2020/12/04
コラム
「普天元 獅子吼」で味わう、贅沢な釣り。名手・中澤 岳、秋の佐原で“宝物”に出会う。【前編】
「獅子吼で佐原を釣り歩くなんて、考えただけでも贅沢じゃない?」
名手・中澤 岳は「普天元 獅子吼」をロッドケースに詰め込んで、秋深まる佐原向地に飛び出した。
霞ヶ浦や利根川に抱かれ、“日本水郷”とも形容される平場の名所。
折しも秋、最高の季節。
果たして中澤は、この広大なエリアから、
小さく美しい“宝物”を探し当てることができるのか?
急遽、上の島新川へ。そこにドラマが待っていた。
朝晩は肌寒ささえ感じられるようになっていた10月も半ばの13日(火)早朝、横利根川「道路下」のコンビニで中澤 岳と落ち合う。
朝食を買い込んだ後、「いやぁ、こないだは〇〇でね...」と、いきなり駐車場で釣り談義がスタート。いつ終わるともなくヒートアップしていく。「中澤さん、そろそろ...」。30分が経過したところで筆者が水を向けると、「ゴメンゴメン! これじゃあお昼になっちゃうよね(苦笑)」と頭を掻く名手。相変わらずである(笑)。
広大な佐原エリア。当初は各所を回って閃きで竿を出す場所を選ぼう、などとゆるい感じを想定していた。しかし取材前夜、知人から筆者のもとにあるひとつの情報がもたらされる。それは、「上の島新川で、小さいが、佐原らしい綺麗なへら鮒が釣れている。」というものだった。
「いいねいいね! 上の島は久しく行ってないけど、雰囲気いいよね。行ってみようよ!」
中澤の目が輝く。
30分のロス(笑)の後、車を出す。
「西代(にっちろ)」で左に折れ、国道125号をしばし西進。「川尻食堂」のT時路を右折すれば上の島新川に出る。川自体は護岸された直進状の何の変哲もない小規模河川なのだが、周囲を佐原らしい田園風景に囲まれ、雰囲気は抜群。筆者も過去に何度か取材で来たことがあり、オデコの経験もあるが、生命感溢れる良い印象がある。
「1枚でいいんだよなぁ。釣れるといいね。それもデカいへらじゃなく、できるだけ小さい方がいい。」
佐原向地に来ると、なぜか小さいへら鮒を求めてしまうから不思議だ。それも放流物ではなく、水郷で生まれた「天然物」だったらもう最高だ。
「俺ね、実は佐原って相性がすこぶる悪いのよ。正直、あまり釣った記憶がない(笑)。ほら、前の新利根川の取材でもやっちゃってるでしょ!?」
そういえば2年前の師走、筆者は中澤と新利根川に取材で来て、見事にオデコをくらっている。確かに相性はアレなのかもしれない(苦笑)。
「今日はね、1枚。まず1枚釣れたらもう納得だよ。」
穏やかにそういって笑いながら、中澤は稲穂に見送られてポイントへと向かう。「うん、ここは絶対にやってるね。」
東岸、神社まで行かない、頭上を高圧線が通るやや下流に草が刈られた部分が。明らかに最近釣り人が入った形跡がある。「もしも誰か来たら、並んでやればいいよね。よそ者はこっちなんだから。」
中澤は穏やかにそう言うと、手際よく準備を進めていく。護岸で足場はいいため、釣り台はほぼベタ置き状態。「何尺がいいのかなぁ。えてしてこういう場所って短めの竿の方がいいんだよね。」と呟き、「普天元 獅子吼」10.5を引き抜いた。
「10.5っていうのがさあ、こうした平場の野釣りには最高なのね。12じゃ長過ぎるんだけど、かといって9だと野釣り気分が盛り上がらない(笑)。そんな時、この10.5っていう長さって絶妙なんだよなぁ。」
●竿
【普天元 獅子吼】 10.5
●ミチイト
1.25号
●ハリス
上下0.6号 27―35cm
●ハリ
上下7号
●ウキ
パイプT13cm B12cm カーボン足5cm
※エサ落ち目盛は全11目盛中、4目盛沈め
●タナ
約80cmの底釣り
●バラケ
ダンゴの底釣り夏 50cc
ペレ底 50cc
水 50cc
●クワセ
わたグル 45cc
グルテン四季 45cc
いもグルテン 45cc
水 100cc
