渓が長い冬の眠りから覚め、山々が新緑に彩られて昆虫が風に舞う季節になると、いよいよテンカラが本格的なシーズンを迎える。今日はどの渓で遊ぼうか。この季節を待ちわびたテンカラ師の胸は高鳴る。

そして8月下旬。テンカラシーズンは盛期を迎えた。
今回、出来上がったばかりの『渓流テンカラ34-38』を携えて真夏の越中富山を訪れたのは、毛バリ製作のかたわら、精力的に釣行を繰り返す大沢健治さん。今回は『渓流テンカラ』の出来映えを試すべく、元気いっぱいの夏イワナを楽しもうという旅だ。
「どこか面白そうな河川はないかなぁと、お盆に富山を訪れたところ、運良く尺イワナを釣ることができたんですよ。ニューロッドの実力を試すには最高のフィールドだと思いますよ」

尺イワナは再び喰ってくれるであろうか。まだ眠りから覚めぬ富山市街を抜け、大沢さんは深い谷筋へと車を走らせた。

今回は越中富山のイワナと遊ぶ旅。初日は大長谷川で竿を出した。

今回は越中富山のイワナと遊ぶ旅。初日は大長谷川で竿を出した。

富山と岐阜の県境は周辺でも指折りの豪雪地帯。沢の水は夏でも冷たく、元気なイワナが毛バリにアタックしてくる。

富山と岐阜の県境は周辺でも指折りの豪雪地帯。沢の水は夏でも冷たく、元気なイワナが毛バリにアタックしてくる。

釣り人は埼玉県在住の大沢健治さん。お盆休みに大長谷川で尺イワナを釣り上げたとのこと。柳の下のドジョウはまだいるのだろうか。

釣り人は埼玉県在住の大沢健治さん。お盆休みに大長谷川で尺イワナを釣り上げたとのこと。柳の下のドジョウはまだいるのだろうか。

越中から飛騨へ抜ける数少ない峠越えルートである国道471号。非常に険しく、また道幅も狭いことから“酷道”として名高い。豪雪地帯の山越えのため冬期は閉鎖となるこの道と、沿うように流れるのが大長谷川(おおながたにがわ)だ。
「長期間にわたって雪に閉ざされているためにあまり釣り人が入らず、比較的魚が残っているように思います。下流はヤマメも釣れますが、中流域から上で釣れるのはほぼイワナですね」

大沢さんが車を停めたのは、ちょうど中流のあたり。大長谷川は国道沿いの川であるが、谷が深いため入渓ルートが限られるうえ、ややわかりづらい。初めてここを訪れる方は、周辺に明るい人のアドバイスがないとエントリーは難しいだろう。

谷を降りきってしまうと、比較的渓相は開けている。大沢さんは水温をチェックした後、手早くタックルの準備に取りかかった。
竿は2026年の新製品となる『渓流テンカラ34-38』。3.4m、3.8mと2通りの長さを使い分けられるズームロッドである。ラインはフロロカーボンのレベルライン3号を4.5m取り、その先にハリスとしてフロロカーボン0.8号を矢引と少し、約1.2m結んだ。
竿を3.8mに伸ばした状態でも、1ヒロ前後は手尻が出たセッティングである。大長谷川は比較的浅く、水質もクリア。イワナを警戒させないよう、遠くからアプローチできる道具立てといえるだろう。毛バリは沈むタイプで様子を見る。
朝もやの中、軽快に釣りをスタート。岩の間に点在するタナに向けてキャストすること数回、早くもこの日初めてのアタリがきた。
ハンドランディングしたのは20cm足らずのイワナ。可愛いサイズとはいえ、早々に本命が釣れるのは嬉しいもの。
「この数日間は釣り人が入っていないのかもしれませんね」
その後もコンスタントに反応がある。滑り出しはまずまずだ。

開けた渓流域から釣りをスタート。朝もやの中、軽快に竿を振る。

開けた渓流域から釣りをスタート。朝もやの中、軽快に竿を振る。

竿出しから間もなく可愛いイワナが喰ってきた。先行者はいないようだ。期待が高まる。

竿出しから間もなく可愛いイワナが喰ってきた。先行者はいないようだ。期待が高まる。

広めのプールでアタリ。ここぞという場所では何らかの反応がある。

広めのプールでアタリ。ここぞという場所では何らかの反応がある。

黒味の強い大長谷川のイワナ。長い冬を耐え抜いたタフな魚である。

黒味の強い大長谷川のイワナ。長い冬を耐え抜いたタフな魚である。

ここでモデルチェンジした新しい『渓流テンカラ』の特徴について大沢さんに聞いてみた。
『最もこだわったのは、軽い振りでもしっかり曲げられることです。簡単に曲げられるということは、簡単にラインを伸ばせるということ。これだけでもキャストの精度は向上しますし、何より一日振っても疲れにくい。前モデルは非常に評価が高く、これに手を入れるのは勇気が要りましたが、歴代の渓流テンカラの良さを活かしつつ、振り軽さ、曲げやすさを磨いた感じですね』

