信濃国と美濃国の国境にまたがる鉢盛山に源を発し、伊勢湾に注ぐ木曽川。その上流部、西を御嶽山地、東を中央アルプスに挟まれた地域を「木曽谷」と呼ぶ。
木曽谷一帯は森林資源に恵まれ、とりわけヒノキは江戸城や名古屋城、伊勢神宮などに使われていることで知られる。安土桃山時代には豊臣秀吉によって厳格に管理されていた木曽のヒノキは、ときが経った現在も青森のヒバ、秋田の杉と並ぶ銘木として全国に名を馳せる。

「八千八谷」とも呼ばれる山林地帯の中心を流れるのが木曽川。深いV字渓谷を形成した木曽川の本流には、無数の支流が流れ込んでいる。
「支流といっても9mの本流竿を楽に振れる規模の川もあります。尺を超える大物もいるはずです。いつかは木曽谷の大アマゴを釣りに行きたいですね」

群馬県在住の井上聡さんと、こんな話をしていたのはいつのことか。そして2025年シーズンも終盤に差し掛かった9月上旬、やっと憧れの木曽谷で竿を出す機会が訪れたのである。
「時期的に、産卵を控えた個体が上流へ移動する頃です。木曽川の本流にするか、それとも支流へ入るほうがいいのか、釣り場のセレクトが難しい季節ですね。初夏に一度、試し釣りに来てみたんですよ。そのときは型が今ひとつだったのですが、大物の気配は感じています。今回はぜひとも尺アマゴを仕留めたいですね」

しかし、である。

9月3日に南大東島の南東海上にあった熱帯低気圧が急激に発達して台風となり、その2日後には四国、紀伊半島に上陸する事態になったのである。そして我々が木曽に入ったのが、まさに台風が本州南岸を通過した9月5日であった。

夕刻には台風は過ぎ去っていたが、木曽川の本流は濁流が渦巻いていた。井上さんの表情が曇る。
「せっかく木曽に来ましたが、明日の釣りは厳しいかもしれませんね」

このまま増水と濁りが続くようなら、木曽を諦めて大きく移動しよう。こんな話をしながら頭を垂れた釣行前夜。この時点ではまさか木曽谷で釣りができるとは思っていなかった。

今回選んだフィールドは木曽川水系。支流でも本流竿を楽に振れる場所がいたる所にある。

今回選んだフィールドは木曽川水系。支流でも本流竿を楽に振れる場所がいたる所にある。

目標はズバリ尺アマゴである。すでにシーズンは後期。産卵を控えた個体が上流へ移動するため、ポイントのセレクトが非常に難しい季節だ。

目標はズバリ尺アマゴである。すでにシーズンは後期。産卵を控えた個体が上流へ移動するため、ポイントのセレクトが非常に難しい季節だ。

釣り人は井上聡さん。木曽谷は過去に数度訪れただけの地である。「初めて竿を出す場所も多く、ワクワクしますね」

釣り人は井上聡さん。木曽谷は過去に数度訪れただけの地である。「初めて竿を出す場所も多く、ワクワクしますね」

明けて翌朝。朝もやのなか車を走らせ、まず向かったのは大滝川である。王滝川は御嶽山の外輪山にあたる継母岳を水源とし、木曽福島で木曽川本流に注ぐ一次支流だ。支流とはいえかなりの川幅と水量があり、9mの本流竿でも攻めきれない大場所も随所に存在する。

牧尾ダムの上流に架かる橋の上から川面を覗くと、水位こそ20〜25cmほど高いものの、濁りはすっかり消えている。昨日の濁流を思えば、奇跡ともいえる回復ぶりである。
「よし、やってみましょう!」

井上さんはこう言うと手早く支度を済ませ、颯爽と川へ降りていった。

この日、井上さんが手にした竿は『スーパーゲームベイシスH85-90Z』。ラインナップの中で最も長いアイテムである。川幅はパッと見ただけでも20m前後はある。この規模を考えればベストな選択といえるだろう。

仕掛けはナイロン1号の通し。ハリはヤマメバリの9号という、比較的しっかりとした道具立てだ。
「狙いは尺上なので、今日は太めの仕掛けを組みました。数少ないチャンスは確実にモノにしたいですからね」

フロロカーボンではなく、あえてナイロンを選択したのは、産卵を控えてナーバスになったアマゴに対し、フワフワと自然にエサを見せるというのが狙い。エサは市販のミミズをメインに、サブとしてブドウムシを持参した。

太い流れに仕掛けを打ち込むこと数度。ここで太掛けには見合わないサイズのアマゴが喰ってきたが、その後はまったく反応がなくなってしまった。
「まぁ本流ではよくあることです。この上流にもよいポイントがいくつもありそうです。テンポよく攻めてみましょう」

その後、上流の何カ所か釣り歩いたがアマゴからの魚信はなかった。ここはダム上のポイントであり、木曽川本流から差し上がってくる個体はいない。そこで大きく場所を移動し、大滝川に流れ込む支流へ入ることにした。

