2022/12/02
コラム
そのチャンスは一生に一度かもしれない。 予想通りに訪れた大型ヒラマサとの攻防。
磯からのターゲットとして多くのアングラーを魅了するヒラマサ。
掛けたその瞬間、一気に根の荒い場所へ向かって走るそのパワーに、力及ばずラインブレイクしてしまった経験を持つアングラーも少なくないだろう。
特に大型になるほどそれは強烈で、大人でも体を引っ張られてしまうほど。
そんな大型のヒラマサを求めて、長崎県の五島列島の沖磯へ向かったのが上津原勉さんだ。
今回は2泊3日の瀬泊まりスタイルで大型のヒラマサを追う。
これが五島列島のポテンシャル。開始早々に多魚種が舞う。
時期は9月の下旬。この時の長崎県は夏の暑さが色濃く残る時期で、まだまだ秋らしさは感じられないような気温だ。
沖磯へ向かう船は、平戸エリアからお昼過ぎに出船となる。
近所のスーパーマーケットで3日分の食料を調達して、約1時間30分ほどの船旅の末に沖磯へ到着した。
「さっそく状況を確かめてみましょう」。そういうと上津原さんは、早々にタックルを準備し終えてメタルジグをキャストし始めた。
潮の流れ方や、ポイントの水深といった実際に投げてみないとわからない情報を集めていく。
「悪くなさそうですね」と、これまでの長い経験から状況をある程度整理し終えたのもつかの間に、上津原さんのロッドが急に絞り込まれた。
こうしてさっそく釣り上げられたのは、3kgクラスのカンパチ。
この夏らしさを感じられる魚の登場を皮切りに、小型のヒラマサ、ブリ、スマガツオなど様々なターゲットが姿を見せてくれた。
チャンスは一生に一度かもしれない。大型のヒラマサを追うということ。
楽しい時間はあっという間で、次第に日も傾いていつしか太陽も水平線の下へ。ヘッドライトで手元を照らしながら釣り続けるような暗さだが、上津原さんはまだまだキャストを続けていた。「やめられないんですよね。ここで来た経験があるから。」長年沖磯で釣りを続けてきた上津原さんはそう語る。記録的なサイズを掛けるチャンスは本当にいつ来るかわからない。それは今日かもしれないし、1年後なのか、10年後なのか。いや、一生に一度と言っても大げさではないと教えてくれた。ヒラマサを追うということは、その先には一生に一度かもしれないチャンスを掴めた感動が待っているのだ。この魚に多くのアングラーが魅了され、過酷な磯に泊まってまで追いかける意味が、この言葉に込められているような気がした。そうして次第に夜も更けて行き、辺りが完全に暗くなった所で1日目は終了となった。翌日の朝マズメに備えて準備を終え、磯に砕ける波の音を聞きながら意識は眠りに落ちていった。
依然として魚は高活性。反応はメタルジグに集中。
ついにチャンス到来。大型魚が来そうな前兆とは。
2日目のお昼も過ぎて、しだいに夕マズメを意識し始めた時間帯。そこでチャンス到来の前兆を感じられるような出来事があった。遠のいていた魚のアタリが急激に増え始めたのだ。アタリは相変わらずメタルジグに集中している状況。「海の中が一気に活気づいてきましたね、こういう時にデカイのも来ますよ」。確かな手応えを感じている上津原さん。意識せずともキャストする手元に力がこもる。そしてその時は予想通りに訪れた。ジジッジーッとこれまでとは明らかに違う「ステラSW」のドラグ音がけたたましく鳴り響く。「これはデカイ」そう確信した瞬間に「コルトスナイパーリミテッド」で一気に勝負をかけに行った所、見事魚を浮かせることに成功した。「姿が見えていますね、1メートルは越えていそうなヒラマサです」。そう言いつつも決して気を緩めていない上津原さんだったが、ヒラマサも最後の抵抗を見せて足元の岩場へ強烈に突っ込んだ。そしてこれが勝敗を分けた。ヒラマサは岩場に潜り込むことに成功し、気づけば魚の手応えは岩の感触に。「これがリアルですよ」。そう言い残す上津原さん。その表情には、自分の実力を出し切った納得感も感じられたが、悔しさを拭いきれない複雑な感情が渦巻いているように見えた。
その悔しさを忘れない。キャッチできなかったときほど学ぶことは多い。
大物の魚が来そうな前兆は捉えていた。ラインの状態も万全にしていた。掛けた瞬間にファイトの姿勢もしっかりと整えられた。実際に魚を浮かせることもできて姿も見えた。しかしあと一歩だった。惜しくも届かなかったのだ。これが沖磯という釣り場の難しさなのだろう。限られた場所で備えを万全にしていても、その感動は簡単に掴むことはできない。こうして2日目も終え、3日目の朝マズメに期待したが、お昼の前には納竿となった。
3日間全体の釣果を見れば十分なのだが、大物を逃した1匹の悔しさには、やはり忘れられないものがある。「これだからやめられないんですよね」そう語る上津原さんの目の奥には、リベンジを誓う熱い闘志の火がすでに灯っているように見えた。この釣りに慣れていても簡単にキャッチさせてくれないロックショアのヒラマサ。もし上津原さんが自己記録に迫るサイズをキャッチできた時は、いったいどんな表情がこみ上げてくるのだろうか。
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