2026/04/06
コラム
【名手の推し竿】伊藤さとし、「天舞」&「色華」と遊ぶ
天舞&色華「で」…ではなく、「と」。伊藤さとしは氏は、あえてそんな表現を選びました。
「ちょっとキザに聞こえるかもしれないけど、今日は竿に遊んでもらうような、そんな釣りね」
そんな伊藤氏が選んだ釣り場は、静岡県御殿場市、富士の裾野にひっそりと佇む箱庭的管理釣り場、柳池。
心豊かな「やさしいへら鮒釣り」を提唱し続ける伊藤氏が、心ゆくまで柳池のやさしい釣りを堪能する…。
大好きな釣り場で
まだ防寒着やストーブが必要なほどの冷え込みの中、まず伊藤氏は「冬」を意識した段差の底釣りで「天舞」を曲げ始めました。
「柳池、大好きな釣り場なんだよね〜。僕も日本全国色々な釣り場に行ったけど、この箱庭的な雰囲気は唯一無二。最高に素晴らしいよね。釣れるといいね。今朝はけっこう冷えちゃったから、とりあえず段底から入ってみようかなって思ってます」
3月上旬。「真冬」を感じさせる冷気に包まれながら、伊藤さとし氏は真新しいブルーチャコールのへらバッグをカートにセットし、ライフジャケットを着け、最近のお気に入りという中央桟橋へと歩みを進めていきます。まさに箱庭のような、庭園のような池のロケーションは素晴らしく、奥には可愛いピンクの河津桜が満開です。
先釣者の常連さんたちに挨拶をしながら、桟橋中央付近にバッグを置いた伊藤氏。暖かければ朝から宙釣りをやるつもりだったといいますが、急遽の冷え込みに、「まずは段底で」と作戦を切り替えていました。
◯竿 【天舞】10
◯タナ 水深約2m 下バリ2cmズラシ
◯道糸 0.6号
◯ハリス 上0・4号 下0・3号 6―40cm
◯ハリ 上7号 下1号
◯ウキ satto F【シルバーPC】(PCムクT13cm 二枚合わせ羽根B7cm カーボン足6cm エサ落ち目盛は全9目盛中、宙の状態で3目盛沈め)
◯バラケ
ダンゴの底釣り夏 25cc
粒戦細粒 50cc
段底 100cc
水 100cc
5分放置して…
BBフラッシュ 100cc
◯クワセ
力玉ハード(S)
この冬は桟橋での段底で釣れていたという柳池。池で繁殖したミニべらの中に、8寸から尺前後の綺麗なへら鮒が交じってくるといいます。
「こういう小さな魚を嫌がる人もいるけど、僕は大歓迎。いや、こういう魚たちがいるから真冬でもウキが動いてくれるんだから、感謝ですよ」
朝の気温は3℃。遠くに見える富士山の頭も、まだまだ雪景色…。しかし綺麗に手入れされた芝生にはほのかにグリーンも混じり始め、何よりピンク色の河津桜が「春到来」を静かに告げていました。
「日中、日が差せばずいぶん暖かくなると思うよ。それまでの我慢。ちょうどそのくらいにへらも釣れ始まるんじゃないかな」
丁寧に小さく付けられたバラケを送り込んでいく伊藤氏。その右手には、これまた「大のお気に入り」という融合竿、「天舞」がやさしく握られていました。
「この竿は最高だよ。まだ釣ってないけど、こうして竿掛けに置いて、エサを打っているだけでも楽しいもん(笑)。この感触は唯一無二で、あえて言わせていただくなら、竹竿や合成竿ともまた違った感触。『天舞』だけにしか出せない重厚で、かつどこかやさしい振り味。今日の柳池のキャラとも合っているし、こうしてロッドケースに忍ばせておいて、ちょくちょくその引き味を楽しんでいるんですよ」
ウキはすぐに動き出し、元気なアタリでまずは5cmくらいのミニべらが釣れ始まります。思わずボウルに水を張って、しばし手元に置いておきたくなる可愛い魚です。
「うん、もうすぐ来るよ」
そのミニべらを8枚ほど釣った、開始から30分ほど経過したあたりで、伊藤氏が呟きます。賑やかなミニべらのサワリがフッと消えたというのです。
これが「へら」が寄ってきたサイン。
「こういうのもまた野釣りっぽくて面白いんですよ、柳池は」
1、2、3…で、バラケが割れ落ちるように抜けます。
クワセだけになり、そこからジワっとエサ落ち目盛の下の黄色が浮上します。
“チクッ!”
