2019/09/20
コラム
“特作 伊吹” ~梅雨の道満河岸、しっとりと底釣りで遊ぶ~【前編】
INDEX
梅雨。しっとりと濡れた風情は、日本の四季ならでは。落ち着いた心情でへら鮒釣りと対峙するには、またとない季節だ。
名手・中澤 岳がやってきたのは、道満河岸へら鮒つり場。身近な釣り場で、味わいのある底釣りを愉しむ。
その右手には、しなやかに優しく曲がる「特作 伊吹」。
そこには、勝負の緊張感や山上湖のダイナミズムはない。
しかし、ゆったりと流れる“極上の時間”があった。
唯一無二、「特作 伊吹」。
「たまにふらっと来て、竿を出す。そんな釣り場かな。しっかりと管理されて環境は抜群だし、手頃な水深と魚影で、浅ダナや底釣りが面白いよね。今回はちょっと間が空いて2年振りくらい。久しぶりなんで、すごく愉しみにして来たんだ。ほら、この竹林も相変わらず見事だよね」
駐車場からキャリーバッグを引き、まるで京都を思わせるような見事な竹林を抜けると、釣り場の受付が現れる。この「竹林のトンネル」を歩く間に、日常から非日常へとスイッチが切り替わる。そんな演出もまた、名手・中澤 岳を惹きつけているようだ。
埼玉県戸田市の「彩湖」を中心に広がる「彩湖・道満グリーンパーク」の一角に、歴史あるへら鮒のつり場がある。それが今回、中澤が釣行した「道満河岸(どうまんがし)へら鮒釣り場」だ。荒川旧川の一部を利用した、いわゆる「凖・管理釣り場」的な装い。ガッチリとした木製の桟橋が整備され、魚影も濃く、平日も多くの釣り人で賑わっている。中澤が訪れた7月9日(火)も、早朝から続々と釣り人達がやってきて、思い思いのポイントに散っていく。
「凄い人気だね。これだけ環境が良くて、手軽で、首都圏からも近く、何よりよく釣れる。水深が手頃で、短めの竿で底釣りを愉しめるのも人気の秘訣だろうね」
平日にもかかわらずたくさんの釣り人達で溢れる釣り場に目を細めながら、中澤は中桟橋のほぼ中央、沖(東)向きに釣り座を構える。
たくさん釣るなら浅ダナ。しかし、中澤は迷わず「今日は底釣り一本でいこうかな」と言いながら、ロッドケースから「特作 伊吹」を引き抜いた。
●竿
シマノ【特作 伊吹】9尺
●ミチイト
1号
●ハリス
上下0.5号 27―30cm
●ハリ
上下オーナー【リグル】6号
●ウキ
パイプトップ15cm 羽根ボディ10cm カーボン足6cm
エサ落ち目盛は、全9目盛中、付け根
●エサ
ダンゴの底釣り夏 55cc
カルネバ 200cc
ペレ底 55cc
水 50cc
中澤が継いだのは、「特作 伊吹」9尺。シマノのへら竿ラインナップの中でも最も軟らかい部類に位置する竿だ。全身がカーボンでありながら、まるで純正竹の和竿を振っているかのような錯覚に陥る異色の竿。特に短竿はその味わいが強いと、中澤は言う。
「カーボンらしからぬズッシリとしなやかな感触があるよね。11尺以上は持ち重り感を軽減させるためにやや先に抜ける感触が強くなるけど、10尺以下はもうガッツリと竹竿の感触を愉しめる。竿全体の作りもそうなんだけど、やっぱり特徴的なのは穂先かな。ここまで太くて軟らかいチューブラー穂先は、カーボンロッドでは唯一無二だと思う。その感触を一度でも味わっちゃうと、定期的に無性に振りたくなっちゃうんだよね(苦笑)」
軽い仕掛けを操作しやすい振込性能や、ラインブレイクを防ぐ懐の深さから、スピーディーで繊細な浅ダナの釣りにもマッチする「伊吹」。しかし、1枚とのやり取りを存分に楽しむような釣りにもやはり最高で、そういう意味でも今回の道満河岸はベストな釣り場だろう。そして、中澤が選んだのは底釣り。水深は全体的に約1.5mほどと浅めで、まさに軟調子の竿で底釣りを愉しむにはうってつけの釣り場なのだ。
