振り込み

テンカラ釣りにおける技術の半分は振り込み、キャスティングにあると私は思っています。狙った所へピタリと毛バリを投入できれば、テンカラ釣りの半分はマスターしたも同然。それほどキャスティングは重要なテクニックといえます。

テクニックといっても、さほど大層なものではありません。言うならば「コツ」。ちょっとした要領を身体で覚えれば、誰でも簡単に毛バリを飛ばすことができます。

軽い毛バリを遠くへ飛ばすために力んでしまう人も見受けられますが、キャスティングに力は要りません。では何が毛バリを運んでくれるのかというと「竿の弾力」です。釣り人がすべきことは、この竿の弾力を引き出すことなのです。

キャスティングの動作を大別すると、竿を振り上げてラインを後方へ運ぶ「バックキャスト」と、振り上げた竿を前方へ振り戻す「フォワードキャスト」の2つになります。このうち重要なのがバックキャストです。竿を振り上げると同時に竿が曲り、この曲がりが戻る際の弾力をラインに伝えるわけです。

振り上げるといっても、ヒジを使って軽く竿を立てるだけです。時計でいうと12時くらいの位置までスッと立てるだけで、自然に竿が曲がります。この際、力は要りませんが、振り上げるスピードは重要です。長いラインを後方へ運ぶ“間”が必要なので、速すぎてもダメ、遅すぎてもラインの軌道が崩れてしまいます。

よいタイミングでバックキャストを行って12時の位置で竿を止めると、ラインは水面に対して45度前後の角度で後方へ運ばれるはずです。この角度がベスト。そのままの流れでフォワードキャストに移れば、毛バリが自然かつスムーズに着水します。竿を12時の位置を過ぎて、後方に大きく倒してしまうと、ラインが後方で水面と平行に伸びてしまい、フォワードキャストに移った際に、ラインが空中で突っ張ってしまいます。

後方で曲がり込んだ竿は、反発で元に戻ろうとします。このときに生じる弾力がラインを前方へ運んでくれるのですが、反発した竿の曲がりを10時、もしくは14時の位置で止める、これがフォワードキャストです。前方へ振るという意識は必要ありません。竿を止めるというよりも、竿が生み出す弾力を手伝うように意識していると、自然に竿が前方で止まります。竿を止めようとしてグリップを握る手に力を入れると、前方で竿が曲げ返されて逆にラインを引っ張ってしまいます。むしろグリップを握る力を抜くようにするとよいでしょう。

テンカラ釣りの世界では、「離れた場所に置いたコップの中に毛バリを入れろ」と言う人もいますが、私はそこまでのキャスティング精度がなくても魚は釣れると思っています。はじめはタライか洗面器くらいの範囲を狙ってそこに毛バリを落とせれば十分。なぜなら、魚は常に流下してくるエサを探しているからです。狙った場所から少々外れても、魚が毛バリを見つけてくれます。

毛バリの流し方とアタリ

毛バリを流す時間はケース・バイ・ケースです。源流域のような小さなポイントを狙う釣りでは短くなりますし、本流のように線でポイントを探るような場所では、おのずと毛バリを長く流すことになります。ただ一般的な渓流域において、小さめのポイントを点で打っていく釣りを想定した場合、私は「ひと流し3秒」というのをひとつの目安としています。やる気のある魚がいるのならば、3秒毛バリを見せれば喰ってきます。

そしてもうひとつ「ひとつのポイントを3回流す」ようにもしています。つまり、ポイント1箇所につき、3秒の流しを3回行うということです。これで魚が出なければ、次のポイントへ移ります。ひとつのポイントで粘って魚が出ないとはいいませんが、こうすることで効率よくポイントを探れるのです。

ひとつのポイントの範囲については、渓流魚はナワバリというものがあるようで、比較的ざっくりととらえてよいと考えています。広い場合は1m四方、狭い場合は洗面器からタライくらい。先に述べたキャスティング精度も、このあたりに理由があります。

アタリの出方は魚の活性によって様々です。私は「活性が高い」「まずまずの活性」「活性が低い」と、おおまかに3段階に分けてアタリを考えています。

①魚の活性が高い

魚の活性が高いときは、魚が水面を割って毛バリに喰い付きます。テンカラで使う毛バリの大半は、水面〜水面直下を漂っていますので、多くは魚が毛バリにアタックしてくる様子が見えます。魚が水面を割って毛バリを口にするようなときは、初心者でもアタリを見過ごすことはないでしょう。

②魚の活性はまずまず高い

水面を割るほどの活性はないものの、水面直下で毛バリを口にするパターンです。この場合も偏光グラスを掛けて毛バリを目で追っていけば、アタックしてくる魚が見えます。流下する毛バリから目を離さないようにしましょう。

③魚の活性が低い

喰い気はあるものの、水中へ深く沈んだ毛バリにしか反応しないケースもあります。この場合は魚が毛バリにアタックしてくる様子を目視できないので、ラインの動きでアタリを判別するしかありません。

アタリの出方は、ラインがわずかに引き込まれたり、不自然に動いたり、流れていくラインの動きが止まったりと様々です。ラインに出るアタリを察知するには、少々経験を要します。これについては、釣りを続けていくなかで、ひとつひとつ覚えていくようにしましょう。

合わせからランディング

合わせは、アタリから一呼吸置いて行うのが基本です。昔は「アタリがあったら、ツバを飲み込んでから合わせる」「魚にお辞儀してから合わせる」などと言ったものですが、早合わせはあまりおすすめできません。

釣れた魚が毛バリを飲み込んでいたり、口の横のカンヌキに掛かっていれば、合わせのタイミングはバッチリです。上顎や唇に掛かっているときは、合わせが早すぎます。やり取りの途中で張りが外れてしまうのは、魚の活性が低く喰いが浅いということもありますが、合わせが早すぎてハリが皮一枚で掛かっていることも考えられます。

やり取りは、まずラインを緩めないことが大切です。テンションを緩めてしまうと、魚が暴れたときにハリが外れる恐れがあります。やり取り中に魚を石に当ててしまうのも、不要に魚を暴れさせてハリ外れの原因になってしまいます。

あと、魚が大きいときほど竿を寝かせ、水中で寄せてくるようにしましょう。水面で暴れさせるとハリが外れやすいうえ、怖がった魚が余計に走ってしまうことがあります。

魚が弱って足下へ寄ってきたら、いよいよランディングです。ラインをたぐり寄せてつまみ、玉網へ頭から引き込めばゲームセットです。勝利の喜びを存分に味わってください。