2021/09/06

コラム

西田 一知impression「朱紋峰 鉾」が指し示すチョウチンロッドの新たなる「領域」

2021年秋、シマノがチョウチンロッドに対して新たなる「領域」を提示する。その名も、「朱紋峰 鉾(しゅもんほう ほこ)」――――――。
果たしてそれは、いったいいかなる竿なのか。
そして、「朱紋峰 鉾」が指し示す「領域」とは?
チョウチン釣りの名手として鳴らし、今回の「朱紋峰 鉾」誕生にも深く関わったインストラクター西田 一知。
その西田の言葉を借り、「朱紋峰 鉾」が何者なのか、じっくりと紐解いていこう…。

半無垢穂先がもたらした、チョウチンロッドの新たなる可能性

「あの『朱紋峰 煉』の後継として、今か今かと待っていた方も多いと思います。そして、その期待に応えることができる、待ったかいがある竿に仕上がっていると思います。」

黒く陽に焼け、まるで荒野を行く「サムライ」のような雰囲気を醸し出す西田。その実は温厚誠実な人柄で誰からも愛され、この度、かの野釣りの名門「関東へら鮒釣研究会」会長にも推挙された人物である。

西田は元来、あまり多くを語らない無口なタイプの人間である。そんな西田だが、今回は実に饒舌に様々なことをオープンに語ってくれた。それだけ「朱紋峰 鉾」に並々ならぬ思い入れがあるのだろう。そしておそらくこれを読んでいただければ、「完璧」とまではいかないまでも、NEWロッド「朱紋峰 鉾」がいかなる竿なのかを理解していただけるはずだ。

さて、冒頭の西田の言葉を借りれば、「朱紋峰 鉾」はあの名竿「朱紋峰 煉」の後継機、ということになる。

しかし、注目して欲しい。「朱紋峰 煉」から「朱紋峰 鉾」に名前が変わっていることを。そして、そこにこの「朱紋峰 鉾」を紐解くカギが隠されている。

「そうですね。単純に後継ということであれば、名前は同じでもいいと思います。しかし今回の『朱紋峰 鉾』は、『煉』とはまったく違う領域に足を踏み入れています。だから思い切って名称を変えてきたんです」

きっぱりとそう語った西田。

ではいったい、「違う領域」とはいったい何なのか。

「一言で言えば、『操作性を備えたチョウチンロッド』ということになります。」

操作性を備えたチョウチンロッド…。

「ですね。チョウチンロッドというと、みなさんはパワー系寄りの胴寄り本調子の竿をイメージされると思いますし、実際、そういったキャラの竿が求められていると思います。もう少し簡単に言えば、『魚を掛けた直後からしっかり曲がるんだけど、パワーのある竿』ですよね。

チョウチン釣りの場合、ウキが竿いっぱいの位置にあるということで、アタリがあって乗った瞬間から、竿には大きな負荷がかかります。浅ダナのような沖走りがないぶん、掛けた瞬間から魚が深い位置にいるわけですから、まずは釣り負けないパワーが求められるんです。ただし、ただ硬い竿、曲がらない竿では、逆に魚は上がってきません。竿の抵抗感を感じて、ただ暴れるだけです。魚が乗った瞬間から竿がしっかり仕事をして、がっつりと曲がりながら大型をリフトアップさせる必要があるんです。」

超長竿底釣りのイメージも強い西田だが、実際、西田が野釣りのボートフィッシングで勝ち取ってきた幾多の栄冠は、この中尺竿によるチョウチン両ダンゴでの爆釣によるところが大きい。そんな西田だから、チョウチン釣りに関しては誰よりもこだわりを持っている。

魚が掛かった瞬間から、その魚が深場にいるチョウチン釣り。そこで竿に求められるのは、ただ硬いだけではない「曲がるパワー」だ。でなければ、大型の引きをいなしながら上げてくることはできないのである。

「そんなこともあって、今まで、チョウチンロッドに求められてきたのが『パワー系胴寄り本調子』というキャラクターだったんです。実際、『煉』まさにそういう竿でしたよね。で、僕自身もすごく気に入って使っていた。でもいつからか思うようになったんです。『煉』は凄くいい竿なんだけど、何かもうひと工夫したら、もっといい竿になるんじゃないか。』と…」

「煉」を相棒として湖に繰り出しながら、西田は「もっと次元の違う竿ができるかもしれない」と、ずっと感じていたという。

「でも話はそう簡単ではなくて、二代目『煉』の完成度が高かったこともあり、自分自身、それが何なのかの答えを見つけられないでいました。でも、ちょっと閃くことがあって提案してみたら、ちょうど考えていたことが合致したんです。そこから一気に『鉾』のプロジェクトが進み始めました。」

