夜明け前に目が覚める。そして、仕事前に釣りへ行くのが私の日課である。
「今日はどこの川へ行こうか?」
季節、水量、天気などを考慮し川を選ぶ。

「ユキシロがだいぶ収まってきた。」
「水が出た。あそこのポイントに良型が入っているだろう!」
などなど、経験と野生の勘が頼りである。そして、いつまでも変わらないのが“ワクワク感”である。

「今日はどんなヤマメと出会うことができるのか?」
楽しみでしょうがない!

米沢市は山形県の母なる川「最上川」の最源流部に位置し、市域の南側に吾妻連峰が広がり、西に飯豊山を望む。それらの山々を源に、米沢市内には、大樽川、小樽川、羽黒川、天王川などの河川が流れる。いずれの河川も比較的人口構造物が少なく、河畔林が生い茂り、のんびりとした里山の雰囲気である。上流域はイワナ、中・下流域ではヤマメ釣りが楽しめる。

ヤマメのサイズは、最大で尺をわずかに超える程度である。それでもプロポーション抜群のヤマメは、強力な引きで釣り人を楽しませてくれるはずだ。特に夏から秋にかけては、尺上も期待できる。

パッとしない天気が続いていた。休日に久し振りの青空が広がった。友人と二人、初秋の小樽川でヤマメ釣りに興じた。

小樽川は私のホームグランド中のホームグランドである。人工構造物が少なく、河畔林が生い茂り、釣趣は極めて良好である。米沢市内でも人気の河川である。

竿は『弧渓ZM H61』を使用。仕掛けは天井糸に0.8号を2.6m、水中糸に0.3号を3.5m、オモリはBをセット。エサはミミズである。

弧渓ZM

前日までの雨の影響もほとんどなく、水位は平水よりわずかに高い程度で、絶好のコンディションである。

岩盤が削れた落ち込みのポイントに仕掛けを投じると、目印にわずかな変化があった。小さく、鋭く合わせをくれる。弧渓ZMが奇麗な弧を描いた。弧渓ZMは、魚が掛かるとその負荷に応じて曲りが入り、渓魚の強力な引きを分散し走りを止める。タモに収まったのは、パーマークがくっきり浮かぶ9寸ほどの奇麗なヤマメであった。8〜9寸ほどのヤマメは釣れるのだが、未だ尺を超える大物は姿を見せてくれない。

しばらく釣り遡ると、流れが良い感じで、深さも調度良いポイントが現われた。ただ、川に樹木が覆いかぶさり、いかにも釣りにくい。川面と樹木の間は、わずかばかりの隙間である。このように釣り人が敬遠するようなポイントは、大物が潜んでいることが多い。しかも、警戒心が比較的薄く、案外釣りやすい。

「ピンポイントの振り込みができれば、あの狭い隙間でも仕掛けを流せそうだ。」

肩の力を抜いて、仕掛けの軌道を考慮し、強さを加減して竿を振る。この時、目標地点をしっかり見て、決して目を離さないのが正確な振り込みのコツである。川面と樹木の隙間をイメージ通りの軌道を通り仕掛けが着水。仕掛けが樹木に絡まないように、竿を調整しながら流すと、目印が消し込んだ。

「キタッ!」

小さく鋭くアワセをくれる。同時に竿を下流側に寝かせ、樹木の下からヤマメを一気に引き出す。

ヤマメの躍動感が竿からビンビン伝わってくる。この瞬間がたまらない。何度か底に突っ込もうと、ヤマメが疾走を繰り返す。私は、その動きに合わせ竿を操作する。

そして、タモに収まったのは、薄っすらと婚姻色に染まる尺上ヤマメである。狙い通りの釣り方で、狙い通りに釣り上げた一尾である。

水は澄み、緑に包まれた河畔林が川を覆う。恵まれた環境のなかで、雪解け水で鍛えられた精悍なヤマメと戯れる。

「毎日、何と贅沢な時間を過ごしていることか!」
恵みに感謝である。

自己紹介

我妻 徳雄
昭和35年11月山形県生まれ。15歳で渓流釣りを始める。白石川、鬼面川水系を中心に、年間100日以上釣行を重ねる。6~7メートルの竿での渓流域の釣りを得意としている。山形県内陸部にサクラマスが戻ってくる日を楽しみに夢見ている。

※このレポートはシーズン中にいただいたものです。