深分のイトが充分に出ているはずなのに、いつまでもラインが出続ける時は、テンヤが軽すぎて流されているということになる。
必要に応じてテンヤの重さを感じ、底を取れることがアタリを出すコツになる
この日、船中最初のマダイを立て続けにヒットさせたのは、右舷トモで乗船者のサポートをしながら、時折りサオをだしてようすをさぐっていた松嵜さん。「底から50cmですね。着底から少しだけテンヤを上げてやる最中にアタリが来ますから、そこで少し喰い込みを待って合わせてください」という。マダイだけでなく、他の魚も今日はこのパターンで反応してくるという。「松嵜さんすごいですね! やっぱりテンヤは軽いほうがいいのかな?」と阪本さん。
乗船者へのアドバイスを請け負う松嵜さん
この点については、「底は取れるうえでテンヤは軽めを選び、フワフワと漂わせられるイメージで釣ったほうがアタリが出る時もあります。今日もたしかにそのパターンですね。でも、日によっては少し重めのテンヤを選んでしっかりステイさせる感じにするほうがいい時もあります。そうした状況判断ができるようになってくるとさらに釣れますよ」と松嵜さん。
基本的なタナは底付近。イトから伝わって来るテンションに常に気を配る
ちなみに一つテンヤの釣りでは、何か違和感(=アタリの可能性)があったら即アワセというのもセオリーとされるが、「実際には小さなアタリだと魚の口がまだハリまで行っていないことも多いので、慌てて合わせてもなかなか乗りません。それよりも一呼吸おくつもりで、次の本アタリを待ってから合わせることが大切」と船長も松嵜さんも口をそろえる。そして、「その時にイトを緩めすぎないこと。あくまで一定のテンションは保つようにして、少しサオ先を送り込むなどして喰い込ませてください」という。
すると阪本さんにまたアタリ。海面まで浮かせ、タモ入れのサポートを受けて無事取り込んだのはカンパチの若魚であるショゴだ。やや大きめの40cmクラス。「赤色じゃなくて青色ですけど、アタリが取れるとやっぱり楽しい!」。魚の手応えが得られればモチベーションもアップする。次の一尾をねらってすぐに仕掛けを入れ直した。
この日のファーストヒットは元気なダッシュを見せたショゴ(カンパチの若魚)
外房の一つテンヤ釣りでは常連ゲストのウマヅラハギ(ゲンパ)。鋭い口でエサを取られるのは厄介だが、ゲンパが釣れれば釣りの基本は出来ている証拠。身が大きくカワハギ同様に美味しく食べられる

本命もゲット。大原沖の魚の多さも満喫

阪本さんの一尾に続くように、船全体でいろいろな魚が釣れ始める。水深も15m前後のポイントが続くので、テンヤの着底は分かりやすく、潮の流れが早い時でも対応がしやすい。船全体でヒラメ、カサゴ、マハタ、カンダイ、ガンゾウビラメ、ウマヅラハギ、尺カワハギ、ショウサイフグなど実にいろいろな魚が顔を見せるようになった。一つテンヤの釣りといえば本命はマダイだが、大原沖は魚種が豊富で美味しい魚も多いから、入門者であればなお楽しい。
小さなアタリがあったら、あわてて合わせず、次の本アタリを待つのが船長おすすめの方法。アドバイスどおりにしてみたところで、阪本さんも会心のヒット!
そして、阪本さんがついにマダイをヒット! 風も強く澄み潮で「やっぱりタフコンディションでしたね(笑)」と船長がねぎらってくれる中での貴重な1尾。「これで本当にホッとしましたけれど、まだまだ釣りますよ~」と阪本さん。気が付けば、沖上がりとなる午前11時までみっちり釣りを楽しんだ。大原の一つテンヤマダイはこれからがベストシーズン。早朝の釣りが苦手な人は午後船も出ているので、ぜひチャレンジしてみてほしい。
浅いポイントでアタリが多くなってくる秋は一つテンヤの好適期