早朝。
民宿の玄関を出ると、キンと冷えた空気が全身を包んだ。思わずシャツの襟を立てる。猛暑が続いた2025年だが、9月の木曽谷には駆け足で秋が訪れていた。
「一気に寒くなりましたね。2週間前とはかなり状況が変わっていると思います。うまいこと釣れればいいのですが……」
釣り人の井上聡さんとは、今期二度目の木曽谷釣行となる。初回はちょうど2週間前の9月上旬。スーパーゲームベイシスを携えての本流狙いだった。
(『ようこそ渓流釣りの世界へ』 Vol.81、82 / 木曽谷の本流アマゴに挑む前後編を参照)。
Vol.81 井上聡 木曽谷の本流アマゴに挑む(前編)
Vol.82 井上聡 木曽谷の本流アマゴに挑む(後編)
記事でレポートしたように当日は尺上アマゴが釣れ、実に満足のいく釣行になったわけだが、気を良くした井上さんは、撮影後にひとりで残業(?)を決行。事前のリサーチで目を付けていた木曽川の支流で竿を出したところ、これもまた尺上のアマゴを釣り上げてしまった。氏が無類の釣り好きで、川を見る目、釣技ともに抜きん出た人であることは承知しているが、その引きの強さにも感服してしまう。
そんな木曽谷釣行の数日後、井上さんから2026年の新製品・3代目『弧渓』が完成したとの知らせが入った。すでに渓流シーズンは終盤に差し掛かっている。弧渓を試すなら今しかない。このようないきさつで、再び木曽谷へと車を走らせることになったという次第である。
しかし2025年の9月は豪雨に悩まされた。増水と濁りに釣行の延期を強いられ、ようやく竿を出せるコンディションに落ち着いたのは9月下旬。まさに禁漁直前というタイミングであった。
「アマゴも産卵を控えてナーバスになっているだろうし、すでに沢に入って産卵の体勢に入った個体もいるでしょう。難しい釣りになるかもしれませんね」
竿を出すのは、2週間前に井上さんが尺上を仕留めたばかりの小川(おがわ)である。
今回は出来上がったばかりの『弧渓』を携えての木曽谷釣行。狙いは産卵を控えたシーズン後期のアマゴである。
本命河川は木曽川の一次支流である小川。釣行直前には尺上のアマゴが釣れていた。
釣り人は井上聡さん。初代から弧渓の開発に携わってきた渓流のオールラウンダーである。
小川は木曽御嶽山の南に位置する阿寺山地に源を発し、上松町付近で木曽川本流に合流する一次支流。流域は木曽ヒノキの産地として知られる所だ。
まず入ったのは木曽川との出合いから2kmほど入った所。川幅自体は本流竿を振れるくらいの規模があるが、ひと抱えほどの大きさの岩が無数に入っており、長い筋を線で流すというよりも、小さな筋を細かく攻めていくタイプのポイントである。まさに小継竿にピッタリの川相だ。
井上さんが手にした竿はもちろん弧渓。H61とラインナップ中で最もパワーのあるアイテムを選択した。
「季節柄、いつ大物が喰ってくるかわかりませんからね。後悔しないためにも、しっかりとしたタックルでやります」
天上糸はナイロン0.8号の移動式。その下にナイロン0.6号の水中糸を結ぶ。ここ数年、井上さんはナイロンラインを愛用している。しなやかで水中をナチュラルに漂うため、魚に対して自然にエサを見せることができる、というのがナイロンを多用する理由なのだとか。
手尻は竿丈ちょうどからマイナス30cm。小継竿では、やや短めの手尻が扱いやすい。
ハリは渓流バリの8号。エサはミミズをメインにサブとしてブドウムシを持参した。
いざ実釣。小継竿の機動力を活かし、小さなポイントをテンポよく攻めていくがアタリはない。
「前回に竿を出したときは結構アタリがあったのですが、今回はまったく反応がないですね。魚が動いたのか、それとも誰かが攻めた後なのか。理由はわかりませんが、ちょっとこのポイントは期待できませんね」
気配がないなら長居は禁物である。ここは潔く見切りを付け、上流のポイントを目指した。
長雨の影響で、木曽に訪れたのは9月も下旬に差し掛かる頃だった。ススキの穂がたなびく小川の周辺には、すでに秋の気配が漂っていた。
尺上アマゴを仕留めてから半月が経っていた。再びアマゴは喰ってくるだろうか。期待を込めてタックルをセットする。
小川の下流部は開けた渓流域。岩で分けられた無数の小さな筋を攻めていく。
竿は2026年にデビューする『弧渓』。負荷に応じて胴まで曲がりが入る「本調子」の中核となるアイテムだ。
エサは市販のミミズをメインとした。サブとしてブドウムシも持ち歩くが、ほぼミミズで通した。