まさに釣りをやりながら「閃いた」という西田。そしてそれは、ちょうど「煉」をもっと進化させようと考えていたシマノの思惑と一致したのである。

「ずっとチョウチン釣りをやってきて、また『煉』を使ってきて、何かが足りないと感じていました。で、ある時はっきりと分かったんです。『煉』に足りなかったもの、それはズバリ、『操作性』だったんですよ。で、シマノには『半無垢穂先』があるじゃないかと思い当たったんです。」

「半無垢穂先」とは、その名のとおり穂先の先端だけ中が詰まったムクであり、そこから先は中空構造(チューブラー)へと繋がる、シマノならではの技術。先端のムク部分は「細く作れる」利点と、重みを利用して竿先にしっとりとした感触を出せる利点がある。そして続くチューブラー構造は、「軽さとパワー」。つまり「半無垢穂先」とは両者の「いいとこ取り」を実現した構造であり、シマノのラインナップの中では主に浅ダナ向けの竿に採用され、煮詰められてきた技術である。

なぜ浅ダナ向けかと言えば、それはやはり浅ダナ釣りにおいて小さなウキを沖に飛ばしたり、またアワセの時の水切れ感を出したり…ということに長けているからであり、なおかつ全てをムク構造とした穂先よりも軽さや軽快さを出せるので、先調子的な操作性をもたらすことも可能だからだ。

そんな「浅ダナ向け」の半無垢穂先を、あえてチョウチンロッドに持ってきたら――――――。

この逆転の発想は、いったいどんなところから来たのだろう。

「例えばボートに乗って湖でチョウチン両ダンゴをやる場合、当然、振り込みはウキの立つ位置にエサを静かに落とし、その後にミチイトを折りたたむようにウキを被せていく『落とし込み』が主になりますよね。この時、従来のパワー系胴寄り本調子の竿だと、穂先もチューブラーで強めであることもあり、イマイチこの動作が気持ち良くないというか、そんな感触をずっと持っていたんですよ。喰いの良い夏のチョウチン両ダンゴといっても、僕らって意外とエサを落とす位置とかをすごく気に掛けているんです。大袈裟ではなくセンチ単位で着水させる位置をコントロールしたりします。その時、ちょっと竿先がもたつくというか、微妙な操作が曖昧になることがずっと気になっていました。これが改善されたら、もっと凄い、これまでにない操作性を兼ね備えたチョウチンロッドができるのに、と思ったんです。で、行き当たったのが『半無垢穂先』をチョウチンロッドに採用したらどうか?という発想でした。」

すぐにテストに着手した西田。しかし、事はそう簡単ではなかったという。

「正直、最初はまったくダメでした(苦笑)。ただ単に半無垢穂先を付けただけでは、硬式本調子の本体とのアンバランスばかりが際立って、強いんだけど先だけクニっと垂れるような、そんな気持ちの悪い竿になってしまったんです。やっぱりこれはダメなのか…とアイデア自体を断念せざるを得ないところまでいきました。でも根気強くサンプルテストを繰り返していくと、チョウチンロッドの性格にあった半無垢穂先もあると分かってきたんです。そうして、落とし込みが気持ちいいというか(笑)、思い描いていた以上の竿に仕上がっていったんです。それが今回の『鉾』ですよ。」

長い期間テストを繰り返したという『朱紋峰 鉾』。特に今回は穂先のテストに焦点が当てられ、徹底的なトライアンドエラーを繰り返したという。無垢部分とチューブラー部分の比率、肉厚、太さ、素材の吟味…。気の遠くなるような膨大なサンプルを用意し、机上ではなく実際のフィールドで実釣テストを繰り返したのだ。

「自分の場合、湖でボート釣りをやるじゃないですか。その時、ボートって水面が近いんですよ。だから振り込みの時に『先が垂れる竿』では、エサが水面を叩いてしまう。これがすごく気持ち悪いんです(苦笑)。あと、取り込みの時も、『先が垂れる竿』だとタモに入れる寸前に潜られちゃう。これがまた気持ち悪い。だからこの2点に関しては徹底的に無くし、『半無垢穂先なんだけど、垂れずに使える』というところを追求しました。そうすると半無垢穂先ならではの操作性の良さ、水切れ感…が際立ってくるんです。その接点を見つけ出すのに、本当に苦労しました。」

