喰わないときに考えるべきこと

テンカラ釣りは毛バリで魚を騙して釣る遊びです。釣りであるからには、それなり理論とテクニックが存在しますが、相手は自然界に棲む生物なので、彼らの食性や行動を人間がコントロールすることはできません。毛バリにこだわるのは結構なことですが、どんな毛バリに喰い付くかは魚が決めることです。釣り方にせよ、毛バリのセレクトにせよ、自分の都合ではなく、魚の側に立って考えるのが第一。まずはこの点を肝に銘じておくことです。

たとえばあなたが、これまでにテンカラで1尾でも魚を釣ったことがあるのなら、あなたは喰わせるだけの技術を持っていて、ちゃんと魚が喰う毛バリを選び出すスキルがあるといえます。それでも釣れないときは、魚のコンディションが悪いと判断してよいでしょう。

現代は情報社会ですから、釣行前にはインターネットなどで直近の釣況を知ることができます。また、渓流の釣りでは入漁券が必要なので、これを購入する際にも、どこで釣れているかを教えてもらうことができるでしょう。釣れる時期に、釣れる川へ来ました。では簡単に釣れるかといえば、実際そう上手くはいきません。

なぜか。それは魚の活性は一定ではなく、常時変化しているからです。

魚の活性を司る最も大きな要因は、水温であると私は考えています。朝夕のマヅメは好時合と言われていますが、春先のシーズン初期にこの時間帯を狙っても、水温が低いためあまり喰いません。このような時期は日が昇って水温が上がってからのほうがよいでしょうし、逆に夏場など水温の高い季節は早朝が狙い目となるケースが多いように思います。

ポイントを見る目は大切ですが、喰わないときほど大きな視点で、川全体をイメージするとよいでしょう。そして、釣れたときの状況を覚えておくことです。季節、時間帯、天候、喰った場所など過去のデータを元に、状況に応じて入るべき河川、攻めるべきポイントを推理するわけです。そしてこのようなデータが蓄積されるほど推理の精度も高まります。

読みどおりに喰わせた1尾の喜びは格別。魚の活性が高まる時間帯を推理して、朝イチはこの川、日が昇ってからはあの川といった具合に上手く立ち回ることができれば、おのずと釣果は伸びるはずです。

魚の食性や行動を人間がコントロールすることはできません。喰わないときほど魚の側に立って攻めを組み立てることが大切。

ポイントは季節や時間帯といった条件を総合的に考えて絞り込みます。推理が的中したときの快感は何物にも代えられません。

水生昆虫の羽化を観察する

釣りの最中に注意して観察していただきたいのがハッチ、日本語で言うと「虫の羽化」です。カゲロウやトビケラが川面で羽化を始めると渓魚の活性が高まり、よいときはライズが頻繁に出ます。

幼虫期を底石の裏などで過ごした昆虫たちは、羽化の寸前に底を離れて水中を流れ下り、水面に出たところで羽化します。ハッチは水面上での現象ですが、川の中ではかなり多くの虫が流れているはずです。渓魚たちにとってはエサだらけの状態であり、それこそ夢中で食べまくっていると予想できます。テンカラで使う毛バリは、カゲロウやトビケラを模したものが大半であり、ハッチが出たときは鉄板の好条件と考えてよいでしょう。

ハッチが始まったときに見ておきたいのは、羽化している「虫の大きさ」です。この虫のサイズに毛バリを合わせるとよいように思います。羽化している虫が大きければ毛バリもボリュームのあるもの、虫が小さければ毛バリも小さめといった具合です。

テンカラで用いる毛バリはカゲロウやトビケラを模したものがほとんど。ハッチが出ているときは、この上ない好条件です。

羽化している虫にマッチするよう、ボリュームの異なる毛バリを用意しておくとよいでしょう。

時合とポイントの見切り

私のテンカラ釣りは、流れ込みなどのポイントをいくつかに区切り、ひとつのポイントにつき「3秒×3投」が基本です。ひと流し3秒を3回行い、これで魚が出なければ、ここには私の毛バリで釣れる魚はいないと判断し、狙いを次のポイントへ移します。

ポイントを見切るタイミングとともに意識しているのは「時合」です。ヤマメやイワナは冷水系の魚ですが、水温が低すぎても動きが悪くなります。先ほど申し上げたとおり、解禁直後など水温の低い時期は、日が差して水温が上がりやすい日中、夏場など水温が高い時期は朝夕の涼しい時間帯に喰いが立つことが多いように思います。高地を水源とする水温の低い川では、夏場でも早朝は喰いが悪いというケースもあります。

魚のコンディションと時合を総合的に考え、ポイントを見切るべきと思えば潔く移動してしまいましょう。極端に状況が悪ければ、川自体を変えてしまってもよいでしょう。一度竿を出してみて「今は出ないけれど、夕方になれば喰いそうだな」と思えば、いったん引き上げてポイントを休ませ、時合と予測した時間帯に集中して狙うのもよい方法です。

魚の反応がまったくないときは潔くポイントを見切ります。「自分の毛バリに喰ってくれる魚」を探すことが大切です。

シーズン初期や水温の低い河川では、日が差して水温が上がる時間帯が狙い目です。

低活性の魚を釣りたい・どうする?

魚の反応がまったくない状況では、まず1カ所で粘ることはありませんが、活性は低いものの、何となく口を使う気配があるときは、攻め方を変えて魚の出方を見ることがあります。

魚はいるけれど、浅い場所まで出てくるだけの活性がないときは、水深のある場所に狙いを絞り、沈むタイプの毛バリに変えて底層で喰わせる方法を試します。私がメインに使っている毛バリは水面下5~10cmの表層を漂うタイプですが、底層を狙うときはタングステンのビーズヘッドを仕込んだ毛バリを使います。

水深のある場所では毛バリが沈むまでに時間が掛かるので、やや上流に毛バリを打って、狙いのポイントで底層に入るようにします。そこからラインを張り気味にして誘います。通常の釣りでは短い距離を流してすぐに毛バリをピックアップしますが、深場を狙うときは線のアプローチになります。

もうひとつ、テンカラは立ち位置より上流に毛バリを打つアップストリームが基本ですが、上流から自然に流した毛バリに、魚がまったく反応を示さないこともしばしばです。魚の活性が極端に低いときは、ダウンストリームに切り換えると口を使ってくれることがあります。

ダウンストリームのメリットは、ラインを張って誘いを掛け、魚にしつこく毛バリを見せることができる点です。このときはフックサイズは同じでも、ややハックルにボリュームのある毛バリが有効です。魚の目の前で毛バリを躍らせるうち、じれた魚がアタックしてくることが少なくありません。

通常は立ち位置より上流に毛バリを打つアップストリームが基本です。魚に警戒されにくく、毛バリを自然に流すことができます。

極端に魚の活性が低いときはダウンストリームに切り換えて積極的に誘うのも手。自然に流して喰わないなら、リアクションで喰わせるべし。