2020/08/28
コラム
「普天元 獅子吼」、降臨。【その2】萩野孝之 in 椎の木湖
今、また始まる普天元伝説――――――。
三人の名手たちが、じっくりと向き合う。時代を創る「普天元」の新作、「普天元 獅子吼」、堂々デビュー。
その開発にも関わった名手三人が、それぞれのフィールドで大いに語る!
「とりあえず100kgくらい釣れば、伝わるかな」
現役最強王者、萩野孝之。釣り場は数々の栄光を獲得してきた椎の木湖だ。
“現代の獅子”が釣果で語る、「普天元 獅子吼」の「真の強さ」。
【その1】はこちら
椎の木湖で100kgを釣れ
萩野 孝之への“司令”はシンプルだった。
“椎の木湖で100kgを釣れ”
「この時期(梅雨明け前)の100kgはけっこうしんどいけど、頑張るよ。それに、新しい『普天元』の強さも、とりあえず100kgくらい釣れば伝わるかな」
余裕の王者が梅雨真っ只中の椎の木湖に見参したのは7月9日(木)。雨こそ免れたが、朝から梅雨らしい曇天。しかも気温も低く、肌寒いくらいだ。
シマノ「へらキャリーバッグXT」を引き、萩野が向かったのは2号桟橋。工場を向く249番釣り座に着座する。
おもむろにロッドケースから取り出したのは、「普天元 獅子吼」の8尺。釣り方はもちろん、メーター両ダンゴである。
●竿
シマノ【普天元 獅子吼】8尺
●ミチイト
1.0号
●ハリス
上下0.6号 40-50cm
●ハリ
上下7号
●ウキ
一志【Dゾーン】5番(パイプT9.2cm 2枚合わせ羽根B7.3cm カーボン足5cm ※エサ落ち目盛は全8目盛中、2目盛を沈めた位置)
●タナ
ウキ~オモリ1m
●エサ
バラケマッハ 200cc
凄麩 200cc
カルネバ 200cc
浅ダナ一本 100cc
水 200cc
大きめのウキ、長めのハリス、そしてヤワエサ…。「まだ梅雨時なので、少しあっさり風味で『浅ダナ一本』を入れてみた」というエサのブレンドも、ここ椎の木湖の定番、「マッハ、凄麩、カルネバ」の盤石ブレンドだ。
大型の湧きがキツくなる暖季の椎の木湖。大きめのウキでオモリをタナまで引っ張り下ろした後は、長めのハリスを上方向にV字に張らせ、タナより上のへらも巻き込みながら早いアタリで釣っていく。そしてもちろん、タナのへらに活性を感じれば、ハリスを短めにスイッチして強いアタリを狙っていくが…。
「梅雨明け前だと厳しいかもね。とにかく今日は上のへらも積極的にターゲットにしていかないと、100kgは難しいと思う。最近は特に天気が安定しないから、まずはおおざっぱにざっくりと傾向を探っていく。いきなり細かくやっていたら、いつまでたっても正解に近付かないからね。」
ゆったりとした落とし込みで打ち始める萩野。エサは静かに、ウキの立つ位置に着水していく。
「この落とし込みが雑な人が本当に多いよね。基本軟らかいエサだから、ボチャンと着水させてたら絶対にダメ。」
新しい「普天元 獅子吼」の感触をじっくりと確かめながら、貫禄の序盤が展開されていく。
「安定感」
「湧くのはしょうがない。湧きを最小限に抑えつつ、その下のへらが喰うのか喰わないのかが問題。この空(曇り)だと、厳しいだろうね」…と萩野。へらはすぐに寄り、早くも水面に顔を出し始める。
エサボウルには早くも何度か手水が入り、いわゆる昔風に言えば「ペトコン」と呼べるタッチへと変化していた。これを小さめに付け、まずは色々なアタリを聞いていく。
肩で揉みながら「チャッ!」と刻むアタリやアゲツンで何枚か拾うと、萩野は早くもハリスを40-50cmから30-40cmへと詰める。これでタナにブラ下げ気味にするとまったくアタリをもらえないことを確認すると、すぐに40-50cmに戻した。
「やっぱり『タナ』には喰うへらがいないね。全部上。本音では『ナジんでドン』なんかでカッコよく釣りたいけど、今は無理。長めのハリスで上のへらをいなしながら釣っていくしかないかな。」
激しいウケ。普通の人ならなかなか持たせられないであろうタッチのヤワネバのエサを「喰うまでギリギリ持たせる」という感覚で、早いアタリを拾っていく。
さて、新しい「普天元 獅子吼」である。
「今まで関わった竿の中で、一番テストに時間がかかった竿。本当に苦労したし、どれだけの数のサンプルをテストしたか分からない。」
萩野を含むシマノフィールドテスター陣による途方も無い数のフィールドテストを経て、ようやく完成にこぎつけたという「獅子吼」。「その特長を一言で表現すれば?」の問いに、萩野は即答した。
「一言で言うなら『安定感』、だね。不等長設計なんて象徴的で、単純に竿の動きが安定するんだ。例えば、仮に8尺の竿があったとして、穂先だけで2mあったらどう?不安定でしょ?極端かもしれないけど、そういうことなんだよ。」
さらに萩野は続ける。
「竿的には『普天元』らしい本調子なんだけど、硬さや太さを上げずに『強さ』を加味しようとしたのが、今回の『獅子吼』開発の最大のテーマだったと思う。斬新な不等長設計によって硬さに頼らない強さと先にシュッと抜ける感じを加味しつつ、積み上げてきた技術によって『強さ』と『安定感』を演出した…という、そんな竿に仕上がっていると思う。強くしたいからって硬くしたり太くしたりするのでは、それはもう『普天元』じゃないからね。」
なるほど、萩野の言葉を聞いて、筆者は「獅子吼」の何とも表現しきれなかった「別物感」について、スっと腑に落ちるような感覚になった。
そうなのだ。
