「本流釣り」というジャンルが誕生して、もう20年以上経つだろうか。サクラマスにサツキマス、アメマス、大ヤマメはもちろん、いまやサケや海外のキングサーモンまでノベ竿で狙えるようになった。そしてもうひとつ、本流釣りのターゲットとして忘れてはならないのが、ニジマスやブラウントラウトといったマス類だ。

ニジマスといえば、管理釣り場や釣り堀などでおなじみの魚である。エサ釣りでは女性や子供でも楽しめ、ルアーでは繊細に喰わせる人気ゲームフィッシュであるが、本流釣りとなると、かなり事情が変わってくる。

なぜか。本流域に棲息するニジマスは、とにかくデカイのである。40cmは当たり前、50cm、果ては60cmといった大物が、かなりの確率で喰ってくるのだ。

神奈川県の芦ノ湖などでも、このクラスのスーパーレインボーは釣れる。しかし川には流れがある。それも場所によっては人間の背丈以上も水深のある本流域である。押しの強い流れに乗った大型ニジマスの引きは強烈のひと言。釣り人は長尺の竿をたわわに曲げてニジマスの疾走を止め、図太い流れの中から丸太のような魚を引きずり出さなくてはならない。想像しただけでも身震いする。

そんな本流のスーパーレインボーを仕留めるべく、渓流釣りのオールラウンダー・井上聡さんが長野県の犀川へ向かったのは2019年8月下旬のことだった。当日の予報は雨。それもかなりまとまった雨になりそうとのこと。

一抹の不安が脳裏をよぎったが、待ったからといって好天に恵まれる保証はない。決行である。できれば増水して濁りが入る前に勝負を決めてしまいたいところだ。

ニジマスも本流釣りのターゲットのひとつ。本流域のニジマスは大型が多く、豪快なファイトを味わえる。

ニジマスと双璧をなす魚がブラウントラウト。身をよじるような独特の引きはニジマスと違った面白さがある。

信濃川の一大支流である犀川。水量が豊富で流れの押しも強く、ダイナミックな本流釣りを楽しめる。

犀川は日本一の流程の長さを誇る信濃川(千曲川)の支流である。北アルプスの槍ヶ岳に源を発し、上高地を南流。松本盆地で奈良井川と合流したのちに北東方向へ向きを変え、長野市内で千曲川と出合う。奈良井川との合流点より上流は梓川と呼ばれる。

生坂ダムより上流は比較的開けた流れだが、ダムを過ぎたあたりから徐々に谷が深くなり、やがて大渓谷とも言うべきダイナミックな景観となる。水量は豊富で川幅も広く、9mクラスの竿でさえ短く感じるほどだ。

犀川下流部の犀川殖産漁協が管轄するエリアは、ニジマスの通年解禁を導入しているのが魅力。漁協が定期的に放流していることに加え、自然繁殖した個体も多い。

早朝、現地ではまだ雨は降っていなかったが、すでに水が高くなっていた。濁りも入っている。

「夜半に山あいで降った雨の影響でしょう。ただ、この川で暮らしている魚は、増水しても必ず安全な場所を知っているんですよ。高水であっても、魚が休める場所を探して攻めれば釣れますよ」

井上さんは余裕の表情である。

まず竿を伸ばしたのは、平ダムの下流に架かる大八橋の下。普段から水量のあるポイントであるが、この日はさらに水勢が増していた。

この釣行で井上さんが持参した竿は、2020年の新製品である『スーパーゲームパワースペックZR』のプロトモデル。これのH+90 -95とHH+90 -95の2本を使い分ける予定とのこと。

「前モデルもこだわって作り込んだ竿ですが、今回のパワースペックは前作をベースとして全体的にややパワーを上げています。それゆえのプラス付きのパワー表記なんですね。スーパーレインボーやブラウントラウトはもちろん、北海道のアメマスやカラフトマスを相手にテストを行いましたが、まだまだ余裕がありましたね」

深みに足を取られないよう浅瀬に立ち、頭を出した岩の先へ仕掛けを振り込む。ほんの2~3投したところだった。いきなりクライマックスが訪れたのである。

『スーパーゲームパワースペックZR』のプロトモデルを携え、ポイントを観察する井上さん。増水気味で濁りが入っているのが気になるところ。

平ダム下流の大八橋下で第一投。竿出し直後にいきなりドラマが待ち受けているとは夢にも思わなかった。

メインのエサはマグロやサケの身をサイコロ状に切ったもの。エサが大きくラインも太いので、オモリも重めのものが中心となる。

サブのエサはミミズ。身エサにはない“動き”が武器である。

ヒュンと竿が風を切る音が聞こえたかと思うと、パワースペックが大きな弧を描いていた。獲物は増水で渦巻く流れを一気に駆け下る。井上さんは胸元まで水に浸かるくらいに腰を落とし、上竿で強引をいなす。

竿の曲がりから見てかなりの型であることはわかった。しかし、井上さんは一歩も動かずにファーストランを止めてしまった。井上さんのウデなのか、それとも竿のパワーなのか。いずれにしても、目の前で完璧なまでの横綱相撲を見せられたのは確かだ。

