5分も歩くと額が汗ばんできた。キャップを脱いで汗を拭い、空を見上げると木々の緑が目に飛び込んできた。ほんの1カ月前まではダークトーンの景色であった。季節は静かに移ろいゆく。渓のいたるところに春が芽吹いていた。

ここは静岡県西伊豆の仁科川。解禁間もない小渓流で、目覚めたばかりのアマゴを狙う釣行である。

「3月1日に多くの河川が解禁を迎えますが、初期は水温が低いために、まだ本格的に釣れない河川が多いんですよ。少しでも水温が高い場所を探すと、どうしても本州南部へ下りてきてしまいますね」

こう語るのは群馬在住の井上聡さん。盛期には本流で長竿を振る人であるが、解禁直後は渓流域でヤマメやアマゴに遊んでもらうことが多いという。本流域は魚の活性が高まるのが遅く、ある程度水温が上がって一度大水が出ないと、魚がなかなか口を使ってくれないのだとか。

「その点、沢の魚は低水温に慣れていますからね。解禁直後は仁科川のような小渓流に入ることが多いんです。釣れ始める水温の目安としては、最低でも9℃はほしいところ。釣り場を選ぶにあたっては、まず温暖な地域で、湧水や伏流水があって、地熱の高い場所が有望だと思います」

仁科川は南伊豆の温暖な地にあり、天城山系に源を発する流れには湧水や伏流水も豊富と思われる。狩野川、河津川といった人気河川が至近にあるため、釣り人が少ないのも魅力である。中流で生活用水を取っており、魚がいても釣りにくい、水量その他の条件によって魚の活性が読みにくいなど、ややクセのある川ではあるらしい。しかし良い日並みには尺上が釣れるとのこと。成魚放流がないため、釣れるアマゴは天然か稚魚放流が越冬した綺麗な個体であるのも嬉しい。

河口から川沿いの道を20分ほど走った所に車を止め、井上さんは颯爽と身なりを整えた。

シーズン初期の狙い目は魚の目覚めが早い小渓流。小継竿が最も活躍するフィールドだ。

仁科川は、上流の本川にあたる本谷川も含めて流程が13km弱の小規模河川である。入渓点は中流よりやや上であるが、すでに大岩が転がる落差のある渓相を呈しており、淵あり、適度に筋もありと、ポイントとしては多彩といえる。

「点の釣りと線の釣りを絡めた釣りになると思います。もう少し上流に行くと源流的な流れになりますよ」

このような渓流域では、伝統的な小継竿が使いやすい。しかし、ひと口に小継竿と言っても、ソリッド穂先かチューブラー穂先か、先調子か胴調子かなど、選択肢はかなりある。

「川幅があって、ある程度の筋を流せる場所では線の釣りがメインになります。このような場所ではチューブラー穂先を搭載した長めの胴調子竿で、手尻も長めに取るほうが釣りやすい。逆に落差があってポイントが狭い場所では点の釣りがメインになり、ソリッド穂先の先調子竿が使いやすいと思います。頭上に木々が覆い被さっているポイントを攻めるときや、源流部で遠近の棚を釣り分けるときはチョウチン釣りを多用するので、硬めのズームロッドがあると便利です」

竿は釣り場の川相を総合的に考えて選択する。目安としては、筋を流す線の釣りではチューブラー穂先の胴調子、点を打つ釣りではソリッド穂先の先調子が適している。

とはいえ、渓流のポイントは変化に富んでおり、この川は線の釣り、あの川は点の釣りと明確に線引きできるものではない。

「私が言った竿の使い分け法はあくまでも目安です。実際は釣行する河川の川相を念頭に置いて攻め方を総合的に考え、最も使いやすい竿を選ぶことになります。シマノの渓流竿は用途を明確にしつつ、ある程度の汎用性を持たせているので、チューブラーの胴調子でも点の釣りをこなせるし、ソリッドの先調子でも十分に線の釣りに対応しますよ」

携帯性がメリットである小継竿なので、リュックなどに性格の異なる予備竿を忍ばせておくのも手だ。

井上さんがまず手にしたのは『翠弧ZL』。高感度のチューブラー穂先・ソフチューブトップを採用した本調子のハイエンドモデルだ。線の釣り、点の釣りの双方に向くオールラウンドさが気に入っているとのことで、同じく本調子の『孤渓ZM』とともに出番の多い竿だとのこと。

これに天上糸ナイロン0.6号、水中糸フロロカーボン0.3号、ハリ渓流5号の仕掛けを結んだ。手尻は竿丈ちょうど。エサは地元の川で採った川虫(キンパク)とミミズである。

