本流に潜む大アマゴを求め、長野県の木曽谷を訪れた今回の旅。一時は台風にともなう増水で気をもんだものの、釣行初日で目標に掲げた尺上アマゴを釣り上げることができた。
「アウェーの釣り場で思い通りに大物が釣れると、やはり嬉しいですね。どうにか初日で狙いのサイズが釣れたので、2日目は一度も竿を出したことがない場所を攻めてみましょうか」
重責を果たした井上聡さんの表情にも、いくぶん余裕が感じられる。せっかく竿を出すなら大物を釣りたい。こう思うのが釣り人の性である。なかなか結果を出せないときは暗いうちから川へ向かう井上さんだが、この日は朝食を食べてからゆっくりと宿を出た。朝一番に向かったのは、木曽川の本流である。
「産卵を意識した個体は、秋になると徐々に産卵場である支流へ移動します。本流を攻めるにはやや時期が遅いかなぁとは思うのですが、せっかく訪れた木曽谷です。魚が出るか、一応はやってみましょう」
2025年も気がつけば9月。すでにシーズンは終盤を迎えている。四方の沢から水を集め、蕩々と流れる木曽川の本流で大アマゴと出会えるのだろうか。2日目の釣りが始まった。
木曽谷の大アマゴに挑む旅は2日目を迎えた。季節は秋。産卵を控えた大型の個体は、我々の思いに応えてくれるだろうか。
釣り人は全国を股に掛ける渓流師・井上聡さん。持ち前の探究心と行動力で、あまたの処女地で大物を釣り上げてきた。
本流を巡る旅の相棒は『スーパーゲームベイシス』。川の規模や水量に応じてアイテムを使い分けた。
朝一番に向かったのが木曽川の本流。釣り人が小さく見えるほどの大岩がゴロゴロと転がるダイナミックな川相だ。
まずエントリーしたのは、道の駅・木曽福島下のポイント。かつては激しい流れで山肌を削り、深いV字渓谷を作り出した木曽川。多くのダムによって治水がなされた現在は流れもすっかりおとなしくなったが、物置小屋ほどの大岩がゴロゴロ転がる川相は、かつての暴れ川の面影を『残す。水量もたっぷりあり、まさに大本流といった風情である。
井上さんがセレクトした竿は『スーパーゲームベイシスH85-90Z』。川の規模からすれば、竿は長尺の一択であろう。
仕掛けは前日と同じく、ナイロン1号の通し。ハリはヤマメバリ9号。尺上に照準を絞ったストロングセッティングである。
井上さんは、水深のある長い流れ込みに仕掛けを投じた。流れの手前、奥、流心脇の反転流……。少しずつコースを変えながら仕掛けを流すがアタリはない。
「アマゴの気配が感じられませんね。もう支流へ入っちゃったのかなぁ……」
やや釣り上がったところで微妙なアタリがきた。大バリを口いっぱいに頬張っていたのはウグイだった。
「これがアマゴより先に喰ってくるようでは厳しいですね。このポイントは見切って大きく移動したほうがよさそうです」
ここから大きく上流へ移動し、かねてより井上さんが目を付けていたポイントを覗いてみるが、残念ながら先客がいた。
「それならば、思い切って支流に入ってみましょうか。空撮アプリでこの周辺を調べていたところ、ちょっと面白そうな川があったんですよ」
井上さんにとって釣りはおろか、訪れたことさえないまったくの処女地。当然、情報などゼロである。初めての釣り場を、井上さんがどのように攻略していくのか。手の内を拝見させていただくことにしよう。
水量たっぷりの木曽川本流。9mの本流竿を気持ちよく振ることができる。
期待の木曽川本流だったがアマゴの気配はない。少しずつ上流へ移動しながら丁寧にポイントを探った。
この日初めてのアタリはウグイ。「これが真っ先に釣れてくるようでは厳しいですね」と井上さんは苦笑い。
国道下の深い谷の底には雄大な景色が広がっている。まさに大本流である。
木曽福島から30分ほど車を走らせ、辿り着いたのは伊奈川。前日に竿を出した王滝川と同じく木曽川の支流であるが、王滝川が御嶽山地を源流とするのに対し、伊奈川は木曽山脈が水源という違いがある。
「伊奈川は3000m近い山脈から一気に流れ下ってくる川なので、非常に落差のある渓相をしています。石も大きいし、水も太い(多い)。こういう川は大好きですね(笑)」
