藤の花が咲き乱れていた新緑の川は、すっかり深い翠(みどり)に包まれていた。頭上から蝉時雨が降り注ぐ。山形県小樽川に夏がやってきた。

「小樽川はバッタやトンボなどの陸生昆虫が非常に多く、むしろ川虫のほうが少ない川なんです。新緑の季節が終わり、陸生昆虫が動き始める季節になると、これらを食べてヤマメの型がグッとよくなります。夏以降は良型狙いの絶好期ですね」

米沢市在住の我妻徳雄さんにとって、小樽川は慣れ親しんだ川のひとつ。幼少時から竿を出し、遊びを通してヤマメの生態を学んだ。我妻さんが釣りを語るとき、学術的な言葉はほとんど出てこない。天候により、水温により、時間帯により、「今日はなんとなくここ」といった具合に目星を付けるが、この“何となく”がかなりの精度で的中するのである。穏和な語り口に人懐っこい笑顔。おごった雰囲気は微塵もない。しかし氏をよく人はみな、「我妻さんは本当によく釣る」と口を揃える。

朝夕は涼しいものの、日中はうだるような暑さ。盆地特有の気候である。草を掻き分け、里川としてはやや深い谷筋に下り立ったところで竿を伸ばした。

この日、我妻さんがセレクトした竿は 『テクニカルゲーム攻隼(こうしゅん)ZA S硬調60』。極軟グラスソリッドのビビッドトップⅡを搭載した最新のテクニカルゲームだ。

「このところ渇水が続いていて、ヤマメの喰いが渋いと予想しているんです。ビビッドトップⅡは弾くようなアタリでもしなやかに追従して、エサを吐き出されにくい。喰い渋っていても、待って喰い込ませることができるんですよ。今日のコンディションにうまくハマるといいんですけどね」

陸生昆虫が多い小樽川は、夏以降が良型狙いの絶好期。

里川という言葉がピッタリの小樽川だが、やや深い谷筋に入ると人工物が一切なく、自然渓流の雰囲気を楽しめる。

ギュッと絞られた流れが深みへ落ち込む箇所へ仕掛けを振り込む。典型的なヤマメポイントである。流れの壁で背筋を伸ばした仕掛けを、ややブレーキを掛けながら流す。しかしアタリはない。投入点と狙う筋を変えつつ数投し、気配がなければ次のポイントへ移る。

3カ所ほどポイントを探ったところで、最初の1尾が喰ってきた。22〜23㎝だろうか。大型とはいえないまでも、なかなかのサイズである。しかし我妻さんの表情は冴えない。

「当たり前のポイントで喰ってこないんですよ。本来ならいい型のヤマメが着いているはずの流れ込みでアタリがないんです。ひょっとすると水温が高いのかもしれませんね」

やがて小さなポイントが連続する浅い瀬に差し掛かった。ハリスはフロロカーボン0.3号。ガン玉は我妻さんとしては軽めの1〜2号。流れが滑る場所ではテンカラ釣りのようにエサを表層の流れに乗せ、ちょっとした深みでスッとエサを落とし込む。仕掛けが流れと同化し、川底の凹凸をなぞるような美しい流しである。

やがて浅い瀬で25cmクラスをキャッチ。ここで我妻さんはひとつの確信を得たようである。

竿出しから間もなく1尾目が喰ってきたが、セオリーどおりのポイントではアタリがない。なぜか……。

ヤマメの活性が高かったのは浅い瀬。流れが滑る場所ではエサを表層の流れに乗せ、ちょっとした深みでエサを底へ入れる。

イワナも喰ってきた。上流部へ行くほどヤマメの数が減り、イワナの割合が高くなってくる。

「白泡の脇にできる緩流帯でヤマメが喰ってきますね。水当たりがよく、水温が低い瀬に魚が出てきているということは、やはり水温が高いようです。また渇水時は水中の酸素量が減少しますし、ヤマメも神経質になりがち。その点、瀬は酸素量が豊富で、白泡がカーテンとなって釣り人の気配を消してくれますからね。今日はできるだけ遠くから仕掛けを打って、オモリも軽めにしています。一度でもアワセ損ねると、以降はアタリがなくなることもあるので、一投一投丁寧に流すように心掛けています」

数少ないアタリを確実にフッキングへ持ち込みたい。このような状況下では、しなやかで魚がエサを咥えている時間が長いビビッドトップⅡが最も威力を発揮する場面だ。

「軽いオモリとの相性もいいし、ビビッドトップⅡは初代よりも感度が向上しているので、微かなアタリを察知できるのはもちろん、手に伝わる感触でエサが流れている層もある程度判断できます。解禁当初の喰い渋り時だけでなく、渇水時や高水温でヤマメの活性が低下しているときも有効ですね」

ビビッドトップⅡは軽いオモリとの相性もよく、手に伝わる感触でエサが流れている層もある程度把握できる。

高水温時は少しでも水温が低い場所を狙うのがコツ。一度アワセ損なうとアタリが途絶えることがあるので丁寧に攻めるようにしたい。

しなやかなビビッドトップⅡは魚がエサを咥えている時間が長い。喰いが渋くてもじっくり待ってくい喰い込ませることが可能。

高水温期は少しでも水温の低い場所を狙うのがセオリーだ。水温が低いという意味では、朝夕の涼しい時間帯も有望である。暗い時間帯は深みに潜んでいたヤマメも、水温が上昇する日中は瀬に出てくるとのこと。また日陰になったポイントにもヤマメが着いている。

「浅い瀬では仕掛けが手前にもたれて流れから外れがちなのですが、しなやかなビビッドトップⅡは不要に仕掛けを引っ張らず、ナチュラルに流せます。初代のビビッドトップよりやや張りを持たせたせいか、操作性がかなり向上しています。穂先絡みが抑えられ、投入精度もアップしていますね」

アンダーキャストでピンポイントへ仕掛けを送り込んだかと思えば、頭上に木の枝が覆い被さっている場所では、バスフィッシングでいうロールキャストの要領で障害物の奥へエサを落とす。穂先を身体の前でクルリと回すと、仕掛けが生き物のように“の”の字を描き、スルリと前方へ伸びていく。そして、おそらく誰もエサを入れていないであろうポイントで、目印がパンと弾けるのである。

「ビビッドトップを搭載したテクニカルゲームは穂先のしなやかさが一番のフューチャーポイントであることは確かなのですが、今回の『テクニカルゲーム攻隼(こうしゅん)ZA S硬調60』は掛け調子も気に入っています。喰わせてからは『弧渓(こけい)ZM』『翠弧(すいこ)ZL』の本調子に寄った、竿全体が曲がる調子なんですよ。中小型の数釣りを得意としながらも、40cmオーバーが喰っても楽に引きをいなすことができますね」

渇水&高水温という状況下でのキーワードは「瀬」と「日陰」。パターンをつかんでからはコンスタントにアタリがあった。尺上の良型は出なかったものの、2時間ほど釣り上がって脱渓ポイントに辿り着くまでに20〜25cmのヤマメを10尾ほど釣ることができた。   

身体の前で穂先をクルリと回すと、仕掛けが生き物のように“の”の字を描き、エサがポイントへ吸い込まれていく。木の枝が張り出しているような場所で活躍するハイテクキャスト法だ。

パターンをつかんでからはコンスタントにヤマメが喰ってくる。

約2時間の釣りで10尾強の釣果。白泡の脇にできる緩流帯でのアタリが多かった。