どの釣りにも名手と呼ばれる人がいる。名手とはつまり、よく釣る人である。しかしこの「よく釣る人」にも三つのタイプがあるようなのだ。

ひとつは釣技に長けている人。いわゆる釣りが上手な人だ。二つ目は釣り場を熟知した人。季節や天候、時間帯、水況などによって、最も魚が釣れる場所を選び出す能力を持つ人のことである。地元名人、スーパーロコアングラーと呼ばれる人がこれにあたる。

そして最後は、釣れるまで釣りをやめない人。「そりゃそうだろうねと」笑う人もいるだろうが、最後の一分一秒まで集中力を切らさず攻め続けることは、思うほど容易ではないのである。

そんなよく釣る人の三要素を全て兼ね備えている人がいる。それが今回行動を共にしている井上聡さんだ。当ブログには何度も登場いただいているが、とにかく諦めない。そしてどの川へ出掛けても結果を出す人なのである。

竿を出すなり釣れたことがあれば、納竿間近の大逆転もある。過去を振り返れば本命が釣れなかった釣行はごくわずかしかない。その釣れなかった釣行も他魚の大物はしっかり釣り上げているのだが、ご本人の落胆ぶりは相当なものだった。川や魚のせいではない。釣りきれなかった自分を責めているのである。

今回の釣行初日はアタリさえない完敗であった。悔しかったに違いない。諦めない男は2日目も極太の本流アマゴを求めて狩野川に挑む。

完敗に終わった釣行初日。明けた2日目も極太の本流アマゴを求めて狩野川に挑む。

完敗に終わった釣行初日。明けた2日目も極太の本流アマゴを求めて狩野川に挑む。

流れに立ち込んで竿を振る井上聡さん。最終調整に入った『スーパーゲームベイシス』の調子を細部までチェックしていた。

流れに立ち込んで竿を振る井上聡さん。最終調整に入った『スーパーゲームベイシス』の調子を細部までチェックしていた。

釣行日は2024年の4月下旬。連休を前に修善寺橋の脇には鯉のぼりがたなびいていた。

釣行日は2024年の4月下旬。連休を前に修善寺橋の脇には鯉のぼりがたなびいていた。

 ひと晩ぐっすり休んで気持ちをリセットした井上さんの表情には、新たな緊張感がみなぎっている。朝の好時合は、前日と同様に下流域の神島橋下流で竿を出すことにした。
「直近の情報でも過去の実績でも、ここが最有力ポイントであることは確かなんですよ。雨による濁りが取れているのは好材料です。ひと晩経って魚が動いていればいいんですけどね」

 水が澄むと底石がよく見えてポイントを絞りやすく、攻めの精度が格段に増す。瀬の開きまで丁寧に釣り下ったが、残念ながらアマゴの反応はなかった。
「移動しましょう。川からアマゴがいなくなることはありません。どんなに水が濁ろうともどこかにアマゴが着いていて、エサにアタックする個体がいるはずです」

 ここで狩野川に詳しい井上さんの釣友が様子を見に来てくれた。前日からの状況を説明すると何度も頭をかしげていた。聞けば今期は数尾の尺上アマゴを仕留めており、つい先日も30cm台半ばの良型を釣り上げたとのこと。活性の高い魚はどこにいるのだろうか。

 次に向かったのは前日にも竿を出した修善寺橋上流。井上さんは思い切って手尻を長く取り、流すコースを変えながら丹念に筋を探る。しかし反応は皆無である。

ひと晩休んで気分一新。朝日を浴びた富士山をバックに、いざ入川!

ひと晩休んで気分一新。朝日を浴びた富士山をバックに、いざ入川!

朝一番は前日と同様、最も有力なポイントと目する神島橋下流の瀬にエントリー。流れ込みをじっくりと攻めた。

朝一番は前日と同様、最も有力なポイントと目する神島橋下流の瀬にエントリー。流れ込みをじっくりと攻めた。

相変わらずアマゴの活性は低いようだ。修善寺橋上流では手尻を長く取って深みを探る。

相変わらずアマゴの活性は低いようだ。修善寺橋上流では手尻を長く取って深みを探る。

流れの外、内、そして芯。数多く線を流して面を攻める井上さんの釣り。絶妙な誘いを絡めた緻密な釣りにも狩野川のアマゴは心を許してくれない。

流れの外、内、そして芯。数多く線を流して面を攻める井上さんの釣り。絶妙な誘いを絡めた緻密な釣りにも狩野川のアマゴは心を許してくれない。

 釣友のアドバイスによって車を走らせたのは、修善寺橋のひとつ上流にある遠藤橋。橋下流の左岸が水深のある瀬になっており、いかにもアマゴが潜んでいそうな雰囲気が漂っている。前日には竿を出していないポイントだ。アマゴよ喰ってくれ。祈るような気持ちだった。

