「段底って、どちらかと言えば釣り人側から何かを仕掛けることができない、『守り』の釣り方。言葉を変えれば、『魚任せの釣り』の部類に入る。だから本音を言えば、最初の設定でそこそこ釣れて欲しいよね。今なんて、そんなに変なことをやってはいないと思うんだけど、まったくアタリも出せない状況(苦笑)。でも、ここから局面を打開できれば、それって読者のみなさんにとっても、凄く参考になるんじゃない?」
確かに段底は保守的な釣り方であるが故に、「何かを変えづらい釣り方」でもあると思う。ましてまったく釣れない状況から局面を打開していくには、身動きの取りづらい釣り方だろう。「もしも今日、単にたくさん釣るんだったら15尺くらいのチョーチンセット」と分析する萩野。
さて、1時間経っても沈黙状態の萩野。まず試したのは意外な一手だった。
「下ハリスを詰めてみます。」
萩野はそう言うと70cmだった下ハリスを50cmに。そして同時にタナも取り直した。
これは意外だった。この渋い状況ではてっきりその逆、80cmくらいに長くするものと思っていたからだ。
さっそくその理由を聞く。
「へらの気配はある。ただし、『ちょい上』。あと分かったのは、硬めのバラケにした時に反応がある、ということ。ここでまず疑ったのは、『バラケを上から降らせ過ぎているのでは?』という疑念。バラケの位置をもっと底に近付けて、へらの寄りを底付近に圧縮できないかと考えたから、下ハリスを短くしてみたんだ。これでアタってくるならけっこう楽な展開になるんだけどね。」
バラケはさらに小さく、キュっと押さえて強めに付ける。気が付けば萩野はウキもPCムクトップ仕様から通常のパイプトップ仕様のものに換えていた。もちろん、「持たせたい」からだ。
トップは3目盛がナジみ、ジワリと返して抜ける。その直後に段底らしくエサ落ち目盛の下がヌっと出て、「チクッ」と落とすアタリが出て、ようやく当日の第1号が釣れてきた。
下ハリスを詰めるという対応、正解か!?
しかしその後、萩野のウキは再び沈黙状態に入ってしまう…。
「ダメだね。やっぱりこれでは無理矢理なんだね。へらが全然下を向かない。アタってもイトズレか、スレ。」
時おり、らしい動きは出るのだが、ことごとく空振りかスレ。名手・萩野をして、一向にカウントが進まないのだ。
しかし、この下ハリス詰めのつまずきこそ、「正解」への貴重な第一歩となるのだった。
「今のは凄いヒントになったね。」
「今のは」というのは、下ハリスを詰めた行為と結果のことであった。
釣れていないのに?
少々頭が混乱する…。
あの萩野孝之をして、1時間以上経過して釣果1枚。そして、再びの沈黙…。筆者はこの後、おそらく萩野がそそくさと釣り方をチョーチンセットに変更するであろうと予測していた。しかし萩野はそんな素振りも見せず、黙々と段底に没頭していく。
下ハリスを50cmから70cmに戻した萩野。しかし状況は相変わらず。気配はあるのだが、モヤモヤだけでアタリには結びつかない。
ここで萩野は下バリを「もしかしたら大型にアオられて安定感に欠けているのでは?」と3号から4号に変更。しかし、変化なし。
これはやはり、万事休すか…。
その後、かなりの待ちのリズムで単発的なアタリを拾うものの、9時を過ぎても釣果は「3」。これはさすがに厳しい。
しかし次の瞬間、萩野の口から出てきたのは、信じられない言葉だった。
「うん、だいぶ見えてきたよ。」
見えてきた? いったい何が…。
困惑する筆者に、萩野がやさしく解説してくれる。
「段底ってへらに下を向かせなくちゃいけない釣りなんだけど、バラケを底に近付けるっていうのは、もう少し暖かい時期の強引なやり方だよね。で、実際にダメだったと。それならやっぱりバラケをもっと上から落としてやらないと逆立ちしてくれないんだけど、今のバラケだと『夏』が効き過ぎていて『抜け』がアマいんだね。」