1尾でも多く釣るための心得
テンカラ釣りを始め、何度か釣行した方なら、ある程度はポイントのイメージはできるでしょう。渓流の魚は流れの集まる場所や、流れが反転するような場所に着いています。このような場所は川虫や陸生昆虫が集まりやすく、効率よくエサを食べられるからです。
しかし、一定のエリアに着いている魚は1尾だけではありません。活性が高い魚がいれば、ポイントとおぼしき場所へ毛バリを打てば簡単に釣れますが、一等ポイントへいきなり毛バリを打ってしまっては周囲の魚を散らしてしまうことがあり、なかなか数が伸びません。1尾でも多く魚を釣るためには、ひとつのポイントを区切って、順序立てて攻めていく必要があります。
効率よく数を伸ばすためには、まず魚を驚かせないことです。魚は意外に浅い場所にも潜んでいます。川へ無闇に立ち込まないよう心掛けましょう。
今回は夏のイワナを例として、ポイントの攻略手順と立ち回り方を解説します。
狭いポイントの攻略手順
石に囲まれた流れ込みは、イワナの代表的なポイント。このような場所は落差のある上流部~源流域によく見られます。狭いポイントゆえに狙いを絞りやすい場所ですが、狭いなかにもイワナの着き場をいくつかのエリアに区切ることができます。
一般的な流れ込みのポイントを図にしてみました。私がここを攻めるときは、下流から少しずつ立ち位置を移動しながら①~④の順に毛バリを打っていきます。
ここでの一等地は図中④。強い流れの脇にできたタルミは鉄板のイワナポイントですが、ここを最初に攻めてしまうと、その下流にいる魚を散らしてしまう恐れがあります。
最初に攻める①は、最終的に釣り人が立って④を狙う場所ですが、こんな所にもイワナが潜んでいることがあります。まずは後に立ち位置となる場所をチェックするわけです。
②は流れ込みが当たる「ウケ」の部分。ここの石が大きく魚が隠れる隙間があったり、岩の下がえぐれていれば期待大です。
ここまで攻めたら足場をやや上流へ移し、③を狙います。流心の脇には反転流が生じやすく、ここへ打った毛バリは白泡との境目でスッと沈みます。これに白泡の下に潜んでいたイワナが出てきます。流心脇という意味では④と同様ですが、①に立つと魚が警戒してしまうため、④より先に攻めるべきポイントといえるでしょう。
この後は本命の④を狙います。狭いポイントでは、毛バリをあまり長時間流しません。アプローチを点か線かでいえば、点を数多く打っていくイメージです。
私の釣り方は「3秒×3投」が基本。毛バリを打ち込んで3秒待っても魚が出なければ、毛バリを見切られないようピックアップしてしまいます。
これを3回行って出なければ、次のポイントへ移動。ポイントが狭ければ「3秒×3投」をワンセットで終わりにしますし、ポイントがある程度広い場合は、投入点を変えつつ「3秒×3投」を何度か行うこともあります。このあたりはケース・バイ・ケースです。
開けたポイントの攻め方
落差のない平瀬、ザラ瀬は、開けた渓流域や里川によく見られるポイントです。活性が高い盛期のイワナは、このような瀬に出てきて活発にエサを喰います。
流れのスジが不明瞭なときはポイントを絞りにくいものですが、こんなときは流れではなく、川底の石を目安として攻めるとよいでしょう。
イワナが着くのは大きな石の前や横。イワナは砂地底を嫌うので、偏光グラスを掛けるなどして石組みをよく観察し、極力大きな石の周辺を攻めるようにしましょう。
ここでも「3秒×3投」の基本は変わりませんが、流れがあるぶんアプローチは線に近くなります。水深がある場所などで水面直下に漂う毛バリへの反応が悪いときは、ビーズヘッドを仕込んだ沈むタイプの毛バリにチェンジするのもよいでしょう。
キャスティングを見直す
魚を警戒させないことを考えると、ミスキャストは極力減らしたいもの。キャスティングをひととおり覚えたら、次のステップとしてキャストの正確さを目指したいところです。上流部や源流は木の枝などの障害物が多いので、サイドからのキャスティングもマスターできれば完璧です。
テンカラのキャスティング動作は、ラインを後方へ導くバックキャストと、毛バリを前方へ運ぶフォワードキャストに二分できます。初心者はとにかく毛バリを投げたい意識が働くのか、フォワードキャストで力みがちですが、毛バリをスムーズに打ち込むには、バックキャストのほうが重要です。
フライフィッシングではラインにある程度の重量がありますが、テンカラの場合、特にレベルラインは非常に軽いため、竿に重みは乗せられません。質量の軽いものを前方へ飛ばすパワーを得るには、スピードが必要です。このスピードを作り出すのがバックキャストなのです。
ラインを跳ね上げるような気持ちで後方へ竿を振ると、竿の反発でラインが引かれ、豊かな初速を得られます。その後は竿の曲げ戻りによって、自然にフォワードキャストに移れます。フォワードキャストに力は不要。むしろフォワードキャストで力んでも毛バリはさほど飛びません。
サイドキャストも理屈は同じで、スイングの角度が変わるだけです。竿の「曲げ感」かっこを養って、ワンランク上のキャスティングをぜひとも会得していただきたいものです。
(次回へ続く)