浅ダナ釣り向けの「半無垢穂先」を、チョウチンロッドに持ってくる。

そこにチャレンジすることで見えてきた、チョウチンロッドの新たなる「領域」。

それは、抜群の操作性を兼ね備えた奇跡的なチョウチンロッド誕生の瞬間だった。

主にシマノの浅ダナ向けロッドに採用されてきた「半無垢穂先」をチョウチンロッドにも採用したら、操作性を兼ね備えた硬式本調子の竿ができ上がるのではないか――――――? そんな発想からスタートした「朱紋峰 鉾」のプロジェクト。浅ダナで得られていたノウハウはいったんは捨て去り、チョウチン用としてゼロから作り直したという「半無垢穂先」は、無垢部とチューブラー部の比率に始まり、その素材や構造に至るまで、ミクロ単位でトライアンドエラーを繰り返してついに完成する。そして、まさに思い描いた「操作性抜群のチョウチンロッド」という、これまでにない領域の竿が誕生したのである。

「煉」の系譜を受け継ぐ胴部と、「力節」。

「鉾」専用に開発された「半無垢穂先」を得たことによってチョウチンロッドの新たなる可能性を高らかに宣言する「朱紋峰 鉾」。しかし穂先だけでなく、もちろんその胴部にもブラッシュアップをかけている。

「チョウチンに最適なパワー系寄りの胴寄り本調子で、基本的な路線は変えていません。ここは変えてはいけないと思いました。ただもちろん、進化はしています。あからさまな『変化』ではないですが、じっくりと向き合えば『良くなってるなぁ』とジワリと感じられるような、そんな玄人好みの『進化』です。

全体としては、『普天元 獅子吼』にも採用された『力節』が非常に効いていると思います。『力節』のメリットは、カーボン素材や厚さ等を変えないで『強さ』を演出出来る点に尽きます。しっとりと重厚感のあるしなやかなカーボンでも、『力節』でパワーを補うことができる。その結果として、振りごこち、使いごこちが非常に良い竿ができるんです。それは『獅子吼』を振っていただければ明白ですよね。そんなノウハウが今回の「鉾」にも存分に生かされています。

あと、全体の調子バランスとしては、今回は元をやや太めに設計しています。その理由としては、やはり先調子的な軽やかな操作性を演出したかったのと、『半無垢穂先』を採用したことによって取り込みの際に大型に潜られやすいということが無いようにしたかったからです。元が太く強めだと、タモに導く間際の感触が凄くいいんですよ。これはデータや数字には表れない釣り手の官能評価ということになりますが、今回はここはかなりこだわらせてもらいました。そしてこれもまた、昨年の『獅子吼』の長竿ラインで実践し、手応えを得ていたノウハウだったんです。」

へら鮒釣りは「引き味」を楽しむ側面が強い釣りである。しかしそんな中でも、タモに入れる寸前に潜られたり、暴れられたりというのは、実に「気持ち悪い」瞬間となる。深場からゆっくりと抜き上げてくる釣趣はチョウチン釣りならではだが、最後はタモにスっと導かれて欲しい。惚れ惚れする魚体を眺めながら、心に余裕を持って…。

「そうなんです。別に例会に勝つためとかそういうことじゃなくて、手前で潜られるのは単純に『気持ち悪い』んですよね(苦笑)。チョウチンロッドを謳うからには、そこは絶対に無くしておきたかったですね」

「獅子吼」譲りの「力節」を得たことによって、安易に素材を硬く強くすることなく得られた気持ちのいい「パワー感」。

元をあえて太めに設計することで、「半無垢穂先」によって得られた操作性を、さらに土台からサポート…。

何より徹底した実釣テスト、官能評価を最優先にすることで「朱紋峰 鉾」が誕生した。

あの「普天元 獅子吼」にも採用されている「力節(ちからぶし)」を搭載「朱紋峰 鉾」。本体自体を硬くすることなく「パワー」と「粘り」をプラスすることが可能で、その恩恵として、しっとりと最高の振りごこち、釣りごこちを損なうことなくパワーもある竿に仕上げられるのだ。

取り込みの瞬間に最後の抵抗を見せる大型。しかし、まったく動じていない西田の表情がお分かり頂けるだろうか。目線を上に上げれば、やや太めに設計された元部が目に入ってくる。この元部が働き、取り込む寸前の潜り込みを余裕を持っていなすことが可能となっている。「半無垢穂先」でどうしてもわずかに失われるパワーを補い、竿全体に絶妙な先調子感をもプラスし、「朱紋峰 鉾」の操作性を際立たせることに成功しているのだ。

