2021/07/05

コラム

「一点集中」吉田康雄、8年目の印旛。「飛天弓 頼刃 またたき」で、夢のゴーマルに肉薄す。【前編】

今まで以上に「原点回帰」を強烈に意識した、8年目の春――――――。
そもそもなぜこの企画をやろうと思ったのか。その出発点は、「あの興奮のるつぼと化す印旛の乗込み祭を、みんなに伝えたかったから」。
そう思い当たった吉田康雄は、2021年春の印旛挑戦のキーワードを「一点集中」に決めた。
「取材は1回。ポイントも1点に絞ります。」
清々しくそう言い切った吉田が狙いを定めたのが、ゴーマルの可能性が最も高いと言われるゴールデンウィーク中の大乗込みのタイミング。
外せば、もう今年はそこで終わり…。
勇気を持って背水の陣を敷いた吉田の「漢・野釣り」に、奇跡は起こったのか。

Xデーは、5月1日。想いを貯めに貯め、爆発させる。

「とにかく今年は、あのハタキの轟音に囲まれて、カバ際にウキを立てたい。しかも最後の最後、最もゴーマルの可能性が高いと言われるゴールデンウィーク中の大乗込みに賭けます。」

年も明けた1月。吉田康雄は筆者にそう宣言し、今年は何度も印旛に通うようなスタイルをきっぱり捨てる、と言い切った。
「今まで7年やってきて、心のどこかに『今日釣れなくても、また取材出来る』という甘えが芽生えていたと思うんです。それが去年、このコロナ禍で1回の取材でスパっとやられて…。ではその1回にベストを尽くしていたかと言われれば、そうではなかったですよね。どうせまた来られると思っていたので、何となくフワっと取材に入っていたような気がするんです。だから今年は、たった1回の取材で勝負したい。それも、印旛では『最も型がデカい』と言われる最後の乗込み、ゴールデンウィークに勝負してみたいんです。もちろんオデコの可能性も大ですが、それでいいと思います。その1点に全てを注ぎ込みたいんです。」 確かに筆者も吉田と7年印旛の春を経験してきて、単にオデコを回避するためなら冬から早春にかけての方が釣れる確率が高い、ということがはっきりと分かっていた。でも、それでは意味がない…とまでは言わないが、それが本当に我々が読者に伝えたいことだったのか?
筆者よりもはっきり、吉田はそれを「違う」と認識していた。
「印旛でゴーマルを獲る。それも、あの興奮のるつぼと化すハタキの轟音に包まれて! それこそが、僕らが表現したいことだったと思うんですよね。」
あれから7年が経った8年目の春。ただの「釣り小僧」だった吉田康雄も、その純な面影は残しつつも、1人のアングラーとして、1人の人間としても「成熟」の雰囲気を醸し出していた。
だからこそ「守り」に入るのではなく、原点に立ち戻って思い切って挑戦したい。
3月も終盤に入ると、印旛からも「乗込み始まる!』の方が吉田にも入ってきていた。「今日はあそこがハタいたらしいぞ」、「今日は40上が2枚出た」…。思わず耳を塞ぎたくなるような情報が次々と舞い込んでくる。
耐える、耐える、耐える…。
やがて桜は足早に散り、「暑い」と感じられる日もポツポツと現れ始めた4月も末――――――。
ついに吉田から電話が掛かってくる。その声のトーンは、「弾む」というより、どこか重々しさすら感じられるものだった。

「きましたよ。Xデーは明日、5月1日です。」

電話回線を介し、2人の「漢」は興奮していた。
「印旛に詳しい知人から、『明日だぞ』と連絡が来ました。水位も上がって今日から印旛は今年最後のハタキに入って、明日は大乗込みになる気配です。行けますか?」
もちろん、筆者に「否」の選択肢はない。
待ちに待ったその日が、ついに来た!
5月1日(土)。
夜明けの印旛沼西部調整池、「臼井第2機場」前。機場から吹き出す水流によって水底の泥が押され、そこだけ植物が生えない巨大ワンド。近くの佐倉ふるさと広場で「チューリップフェスタ」が開催されることから、吉田が「チューリップ」と呼んでいる印旛屈指の乗込みポイントだった。
到着した筆者が土手を駆け上がると、すでに吉田が準備を開始していた。
そして、驚愕。
「ドゴーン!」
まるで、爆発音。
ピチャピチャ、バシャバシャ、ではない。
「ドゴーン!」
そこには、近くにいる吉田の声が聞き取れないほどのハタキの轟音が鳴り響いていたのだ。
この瞬間をどんなに待ち焦がれたことか…。
まだ釣ってもいないのに、思わず小さくガッツポーズする筆者と吉田。
そうだ。味わいたいのは、伝えたいのは、これなのだ! 「あらためて、印旛のハタキは凄いですね。デカいですよ、入ってきてる魚も…。」 準備をしながら思わずゴクリと何かを飲み込む吉田。目測だが、明らかに尺半は越えているであろう「本命」たちが足元で踊りくねっている…。いや、沖も、足元も、カバ際も、オープンスペースも、全てで、だ! 「まずは10.5尺、やや沖目のカバ際を狙ってみます」 吉田が出したのは、このシチュエーションでは「長い」と感じられる「飛天弓 頼刃 またたき」の10.5尺。タチは約80cm。少し深いのが気になったが、まずはここから。釣り方はバランスの底釣りで、エサは両グルテンだ。 鳴り響く爆発音の中、待ちに待った「大勝負」が始まった。