目視でも緩やかな流れがあるが、上バリトントンから5cmほど這わすと、かろうじてウキは止まったので、そのままバランスでやることに。ウキは流れに考慮して大きめをチョイスした。
「こうした野釣りではグルテンは硬め。軟らかくして(エサが持っていなくて)失敗したことがたくさんあるから。俺が言っても説得力ないけど。」
さらに中澤は面白い「工夫」をしていた。なんと、普通は上バリにバラケ、下バリにグルテンのところを逆、上にグルテン、下にバラケを付けて打ち始めたのだ。
「緩い流れがあるところでベタにしてギリギリ止めるような時によくやる手なんだ。下のバラケは流れを止めるアンカーの役目に徹して、あまり這っていない上バリにグルテンを付けることで、シモっていても喰った時にアタリがはっきり出るんだ。」
何とも中澤らしい発想。そして、こうした純野釣りでも絶対に手を抜かずに独自の工夫を凝らすのもまた中澤らしい。
「ドボン(外通しや中通し)はドボンで面白みも奥深さもあるんだけど、やっぱりできるだけウキがたくさん動くバランスで釣りたいじゃない?」
ゆったりとしたペースでエサを打っていく。雲が多く、暖かい朝。朝露に濡れた雑草に囲まれながら、穏やかな時間が流れる...
はずだった。
「んっ!? 何かいるね...。」
5投目、いきなり「ズッ」とアタって15cmほどのマブナがくる。
「凄い生命感だね」
そして、そこからはなんと、毎回ウキが動くのだ。
やさしい釣り
「ドキっとしたねぇ。でも、予想以上にウキが動くね!」
わずか5投目でマブナを釣った中澤。そしてその後も、なんと毎投ウキが動くのだ。
「佐原って他の魚が多くても、バラグルがいい時が多いんだよね。あ、これも俺が言うと全然説得力ないけど(笑)。」
マブナ、小ゴイ、ナマズ...。
予想以上に生命感溢れる上の島新川で魚達と遊びながら、中澤は笑顔を絶やさない。
「こういう小さな魚達と遊ぶ時も、獅子吼はいいよね。基本は軟らかい竿だから、けっこう引きを愉しめちゃう。」
プルプルとした他魚の引きでも、中澤は嫌な顔はしない。いやむしろそんな魚達との対話を、竿を通して愉しんでいるかのようだ。
「やっぱりね、こういうところに来てウキがなーんにも動かないっていうのは、一番寂しいじゃない? でもこうしてへら鮒ではなくても元気にウキが動いてくれれば、もうそれだけで愉しかったりするよね。あ、こうやって愉しんじゃうからいつも肝心のへら鮒が釣れないのかな?(笑)」
筆者も長く中澤と付き合ってきて、最近の中澤 岳によく思うことがある。「やさしいへら鮒釣りをするようになったなぁ」というものだ。
業界きっての理論派、そして超速攻の名手として鳴らしてきた中澤。しかし年齢とともにいい感じで角が取れて、その探究心はそのままに、その釣りにどこか「やさしさ」を感じられるようになったと思う。その「やさしさ」とは具体的に何なのかと問われたら上手く言葉にできないのだが、どこかふっくらとしたやさしい雰囲気が、全ての所作から感じられるのだ。そんな雰囲気に、しなやかな「獅子吼」が本当によく似合う。
そして、心から釣りが好きなんだなぁ、と思う。
閑話休題。
「う〜ん、いい感じだよね。そんなにマブだらけっていう感じでもないし、何だか本命も釣れそうな雰囲気だよ。」
マブナや小ゴイでグシャグシャになるわけでもなくいい感じで動き続けるウキに、好感触を口にする中澤。そしてそんな予感が的中する。
開始から1時間が経過した8時過ぎ頃から、雰囲気が変わり始める。
「おっ、マブナが来なくなったね。」
何投か久しぶりにノーアタリでエサを打ち返した中澤。そして8時10分、重々しいサワリの後、かなりしつこく待っていると、エサ落ち目盛の下が「ググッ」と浮上してきた。
喰い上げだ。
後編記事はこちら
プロフィール
中澤 岳 (なかざわ たけし)
【アドバイザー】
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。
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