小さいが、段底ならではの鋭いアタリが。
段差の底釣りといえば、伊藤氏の十八番。見逃すはずもありません。
“シュッ!”
伊藤氏らしいやさしいアワセに、ミニべらとは違う引き味が竿に伝わります。
“コンッ、コンッ、コンッ”
「これこれ、この感触なんだよなぁ」
伊藤氏はうっとりするような表情で、曲がる竿を見上げながら呟きます。
頭上に広がり始めた青空を舞うような、美しいカーブ――――――。
「うん、いいへら。そんなに大きくはないかもしれないけど、こういうのでいいんですよ」
浮上したのは9寸級の綺麗な、体高のある美しいへら鮒でした。
山彦工房とシマノが強力なタッグを組み、竹とカーボンの「奇跡の融合竿」として誕生した「天舞」も、その登場から早17年。堅牢さが要求されるコミ部分はカーボン、その間の胴部分は竹…というオリジナルの設計で、今なお多くのへら師に愛され続けています。その感触はまさに竹竿そのもの…いや、「天舞そのもの」といった風情で、唯一無二の重厚かつやさしい世界観を表現。振り込みから取り込み、そして手にしただけで満足感に包まれる所有感…と、唯一無二の存在感を放ち続けています
気温上昇、「色華」で宙
純カーボンロッドとしてはシマノ「味わい部門」の最高峰に位置する「特作 色華」。「特作 一天」、「特作 伊吹」…と名竿が紡いだしなやかな軟調子の世界をさらに推し進め、そこに独特な「すっきり感」を加えたのが「色華」最大の特徴です。この『色華』も『天舞』とはまた違った意味で、唯一無二の竿。頭がかぶるような軟調子の感覚とは一線を画し、現代的な軽やかさとフワリとした「すっきり感」を際立たせた竿に仕上がっています。とにかくその上品な軟らかさは絶品の一言で、伊藤氏の言う「とにかくへらを掛けたくなる竿」…という表現が一番しっくりくるでしょう。
段底で本命のアタリがなくなった後、「色華」の宙に切り替えた伊藤氏。その狙いは的中し、ほどなくしていいアタリで釣れ始まりました。やはり春を感じたへらは「上」にいたのです。
段底でポツリ、ポツリ…。それもまた、「柳池」と「天舞」に似合う、とてもいい雰囲気の釣りだと思えました。
「いい感じだよね。バンバン釣れるわけじゃないし、型も大きいわけではないけれど、今、こういう釣りってありそうでないじゃない? だからまた柳池に来たくなっちゃうんだよね。池雰囲気とも合っているじゃない?」
「いかにも段底」といった「返して、待って、また返してチクッ!」で気持ちよさそうに「天舞」を曲げていく伊藤氏。その表情は真剣かつ穏やかです。
“いいよね、こういう釣りも――――”
思わずそう呟いてしまいたくなるような、穏やかな朝の時間が続きます。
やがて雲間から太陽が完全に顔を出すようになると、一気に気温が上がってきました。
「やっぱり太陽光線は偉大だね。いきなり暖かくなってきたよ」
明らかに体感も暖かくなり、「これから!」…といきたいところでしたが、伊藤氏のヒットは逆に止まってしまい、またミニべらばかりが連続するようになっていました。
「渋った…というよりは、暖かくなって魚が上がった感じだよね。底にいなくなった感じ」
「本命が近づいてきて、ミニべらが離れる一瞬」がなくなったという伊藤氏。
9時、ここで釣り方の変更に出ます。
◯竿 【特作 色華】11
◯タナ ウキ〜オモリ間1.2m
◯道糸 0.6号
◯ハリス 上0.4号 下 0.3号 6―37cm
◯ハリ 上6号 下3号
◯ウキ satto F【ピーチP】(パイプT8cm 二枚合わせ羽根B5.5cm カーボン足6cm エサ落ち目盛は全7目盛中、クワセを付けて3目盛出し)
◯バラケ
粒戦 100cc
BBフラッシュ 100cc
もじり 50cc
セットアップ 50cc