 入川口の前にあるオトリ店を覗くと、たまたま奥さんが作業をしていた。アマゴを釣りに来た旨を伝えたところ「つい数日前にいい型のアマゴを釣った人がいたよ」とのこと。こんなに心強い言葉はない。

 オトリ店前のハシゴを下り、手早く竿を伸ばす。この日、井上さんが手にした竿は『スーパーゲームベイシスH80-85』。前日のMH80-85からワンランクパワーのある竿に持ち替えていた。
「MHが従来の調子を踏襲するしなやかな調子であるのに対して、Hは2〜4番節にやや張りを持たせた調子に仕上げています。MHは純粋な本流アマゴ、ヤマメ用の竿ですが、Hは口周りの硬いニジマスやブラウントラウトもターゲットになりますからね。フッキング時のレスポンスやパンチ力を高めた作りになっています」

 状況から察するに、おそらくこの日は一度あるかないかのアタリを掛けにいく釣りになるはずだ。アワセが利かずにハリが外れようものなら後悔も大きなものとなる。アタリがあったら確実に掛ける。そのためのロッド選択といえるだろう。井上さんは静かに川へ立ち込み、左岸側の絞れた流れに仕掛けを打ち込む。
一撃だった。

応援に駆けつけてくれた釣友のアドバイスで遠藤橋へ移動。初日はまったく触っていないポイントだ。

応援に駆けつけてくれた釣友のアドバイスで遠藤橋へ移動。初日はまったく触っていないポイントだ。

釣行2日目は『スーパーゲームベイシスH80-85』を使った。穂持ち周辺に張りを持たせ、振り抜けの良さと操作レスポンスを高めた、新生スーパーゲームベイシスの特徴が最も色濃く調子に表れているアイテムだ。

釣行2日目は『スーパーゲームベイシスH80-85』を使った。穂持ち周辺に張りを持たせ、振り抜けの良さと操作レスポンスを高めた、新生スーパーゲームベイシスの特徴が最も色濃く調子に表れているアイテムだ。

ハリはクロカワムシのボリュームに合わせたヤマメバリの9号。フィンバーノットで手早く結ぶ。

ハリはクロカワムシのボリュームに合わせたヤマメバリの9号。フィンバーノットで手早く結ぶ。

エサは現地で採ったクロカワムシがメイン。目先を変えるサブのエサとして市販のミミズとブドウムシも持参した。

エサは現地で採ったクロカワムシがメイン。目先を変えるサブのエサとして市販のミミズとブドウムシも持参した。

 川面の目印が弾けると同時に鋭いアワセが決まった。魚は一気に流れを駆け下ろうとするが、井上さんが竿尻に添えた左手をグッと押し出すとスーパーゲームベイシスが渾身の弧を描き、瞬く間に走りを止められてしまった。逃げ場を失った魚は流芯から引き出され、井上さんが差し出す玉網に身を委ねるしかなかった。

 楽に尺を超える良型である。丸々と太った魚体はエサの豊富さを物語っている。これぞ本流アマゴといった豊満なプロポーションだ。ここでやっと諦めない男が笑ってくれた。
「ようやく喰ってくれましたね。これまでの苦労が報われた気持ちですよ(笑)」

 殊勲の1尾をリリースした後、やや下流のポイントで泣き尺クラスのアマゴをキャッチ。ここで2日間にわたる釣りを終えることにした。

 本流釣りは、広い流れから一点のポイントを導き出す推理ゲーム。分布域東端の本流アマゴはなかなか手強かったが、だからこそ手にしたときの喜びも大きい。実に見応えのある釣りであった。

その瞬間は何の前触れもなく訪れた。『スーパーゲームベイシスMH80-85』が生命の躍動をとらえる。

その瞬間は何の前触れもなく訪れた。『スーパーゲームベイシスMH80-85』が生命の躍動をとらえる。

ゆったりと引きを味わい、アマゴを玉網へと導く。グッドサイズだ。2日にわたる苦労が報われた。

ゆったりと引きを味わい、アマゴを玉網へと導く。グッドサイズだ。2日にわたる苦労が報われた。

27cmの玉枠から楽にはみ出る良型。体高のある肉感的な魚体が狩野川の豊かさを物語っている。これが分布域東端の本流アマゴだ。

27cmの玉枠から楽にはみ出る良型。体高のある肉感的な魚体が狩野川の豊かさを物語っている。これが分布域東端の本流アマゴだ。

やや下流へ釣り下ったところで再びアタリ。広い本流域でもアマゴの反応があったのはこの一帯のみだった。

やや下流へ釣り下ったところで再びアタリ。広い本流域でもアマゴの反応があったのはこの一帯のみだった。

控えめなサイズではあるが重みのある1尾。今回の釣行も笑顔で終えることができた。

控えめなサイズではあるが重みのある1尾。今回の釣行も笑顔で終えることができた。