昨今の釣りは多様化の時代を迎えている。内水面の本流釣りもまたしかり。居着きの大ヤマメや戻りヤマメ、ダム湖から差し上がってくるランドロック、サクラマスにサツキマス、アメマス、果ては特大のサケやイトウ、海外のキングサーモンまで、ノベ竿1本で多くの魚と対峙できるようになった。

ただ、大型遡上魚を狙って釣るとなると河川が限られる。時期や釣況によっては遠征並みの遠出になることもある。その点でいうと、本流釣りで最も身近なターゲットは、やはりヤマメではないだろうか。日帰りレベルの釣りで気軽に狙うことができ、一発大型の夢はどの河川にもある。都市圏の本流であれば、まずは尺上、願わくば40㎝オーバー。このあたりを目標とするのが、平均的な本流ヤマメの釣行スタイルだろう。

しかし、いくら身近なフィールドで狙えるといっても、相手は百戦錬磨の天然個体。人里近くの本流域がテリトリーゆえ神経質で、少しでも警戒させればすぐにヘソを曲げて口を使わなくなってしまう。ときとして、上流域以上にデリケートなアプローチが求められるのが本流釣りでもあるのだ。

2021年6月、シーズンたけなわの宮城県・江合川に乗り込んだのは、全国の本流を転戦する井上聡さん。今回は2日間の日程で江合川の良型ヤマメに挑む予定だ。

北上川の支流である江合川。40㎝を超える大型は少ないが、尺クラスのヤマメは非常に濃い河川だ。

凛々しい顔つきの本流ヤマメ。都市圏の河川でも出逢える身近なターゲットだ。

 「27〜28㎝がアベレージで40㎝を超える大型はあまり出ませんが、非常にヤマメが濃い川ですね。半月ほど前に増水して、濁りが取れかかった頃に良型が釣れた、との情報が入ったので、久々に江合川へ来てみました。見たところまだ水は高いようですね。狙いどおり喰ってくれるといいのですが…」

朝一番に入ったのは池月地区。井上さんの言葉どおり水位が高く、流勢も強い。水深は深い所で人間の背丈以上はあるだろう。釣りに支障はないレベルながらも、やや濁りが残っている。

  この日、井上さんが携えていたのは、『スーパーゲーム ファインスペックMH90-95ZD』の最終プロトである。

「MHクラスの長尺ロッドです。尺前後なら余裕でやり取りでき、40㎝クラスが喰っても力負けしない。ヤマメをメインに狙う釣りにピッタリの竿ですね。これだけ水量のある川で流芯までしっかり攻めるとなると、やはりこの長さが必要なんですよ。江合川では90-95ですが、利根川のように川幅のある河川では95-100を使います」

ラインはフロロカーボン1号。竿尻いっぱいの位置に極小サルカンを結び、その先に60〜70㎝ほどハリスをとる。ハリはヤマメバリ8号。良型に備え、また高水という状況もあって、やや太めのセッティングである。

まずは強い瀬の落ち込みから攻めてみる。朝一番、本来ならヤマメの活性が高い時間帯であるが反応はない。少しずつ下流へ移動しながらエサを打ち込み続けると、ギュッと絞られた流れがやや開き、水面がモヤッとした箇所でググッと目印が押さえ込まれた。

押しの強い流れを一気に駆け下る引きはなかなかのもの。しかし、井上さんが竿尻を支えた左手をグッと押し出すと、ヤマメ独特の鋭いファーストランがいとも簡単に止まってしまった。取り込んだのは28㎝前後のヤマメ。本流域でも決して小さいサイズはないが、『スーパーゲーム ファインスペックZD』には少々物足りない型だ。

「それでもファーストフィッシュは嬉しいものです。もっと大きいのを狙って釣り歩きましょう」

『スーパーゲーム ファインスペックZD』を伸ばす。尺クラスを中心に40㎝オーバーの大ヤマメにも対応するロングロッドだ。

ラインはフロロカーボン1号。竿尻ちょうどの位置に極小サルカンを結び、その先にハリスとして同号数のフロロを60〜70㎝取る。

流れを駆け下る大ヤマメの疾走は実にパワフル。ハリは軸太の本流用ヤマメバリ8号をメインとした。

エサは現地で採ったクロカワムシと市販のミミズを使い分けた。

流れが開けたポイントで初めてのアタリがきた。尺前後であれば押しの強い流れの中でも余裕を持ってやり取りできる。

取り込んだのは28㎝クラス。サイズ的にはもうひと声ほしいところだが、どこであってもファーストフィッシュは嬉しいもの。

本流といえども、どこでも魚が釣れるわけではない。広い川の、ほんの一点にしかヤマメが着かないこともあるのだ。入川しやすく、多くの釣り人が攻める本流にあって、ここに棲むヤマメは学習を積んでいる。賢い魚を釣り上げるためにはポイントを見る目はもちろんのこと、遠いスジを的確に、かつ繊細に攻める必要がある。「遠いポイントを攻める」「離れた位置からアプローチする」の2点においては、川の規模が大きいほど長い竿が有利だ。