まずは入渓点の直下にある流れ込みに仕掛けを投じた。その2投目、早くも目印がトンと押さえ込まれた。

キンパクは早春にしか採れない川虫。ひと口サイズでアマゴの喰いもよい。

川虫への反応が悪くなったときのために市販のミミズも用意した。

早春の冷たい水の中を元気に駆け回ったのは15cm前後のアマゴ。これをそっとリリースした後、間髪入れずに2尾目が喰ってきた。これが17〜18cm。

「アマゴの活性はそこそこあるようですね。シーズン初期なのでまだ小さいですが…(笑)」

解禁直後は沢との読みは的中したようだ。仁科川は川虫が少ないかわりに陸生昆虫が多く、これらが出てくる6月頃から急激に魚が大きくなるという。しかし今はシーズン初期。型に関しては仕方ないといったところであろう。

入渓点からすぐのポイントで幸先良くアマゴが喰ってきた。小型だが最初の1尾は嬉しいもの。

釣り上がるにつれて川幅が狭くなり、頭上に木々が迫ってきた。

「このような場所ではサイドスローで投入すると、仕掛けが木の枝に引っ掛かりません。仕掛けを流す際に竿を立てられないので、手尻を短くするのもいいでしょうね」

仕掛けを流せるポイントでは流れと平行に足場を取り、線のアプローチで筋を流す。流れの横に立てない場所ではポイントの下流から竿を出し、オモリを吊るように手前へ仕掛けを流す。ただ、ある場所の上流からは、なぜかアタリが遠くなった。この日は月曜日。週末に誰かが入っていたのかもしれない。先行者がいると釣り返しが効かないのは、沢釣りの宿命ともいえるだろう。

やがて目前に堰堤が現れた。ここで井上さんは竿をチェンジ。取り出したのは『中継渓峰ZL硬調70-75』である。

遡行していると目の前に堰堤が現れた。大オモリを使って堰堤下の白泡を狙うときは「中継渓峰ZL」などの穂先がしっかりした竿が使いやすい。

「堰堤下のエグレは大物が着いているポイントのひとつです。堰堤では大きなオモリを使って白泡から仕掛けを出さないのがコツ。オモリの重さに負けないしっかりした穂先を備えた竿がいいですね。短い竿ではポイントに届かないので、70-75とやや長めのものを選びました。堰堤下だけを攻めるなら硬硬調の70-75-80という選択もあるのですが、線の釣りを絡めることも意識して硬調を使います」

サイズはやや小振りながら、ここでも綺麗なアマゴが目印を躍らせてくれた。

仁科川のアマゴは釣れれば天然か越冬した稚魚放流個体。実に美形である。

堰堤を高巻きしてさらに上流を目指す。川幅はさらに狭まり、落差も増してきた。流れの横に立てない場所も多く、下流から一段上の棚を狙うアプローチがおのずと増える。

小さなポイントを下流側から攻めるときはオモリを穂先で吊るようなアプローチがメインとなる。

ここで井上さんにどの竿が使いやすいか聞いたところ、『渓峰 源流ZF』『七渓峰ZK』『源流彩NY』『鎧峰NF』の4本を挙げてくれた。

「源流部まで来るとオーバースローで投入できる場所も限られ、下流からチョウチン釣り的なアプローチで攻める場面も増えてきます。ポイントの適応幅が広い多段ズームの竿や、何度も節を出し入れしても表面が傷みにくいタフな竿が使いやすいです」

「渓峰 源流ZF」と「七渓峰ZK」は、しなやかなカーボンソリッド「TAFTEC」を搭載した多段ズームロッド。狭い棚のポイントへそっと仕掛けを入れる釣りに向いており、喰い込みも実によい。「源流彩NY」と「鎧峰NF」は大オモリに対応するチューブラー穂先を備えているうえ、厚膜塗装によって表面の耐久性が高められており、チョウチン釣りで頻繁に節を出し入れしても傷みにくい。

岩に囲まれた棚の上などはチョウチン釣り的なアプローチが多用される。多段ズームの竿が活躍する場面だ。

この日は当コンテンツVol.27のインプレッションも兼ねた釣行であり、井上さんにはそれぞれを使ってみてもらった。相変わらずアタリは散発ではあったが、源流部で多用される短めの仕掛けを用いた点の釣りでは、長短を使い分けられる機動力のある竿の有効性が実感できた。

その後はいったん中流部へ下って竿を出したが、ここではアマゴの反応は皆無であった。

「型は小さかったけれど、一夜明けた後追いの釣りとしてはまぁこんなものでしょう。明日はもっと開けた場所で竿を出してみましょうか」

初日の釣りは、まずまずといったところであろうか。
(次回へ続く)

仁科川で遊んだ初春の一日。型は控え目ながら数はそこそこ出てくれた。