今年、吉田が狙いを定めてチェックしていたのが「チューリップ」と吉田が呼んでいる臼井第2機場前のポイント。印旛沼西部調整池の超一級ポイントで、過去にゴーマル級の実績も多数。機場から吹き出す水によって巨大なワンドが形成され、その中に乗込みの巨べらが入ってくる。

今年も吉田の「右腕」となるのは、もちろん「飛天弓 頼刃 またたき」。ヤッカラ周りの釣りを睨んだ超個性派、超乗込み仕様で、カカリや巨大魚に穂先を持っていかれることもない「振り出し穂先」を採用するなど、画期的な試みが随所に散りばめられたシマノの意欲作だ。調子的には「硬く、太く、強い」だが、そこはシマノの現代モデル。ただ棍棒のように強いだけでなく、魚が掛かった時は不思議なほど曲がり、ショックを吸収してくれる。最短5尺からという「分かっている」ラインナップも嬉しい。

「ただゴツいというだけではダメだと思うんですよね。まだデカいのを釣ってないんで全然説得力ないんですが(苦笑)」と謙遜しつつ、吉田は今年も印旛用に新しいプロトタイプのウキを仕込んできた。太めのボディ、パイプトップ仕様のノーマルタイプに加え、「近くにいるけど渋い時、どうにかしたい」と、今年はやや細身のストロークのあるタイプ(左)にもチャレンジ。いつかゴーマルを手にした時、または印旛挑戦10年の節目の時にはぜひ市販化して欲しい…と願うのは筆者だけだろうか。

吉田康雄vs印旛 落ち着け…

4時30分、第1投。それは壮絶な1日の始まりであった。

●竿 
シマノ【飛天弓 頼刃 またたき】10.5尺 

●ミチイト 
2号 

●ハリス 
上下 1.5号 25―35cm 

●ハリ
 
上下 10号 

●ウキ
 
吉田作 印旛乗込み用プロトタイプ(太パイプT11cm カヤ B9cm カーボン足6.5cm ※エサ落ち目盛は全6目盛中、3目盛沈め)

●エサ

グルテン四季 50cc 
わたグル 50cc 
 120cc

まずは静かなスタート…
…となるのかと思いきや、そこに待ち構えていたのは驚きの展開だった。
「チャッ!」
2つのエサをしっかり底に這わせて水面上に3目盛を出し、アタリを待つ…と思いきや、なんと、即座にアタリ!
「今、アタりましたよね!?」
思わず目を丸くし、筆者にそう確認する吉田。間違いない。アタったのだ。
そして第2投。
「チャッ!」
またアタった!
乗る。しかし、バレる!
「何なんだこれは!」
思わず叫ぶ吉田。
その後も毎回ウキは動いた。
ウキの背後のヤッカラでは、そこかしこで激しいハタキ。手前から奥の水面まで「魚だらけ」の様相!
いいぞ、いいぞ…
ハタキだけではない。
今までの7年間で、出だしからここまでウキが動くことは1度もなかった。
もしかしたら、今日獲れるかもしれない…。
吉田も筆者も、今日ここに導かれた幸運に思わず感謝した。確かな手応えがあった。いける。いけるぞ…。
見たこともないような大ハタキだけではない。ちゃんとウキも動くのだ!
興奮を抑えつつ、吉田のウキの動きを見守る。
6時20分、ついに何かが乗った。
しかし、残念ながらこれは巨大なマブナ。どっとため息が漏れる。
「いや、さすが5月の印旛。入ってきている魚全部がデカいですよ。ハタいているのは間違いなくへらですし、かなりの大型です。ウキも動いているし、絶対にチャンスはありますよ。」
この尺半マブナの後、マブナは続かなかった。暖かい時期の印旛では過去に何度も「マブナ地獄」を味わってきた。マブナが釣れ続かないということは、それだけへらの数が濃い、ということである。
いいぞ、いいぞ…
濃厚な魚の気配。アタリは続くが、明らかなイトズレが多い。
「よし、少し落ち着きましょう。アタっちゃうから、どうしても早切りになっちゃってる(苦笑)。イトズレの多さからやっぱりちょっと水深が深過ぎる気もしますし、へらはもっと手前を回遊しているような気もします。だいぶ水底もエサで汚しちゃったこともあるし、ここは気分を変える意味でも竿を短くしてみますか。」
吉田はそう言うとエサ打ちの手を止め、竿を仕舞った。10.5尺から、7尺にチェンジ。竿掛けをやや左に向けて、手前寄りのカバ際にウキを立てる。
結果的には、これが大いに功を奏した。
ウキの動きの雰囲気が、明らかに変わったのだ。
「夢」が、ググっと近付く。
落ち着け…、落ち着け…

導かれた最高のシチュエーション。抑えきれない興奮を胸に、吉田の「挑戦」が始まる。

ほぼ毎投アタるという、信じられない状況。6時20分、ファーストフィッシュは残念ながらマブナだったが、ゆうに尺半を超える見たこともないようなマブナ。入ってきている魚全てがデカい。吉田は興奮を抑えるかのように「落ち着け、落ち着け」と自らに言い聞かせながら釣り進んでいく。

エサは両グルテン一本。アタるまで5分でも10分でも待つという、「漢・野釣りスタイル」だ。しかし早めにアタってしまうために待てない…という、予想外の状況が吉田を悩ませる。

後編記事はこちら

プロフィール

吉田 康雄 (よしだ やすお)

フィールドテスター

数々の大会で上位入賞、全国大会進出を果たし、99年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、14年同大会優勝。人気ウキ師としても評価が高い。巨ベラ狙いにも積極的で、05年春には亀山湖で50cmを達成した。

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