最高のシチュエーション。
釣れるへらは全て40上の大型揃いで、じっくり釣って1日20枚。
ある意味、この上ない「贅沢な釣り」…。
今、まさにそんな釣りを存分に楽しめるのが精進湖・赤池エリアだ。
釣り人は、“湖上の粋人”中澤 岳。
浮島ロープ、浅ダナ&底釣り…。
お気に入りの竿で、最高のへらぶな釣りを堪能する。
2022/07/29
コラム
最高のシチュエーション。
釣れるへらは全て40上の大型揃いで、じっくり釣って1日20枚。
ある意味、この上ない「贅沢な釣り」…。
今、まさにそんな釣りを存分に楽しめるのが精進湖・赤池エリアだ。
釣り人は、“湖上の粋人”中澤 岳。
浮島ロープ、浅ダナ&底釣り…。
お気に入りの竿で、最高のへらぶな釣りを堪能する。
5月20日(金)、4時20分、精進湖畔「ニューあかいけ」に到着すると、続々と釣り人達の車が駐車場に滑り込んできた。
今、「びっくりするような超大型が釣れている」という精進湖・赤池エリア。さすがに釣り人達の情報は早い。
そんな中に、ひとりの紳士。
中澤 岳だ。
「今日は数はいい。たとえ数枚でもいいから、大きいへらをじっくりと狙いたいんだ。」
ニューあかいけ名物の巨大なモーニングトーストを頬張りながら、そう言って笑顔を見せた中澤。
気の知れたあかいけマスターが「タケちゃん、今日は釣ってよね!」と笑いながら送り出す。
何かいい日になりそうな予感…。
5時、全ての釣り人が出払った後で、中澤はゆっくり岸辺へと車を寄せる。そこには二代目の純一さんが待ち構えていて、「おはようございます! 来てくださってありがとうございます!」と元気に声を掛けてくれる。
「夜明けからあんなに美味しい朝食を食べられて、こんなに気持ちよく送り出してもらえて…。我々へら師は、これを当たり前と思っちゃいけないね。」
中澤はそんなことを話しながら1本オールでゆっくりとボートを滑らせた…。
今日のポイントは、舟着き場から至近の「浮島ロープ」。手前から3つ目のブイの横に手際よく舟付けすると、中澤はロッドケースから純白の竿を迷わず引き抜いた。
「風切」だ。
「なんとなく管理釣り場の浅ダナっていうイメージが先行してるけど、こういうヤマの浅ダナにも最高なんだ。今日はまず、釣れてるっていう浅ダナセットから入ってみるね。」
もしかしたら読者のみなさんの中には、こういった山上湖で浅ダナ、それもセット釣りをやることに抵抗を感じている方もいるかもしれない。
しかし、中澤に「それ」はない。
全て同じへらぶな釣り、全て同じ「攻め方のひとつ」なのだ。
● 竿 【風切】10.5
● タナ ウキ〜オモリ間1.8m
● ミチイト 1号
● ハリス 上0.5号 下0.4号 6―43cm
● ハリ 上7号 下4号
● ウキ
俊作【マーベラス】(パイプT12.5㎝ 羽根一本取りB7cm カーボン足6cm ※エサ落ち目盛は全9目盛中、クワセを付けて5目盛沈め)
● バラケ
水 ・・・ 150cc
粒戦 ・・・ 50cc
とろスイミー ・・・ 50cc
サナギパワー ・・・ 150cc
セットアップ ・・・ 150cc
● クワセ
力玉 大粒(さなぎ粉漬け)
第1投は5時40分。すると…。「いるね」と中澤が呟く。そしてわずか4投目――――――。
「きたよ!」
ここは本当に精進湖なのか…と言ったら、精進湖に失礼だろうか。
「凄いのきちゃったよ…」
水面に浮上した魚に、思わず息を飲む中澤と筆者。
巨べら―――!?