台風一過。気になっていた濁りも取れ、どうにか釣りはできそうだ。朝一番は王滝川の本流で竿を出すことにした。

台風一過。気になっていた濁りも取れ、どうにか釣りはできそうだ。朝一番は王滝川の本流で竿を出すことにした。

川幅のある王滝川の本流では『スーパーゲームベイシスH85-90Z』を使った。ラインナップ中で最も長いアイテムである。

川幅のある王滝川の本流では『スーパーゲームベイシスH85-90Z』を使った。ラインナップ中で最も長いアイテムである。

ダム上のポイントを数カ所攻めてみたがアマゴの反応は今ひとつ。ここで王滝川の本流を見切り、支流へ移動することにした。

ダム上のポイントを数カ所攻めてみたがアマゴの反応は今ひとつ。ここで王滝川の本流を見切り、支流へ移動することにした。

2025年シーズンは9月に入ってからも30℃を超える猛暑が続いた。エサはクーラーボックスに入れてしっかりと管理する。

2025年シーズンは9月に入ってからも30℃を超える猛暑が続いた。エサはクーラーボックスに入れてしっかりと管理する。

到着した支流も、濁りはすっかり取れていた。前日は増水で竿が入っていない。水が出たことで魚が動いた可能性もある。絶好のコンディションである。

ここで井上さんは竿を『スーパーゲームベイシスH80-85Z』に持ち替えた。先の85-90より50cm短いアイテムである。
「ここはやや川幅が狭いので、やや短めの竿を選びました。50cm短いだけでも操作性がかなりよくなりますからね」

右岸側へ絞れた流れを丹念に攻める。深みから瀬肩に差し掛かったところで、川面を滑る目印が弾けた。

スーパーゲームベイシスの粘り強い胴がアマゴの引きをどっしりと受け止める。ゆっくりとやり取りを楽しみ、玉網へと導いたのは朱点が鮮やかな25cmクラス。狙いとするサイズには届かないものの、初めてのフィールドで出会った1尾は嬉しいものだ。美しい魚体に、しばし目の保養をさせていただいた。

その後、気持ちを新たに瀬の開きへ仕掛けを投じると、すぐさま次のアタリが訪れた。魚は太い流れを一気に駆け下ろうとするが、井上さんが竿尻に添えた左手をグッと押し出すと、あっという間に突進が止められてしまう。

これも先と同様の25cm級のアマゴ。この1尾で井上さんは何かを確信したようである。
「台風の前は渇水で釣果も芳しくないと聞いていましたが、この出水で明らかに川の雰囲気が変わりました。魚はいます。あとは尺クラスを狙うのみですね」

前日は濁流が渦巻いていた支流もすっかり回復していた。深みから瀬肩に差し掛かったところで目印が生き生きと弾けた。

前日は濁流が渦巻いていた支流もすっかり回復していた。深みから瀬肩に差し掛かったところで目印が生き生きと弾けた。

取り込んだのは25cmクラスのアマゴ。朱点が鮮やかな個体だった。

取り込んだのは25cmクラスのアマゴ。朱点が鮮やかな個体だった。

続けざまに先と同クラスのアマゴがヒット。増水後の引き水。アマゴの活性はまずまずだ。

続けざまに先と同クラスのアマゴがヒット。増水後の引き水。アマゴの活性はまずまずだ。

立て続けに本命を釣り上げ、それまでの不安は吹き飛んだ。「魚はいました。あとは型を狙うのみです!」

立て続けに本命を釣り上げ、それまでの不安は吹き飛んだ。「魚はいました。あとは型を狙うのみです!」

ここでやや上流のポイントへ移動。背後に木曽のシンボルである御嶽山を望む風光明媚な場所である。

まずは段々瀬が落ち込む長い流れ込みを攻める。いかにも大物が潜んでいそうな雰囲気が漂っていたが、残念ながらこのポイントは空振り。

次に現れたのが、右岸に寄った流れが大きくカーブするポイント。底が深く掘れ込んだカーブ部分にエサを流し込む。ここでこの日のクライマックスが訪れた。

鋭いアワセが入ると同時に、スーパーゲームベイシスがこれまでにない強引をとらえた。走りは止まった。しかしここからなかなか寄ってこない。そして浮かない。大物である。

下の段々瀬に駆け込まれたら一気に形勢が悪くなる。魚を怒らせない。しかし主導権は渡さない。井上さんは慎重にやり取りを繰り返す。やがて玉網の中で大きな水しぶきが舞った。
「これは尺を超えていそうですよ!」

メジャーを当ててみると32cm。文句なしの尺上アマゴである。釣行初日にして旅のミッションをクリアしてしまった。昨夜までの憂鬱を思うと、出来すぎともいえる釣果である。
「満足です。明日は以前から目を付けていた別の支流に入ってみましょう」

そこも井上さんにとってはまったくの処女地。ここではどんな魚に出会えるだろうか。
(次回へ続く)

木曽のシンボル・御嶽山をバックに竿を振る。この直後、この日のクライマックスが訪れる。

木曽のシンボル・御嶽山をバックに竿を振る。この直後、この日のクライマックスが訪れる。

スーパーゲームベイシスの研ぎ澄まされたブランクスがアマゴのアタリをとらえた。鋭くも重厚な引き。大きそうだ。

スーパーゲームベイシスの研ぎ澄まされたブランクスがアマゴのアタリをとらえた。鋭くも重厚な引き。大きそうだ。

攻防の末に取り込んだのは27cmの玉枠からはみ出るほどの良型。「これは尺ありそうですよ」

攻防の末に取り込んだのは27cmの玉枠からはみ出るほどの良型。「これは尺ありそうですよ」

32cm。堂々たる尺上アマゴである。この1尾で旅のミッションは達成した。

32cm。堂々たる尺上アマゴである。この1尾で旅のミッションは達成した。

楽しませてくれた魚をそっと流れへ戻す。木曽谷の豊かな自然をいつまでも……。

楽しませてくれた魚をそっと流れへ戻す。木曽谷の豊かな自然をいつまでも……。