2019/09/30
コラム
“特作 伊吹” ~梅雨の道満河岸、しっとりと底釣りで遊ぶ~【後編】
梅雨。しっとりと濡れた風情は、日本の四季ならでは。落ち着いた心情でへら鮒釣りと対峙するには、またとない季節だ。
名手・中澤 岳がやってきたのは、道満河岸へら鮒つり場。身近な釣り場で、味わいのある底釣りを愉しむ。
その右手には、しなやかに優しく曲がる「特作 伊吹」。
そこには、勝負の緊張感や山上湖のダイナミズムはない。
しかし、ゆったりと流れる“極上の時間”があった。
前編記事はこちら
ジタバタしたくなる。
9時、ここまでの釣果は7枚。へらのアタリはジワジワと増えてはきていたが、何枚か釣るとジャミ、というサイクルは変わらない。
やはり今日はジタバタしてはいけないのか。でも、ジタバタしたくなるのがへら鮒釣りの厄介なところ。まして人一倍探究心が強い中澤のことである。「さらに上」がないか、試行錯誤はすでに始まっていた。
まず着目したのがエサ。少し強過ぎる(重過ぎる)のではないかと考えた中澤は、最初のブレンドに「ダンゴの底釣り冬」を1杯(50cc)加え、水を100ccに増やす。やや比重を軽く、エサ持ちを良くした形だ。
しかし、これは見事に不発だった。
ジャミがいる間はジャミにつかまる確率が高まり、へらがやってきた時はスレが増える。
「明らかに最初のエサの方が、へらが寄ってきた時にガツっと釣り込めたよね。エサをちょっと変えただけでこんなに違うんだから、底釣りってやっぱり面白いなぁ」
ズラシ幅も色々と試してみる。そして、結局は最初のうえバリトントンに。
ズラし気味にすると、ここぞというところでのイトズレが増え、結果的には釣り込めないのだ。
「釣れ具合にすると、エサは重め、タナは軽め(浅め)にしとくのがいいね。渋いというよりは、チャンスで確実にとりこぼしなく拾えるようにしておく、という感じかな。
エサのタッチも面白くて、ある程度は硬くないとカラツンも出ないんだけど、軟らかくないとやっぱり喰わない。かといって軟らかくし過ぎるとジャミにやられて持たないから、そのあたりのギリギリの線を見極めていくのがまた、けっこう面白かったりするよね」
梅雨空の下、真剣な表情で道満の底釣りと向き合う。
長い長いキャリアを経て、今、どんな状況も「愉しむ」というスタンスで釣りと向き合っているという中澤。
管理釣り場での尖った釣りも、野釣りで1枚を追いかける釣りも、そして今日のように身近な釣り場でのジャミ混じりでの底釣りも…。
与えられた条件下で、「ジタバタする」のが、若き日から決して変わらない「中澤 岳らしさ」なのかもしれない。
腰を据え、底釣りを愉しむ。
3枚ほどパタパタと釣ると、再びジャミの弱い動きに戻る…。
そんなペースで釣りを展開していった中澤。このループから抜け出す手はないかと色々と試すのだが、今ひとつ決め手に欠ける。やはり今日は「ジタバタしてはいけない」のだろうか。
ハリを5号に落としてみるも、やはり状況は変わらず。午後になってもポツポツのペースから抜け出せない。
ただ、その状況と「伊吹」のマッチングには、中澤も思わず笑顔を見せる。
「いいよね。まさに竹竿感覚でのんびり愉しむには最高の釣り場だし、底釣りというのもいい。へらの型も9寸主体でちょうどいいしね。バクバクにはならないけど、その分、釣れた時の嬉しさも大きい。こんな釣り場は『伊吹』みたいな味わいのある竿でじっくりと愉しみたいよね。ある意味、とても贅沢な釣りだと思う」
相変わらず変化のない釣況。こうなるとまた、中澤の「飽くなき好奇心」が頭をもたげてくる。
13時、20枚を釣ったところで中澤が大きな変更に出る。ウキを10番から7番にサイズダウンしたのだ。
換えた直後、深くナジんだところで「タッ!」と落とすアタリが連続し、バタバタと3連続で絞った。中澤も思わず「これだったか!?」と口走るが、しかし、その後は元のペースに戻る。
それなら、と、今度はさらに小さい浅ダナ用のボディ6cmのウキにチェンジする。しかし、ウキが立つまでの時間が長くなっただけで、状況は不思議なほど変わらず…。
ならばペレット系のエサはどうか?と、「ペレ底」100cc、「ペレ軽」200cc、水100cc、というエサを作る。しかし、変わらず。
「ジャミをかわしながらの底釣りはすごく愉しかったし、他ではなかなか味わえないよね。『特作 伊吹』という竿のチョイスも、このシチュエーションでは凄く面白かった。ただ、本音を言えばもう少し『釣れる何か』を見つけ出したかったな。浅ダナで使うような軽いダンゴも試してみるべきだったね。また道満に来たくなったなぁ」
15時30分、30枚目を釣ったところで、中澤は釣りを終えた。
竿を仕舞う中澤の表情は、満足げでもあり、納得いかないふうでもあった。いつでも謙虚に釣り場と向き合い、状況を受け入れながらも、全力を尽くす。それこそが「中澤 岳」というアングラーなのであろう。
プロフィール
中澤 岳 (なかざわ たけし)
【アドバイザー】
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。
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