2022/07/28
コラム
【My Favorite Rod】中澤 岳「風切」
“My Favorite Rod”。
釣り人には誰しも、流行にとらわれない、愛し続ける「お気に入りのロッド」がある――――――。
今回は、“湖上の粋人”中澤 岳が愛する、「風切」。
鮮烈な登場からいくつもの季節を経て、思い入れ深い「浅ダナスペシャル」は、今や枠にとらわれない人気を獲得し、中澤の手さえも離れ、一人歩きを始めている…。
守り、前進させ、受け入れられた「風刃」のアイデンティティー
"「正直、この個性的な竿がここまで釣り人に受け入れられるとは、僕自身思ってもみなかったんだよね。」
名伯楽・中澤 岳は、そう言って、まるで愛娘でも見るかのように純白の竿を見つめた。
“伝説の浅ダナスペシャル”としてその名を馳せた名作「飛天弓 風刃」。
そのDNAを引き継いだ白のイメージカラーの「風切」は、登場以来あらゆるフィールドで見かける竿となっている。それは紛れもない事実なのだ。
「だいたいデサインからしてここまで個性的な竿って、正直、あんまり受け入れられなかったりするんだよね。でも『風切』は例外中の例外。正直、ここまでみんなが気に入ってくれるなんて…。嬉しさを通り越して感激すらしているよ。」
細身でしなやか、かつ独特のシャープな使い心地が、「管理釣り場の先鋭的な浅ダナの釣りに最高!」と熱狂的な人気を博した「飛天弓 風刃」。そんな「風刃」のアイデンティティーを受け継ぎ、さらにそこに現代の大型にも対応する「強さ」…、ではなく、「懐の深さ」をプラスしたのが「風切」だ。
「強さ」ではなく「懐の深さ」と表現したのは、単に竿を硬くした、太くした…というわけではないから。「風刃」譲りのしなやかさとシャープさはそのままに、もはや熟成の極みに達しているカーボン素材の基本構造「スパイラルX」を贅沢に武装し、硬さや太さに頼らず「現代に生きる竿」として蘇っているのである。
「まさにそうだよね。『強くした』って言うと、単に素材を硬くしたり、太くしたり、はたまた先調子気味にしたり…というのを想像しちゃうんだけど、それはやらなかった。実際の所、全体の調子バランス自体は『風刃』とほぼ同じだと感じた。まず僕はそれが嬉しかったんだよね。だってそこを変えちゃったら、それはもはや『風刃』の後継ではない。他の竿でいいわけですよ。でもシマノはそれをやらなかった。それが嬉しかったよね。」
実際、「風切」を振ってみると驚くはずだ。驚くほどあの「飛天弓 風刃」の振り調子に似ているからである。それは「デザインだけ変えてそのまま出しちゃったのではないか?」と勘ぐってしまうほどなのだ。
しかし、エサを付けて振り込み、ましてへらを掛けて竿を曲げてみれば、「全くの別物」であることがまた、はっきりと分かってくる。
「小ウキや小エサを難なく飛ばせるしなやかさと操作性は、まさに『風刃』そのもの。何の違和感もない。で、感触は同じなのに、その洗練度が格段に上がっていることに驚かされるんだ。同じなのに、違う…。なんだか表現が紛らわしいよね。でも、みなさんが実際に釣り場で振ってみてもらえれば、僕が言っている意味を即座に分かってもらえると思う。」
素晴らしく向上している「洗練度」。それは、「風刃を知らない世代」にも、大いに喜んでもらえるものだという。
「ライトな仕掛けを躊躇なく繰り出せる振り込み性能。『浅ダナで勝負しているんだ!』という高揚感を煽る、アワせた時の独特なシャープ感。そして、ハリスを飛ばさないしなやかさ。さらには、大型の抵抗に負けない『懐の深さ』…。浅ダナをやる上で全てが高次元で揃った、最高の竿だと思う。こんな竿が今の時代に存在することそのものが、とても嬉しいね。」
常に進化を模索しながら、大切な核心は勇気を持って継承する――――――。
中澤はそんな姿勢を、純粋に「嬉しかった」と表現した。
そして「風切」の最高性能をまた、「嬉しい」と表現するのだ。
見る人にさえ楽しさや満足感を与えてしまう「風切」
しかし、面白いのはその斬新なデザインだ。
「飛天弓 風刃」はその攻撃的なイメージとは裏腹に、へら竿の古典的な口巻デザインを採用していた。しかし「風切」では大幅にそこから方向転換して、なんとパールホワイトの外観に挑戦したのだ。