伊奈川に限らず、木曽川の東側から流れ込む支流は、総じて石が白っぽいという特徴がある。これは木曽山脈を形成する木曽駒花崗岩と呼ばれるもの。思えば王滝川をはじめとする木曽川の西側の支流は石が黒っぽく、火山由来の柱状節理も随所に見られる。
「そのせいか、木曽山脈側の川で釣れるアマゴは白っぽい個体が多いと聞いています。そんな色白アマゴをぜひとも釣ってみたいですね(笑)」
初めての釣り場では、どこがポイントなのかわからない。こんなとき井上さんが駆使するのが携帯の空撮アプリ。空撮画像を拡大していくと、淵や瀬といった川相をある程度は把握することができる。
いくつか目星を付けた場所の中から、まずは田光発電所近くのポイントから様子を見ることにした。川は渓流相で、一見すると小継竿でも攻められそうな規模である。しかし伊奈川は水量があり、立ち込める場所も多くない。水深のあるポイントで仕掛けをなじませ、狙いのスジをしっかり流し切るには、小継竿より本流竿のほうが使いやすいだろう。
ここで井上さんがセレクトしたのは、『スーパーゲームベイシスMH80-85Z』。本流だけでなく、規模の大きい渓流域でも使えるユーティリティロッドである。
しかし、ここぞというポイントを数カ所攻めてみるもアタリはない。
「よく見ると川底に砂が溜まっている所が多いんですよね。このような場所はエサとなる川虫が少なく、アマゴの着きも悪い。違うポイントを探したほうがいいんじゃないかな」
このポイントは早々に見切り、さらに上流を目指すことにした。
かねてより井上さんが目を付けていたフィールドが伊奈川。川幅こそ狭いが、水量があって立ち込めない場所も多く、小継竿では攻めにくい。
伊奈川で井上さんが手にしたのは『スーパーゲームベイシスMH80-85Z』。水量のある渓流域でも使いやすいアイテムだ。
木曽山脈を源とする伊奈川は白っぽい花崗岩系の岩が目立つ河川。釣れてくるアマゴも体色の白い個体が多いという。
漁協が発行するポイント図を片手に、携帯の空撮アプリで釣り場の確認をする。どこが狙い目か、禁漁区はどこか。初めての釣り場で井上さんが行う儀式である。
川沿いの林道を走ること数分。目の前に車止めのゲートが現れた。ここが車で入れる最上流である。
ゲート手前に架かる橋の上から川を覗くと、淵尻のウケに定位する魚影が目に入った。
「いますね。やってみましょう!」
こう言うやいなや、井上さんは竿を手にして川へ降りていった。
大岩の陰から魚が見えた場所へしつこく、かつ緻密にエサを流し込んでいく。しかし、一度まとまった流れが開くポイントゆえに、なかなか見える魚の口元へエサを届けることができない。仕掛けを打ち直すこと数回。水面上で揺らめく目印が怪しく身悶えた。
一撃である。取り込みやすい位置まで足場を移動し、魚を怒らせないようゆっくりと寄せてくる。玉網に滑り込ませたのは25cmクラス。取り頃サイズのアマゴであった。
「狙いどおりに釣れてくれました。初めての川で釣れた魚は、サイズに関係なく嬉しいですね」
魚体に目を移すと、やはり体色が白っぽい。おそらく木曽山脈の水が流れるここでしか出会えない魚なのだろう。
「スーパーゲームベイシス』は2〜5番節にやや張りを持たせ、胴調子でありながらクイックなフッキングレスポンスを備えています。昨日、そして今日と、数少ないアタリをしっかりフッキングに持ち込めたのも、スーパーゲームベイシスのおかげかもしれませんね」
この後、可愛いサイズのイワナを1尾釣り上げたところで竿を納め、楽しかった木曽谷の旅を終えた。美しい景色、そして美しい魚。井上さんにとって大好きなフィールドが、またひとつ増えたことだろう。
車で行ける最上流のポイント。水力発電所からの水で一気に水量が増し、大きな淵が形成されている。
魚が見えた場所へしつこくエサを流し込む。センチ単位で仕掛けを流すコースをコントロールする、繊細なアプローチが展開された。
喰った。取り込みやすい場所へ足場を移し、ゆっくりと魚を寄せてくる。
取り込んだのは25cmクラスのアマゴ。初めての川で、初めて釣り上げた1尾。喜びもひとしおである。
白い岩を映したかのような色白のアマゴ。おそらく、木曽山脈の水が流れるここでしか出会えない魚である。