竿を立てて浮かせにかかる。水面を嫌がった魚は何度も下流へ走ろうとするが、竿をグイッと水面近くまで寝かせて絞り上げられると、頭を振って抵抗するだけが精一杯であった。

天高く竿を突き上げ、魚を玉網へ滑り込ませる。60cm近いスーパーレインボーだった。

「この水量なので立ち込むわけにもいかず、流心はまず攻められません。ただ、増水時は魚も流れが穏やかな場所でじっとしているんですよ。流心の脇とか、流れが当たった岩の裏側など、水面がモヤモヤッとしたあたりが狙い目ですね」

竿出しから10分も経っていないにもかかわらず、早くもこの旅のミッションを達成してしまった。あとはさらなる大型を狙いたいところだ。

移動しながらいくつかポイントを攻め、橋木橋の下流でも50cmオーバーをキャッチ。しかし午後からは雨が降り始め、濁りもきつくなってきた。思い切ってダム上の安曇野まで大移動してみるも、雨足がさらに強くなりやむなく竿を納めることになった。翌日の水況が気になるが、ここで井上さんに『スーパーゲームパワースペックZR』の使用感を聞いてみた。

「前モデルよりも穂先から3番節にかけてを硬くしたので、ハリの貫通力が高まって感度もよくなりました。重いオモリを打っても穂先が垂れ込まないし、大きなエサでもコントロールよく振り込み、正確に流れをとらえて流すことができますね」

掛けてからのパワーは傍で見ているだけでも実感できた。翌日はさらなる大物との格闘を見てみたいものだ。

『スーパーゲームパワースペックZR』が大きな弧を描いた。グッと腰を落とし、竿を絞り上げてファーストランを止める。

信濃路釣行の1尾目は60cmはあろうかというスーパーレインボー。旅のミッションはものの10分で達成した。

大型実績の高い橋木橋下流でもニジマスがヒット。渾身の疾走も『スーパーゲームパワースペックZR』の強靱なブランクスに止められてしまう。

通年解禁の犀川殖産漁協管轄エリアだが、キャッチ&リリース区間が各所に設けられている。釣り上げたニジマスをそっとリリースする。

昼近くになると濁りがさらに増してきた。この後は雨に降られ、初日の釣りは早々に終了となった。

明けて翌日、雨は相変わらずでスッキリしない。ダム下は真っ茶色の濁りが入っており、この日は朝イチから安曇野エリアで竿を出すことにした。

ここまで来ると濁りは幾分マシだが、肝心の魚からの反応は皆無。多少移動しただけではさほど状況は変わらないと判断し、奈良井川出合いよりさらに上流の梓川で、最後の望みをかけることにした。

井上さんが目星をつけたのは松本の市街部。流れは平坦で、本流の雰囲気を多少は残してはいるものの、ポイントによっては7mクラスの竿でも攻められそうな規模である。

たまたま車で通りかかった漁協の方に聞くと、ニジマスもヤマメもあまり釣れていないという。しかし、増水と濁りの犀川を後にした者としては、ここでやるしかないのである。

軽い足取りで土手を下り、瀬肩を切って対岸に渡った井上さんは、教科書どおりの流れ込みポイントを攻める。少しずつ釣り下り、ギュッと絞られた流れが開きかけたところで目印がトンと押さえ込まれた。

ゆっくりやり取りして玉網に導いたのは、35cmクラスの立派なヤマメ。ヤマメ狙いであれば大喜びするサイズではあるが、『スーパーゲームパワースペックZR』の強靱な粘りにはやや役不足。ヤマメ嬢にはしばし撮影会に付き合ってもらい、流れにお帰りいただいた。

気持ちを新たに、再び竿を出す。先の流れ込みをさらに釣り下り、流れが開いたところで強烈なアタリがきた。

重量感のある引きだが、突っ込みはニジマスほど鋭くはない。取り込んでみれば50cmクラスのブラウントラウトであった。

増水と濁りに翻弄された2日間であったが、終わってみればニジマス、ブラウントラウト、ヤマメといずれも良型に恵まれた。『スーパーゲームパワースペックZR』のポテンシャルを実感するには十分すぎる釣果である。その真価は、皆さんの手で確かめていただきたい。

2日目は濁りを避けてダム上の安曇野エリアから釣りをスタート。しかし魚の反応はいまひとつ。ここは早々に見切りを付け、さらに上流の梓川へ移動した。

梓川へ移動してすぐにアタリ。小気味よい引きはニジマスではなさそうだ。

尺上のヤマメをキャッチ。スーパーレインボー狙いでなければ大喜びするサイズである。

流れが開くあたりで再び強烈なアタリがきた。重量感はかなりのもの。竿を絞り上げて疾走を封じ込める。

獲物はなんと大型のブラウントラウト。十分に空気を吸わせて一発でタモ入れが決まった。

北米が原産のニジマスに対し、ブラウントラウトは北欧が原産。顔立ちもどことなく高貴である。