「正直、これには僕も驚いたね。実際、最初は凄く違和感があった。なんせ『風刃』があんな感じだったからね。これは釣り人それぞれの好みもあるから一概には言えないんだけど、当時、僕が『風刃』に対して感じていた唯一の不満として、『竿の個性のわりに、ちょっとデザインが地味すぎるなぁ』というのがあったんだ。せっかく竿は最高なのに、見た目がまったく何の変哲もない『ザ・へら竿』という感じだったからね。もちろん、それがまた玄人的で良いっていう人もたくさんいたんだけど、僕はもう少し個性を出してもいいのになぁってずっと感じていたんだよね。で、今回の『風切』。こう来たかって感じだよね! これもまた賛否両論あっていいと思うけど、僕的にはもう『これこれ!』って感じ。せっかく個性のある竿なんだから、見た目もこれくらい個性があった方が、僕は好きだな。なんせ、誰がどこから見たって『あれは風切だね』って分かるでしょう!?」
誰がどこから見ても『風切だ』と分かる外観。まさにそれだ。
大胆に全身を覆うパールホワイトの塗装は、まるで車で人気のカラーを彷彿させる美しい仕上がりを誇る。「白」というのは「難しい色」に違いなく、一歩間違えれば派手すぎたり、逆に白物家電的な地味さが強調されてしまう。しかし「風切」のパールホワイトは非常に品良くまとめられていて、間近で見て楽しく、また、離れて見ても「あれは風切だ」と個性を主張し、釣り人を優越感に浸らせてくれるのだ。それはごったがえす休日の管理釣り場はもちろん、夏の山上湖でポツンと釣るような場面でも、非常に「絵になる」のである。
「この『風』をイメージしたワンポイントも、とてもいいよね。品がある。これだって一歩間違えると大変なことになる『挑戦』だと思うし、中途半端にダサく入れるのなら、無い方がいいくらいだ。でもそこをあえて挑戦している『気概』がいいよね。」
フィールドを吹き抜ける「風」をイメージしたワンポイントデザインも、「風切」のアイデンティティーを品良く主張することに成功している。これは稀有な成功例と言えるかもしれない。
そこからどう見ても「風切」と分かるデザイン。手にする釣り人だけでなく、見る人にさえ楽しさや満足感を与えてしまう「風切」という竿。
それは、「挑戦の気概」が多くの人に自然に品良く伝わるから、なのだと思う。
管理だけでなく、野や山上湖にも
今や中澤の「フェイバリットロッド」筆頭となっている「風切」。
そんな「風切」を、中澤は「管理釣り場の浅ダナだけに使うのはもったいない」と断言する。
「もちろん浅ダナに最高の竿であることは間違いないんだけど、別に『管理釣り場専用』というわけではないし、軟らかい感触が欲しい時はチョウチンや底釣りにもいいよね。たとえばちょっと小さめのサイズが揃う短竿チョウチン両ダンゴとか、1日ゆっくり楽しみたいような時の中尺竿での底釣りとか、実は最高に楽しかったりするんだ。ま、そんなことは僕が言わなくてもへらぶな釣り師のみなさんが一番分かっているだろうね。だからこれだけ評価されているんだと思うし。」
さらに中澤は、これからの季節、「風切」が最高に似合うシチュエーションがあるという。
それが、「山上湖での浅ダナ」だ。
「近年…というか、だいぶ以前から、西湖や精進湖みたいな山上湖の浅ダナって、けっこう釣れるんだよね。そんな時、意外と最適な竿がなかったりしたんだ。『風刃』だとやっぱり山上湖の風や波を考えるとちょっと頼りなさがあったし、かといって他の竿だと浅ダナをやるには強過ぎたり…。『獅子吼』という手もあるんだけど、ちょっとかまえ過ぎちゃうというかね。そんな時、『風切』だと最高にマッチするんだよ。デザイン的にも、爽やかな湖のロケーションに不思議なほど合うし、気分も高揚する。『コレだ!』みたいなね。」
事実、今季、中澤はすでに何度も「風切」で山上湖の釣りを楽しんでいる。
管理釣り場との違いは、前述したとおり風や波が出ること。そんな竿にとってはタフな状況下でも、より「懐の深さ」が増した「風切」なら、躊躇なく浅ダナを打てるのだという。
また、山上湖の浅ダナというのは、やったことのある方ならお分かりいただけると思うが、意外なほど型揃いとなることが多い。「チョウチンは小べら、浅ダナは大型」という地合が意外に存在するのだ。そんな時も、たくましさを増した「風切」なら大型が掛かっても右往左往することはない。
「西湖や精進湖もいいし、三名湖や間瀬湖、円良田湖といった準山上湖でガシガシ釣るにも最高だろうね。だいぶご無沙汰だけど、夏の千代田湖でじっくりと信玄べらを狙ってみるのもいいかな…」
たくましく蘇った伝説の浅ダナスペシャル「風切」を手に、ますます夢が広がる中澤 岳だった。
プロフィール
中澤 岳 (なかざわ たけし)
【アドバイザー】
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。
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