北海道東部に位置し、マリモの産地として名高い阿寒湖。雄阿寒岳を中心とするカルデラ湖のひとつで、北海道内で5番目に大きい湖である。この阿寒湖に源を発し、南流したのちに釧路市大楽毛で太平洋に注ぐ、流程98kmの2級河川が阿寒川だ。
今回、この阿寒川で狙うのはニジマス。それも50cmを超える大型レインボーである。これだけなら特に珍しくはないが、このサイズのニジマスをテンカラで釣るとなれば、大抵の人は驚くだろう。
日本古来の毛バリ釣法であるテンカラは、渓流域のヤマメであったり源流のイワナであったり、大きくても40cm前後までの魚をメインに釣るものであった。シマノでも源流から本流域までカバーできるだけのロッドが揃っていが、最も強いアイテムである「本流テンカラ」であっても50cmオーバーの大型魚となると、取り込みがやや手間取る。
近年の渓流釣りは、多様化の時代に差し掛かっている。本流域の大型遡上魚をはじめ、ニジマスやブラウントラウトも立派なターゲットだ。フィールドも自然渓流はもちろん、多くの河川が禁漁になる冬期に管理釣り場で釣りを楽しむ人も増えた。ならば、テンカラで大物を狙うというスタイルもあって然るべきだ。
そんなテンカラ新時代に産声を上げたのが「BGテンカラ」。BGとは「ビッグゲーム」の略で、シマノのロッドにおいては大物狙いを見据えたパワーアイテムに銘打つ特別仕様の証しだ。
「BGテンカラ」の最終プロトを携え、颯爽と北の大地に下り立ったのは、我が国のテンカラ釣法の第一人者、石垣尚男さんである。季節は7月下旬。これより2日間の日程で北海のモンスターに挑む。
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今回の旅では、テンカラで50cmオーバーのニジマスを狙う。テンカラ釣りの新たなる領域への挑戦である。
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マリモとアイヌ文化で名高い阿寒湖から流れ出る阿寒川。上流部にはキャッチ&リリース区間が設けられ、大型のニジマスが放流されている。
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テンカラの第一人者・石垣尚男さんが「BGテンカラ」の最終プロトを手に北の大地を訪れた。是が非でも大物を仕留めたいところだ。
「阿寒湖の流出口から雄観橋の下流端まではキャッチ&リリース区間になっていて、大型のニジマスが放流されています。ニジマス以外では、少数ですがアメマスもいます。キャッチ&リリースエリアなので魚影は保たれていますが、多くの釣り人が攻めるだけに、魚はややスレているんですね。ただ、釣れる魚の型は大きいです。楽しみですね」
阿寒湖畔までは、釧路空港から車でゆっくり走って1時間前後の道程。午前着の飛行機であれば、昼過ぎには釣りができる。宿に着いて身支度を整え終わったのが午後2時半。とりあえず夕方まで竿を出してみた。
まずは滝見端のたもとから入川。観光地である阿寒湖のほとりは賑やかであったが、渓を下りると北海道らしい原生林が広がっていた。川の規模はさほど大きくはない。ごく一般的な渓流相といったところだ。本州の川と違うところは、河原の所々から熱々の温泉が湧き出ていることと、熊の出没への注意を促す看板が随所に設置されている点。そう、ここは北海道なのである。
石垣さんは川沿いに20分ほど下り、やや開けた場所で竿を伸ばした。手にしているのは「BGテンカラ」。ストレートラインを介してフロロカーボン2.5号のハリスを結び、その先には大型ニジマスのために巻いた特製の毛バリをセットする。
「ハリはフライフックの6番で、かなりしっかりしたものです。ニジマス狙いでは水深のある大きなポイントをメインに攻めるので、点で打つというよりは、線で流すアプローチが多くなります、なので、普通の毛バリのほかに、水中に沈めて流すためのビーズヘッドを仕込んだタイプも用意しています。基本的にヤマメ釣りで使っているものを大きくしただけですが、大場所で魚が見つけやすいように、ややハックルを多めにしていますね」
いざ実釣開始。ヤマメ釣りでは「3秒×3流し」でテンポよく釣り上がっている石垣さんだが、ニジマス狙いでは1投ごとにコースを変えながら、しつこく毛バリを流す。反射的に喰わせるのではなく、毛バリをじっくり見せて喰わせるイメージだ。
しかし、魚からのコンタクトはない。ここぞというポイントでもアタリはなし。線径の細い毛バリに変えたところでようやく良型のニジマスが喰い付いたが、無念にもやり取り中にフックを伸ばされてしまった。
「どうも魚が警戒しているようですね。今日は月曜日ですが、阿寒湖での釣果が芳しくないとのことで、この週末は阿寒川に多くの釣り人が入ったようなんです。竿出しから間もなく、コツンと小さなアタリがあったのですが、すぐに毛バリを吐き出されてしまいました。これは魚がナーバスになっているなと思い、ハリを軽いものに 変えてみたのですが・・・・・・」
その後は阿寒川からいったん上がり、数年前によい思いをした太郎湖の流れ込みを攻めてみたものの、地形が変わっていて本命からの魚信はなし。ここで日没を迎え、初日の釣りはゲームセットとなった。
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橋のたもとから渓へ下り立つと、原始から続く大自然に全身が包まれる。そこには悠久の時間が流れていた。
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50cmオーバーの大型魚と渡り合うために開発した「BGテンカラ(プロト)」。粘りとパワーを持たせつつも伝統的な6:4の胴調子に仕上げ、楽に毛バリを飛ばすことができる。
