2020/09/04
コラム
「普天元 獅子吼」、降臨。【その3】西田 一知 in 西湖・桑留比
「獅子吼」、長竿の「使いやすさ」
ラストはこの人、西田 一知にビシっと締めていただこう。
西田といえば、もちろん「長竿」。日本屈指の山上湖である西湖で、快晴の下で「獅子吼」の長竿を思う存分振り回してもらおうと計画していたが…。
雨、雨、雨。
萩野孝之の椎の木湖取材の翌日、西湖にやってきた筆者と西田を迎えてくれたのは、豪雨に煙る西湖の湖面と、大増水によって乗込み態勢に入ってしまっていた藻場、「クワルビ」だった。
「これは凄いね(苦笑)」
思わず苦笑いする西田。それもそのはず。増水で猫の額ほどとなった「丸美」舟着き場の浜は「足元がへらだらけ」といった状態で、ここ連日の長雨により、すっかり乗込み態勢に入ってしまっていたのだ。
「魚がたくさんいるのは嬉しいけど、ここまで足元にへらが来ているとなると、実際の喰い気の方が心配だよね。ハタキも盛んだし」
5時過ぎ、土砂降りの中、ボートを漕ぎ出していく西田。ポイントは目の前に張られたクワルビロープで、その右端のブイに着舟する。
思わず7尺でも出したくなってしまうような状況だが、西田の狙いはやはり「深場」。ただし、この状況で超深場は厳しいと冷静に判断し、西田は沖向きではなく、岸を向く。沖向きは21尺以上の超長竿となるが、岸を向くと若干浅く、18尺で底が取れる。岸に向かって乗込んでいく前の、藻場に絡んだ「待機組」を狙うのだ。
●竿
シマノ【普天元 獅子吼】18尺
●ミチイト
1.0号
●ハリス
上下0.6号 42―50cm
●ハリ
上下5号
●ウキ
パイプT19cm 1本取り羽根B15.5cm 竹足5cm ※エサ落ち目盛は全11目盛中、宙の状態で3目盛を沈めた位置
●タナ
藻面の底釣り
●エサ
グルバラ 100cc
ダンゴの底釣り夏 100cc
ダンゴの底釣り冬 100cc
水 200cc
バラケマッハ 100cc
出舟時に一瞬ゆるんだ雨足も、ロープに着舟して準備を開始する頃にはもうこれ以上ないくらいの土砂降りに。しかし唯一の救いは風がほとんどないことで、パラソルを差せば釣りに支障はない。
「アタってくれるといいんだけどね。」
目前のキャンプ場の岸際で、水飛沫を上げてハタくへら達。その「待機組」を狙う西田は、祈るような気持ちでエサ打ちを開始する。
釣り方はいわゆる「藻面の底釣り」。通常の底釣りと同じくタナ取りゴムを付けておおよその水深を測り、エサを付けて打ち始める。最初はほとんどナジミ幅が出ないところから入り、徐々にウキ下を浅くしていって、だいたい5目盛くらいがコンスタントにナジむところで釣る。
「本当は藻穴があればそこにエサを落として普通の底釣りっぽく釣る方がベターなんだけど、岸向きは浅めということもあって、底一面に藻がある感じだよね。なので、藻の面をギリギリ攻めるようなイメージだね。」
雨の中、狙いを定めた位置にピンポイントにエサを落とし込んでいく西田。その所作はとても軽やかで、何とも快適そうに見える。
「わかる?この『獅子吼』の長竿は本当に何度も何度も実釣テストを繰り返して、実際に桟橋やボートに乗っての振り調子、掛け調子を徹底的に磨いていったんだよね。『軽さ』だったら『閃光L』でいいわけだし、求めたのはそこではなく、純粋な『使用感』、もっと平たく言えば『使いやすさ』だよ。『独歩』の長竿も好んで使っていただいていた方も多いんだけど、いかんせん、あの『ダラリ』とした重い感触を拭えなかった。そこで今回は徹底的にそこにこだわり、『普天元』らしいしなやかさは維持したまま、どこかシャンとして使いやすい竿を目指した。『完璧』とは言わないけど、かなり良い竿に仕上がっていると思う。」
長竿に関しては数え切れない経験と実績、そして薀蓄(うんちく)を持つ西田。そんな西田が徹底的にこだわり抜いてテストを繰り返したという「普天元 獅子吼」の長竿ラインは、おそらくみなさんの想像以上に素晴らしい出来になっていると思う。
豪雨の中、軽やかに落とし込んでいく西田を見て、そう確信した。
