阪本智子の船釣り探見!

阪本智子の船釣り探見!
カワハギ:北海道以南の全国沿岸に生息。最大で30cmほどに成長する。ヒレを器用に動かし、水中で静止しながら捕食できるため、釣り人が気づかないうちにエサをとられることも多く、エサ取り名人の異名を持つ。さばきやすく、食べて美味しいのも特徴。

東京湾・久比里出船のカワハギ釣り

目次
  • 1:美味しい好敵手
  • 2:竹岡沖で釣り開始
  • 3:ポイント移動。惜しいバラシ
  • 4:仕掛けはシンプル。ソフトな誘いが阪本さん流

美味しい好敵手

10月下旬、阪本さんが訪れたのは横須賀久比里の山下丸。アサリを使ったカワハギ釣り発祥の地である神奈川でも、昔からカワハギ専門の遊漁船を出している老舗だ。1年を通じて楽しめるカワハギ釣りだが、人気が高まるのは秋から初冬。秋からはキモが大きくなって群れもかたまり、食味が増してくる。
多くの釣り人を夢中にさせるカワハギ
カワハギは独特の体型で海中を前後左右上下と自在に動き回る。つまり仕掛けの動きに合わせて、移動しながら捕食する。そこにエサの食べ方が拍車を掛ける。カワハギは、エサを「味蕾」と呼ばれる、味を判別する器官のある唇で確かめた後、吸っては齧るようにする。
そうしたことから、「エサ泥棒」「海のマジシャン」といった異名を持つ。カワハギ釣りの〝キモ〟は、いかにアタリを出して、向こうアワセに持ち込めるかにあるといえるだろう。そんなゲーム性の高さから、年々進化し続けているのもこの釣りなのだ。
釣行当日は休日とあって満員御礼。カワハギ船は仕立てを含めて3船も出た
昔ながらに自分でアサリを剥く熱心なファン
エサ泥棒のカワハギを釣る最初の基本がていねいなエサ付け
アサリは市販のアミノ酸系粉末で締め、集魚力と扱いやすさをアップ
アサリは小さくまとめる
アサリの水管部分とハリを向かい合わせる(阪本さんは左利き)
まず水管にハリを通す
次にベロを寄せて刺す
全体を丸めるように寄せ
ハリ先をワタに刺し小さくまとめられれば完成

竹岡沖で釣り開始

出船は7時30分。久里浜湾に出るまでは川の中を走る。橋を3度くぐるので、ロッドは寝かせておかないとぶつかって折れるので注意しよう。頭もスレスレなので、低い位置に座る。久里浜湾に出ると、船はスパンカー等を立てるので一度停止する。仕掛けはその時にセットするとよい。
山下丸のカワハギポイントは、主に神奈川県側の剣崎沖周辺と久里浜沖、千葉県側の竹岡沖だ。今回は直近の釣果状況から、竹岡沖に向かった。一時的な西高東低の気圧配置で北風が強く吹いており、晴れているのに寒い。ところが海水温はまだ高く、カワハギの群れがまとまらず、ちょっとやっかいな状況となった。
青空の下、テクニカルな相手に熱中するのは至福の時間
最初の流しは水深24~25mのポイントを試す。しかし、やはりまだ深場にカワハギが落ちてきていないらしく、2回目から水深が少しずつ浅くなっていった。
ポイントの形状や変化を瞬時に把握できる「探見丸」はカワハギ釣りの大きな味方だ
この日、阪本さんの同船右舷には、偶然にもシマノの船インストラクターをしている鈴木孝さんが乗船していた。鈴木さんは、独特のスナイパー釣法で有名だが、ここのところカワハギの喰いは渋めとのこと。それでも、船中最初のカワハギをゲットしたのはさすがだった。阪本さんは、「アタリはあるんですが、なかなか乗りません。難しいな~」とようすをうかがう。
独特のスナイパー釣法で知られる鈴木孝さんが船中ファーストヒット
ポイントはその後も浅くなっていき、6回目では13.5mまで上がってきた。すると阪本さんに最初のヒット。しかし他魚のサバフグだ。「残念ですけど、サバフグはハリスやPEラインまで切ってしまうので、傷がないかしっかり確認します!」と気を取り直す。

ポイント移動。惜しいバラシ

浅場でも釣果が伸びないので、7回目以降は、竹岡沖でも東京湾の中央に近い、大型船の航路ブイ付近の水深33mをねらうことになった。このポイントは他魚が多いそうだが、カワハギの型もよいそう。
すると移動して間もなく、阪本さんに待望の1尾目がヒットした! 先ほどのサバフグとは引きが全く違う。カンカンと金属的に穂先を引っ張るのは、まず間違いなくカワハギだ。無事に取り込み「やっと一尾目ですね。うれしい!」と安堵の笑みがこぼれる。するとアタリから乗りまでのパターンを見つけた阪本さん、すぐに2尾目を掛けた。
ポイント移動のあと「ようやく来ました!」と待望のヒット
引きがとても強く、大型のカワハギと思われる。ところが、もう間もなくリーダーというところまで来て、惜しくもバレてしまった。仕掛けを見てみると、ハリスがハリの根本からちぎられている。そこでハリを7号から7.5号にチェンジした。
すると、再び大型カワハギがヒット! ところが、今度は取り込み直前に、大型船の引き波の大揺れでバレてしまった。そしてなんと、その次もヒットすると、最後はハリが伸びてバレたのである。「こんなことって……あるんですね。口惜しすぎるなぁ~」と思わず嘆息。そんなこんなで、大型カワハギであろうと思われるヒットを、取り込み直前で実に5回も逃してしまう。20cm超えのカワハギは普通に取り込んでいるのだから、いずれも相当な大型だったろう。
強い手応えとやり取りのあと、不運にも大波を受けた時は思わず天を仰いだ