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大型ニジマスと対峙するために石垣さんが用意した毛バリ。左がノーマルタイプ、右の3つがビーズヘッドを仕込んだ沈むタイプ。ニジマスにしっかり見せるため、ハックルやボディ材はアピール性を重視している。
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週末明けとあって、多くの釣り人に攻められたニジマスはナーバスになっていた。ようやくアタリをとらえるも、残念ながらフックを伸ばされてしまった。
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夕方は太郎湖へ移動して阿寒湖からの流れ込みを狙ってみたがノーフィッシュ。初日の釣りはここで終了となった。
明けて2日目。この日は前日よりやや下流の「ラビスタ阿寒川」前から釣りをスタート。ここはホテルの脇に駐車場が完備しており、入川が容易なことから人気の高いポイントとのこと。それゆえ前日に攻められているかもしれないという懸念はある。ひと晩おいてニジマスのコンディションがリセットされていればよいのだが・・・・・・。
そんな我々の不安は、最初のポイントで一気に吹き飛んでしまったのである。
左岸に寄った流れが絞り込まれた深みへ流し込んだ毛バリにガツンときた。大きい。獲物は流れを一気に駆け下ろうとするが、グイッと上竿で絞った「BGテンカラ」の粘りには屈するほかなかった。
石垣さんはほぼ立ち位置を変えることなくダンプカーのような走りをいなし、魚を上へ回した。この体勢になれば多少走られても余裕を持って対処できる。ハリスを持って玉網に滑り込ませたのは50cmクラスのニジマスであった。
「いい喰い方でした。アタリもガツンと手元にきましたからね」
旅のミッションを無事に達成し、石垣さんもホッとした様子だ。ここで「テンカラBG」の使い心地を聞いてみた。
「やはり『BGテンカラ』のパワーは素晴らしい。テンカラ竿の難しいところは、ただ強いだけ、ただ硬いだけでは竿として機能しないところなんです。なぜなら、軽い毛バリを飛ばすためには、パワー系のアイテムであっても弾力があってしなやかな調子でなければいけないからです。『BGテンカラ』はパワーを持たせつつも、既存アイテムの流れを汲む6:4の胴調子に仕上げており、バックキャストからのしなり戻しで楽に毛バリをキャストできます。4.8mと長い竿ですが、5本継で非常に細 身なので風切り抵抗が小さく、長時間振り続けても苦になりませんね」
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2日目は「ラビスタ阿寒川」前から釣りをスタートした。原生林に囲まれた清冽な流れが美しい。この景色を見ただけでも北海道へ来てよかったと思えるほど。
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左岸寄りに流れが絞り込まれた深みでいきなり大物がヒット。ダンプカーのような突進を胴の粘りで止める。
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ハリスを手に取ってランディング。勝負あった。
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旅のミッションであった50cmオーバーのニジマスをキャッチ。ヒレピンで体側に差す紅色も鮮やか。実に美しい魚体だった。
その後もう1本同サイズを釣り上げたところで、前日に入った上流の滝見橋下へ移動。目星を付けていたポイントを再び攻めることにした。
連発だった。
前日はカスリもしなかった鉄板ポイント。一番よい流れにビーズヘッドの毛バリを流し込むと、ひと流し目でガツンと竿先が絞り込まれる。53cm、続いて55cmのニジマスを難なく取り込んだ。
「前日から打って変わってニジマスの喰い気が高まっていますね。ひとつのポイントでも、最もよい流れには大きな魚が着きます。今日はそこにいる最も大きい魚が喰ってきている印象です」
このサイズが釣れれば大満足だ。「BGテンカラ」の釣り味も堪能できた。
「60cmともなるとスリルのあるやり取りになると思いますが、50cmクラスのニジマスやブラウントラウトであれば、余裕を持ってファイトすることができます。本州でも大きなトラウトが釣れる河川はありますし、冬期は管理釣り場でハコスチを狙うのも楽しいでしょうね」
伝統は磨かれ、さらなる進化を遂げる。「BGテンカラ」の登場により、テンカラの世界がまた広がった。
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午後からは前日に不発だった上流部へ移動。はたしてニジマスのコンディションはリセットされているだろうか。
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4.8mの長尺ながら、片手でも楽に振り込める軽快さが「BGテンカラ」の真骨頂。頭上を木々が覆っているポイントでもサイドからコントロールよく毛バリを打ち込める。
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ここぞというポイントでは1投目からアタリがあった。ひと晩休んだニジマスは喰い気満々。線で流した毛バリに猛然とアタックしてきた。
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53cm、そして55cmが立て続けに喰ってきた。北海道の雄大な自然と大型レインボーの引き、そして「BGテンカラ」の釣り味を堪能した2日間だった。