「久しぶりで状況が分からないから、まずは標準的な底釣りから入ってみるね」
7時、エサ打ちを開始する。ウキ下1.5mの底釣りは、側から見ると浅ダナ釣りの様相。きっちりと落とし込めるしなやかな竿がまた、釣趣をかきたてる。
周囲を竹林に囲まれ、背後の張り出した森の下では静かにタナゴ釣りを楽しむ人達の姿が。南側にある金魚釣り場も朝から大盛況だ。
梅雨時の静かな風情と活気が同居する中、淡々とエサを打つ。すぐに出たジャミアタリと遊んでいると、しだいにウキの動きが静かになってきた。
へらが来た。
時折パラっと小雨が舞う、梅雨時ならではの空。気温も低く、もう7月も半ばに差し掛かろうというのに18度しかない。レインウェアを羽織っていなければ「寒い」と感じてしまうほどの肌寒さだ。
しかし、気の持ち様とはよく言ったもので、今日のような落ち着いた底釣りを愉しむには、実は最高のシチュエーションなのかもしれない。
「悪くないよね。浅ダナでガンガン釣るテンションならまだしも、今みたいに落ち着いた底釣りを愉しむには、むしろうってつけの天候なんじゃないかな。そして、この梅雨があるからまた、カラっと晴れた夏が愉しいんだろうね」
へら鮒釣りの酸いも甘いも味わってきた中澤。速攻の浅ダナではなく、豪快な湖の釣りでもない。しかし、その表情はどこまでも愉しそうだ。
「ほら、だいぶジャミが静かになってきたよ。そろそろかな」
タナゴやクチボソが賑やかにウキを動かしていたが、30分ほど経った頃、そんなジャミの軽い動きが弱まり、ハリ掛かりもしなくなってきた。
そろそろか。
しっかりと多めの5目盛がナジんだトップが、返しを待たずに「タッ!」と2目盛、強く落とす。
「うん、これはへらだね」
大きくしなる「伊吹」。
その独特な引き味をじっくりと愉しんだ後、優しく水面に浮上したのは綺麗な9寸のへら鮒だった。
「いたね。そんなに大きくはないけど、綺麗なへらだなぁ。このへらが釣れるなら申し分ないよ」
1枚釣った後、再びジャミの動き。
それをやり過ごしていると、またウキの動きが重々しくなり、はっきりと落として、へら。
決してイレパクではないし、「いいペース」とも言えないが、途切れず、コンスタントにアタリを出していく。
「こんなペースもまた、時には心地いいね。それに今日はジャミがまたいいアクセントになっていて、緩いながらも釣りにメリハリとリズムをもたらしてくれている。嫌いじゃないね、こういう釣りも」
気が付けば広い釣り場には万遍なく釣り人の姿が。またタナゴ釣りも人気のようで、背後の巨木の下にはタナゴ釣りの方達も続々とやってきていた。
「あの釣りも奥が深そうだなぁ」
興味深そうにタナゴ釣りの方達を眺めつつ、中澤は自身の味わい深い底釣りにますます没頭していく。
「面白いんだよね。底釣りっぽい『返してツン』が少なくて、釣れる時は案外アタリが早い。ナジんでタッ!って感じで。で、別にウワズる気配もない。そこで宙釣りっぽい底釣りにしたらもっと釣れそうなんだけど、意外とダメ(苦笑)。ジタバタしないで腰を据えて、寄ってきたら早いアタリで何枚か釣り、またジャミアタリを愉しんで、という感じ。周囲を見ても、宙も底も飛び抜けて釣っている人っていないでしょ? でもそれがまた、ここ道満河岸の人気の秘密なのかもしれないね」
後編記事はこちら
プロフィール
中澤 岳 (なかざわ たけし)
【アドバイザー】
86年シマノジャパンカップへら釣り選手権大会準優勝、マルキユーゴールデンカップ優勝。06年と12年JC全国進出。07年と11年にシマノへら釣り競技会 野釣りで一本勝負!! 優勝。大学時代に学釣連大会の連覇記録達成。「関東へら鮒釣り研究会」所属、「クラブスリーワン」会長。
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