バラケが抜けた直後の鋭い消し込みに乗ったのは、まさかの40上。それも、まるで乗っ込み期のダム湖の浅場で釣れるかのような、驚くべき腹パンの野武士だった。
「これは本当に凄いな…」
タモに入った超重量級に、中澤がまた呟く。
アタリは続いた。
「もうエサを打つ前からそこにいた感じだよね。」
ウキの周りには、早くもへらの影がチラホラ見え始めていた。そして、それが全てデカいのだ。
中澤の対応は早かった。
まずはすかさずタナを1.5mまで浅く。
次に注目したのは、やはり下ハリスの長さだ。
43cmと長めから入っていた中澤だったが、40cm、35cm、30cm、27cm、そして確認の意味で20㎝…と矢継ぎ早に詰めていくと、「やっぱりここは野釣り。追い込み過ぎ(詰め過ぎ)は良くないね。カラツンも消えちゃう。適当にカラツンをもらい続けるような長さがいいんだね。まあこの型だしね」と、最終的には27cmに落ち着いた。中澤の感覚では「魚の気配のわりには長め」という感じらしいが、一般的に考えれば、このような湖では十分に「短め」と言っていいだろう。そして、いい意味で先入観がない、いかにも中澤らしい対応とも言える。
ウキこそやや大きめのままだが、バラケの使い方はまさに管理釣り場そのものの繊細さだ。
トップにかかるのはわずか1目盛という「抜き系」のエサ使いが冴え渡り、抜けた直後の「スパッ!」という消し込みに的を絞る。バラケを持たせ過ぎればアタリが遅く、アタってもカラなのだ。
そうは言っても、毎回このアタリが出て乗ってくるわけではない。
「1日やって10枚とか15枚っていうのも分かる気がするよね。でも、全部40上の凄い魚体だから、満足度はとてつもないよ。」
道糸、ハリスともに特別太くはないが、「風切」のしなやかさでラインブレイクは皆無。乗った瞬間の「キュキュキュッ!」という沖走りをいなすと、あとは大きな弧を描いてゆったりと大型とのやりとりを楽しむだけ。
「硬い竿ではないからやりとりに時間はかかるかもしれないけど、それがまたいいよね。こんなに気持ちのいい湖でお気に入りの竿を思いっきり曲げて、このへらだもん。最高だよ。」
最高のシチュエーション、最高の「型」に、中澤の対応もいつも以上に冴え渡り―――。
9時、気が付けばカウンターの数字は「10」を示していた。
「このまま釣り続けてもいいんだけど…。ちょっと変えてもいいかな?」
おそらく、浅ダナの釣りにはある程度の手応えを得たのだろう。そして、ムクムクと頭をもたげてきた「探究心」を抑えきれなくなっていたはずだ。
中澤 岳の釣行はいつだって、そうだ。
もちろん、筆者に「否」はない。
筆者が合図をすると、中澤はおもむろに竿を仕舞い、ボートを解き始めた。
「これだけ魚が上にいるってことは、浅場の底釣りも釣れそうな気がするんだよね。それも、とびきりデカいのが。」
そう言って中澤が漕ぎ進んだのは、同じ「浮島ロープ」の舟着き場寄り。1つ目のブイ横にボートを固定したのだ。
ここで中澤は、「湖での底釣りやチョウチンでよく出す、お気に入りの竿」という、鮮やかな朱色の竿を取り出した。
「朱紋峰 本式」―――。
「この竿、大好きなんだよね。『伊吹』だとちょい軟らか過ぎるかなぁという場面によく合う。元までグっと曲がり込んでくる感じが最高でね。デザインも好きなんだ。」
まるで釣りを始めたばかりの少年のような眼で「本式」11尺いっぱい、両ダンゴの底釣りを始める中澤。
しかし、「中澤少年」の思惑は見事にハズれる。
「何にもいないね。面白いもんだなぁ。モジリもあったんだけどね。」
1時間打って気配ゼロを確認すると、中澤は元の浅ダナをやっていた位置に戻り、今度は「本式」11尺でチョウチン両ダンゴを打つ。エサは最近お気に入りという「カクシン」単品使いで、粉800ccに水200cc。
しかし、これがまた不発!
「いいねぇ。やるなぁへら。そうこなくっちゃね。」
だいぶ時間をロスしたが、美味しいお弁当を持ってきてくれたあかいけマスターの「タケちゃん、ここなら16尺いっぱいの底釣りが面白いよ。」のアドバイスに、今度は「本式」16尺を出す。底釣りだ。
午後はこの16尺いっぱいの両ダンゴの底釣りが、渋く決まった。
エサは「芯華」単品で、粉85㏄に水50cc。ウキは俊作のボディ12㎝(パイプトップ)で、ハリスは50―60cmと、やや長めで好反応が出た。
「いいね。アタリ数は圧倒的に浅ダナだけど、この底釣りも面白いねぇ。アタる時はナジんだ直後で、まるでペレ底みたいなアタり方をするよ。」
上バリトントン。フワフワとナジみきった直後に「ドン!」と落とす重厚なアタリで、やってくるのは浅ダナに勝るとも劣らない40上の大型ばかり。型が型だけに数は望めないが、これもまた最高に面白い底釣りに違いない。
「いやぁ、満足。もう今日は最高に満足だよ。」
朱色の竿を豪快に元まで曲げ続けた中澤は、底釣りでも10枚の大型を手にして、最高の笑顔を見せたのである。
プロフィール
中澤 岳 (なかざわ たけし)
【アドバイザー】
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。
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