「具体的には、長竿に関してはけっこう元を強め、太めに振っている。これはカタログ上の自重表示の印象は捨て、実際の持ち重り感の軽減に徹底的にこだわったため。そして不等長設計の利点を最大限に利用し、先ぬけ感によってシュっとした使いやすさを際立たせたんだよね。湖だけでなく、管理釣り場なんかでもとても使いやすい竿になっていると思う。」
西田のこだわりがたっぷりと詰まった「普天元 獅子吼」の長竿ライン。紫のぼかしや超写実的な「力節」の美しさも際立ち、その存在感は抜群だ。
さて、釣りの方である。
エサ打ちから30分は気配ゼロ。不安がよぎるが、開始から45分後の6時45分にはウキの周囲でモジリが出始める。さらにエサ打ちを続けると、7時30分、ついにサワリが出始めた。
「やっと寄ってきたね。」
さあ、怒涛の釣りが始まる。
藻場の猛者、乱舞
いったんアタリが出始めてからが、怒涛の釣りだった。
まるで宙釣りのように肩でウケたウキが、シブシブとナジんでいく。そして、深くナジみきった直後に出る「ドン!」という明快なアタリで、次々とへらが乗り出したのだ。
そのへらがまた、凄い…。
「昔の小べらのイメージしかない人は驚くかもしれないけど、近年のクワルビはだいたいこんなへらで、型が良くなってるんだよ。その分、何百枚とかは釣れないけど、釣り自体は何倍も面白くなってる。」
より軽やかになった振り調子。そして切れ味鋭いアワセが効いた瞬間、「ゴツン」…ではなく「クンッ!」と竿先が止まる。
そこから先は、まさに「普天元」の世界――――――。
藻場の大型の重量感を余裕を持って受け止めると、竿をタメているだけで、ゆっくり、しかし確実に浮上させてくる。
その間、釣り人が享受するのは、一切の雑味が排除された、あの「普天元」の味わい深い世界観。「コクン、コクン」と音が聞こえてきそうなほど小気味いい、そして優しいへら鮒の引き独特の「コク」を堪能しつつ、あとはただ竿の性能に全てを委ねてタモに導くのみだ。
「いや、それにしてもいいへらだね。まだまだこれからもハタきそうだね。」
抱卵した40cm級を手に、思わず表情が崩れる西田。
しかし、まだまだ西田のショータイムはここからだった。
深めのナジミで宙釣り的に藻面を釣っていた西田。10枚目まではあっという間だったが、しだいに右方向への流れがつき始めていた。気が付けば東風(右からの風)が吹いていたので、その対流だろうか。やがてウキが流されるようになり、西田のカウントが止まる。
そこで繰り出した西田のテクニックが、あえてウキ下を深くしてエサを藻に引っ掛けて流れを止めるという、「らしい」手法だった。
「やり過ぎはウキがシモっちゃってダメなんだけど、これくらいの流れなら有効だね。それでも完全に流れを止めることはできないけど、ほら、アタリが戻ってきたよ。」
ナジミは3目盛ほど。藻に軽くエサが絡む様子をイメージしながら流れを緩めると、「チャッ!」と落とすアタリが見事に復活したのだ。
名ポイント「クワルビ」、藻場の大型、乱舞。
次々と小さく刻むアタリを捉えていく西田の、まさに「横綱相撲」の釣りが、「普天元 獅子吼」18尺という最高の相棒を得て炸裂する。
「とにかく使いやすく、そして、『普天元』ならではの釣り味も満載。この長竿は、ぜひ多くの方に味わってもらいたいね。」
雨風が強まりボートが木の葉のように揺すられるようになってしまったため、安全を考えて昼過ぎに早上がりとなってしまったが、30枚以上の大型の引き味を堪能した、忘れ得ぬ雨の実釣となった。
プロフィール
西田 一知 (にしだ かずのり)
[インストラクター]
関東へら鮒釣り研究会で97年、09年、10年、11年に年間優勝して史上5人目の横綱位に就く。09年シマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 第3位。30尺の使い手で長尺の釣技に長ける。「関東へら鮒釣り研究会」「コンテンポラリー・リーダーズ」所属、「KWC」会長。
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