細部にぬかりなし。

ブランニュー、「朱紋峰 鉾」。もちろん最新モデルらしく、細部にぬかりはない。

竿本体の構造としては、当たり前のように「スパイラルXコア」を採用。前作「朱紋峰 煉」の系譜にありながら、その実力は大幅に進化、そして「深化」している。
握りに関しても、最近のシマノのラインナップで次々と採用され、「手に張り付くようだ」と好評を得ている「しっとり綾織握りⅡ」を採用。チョウチン釣りでの操作性、大型とのやりとり、そして所有感…と、全ての面でランクアップしている。
デザインもまた、秀逸。
「朱紋峰 煉」の系譜を色濃く感じさせてくれる紅(あか)をベースに、今回採用された「力節」が品良く際立つような芽出し段巻を採用。理屈抜きで「カッコいい!」と思わず声をあげてしまうような、そんなデザインに仕上がっていると思う。また、これも「獅子吼」よろしく最終的には職人による手作業での仕上げとなり、カーボンロッドという工業製品でありながら、一本一本風合いが異なる和竿的な仕上げになっているのも嬉しい。
ラインナップとしては、7尺から16.5尺という、最も使用頻度が高くなるであろう短〜中尺域をカバー。7、8、9尺ときて、そこからはシマノならではの1.5尺刻み。10.5尺、12尺、13.5尺、15尺、16.5尺、という並びとなる。主に関西エリアで使用頻度が高い7尺からのラインナップも嬉しい。
「デザインに関しては、もう単純にカッコいいですよね(笑)。理屈抜きで『欲しい』と思わせるような、そんな色気のある仕上がりになっていると思います。それも奇をてらった方法ではなく、ちゃんと『煉』の伝統を感じさせてくれるのがまたいい。最高に気に入っています。」
クオリティの高い竿袋から口栓に至るまで、細部にぬかりはなし。「鉾」は最高のチョウチンロッドに仕上がっている。

「スパイラルXコア」と「力節」の合わせ技により、このように深場の大型に絞り込まれてもまったく動じない「朱紋峰 鉾」。安易に竿を硬くして強くするのではなく、しなやかに曲がりながらここまで「余裕」を感じさせてくれるのは、まさに技術の勝利。ぜひ体感してもらいたい。

「普天元 獅子吼」の竿掛けに乗せても決して負けない、重厚な存在感を放つ「朱紋峰 鉾」。「朱紋峰 煉」のアイデンティティーを受け継ぎながら、現代風デザインに昇華させている。「力節」が強調された芽出し段巻デザインは、おそらく多くの釣り人の心をつかむだろう。また、最終的には職人の手作業による仕上げが施され、一本一本風合いが異なるという、和竿のような贅沢も味わえる。

握りは好評を得ている「しっとり綾織握りⅡ」を採用。もちろん、「朱紋峰 鉾」専用のデザインが施されている。手のひらに張り付くような感触、絶妙なサイズ、テーパー…と、ここにも徹底した実釣テストによる官能評価が生かされている。

管理にも良し。ペレ宙にも良し。セットにも良し。段底にも良し。

異次元の「操作性」を得た「朱紋峰 鉾」の可能性。

異次元の操作性を得た新時代のチョウチンロッド「朱紋峰 鉾」。
西田の主戦場はもちろん湖でのボートフィッシングだが、こういった野釣りだけでなく、管理釣り場でも積極的に使っていきたいし、使って欲しいと語る。
「今回の『鉾』は、とにかく操作性が抜群。だからそれは湖のボートだけにいいわけじゃなく、どんなシチュエーションでも味わえると思うし、さまざまな場面で威力を発揮すると思います。管理釣り場でのチョウチン両ダンゴはもちろんのこと、繊細なサソイが求められるセット釣りにもいいですよね。また、サソイだけでなく、クワセの『置き直し」なんかを積極的に行う冬場の段差の底釣りなんかにも最高なんですよ。7尺の出番が多い関西圏の方には、ぜひ7尺チョウチンや7尺段底をやってみて欲しいですよね。たぶん、その釣りやすさに驚くと思いますよ。
また、チョウチンでなくても、管理釣り場のペレ宙や両グル、ペレ底などのようなパワー系の釣りにも最高でしょうね。これは『煉』もそうでしたが、今回の『鉾』は半無垢穂先を搭載しているので、さらにこういった半端ダナでの釣りに抜群にマッチするんですよ。これもまた、ぜひ試してみて欲しいです。」
無類の操作性を得たことによって、無限に広がる「可能性」を手にした「朱紋峰 鉾」。
2021年、全国各地で最強の鉾が振り下ろされる!

プロフィール

西田 一知 (にしだ かずのり)

[インストラクター]

関東へら鮒釣り研究会で97年、09年、10年、11年に年間優勝して史上5人目の横綱位に就く。09年シマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 第3位。30尺の使い手で長尺の釣技に長ける。「関東へら鮒釣り研究会」「コンテンポラリー・リーダーズ」所属、「KWC」会長。

※記事内で紹介されている製品は、旧モデルの可能性がございます。

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