“無双”の原点にして分岐点 引き釣りの衝撃
矢作川の職漁師との出会いが、小澤剛のターニングポイント。それは引き釣りへの開眼でもあった。
「25年くらい前に伸び悩んだ時期があったんです。全然釣れないし、釣果も上がらない。そんなときに矢作川の職漁師さんをホームの巴川で見かける機会があって、その圧倒的な釣果に本当に驚かされました。これはもう、おぼえるしかないだろうと……」
当時、小澤は最先端の泳がせ釣りを試していたがしっくりこなかった。引き釣りをおぼえるしか、ここから脱却できないと思った。だから職漁師を観察して技を盗み、引き釣りにチャレンジする決心をした。
「その漁師さんはなかなか教えてくれなかったので、立ち位置とか穂先の曲がり方を延々と目に焼き付けて、それを実践するという形だったんですけど、チャレンジしたその日に『何だこれは!』と思うくらい衝撃的な釣れ方をしたんです」
オトリを動かして掛ける 理想はしなやかに曲がる竿
小澤は引き釣りをマスターして、つかみ取った真理がある。
「オトリに動いてもらえるか、動かすか。その差は大きくて、狙って掛けにいけるようになったのが大きかった。だからみんなにおぼえてもらえたらと、いつも思っています」
積極的に掛けにいく。そう聞けば張りのある竿が必要だとイメージしがちだが、そこは逆である。矢作川の職漁師は弾性の低い古い竿を使っていた。張りが強すぎる竿はオトリを引くときに突っ張り感が生じ、決して引き釣りに向いているとはいえないのだ。また、現在の小澤のトレードマークといえるスペシャル競FWも引ける竿ではあるが、積極的に引くことに焦点を当てた調子ではない。
「糸の張り加減、自分のテンションの基準が分かりやすいのがスペシャル競FW。それが理解できたら、ほかにも自分が操作しやすい竿を見つけてほしい。そのきっかけにしたかったので、常に一番とは思っていないんです」
ゼロオバセ中心の釣りになる以前、小澤はしなやかに曲がる竿が好みだった。オトリを動かす釣りにはやはりそんな調子がいい。さらに今の技術でもっと軽くした竿がほしいと思っていた。小澤の指はたとえるなら微弱なテンションを感じ取るセンサーである。それは竿が軽ければ軽いほど精度が上がっていく。軽量かつ胴調子であるエアロドライバー90の話が舞い込んだのは、そんなときだった。
「高速引きはスペシャル競FWでもできるんだけど、曲がりの戻りが速くて神経を使うんです。エアロドライバーは曲げたらジワッ、ジワッと戻って微調整してくれる。まっすぐ引くだけじゃなくて広範囲にも探れる。しなやかさの中に芯があるので上方テンションもやりやすいし、ピンポイントも狙えます。ベタ川で威力を発揮する竿かもしれないけど、引くだけが全てじゃないので、僕は長良川や白川でも普通に使いますよ」
引ける、抜ける、釣れる。圧倒的に楽しい軽量胴調子
猿渡とともにエアロドライバーのテストと撮影をおこなった長良川の3日間。小澤はオトリを引きまくり、そして野鮎を掛けまくった。圧巻は中央エリアのメジャーポイント、鮎之瀬。流心が左岸テトラ側に寄る絞り込みで腰まで立ち込み、良型を次々と抜いた。目印にアタリが出た瞬間すでに竿は天を向き、大きく竿が曲がり込んだかと思えば掛かり鮎は一瞬で水を切る。凄まじい速攻の抜きで引舟を満タンにした。
「楽しい竿ですね。本当はこういう曲がる竿が大好きなんですよ。ほしいと思ってたから話が出たときは『やっときた!』みたいな(笑)。もう調子的にはこれとスペシャル競FWがあれば十分なくらい。僕がほしかった2つの“黄金調子”のひとつです」