竿自体は紛れもない「普天元」。軟らかいし、よく曲がる竿。しかし、何か分からない「強さ」のようなものを感じていたのだが、それをどう表現していいのか分からなかったのだ。
そう、「安定感」、である。
「分かりやすい『強さ』で言うなら『皆空』なんだろうけど、この『獅子吼』だって十分に椎の木湖で使えるよね。ま、『独歩』だってここで好んで使っている人もいたわけだけど、そこから何歩も前に進んだ感じがする。それも、単純に硬くしたりしないでね。それがこのなんとも言えない『安定感』につながっていると思う。」
しなやかに椎の木湖の大型の突進を受け止め続ける「普天元 獅子吼」8尺。ズシリと手に来る重厚感も「普天元」ならではで、落とし込みもビシバシ決まる。
さあ、萩野の釣りが猛進する…。
「真の強さ」の証明
やはりタナのへらの喰い気は薄い。
長めのハリスの方がいいことを確認した萩野は、次に「もう少しだけ芯を小さくしてみたら」と、ハリを6号に落としてみる。しかし、これは不発。肝心のアタリそのものが出なくなり、エサも持たなくなったのだ。
「ハリは7号の方が断然釣りやすいね。結局最初と変わってないことになるんだけど、この確認作業をやっておくのとやらないのでは、ここから先がまるで違うんだよ。」
「ここから先」とは、もちろん、「エサ合わせ」のことである。
定番ブレンドに「浅ダナ一本」を加えたエサから入った萩野。釣れなくはないが、「何かもうひとつピリっとしない」という。
「サワぐようなエサじゃないと釣れないんだけど、『ギリギリ持たせる』というのがやりづらい。『浅ダナ一本』って練らないとけっこうタナで開くエサだから、これを抜いて、かつもう少しシンプルなブレンドで分かりやすく勝負した方がいいかもね。」
エサ使いが難しい時は、ブレンドはシンプルに――――――。
萩野流ヤワエサ使いにおける鉄則である。そしてブレンドも決してこうと決めつけずに、状況に応じて七変化させていく。時にはビッグトーナメント大会本番時に閃いたエサをいきなりブレンドに加え、優勝をかっさらったこともあるのだ。
悩んだ末に萩野が作り直したエサは、これだった。
コウテン 400cc
カルネバ 300cc
水 220cc
さらにここに手水を加えたタッチは、水分がにじみ出てきそうなほど軟らかめ。しかしベースの「コウテン」とネバリの「カルネバ」のシンプルな2種類ブレンドにしたことで、「タナまでギリギリ持たせる」というエサ付けに集中できるようになったのだ。
実際、このエサに変えると、萩野のペースは目に見えて上昇カーブを描いた。アタリが増えたというよりは、エサが持たなくてアタリにならなかったのが激減した、といった方が正確か。
「2種類だから分かりやすいよね。エサ使いがシンプルになったから、釣りに集中できる感じがする。そして、これで持ち過ぎれば『カルネバ』を減らせばいいし、もっと開かせたければ『コウテン』を増やせばいい。でも今はこの比率がちょうどいい感じかな。」
9時、41枚、39.81kg。
12時、87枚、81.89kg…。
相変わらずタナに入って「ダッ!」と強く落とすアタリは少ないが、持つか持たないかのギリギリのタッチを駆使して上のへらをいなしつつ、早いアタリを途切らせることなくカウントを重ねていく。そして、早くも100kgを射程圏に捕らえて後半戦へと向かう。
そして、ここからがまた「圧巻」だった。
へらの状態は相変わらず。
通常、梅雨明け後の晴れた日などは特にそうなのだが、椎の木湖が午後から尻上がりにタナで大型がアタってくるようになり、それに比例して釣果が伸びていく傾向にある。しかしこの日はまだ梅雨真っ只中の曇天ということで、午後になっても一向にタナで大型が喰い出す気配はない。
「早いアタリの方が型がいいでしょ?これがサインだよね。デカいのは全部上って感じ。だからこの状態のまま、釣り手がどうにかするしかない。」
タックルセッティング、そして基本エサも固定され、ここからはさらにその先、詰めの作業へと突入していく。具体的には、「ヤワエサで早いアタリで釣りたいんだけど、やはりエサの持たせ方が今一歩難しい」というところ。そこで萩野がとった手法は…
小分けしたエサに手水を打ってかなり軟らかくした後、「GD」をひとつまみパラっと混ぜ込んでいくという対応だった。そしてこれがズバリ、ハマる。
「いいよね。『GD』をほんの少しパラっとやっただけなのに、ものすごく釣りやすくなった。具体的にはより持つようになったと同時に、『GD』の膨らみでカラツンも回避できている、という感じかな。」
エサを持たせやすくなると同時に、シビアな持ち過ぎによるカラツンも回避、すなわち釣りがグンと簡単になったのだ。
「いつもこんな感じで本番中にもがきながら何か閃いてって感じで、実はけっこう綱渡りなんだよね(苦笑)。」
こうなればもう、萩野孝之は止まらない…。
終了の16時まで荒波を乗りこなすかのように釣り続け、終わってみれば136枚、128.71kgという恐るべき釣果でブッチギリの池頭となった。
そして、「獅子吼」については?
「これだけ釣っても最後まで片手で余裕を持って取り込めたでしょ?それが全てだよね。後半は特に、この『安定感』のおかげでエサ合わせに集中できたよ。」
「獅子吼」を手に、王者の最高の笑顔が弾けた。
【その3】はこちら
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