6月中旬。多くの河川でアユ釣りが解禁を迎える頃、東北でも指折りの豪雪地域である米沢の渓は、長かった冬の眠りから目を覚ます。
「藤やウツキの花が咲くと、ようやく渓流釣りの季節が来たなと思います。今年は雪が多かったせいか、ややシーズンが遅れ気味です。ここにきてやっと釣れ始めた感じですね」
今回は源流から本流のサクラマスまでこなすオールラウンダー・我妻徳雄さんと、氏の地元である米沢の釣りを楽しむ旅だ。初夏とはいえまだ肌寒い早朝、まずは地元で小樽川と呼ばれる鬼面川(おものがわ)の上流を目指した。狙いは源流の宝石・イワナである。
鬼面川は山形と福島の県境・大峠北部に源を発する一級河川。松尾芭蕉の句で名高い最上川の支流である。入渓したのは源流にほど近い支流の沢であるが、本川沿いに国道が通っており、また入渓点も林道からすぐとエントリーは比較的容易。市街から車で30分少々の場所にこんな美渓があるとは、なんとも羨ましいかぎりだ。
「イワナ釣りと聞くと、源流域を長時間遡行するという印象を持たれている方もいらっしゃるかと思いますが、意外と近場にもいるんですよ。ここは比較的開けていて竿を振りやすく、特に険しい箇所もないので、初心者でも手軽に沢の釣りを楽しめると思います。私も昔はよく通いました」
比較的開けているとはいえ、そこはやはり上流部である。頭上には木々の枝が覆い被さり、ブッシュあり、倒木ありと手尻の長い仕掛けを自由に振り込める環境ではない。やり取りも障害物越しに行う場面も多いだろう。
我妻さんがセットしたのは、5.3mの竿に対して3.5mの短い仕掛け。いわゆるチョウチン釣りスタイルである。これを倒木の奥からそっと振り込むと、早くも岩陰から元気なイワナが飛び出してきた。20cm少々の中型ではあるが、ファーストフィッシュはやはり嬉しいもの。
「いましたね(笑)。もう少し大きいのが釣れるよう頑張ってみましょう」
この日、我妻さんがセレクトした竿は『源流峰NR』。その名のとおり、源流域のイワナにフォーカスして開発したアイテムである。
「先調子でパワーがあるので、障害物だらけのポイントで40cm近いイワナを掛けても余裕でやり取りできます。竿全体が曲がって魚の引きをいなすタイプの竿ではありませんが、節を縮めても調子が崩れないので、今日のようなチョウチン釣りで攻めるときは非常に使いやすいですね。仕舞寸法が48.3cmと短く持ち運びが楽で、タフなダブルコート塗装も頻繁に節を出し入れする釣りでは安心です」
小継竿1本あれば楽しめる気軽さが渓流釣りのよさではあるが、川相によって竿を使い分けることで、さらに攻めのバリエーションが広がる。我妻さんも車に複数の竿を積んでおき、フィールドによって適切なアイテムをチョイスする。川幅が狭く障害物が多い場所で、チョウチン釣りなどを絡めた釣りをするときは『源流峰NR』のほか、超小継の『ボーダレス35GL』もよく使うとのこと。
さて、幸先良く本命が釣れて喜んだのも束の間、しばらく釣り上がってもアタリがパッタリと途絶えてしまった。
「所々に足跡があります。入りやすい場所だけに、おそらく昨日あたりに他の釣り人が攻めていますね」
我々はいったん林道まで戻り、さらに上流を目指すことにした。熊笹を掻き分けて谷を下りると、ここにも清冽な流れが滑り落ちる美渓が広がっていた。規模としては渓流以上、源流未満といったところ。5.3mの竿にピッタリの川相である。
しかし大岩の陰、エグレといった、いかにもイワナが潜んでいそうなポイントでアタリが出ない。我妻さんが首を傾げる。
「ここも釣られちゃっているかなぁ……」
当たり前のポイントに魚がいない。人気場所、激戦区の常である。こうなれば仕掛けを入れにくい場所、竿抜けを探すしか手がない。
ブッシュの奥から護岸沿いに絞れた流れを狙う。タタミ半畳ほどの小さな棚にエサを落としたところで、ストンと目印が沈んだ。
竿を寝かせて頭上の枝をかわし、節を縮めて魚を寄せる。ハンドランディングで取り込んだのは、先ほどよりひと周り大きい25cmクラス。苦労して仕留めた1尾は格別である。
ここで午前の宝探しは終了。昼食を取った後、午後からは下流でヤマメを狙うことにした。
※後編へ続く