仕掛けはシンプル。ソフトな誘いが阪本さん流

阪本さんが愛用するカワハギタックルは、サオが「ステファーノSS」のM180もしくはMH180。この日はMH180をチョイスした。リールは「ステファーノSS100HG」で、ラインはPE1号150m+フロロリーダー3号1.5mである。仕掛けは「ステファーノ 幹糸仕掛けアピール」。ハリは「ステファーノ カワハギ糸付鈎吸わせ ハリスノーマル6cm」の7号、7.5号を使った。オモリは25号だ。仕掛け自体にビーズが付いていて集魚効果があるので、阪本さんは集寄を使っていない。とてもシンプルな仕掛け構成である。ちなみに、「他魚が多い時は、仕掛けの間にガン玉を打って、仕掛けの動きを変化させて他魚が喰いにくくしています」とのこと。
感度と操作性の高いロッドはカワハギ釣りの楽しさを倍増してくる。この日は「ステファーノSS MH180」をチョイス
集寄ビーズが仕掛けに組み込まれた「ステファーノ 幹糸仕掛けアピール」
ハリは渋い状況に合わせて吸わせ系をチョイス
カワハギ釣りはまめなハリ交換が釣果を伸ばす。カワハギ釣りの競技会「ステファーノグランプリ」の参加者がもらえるオリジナルマグネットは阪本さんのお気に入り
阪本さんの誘い方は、潮の流れが速い時はオモリを浮かせぎみにし、潮の流れが緩く、イトが立つ時はオモリを底に着けた状態で、穂先を揺らす程度に細かく動かして誘い、止める間のストップモーションを作って、カワハギにエサを吸い込みやすくさせるのを基本にしているそう。とても研究熱心だ。
阪本さんの誘いの動きは驚くほど小さい。腕の位置はほとんど動かず、その分、わずかな変化を捉えることに集中している
穂先の揺らし方は本当にソフトで、本人いわく「周りの人には、本当に仕掛けが動いているの?って思われるくらいなんですよ」。アタリがあったら誘いをストップし、少し待ってから聞きアワセをする。その聞きアワセの仕方も相当ゆっくりで、ソフトにサオを持ち上げてくるイメージである。
聞きアワセでカワハギが乗ったら、一気にリールを巻き始める。リールを巻いている時にサオを下に向けすぎるとカワハギがバレやすいので、サオの反発力が保たれるくらいの位置で巻き続けるそうだ。この日は潮が速めなので、底から50cmくらいオモリを浮かせて誘っているという。
「もちろん、これだけが正解なんてことはないと思います。でも、試行錯誤するうちに、自分なりにこれで行こうという基本のパターンが出来てからは、カワハギ釣りがますます楽しくなりました。今ももちろんそうですよ」
思わぬバラシもあったが、アタリも着実にとらえていく。経験を重ねるほど面白くなるのがこの釣りだ
釣った魚を美味しく食べるのも大好きな阪本さん。この日も釣れたカワハギはすぐにツノを切り落とし、エラの中にもハサミを入れて、血管を切ったら海水を張ったバケツに入れて血抜き。その後はすぐにクーラーボックスに入れた。このひと手間をするだけで、「持ち帰ったカワハギが、とても美味しく食べられます(笑)」と楽しそうだ。終わってみれば、かなり厳しい状況の中でも6尾の釣果をあげた。バラシの5尾がなければツ抜けしていたほどアタリはとらえていた。ちなみにサオ頭は、15尾を釣った鈴木孝さんだった。
竹岡沖のカワハギは「味もいいですよ」と船長も太鼓判を押す
「夏から秋への入れ替わりの時期にしては、水温が高くてまだカワハギがバラバラに散っている状態でしたね。これから12月に向かって、水温も落ちてくると群れが固まり、深みに落ちてくれば釣果もグッと上がってきます。今日流した竹岡沖のカワハギは味もとてもよく、状況が上向けば最低でも20尾くらいは釣れるようになります」と坂本司郎船長。
季節が冬に近づくにつれて、食味も釣り心地もグッとアップするカワハギ。美味しい船釣りを楽しみに、ぜひ出掛けてほしい。
「船釣りの中でも、カワハギのゲーム性の高さはやっぱり格別です」と納得の一尾
男女を問わずファンが多いのもカワハギの特徴。釣り味、食味、奥の深さの3拍子がそろっている