大沢さん自身、決して大柄ではない。また手尻の長い仕掛けも多用する。手尻が長い仕掛けを一日中キャストするとなると、鈍重な調子の竿では身体が悲鳴を上げてしまうだろう。

最新の『渓流テンカラ』を手にした大沢さんのキャストは実に軽快である。ピンポイントへの投入も意のままに決まる。

その後もイワナの反応はまずまずだった。陽が昇り、川全体に日光が差し込むようになった。ここで大沢さんは再び水温を測る。
「今の水温が14℃ちょっと。朝イチが13℃だったので、やや上がりましたね。ちょっとドライタイプの毛バリを試してみましょうか」

水面に浮いた毛バリにも果敢にイワナがアタックしてきた。こうなればテンカラは楽しい。数は出た。あとは型である。

竿は出来上がったばかりの『渓流テンカラ34-38』。軽いスイングでもよく曲がり、一日振っても疲れにくいことにこだわった。

竿は出来上がったばかりの『渓流テンカラ34-38』。軽いスイングでもよく曲がり、一日振っても疲れにくいことにこだわった。

軽い力で曲げることができれば、おのずとキャスト精度も上がる。ピンポイントへの投入も意のまま。

軽い力で曲げることができれば、おのずとキャスト精度も上がる。ピンポイントへの投入も意のまま。

水温が上がってきたところでドライタイプの毛バリにチェンジ。活性の高いイワナが次々に喰ってくる。

水温が上がってきたところでドライタイプの毛バリにチェンジ。活性の高いイワナが次々に喰ってくる。

楽しませてくれた魚に感謝しつつリリース。ひと回り成長した頃にまた会おう。

楽しませてくれた魚に感謝しつつリリース。ひと回り成長した頃にまた会おう。

ちょうど一週間前のお盆に、大沢さんが尺イワナを仕留めたポイントへと近づいてきた。渓が徐々に狭くなり、落差も増してきた。
「先週よりも少し水量が落ちているんですよね。これが吉と出ればいいのですが……」

狭いタナを点で撃ち、プールに流れ込む筋は線で流す。ときとして立ち位置より下へ毛バリを流し込み、岩陰の手前で誘いを入れてみる。イワナはポツポツと喰ってくるが、平均して8〜9寸と尺には一歩届かない。やがて差し掛かった尺イワナポイントでも本命のアタリはなかった。
「釣りごろサイズの数釣りを楽しんだという意味では、『渓流テンカラ』らしい釣りは味わえたと思います。でも釣れたら釣れたで、どんどん欲が出てくるのが釣り師ですよね(笑)」

予定していた区間を釣り終えた時点で、この日の第一ラウンドは終了。その後は別の支流を数カ所回ってみたものの、期待するサイズの魚は出なかった。
「もうひとつ、目を付けている川があるんですよ。明日はそちらに入ってみましょう。尺への夢は明日に持ち越しですね」

好釣りに気を良くして掲げた次なる目標。はたして尺イワナは我々の目論見どおり釣れてくれるだろうか。
(次回へ続く)

渓が徐々に狭くなり、落差も増してきた。これより前週に尺イワナが釣れた本命エリアに入る。

渓が徐々に狭くなり、落差も増してきた。これより前週に尺イワナが釣れた本命エリアに入る。

イワナは喰ってくるものの型が伸びない。尺イワナよ、何処へ……。

イワナは喰ってくるものの型が伸びない。尺イワナよ、何処へ……。

この日の平均サイズは8〜9寸といったところ。尺への夢は翌日へ持ち越しとなった。

この日の平均サイズは8〜9寸といったところ。尺への夢は翌日へ持ち越しとなった。

越中の雪深い渓で生まれ育ったイワナ。その魚体は流れを映したかのように美しい。

越中の雪深い渓で生まれ育ったイワナ。その魚体は流れを映したかのように美しい。