水 100cc
◯クワセ
力玉ハード(S)
浅いタナ…というよりは、水深(約2m)から考えると、やや深めの宙のセット釣りに変更、となります。その理由はもちろん、段底をやっていて、魚が底から離れた感触があったからです。
「うん、やっぱり上なんだね。もっと上でもいいくらいだなぁ」
つい何日か前までは段底でもなかなか本命のアタリをもらえないくらいの「真冬の釣り」だったという柳池。ここにきて一気に水中が春めいてきていたのでしょうか。
宙釣りに変えて3匹ほどミニべらを釣った後、明らかにウキの動きが変わり、「静かになってドン」と豪快なアタリが出ました。
「色華」がやさしく大らかな弧を描き、9寸の白銀べらが浮上します。
「いいへらだよね。健全なへらだ(笑)。そしてまた、この『色華』のフワっとしたやさしい引き味がたまらないよね」
改めて、見ていても「いい竿だなぁ」と思わず頬が緩んでしまうような、そんな光景――――――。
「天舞」もいい。「色華」もいい。なんという贅沢な釣りだろう…。
やさしく、楽しく
これまで全国各地で数えきれないほどのへらを釣り上げてきたであろう伊藤氏の楽しそうな表情が、全てを物語っていました。
気の置けない常連さんたちとの会話も楽しみながら、9寸級の綺麗な綺麗なへら鮒をコンスタントに掛けていく伊藤氏。タナをメーターまで浅くすると、さらにそのペースは上向いていきます。
「いやぁ楽しいね(笑)。そろそろ乗込みも始まるし、野の巨べら釣りも楽しいし、大型管理釣り場の繊細な釣りも楽しい。でもね、こういうへら鮒釣りもまた最高に楽しいんだよね…ってアレ⁉ 全部楽しいってことか(苦笑)」
相変わらずミニべらもいるためか、バラケはいわゆる「抜き」ではなく、しっかりとブラ下げていくのがいいとか。そこからジワリと抜けて、パっと静かになってからの「スパッ!」。ウキの動きを見ていると、大きなへら鮒が寄ってきてミニべらがエサの近くから遠ざかる様子が想像出来て、これがまた何とも面白いのです。
このミニべらの存在を伊藤氏はそれはそれとして「今の柳池ならでは」の釣りを楽しんでいました。
「釣りって面白いものでさ、ちょっと難しいくらいがまたいい。欲張りだよね」
2、3枚釣るとミニべらとなり、根気よく打っていくとあの「静かになる瞬間」がやってくきます。
「ほら、型も良くなってきたでしょ。これは新べらかな。本当に綺麗だよね」
完全にパターンを見抜いた伊藤氏。そうなるとリズムも良くなるのか、時間が経つにつれて型もアップしていきます。白銀に輝く尺級の新べらも交じります。
「この新べらを掛けるとまた、『色華』が最高に楽しいんだよね。右に左にと元気いっぱいに暴れまわる引きをやさしく吸収してくれているような、コットンのような調子。これがまた『天舞』とは違った味わいがあって気持ちいいんだよなぁ。すごくへらに対してやさしい調子なんだよね。
それにしても今朝はあんなに寒かったのに、水の中は確実に春へと近づいているんだよね。まさか宙でこんなに釣れるとは思わなかったよ。嬉しい誤算だったね」
この日の天気予報は下り坂。太陽が雲間から出たり隠れたりする中、伊藤は時間を忘れて柳池の釣りと、「色華」の引き味に酔いしれていました――――――。
「最高! へら鮒釣りはやっぱり最高に楽しいね!」
だいぶ寒くなってきた15時前、伊藤は納得の笑顔で、27枚の釣果で竿を仕舞いました。
“心やさしき名手”伊藤さとし。
その果てしなき旅路の中で、早春の柳池の釣りは、楽しくも穏やかな思い出として、またひとつ心に深く刻まれたに違いありません。
関連記事
RELATED COLUMN












