次に入ったのは小川の中流部。ここまでくると川幅がグッと狭まり、水量もある。所々に岩盤もあり、野性味のある川相である。
竿を出してしばらく、水深のある流れ込みでこの日初めてのアタリがきた。Hクラスのパワーをもってすれば、手こずるほどのサイズではない。掛けた場所から一歩も動くことなく、一気に引き抜きで勝負を決める。玉網に収まったのは20cm級のアマゴ。婚姻色が出て、魚体は黒ずんでいた。
「予想はしていましたが、やはり産卵間近の魚ですねぇ(笑)」
しかしこの1尾で、井上さんは弧渓の感触を確かめたようである。
「負荷に応じて胴まで曲がり込む本調子の良さはそのままに、振り調子、掛け調子ともにスッキリとシャープになった印象ですね。スパイラルXコアを採用したためか流す際にブレにくいし、引き抜くときの軌道も安定しています。それでいてしっかり粘るので、やり取りで不安に感じることはないし、安心して魚を抜けますね」
続けざまにもう1尾アマゴを追釣。これはサビもなく、綺麗な魚体だった。
「釣っていて楽しい竿です。前モデルは重めのオモリとの相性はよかったものの、軽いオモリや小さいエサは振り込みにコツを要しました。新しい弧渓は重量を乗せやすいので、軽いオモリも楽に乗せることができます。キンパクやヒラタといった小さなエサも使いやすいはずです」
思えば、今回の井上さんは片手で竿を操作する場面が多い。穂先の止まりが遅く、振り戻しの大きい竿は手首に負担が掛かるため、いくら6mクラスの小継竿といっても片手で扱うのは辛いはずだ。持ち軽さ、振り軽さが向上した弧渓だからこそ、自然に片手で操作する場面が増えたのだろう。
一方のアマゴはこれにて打ち止めであった。近年の季節は四季ではなく“二季”になったと言われるが、まさにこの言葉のごとく、一気に秋が深まったように感じられた。
「小川のアマゴは産卵態勢に入った個体が多いように思います。ちょっと大きく移動してみましょうか。一度も竿を出したことはないのですが、面白そうな川があるんですよ」
中流域に差し掛かると川幅がグッと狭くなり、水量も増してきた。いかにもアマゴが潜んでいそうな雰囲気である。
満を持して弧渓がアマゴの引きをとらえた。スパイラルXコアでビルドアップしたブランクスは軽いうえにブレにくく、中〜小型であれば片手でも楽にやり取りすることができる。
魚が浮いたら一気に抜く。引く抜く際も竿の軌道が安定しているので、魚をコントロールよく玉網へ導くことが可能だ。
この日最初のアマゴは20cm前後。すでにサビと呼ばれる婚姻色が出ていて、産卵間近の個体であることがうかがえる。
次に喰ってきたのはサビのない綺麗なアマゴだった。半月前は好調だった小川だが、この日はアタリが散発。午後からは大きく場所を移ることにした。
昼食を取った後に向かったのは阿寺川(あてらがわ)である。木曽路へ出向いたことがあるなら、阿寺渓谷の名をご存じの方もいらっしゃるだろう。「阿寺ブルー」と称される美しい流れで人々を魅了する景勝地である。
川沿いの道路は、基本的に一般車の乗り入れは禁止されているが、釣りを目的とする場合は入口のゲートで係の方に鑑札を提示すれば通行は可能。ただし、車はキャンプ場手前に設けられた釣り専用駐車場のみに置くことができ、道路沿いには空きスペースがあったとしても駐車は厳禁である。その他、詳細については次回にご説明しよう。
さて、阿寺川だ。とにかく流れが美しい川である。入口ゲートで撮影で訪れた旨を伝えると、丁寧に川や釣りに関するルールを教えてくださった。
夕刻が近づいていたため、めぼしいポイントを足早にチェックしていく。まずはイワナがヒット。やや上流ではサビの出ていない綺麗なアマゴが喰ってきた。
「型はさほど大きくありませんが、阿寺川の魚のほうがコンディションはいいようですね」
翌日は阿寺川を攻めてみよう。こんなことを話し、初日の釣りを終えることにした。
(次回へ続く)
午後から入ったのは阿寺川。エメラルドグリーンの美しい流れは「阿寺ブルー」と称され、川沿いの遊歩道が開放される時期には多くの観光客が訪れる。
めぼしいポイントをテンポよく攻めていくと小気味よいアタリがきた。走りを止めて一気に引き抜く。
喰ってきたのは元気なイワナ。観光客が行き交う遊歩道の真下での釣果だ。
上流ではアマゴも釣れた。小川に比べてサビの出た個体が少ない。翌日、再度じっくりと阿寺川を釣り歩くことにした。