「しかし、竿は長くなるほどブレやすくなるんです。振り込んだ後にいつまでもフラついた穂先では仕掛けが安定せず、きちんとポイントへエサを流し込むことはできません。実釣テストでは、シャンとした振り調子と持ち軽さを常に意識しました」

持ち重りを軽減するため、『スーパーゲーム ファインスペックZD』は竿先をできる限り軽くした。しかし、竿先のカーボン材料を変えずに薄肉化させる軽量化では、竿が軟らかくなってアワセ遅れや操作性が低下してしまう。

「そこで2〜4番節に高弾性カーボン材料を使うことで、軽量化とアワセに対応できる張りを持たせつて全体のバランスを取りました。ベストな調子を導き出すまでに3年の月日を要しましたが、9〜10mの長竿ながらブレを抑えたシャープな振り調子を実現しました。長さを感じさせない緻密な操作が可能です」

そんなことが可能なのかと疑ってみたくもなるが、井上さんの流しを見ていると、思わず先の言葉に納得してしまうのである。振り込んだエサが底波をとらえると、流れにねっとりと絡みつくように仕掛けが落ち着く。目印は揺れも跳ねもせず、オモリが底石にコツンと当たった挙動もよくわかる。結果、根掛かりを恐れず底をタイトに狙うことができる。

 底石の頭を舐めるように流すと、先ほどと同サイズのヤマメが喰ってきた。狙いのスジを、狙いどおりに流して喰わせた1尾である。

10m近い長竿で正確に仕掛け操作を操作することは実に難しい。穂先が暴れる竿では、ここまで繊細に仕掛けを管理することは不可能であろう。

その後はピタリとアタリが止まってしまった。岩出山地区、川渡温泉地区へ大きく移動したものの、先ほどと同じ泣き尺サイズを2尾追加したところで、初日の釣りを終えることになった。

川幅が広いからといって安易に立ち込むのはNG。長竿には魚に警戒されないよう、離れた位置からアプローチできるというメリットもある。

尺前後のヤマメであれば、上竿でグッとタメるだけで走りが止まってしまう。あとはもう寄せるだけだ。

岩出山地区の公園下で仕留めたヤマメ。活性は全体的に低かった。

水量があって流れの押しも強い。『スーパーゲーム ファインスペックZD』のブレを抑えた調子は、このようなポイントであっても仕掛けを静かに落ち着けることができる。

幅広のグラマラスなヤマメを玉網へ滑り込ませる。この1尾で初日の釣りを終えた。

「昨日の状況を見ると、ヤマメの活性は低いという印象です。喰うべき場所で喰ってこない。6〜7月は江合川のベストシーズンで、本来ならもっと釣れるはずなんですけどねぇ……」

翌日はあいにくの雨模様。思案した結果、前日に釣果があった池月地区に入ることにした。

しかし現実は無情である。高水と濁りは相変わらず。前日に反応があったスジを丹念に探り、さらに下流まで攻めてみるもアタリはない。“一里一尾”とはポイントを足で探りなさいというヤマメ釣りの格言であるが、増水した本流での行軍はなかなかしんどい。

ひととおりポイントを探ったところでこのエリアを見切り、岩出山地区の通称「国道下」へ入った。ここは井上さんの釣友が過去に大型を仕留めたポイントとのこと。前日は攻めていない場所である。期待が高まる

浅瀬で川を切って右岸へ渡り、カーブした流れ込みの内側から対岸で絞り込まれる流芯を狙う。少しずつ流すスジを変えながら釣り上がると、ここでようやくアタリがきた。

水面下で激しい抵抗を見せるヤマメ。これもそこそこのサイズのようだが、『スーパーゲーム ファインスペックZD』の前には為す術はない。玉網へ滑り込ませたのは、前日と同様の尺に少し欠ける型。雨足が強くなったこともあり、この日はここで納竿とした。

「判を押したように同じサイズですね(笑)。『スーパーゲーム ファインスペックZD』は30㎝クラスなら余裕でファイトでき、40㎝級の大型が喰っても力負けしない竿です。繊細に喰わせてパワフルに獲る楽しさを、ぜひとも多くの方に体感していただきたいですね」

最後に攻めたのは通称「国道下」。川底の変化はさほどでもないが、大型実績のあるポイントである。流れのカーブの内側から流芯を狙う。

長さを感じさせないシャープな振り調子。投入後はスムーズにブレが収束する。

ヤマメは本流釣りにおける最も身近なターゲット。市街地の近くでもこのサイズが普通に喰ってくるのが魅力だ。