イワナの風貌を精悍とするならば、ヤマメには可憐という言葉が似合う。パーマークが浮かぶ魚体に穏和な顔つき。渓の宝石、あるいは渓の女王と呼ばれるだけあって、イワナとはまた違った華やかさがある。午前は利根川の支流である片品川の上流を釣り上がり、見事な尺上イワナと出会うことができた。
「川のコンディションもイワナの活性も上々でしたね。午後からは少し下流へ下ってヤマメを狙ってみましょう」
第一の目標である良型イワナをキャッチできたことで、井上聡さんの肩の荷が半分下りた。道中の道の駅で早めの昼食を済ませたあと、過去に井上さんがよい釣りをしたという、片品川の支流へ向かった。
先ほどまでイワナを狙った上流部から車で20分ほど下ると、片品川はグッと川幅を広げ、9mクラスの本流竿も余裕で振れるほどの規模となる。小継竿らしい釣りを楽しむとなれば、本流へ流れ込む支流がちょうどよい。エントリーした箇所はのどかな里川といった川相である。
「ここでは線の釣りを中心としてヤマメを狙います。手尻は竿尻トントンか20〜30㎝ほど長く出すので、竿は翠弧H61のままですが、穂先を標準タイプからパワータイプに交換しました。長いスジで仕掛けをブラすことなく流し、掛けたら場を荒らさずに抜くような釣りでは、やや張りのあるしっかりした穂先が使いやすいですね」
水中糸はイワナ狙いからワンランク落としたフロロカーボン0.2号。ハリは渓流バリ5号を結んだ。エサはミミズとクロカワムシをローテーションする。
開けた川岸が狭まり、深い谷へ入ろうかというところで最初のアタリがきた。引きは元気だが翠弧を胴まで曲げるほどのサイズではない。穂先から穂持ちあたりで軽くやり取りし、その場で引き抜いたのは20㎝クラスのヤマメ。地元では人気の河川とのことで、1尾目がすんなり釣れてくれるとホッとする。
井上さんはさらに上流を目指す。長いスジでは仕掛けを線で流し、落差のある場所ではピンポイントを点で打つ。井上さんの振り込みは変幻自在である。
深い谷筋を抜けると、再び川が開けた。右岸側へ絞られた流れに仕掛けを乗せていたところで、トンと目印が沈んだ。翠弧が豊かな弧を描く。なかなかの型のようだ。
しかしそこは本調子の翠弧である。井上さんが腰を落としてグッと竿を立てると、ひとタメで走りが止まってしまった。その後もヤマメは抵抗を繰り返すも、あとは井上さんが差し出す玉網へ導かれるほかなかった。
これが目測で25㎝前後。続けざまに喰わせた本命は、尺には届かないまでも9寸は楽にある良型。小継竿で狙うヤマメとしては十分以上の釣果である。
「いやぁ、いいヤマメが出てくれたのでホッとしました。今日はこのくらいでいいんじゃないですか?(笑)
楽しませてくれたヤマメはそっとリリース。尺上イワナに良型ヤマメ。大満足の一日であった。
翌日はお昼までの釣りである。片品川は堪能させてもらったので、この日は谷川岳にほど近い湯檜曽川(ゆびそがわ)をのんびり攻めることにした。
湯檜曽川は朝日岳に源を発する利根川の支流。谷川岳連峰などから雪解け水を集めるため、水は夏でも手がかじかむほど冷たい。イワナ、ヤマメとも湯檜曽の町中あたりでもよく釣れる。
「今日は軟らかめの翠弧ML61でやってみましょうか。これもHと同様にパワーセレクトシステムが採用されていて、標準とパワー、2本の穂先が付いています」
湯檜曽温泉の少し上流からエントリーする。このあたりはそこそこの川幅はあるが、大小の石でいくつにも流れが分かれており、小さなポイントをテンポよく打っていく釣りが中心となる。まさに小継竿の取り回しのよさと機動力が活きる川相といえるだろう。
湯檜曽川は入りやすいだけに釣り人が多く、アタリはさほど多くなかったが、元気なイワナが遊んでくれた。
「魚も釣れたし、新しい翠弧の調子も楽しめました。今回の釣行のなかで僕は、点の釣りでは標準穂先、線の釣りではパワー穂先を使いましたが、特に使い分けに決まりはないんです。皆さんには自由な発想で翠弧の本調子を味わっていただきたいですね」