新たなる宝刀を目指して

スーパーゲーム 刀(かたな)─

それは、本流釣りのカリスマ・細山長司さんが監修を務め、氏の本流ヤマメ・アマゴ竿へのこだわりを形にしたスーパーゲームシリーズのフラッグシップモデルである。

風を切り裂く細身肉厚のブランクスは、まさに刀のごとし。細山さん自身が「常に完璧を目指した」と言い切る歴代の刀は、一切の妥協を許さない氏の分身ともいえるものであった。

綿密なディスカッションを経て組み上げた、三代目『スーパーゲーム 刀 NA』のプロトを細山さんのもとへ届けたのは2017年3月のこと。開発担当は細山さんとタッグを組み、『スーパーゲーム スペシャル』やスーパーゲーム 刀』を育てたのべ竿開発のエース。「鱒之介」の開発に際しては細山さんとともにアラスカへ渡ったほどの熱血漢である。体調の不良を訴えた細山さんが検査のために入院したとの知らせを聞いたのは、この後のことだ。

やがて4月。入院中の細山さんから評価を聞くことはできないものの、開発担当は気になる点を修正したプロトを送った。5月に入ってからは自らもプロトを抱えて揖保川の本流へ入り、尺アマゴを掛けながら問題点の洗い出しを行う。細山さんの退院、そして復帰は間もないもの、と疑わなかった。

本流釣りのカリスマ・細山長司。「常に完璧を目指した」と言い切る歴代の『スーパーゲーム 刀』は、氏の分身ともいえるものだった。

本流のカリスマ、逝く

細山さん逝去の知らせが入ったのは、7月上旬のことであった。開発スタッフ一同は哀しみに打ちひしがれた。

新たな刀を細山さんに振ってほしかったが、その願いは永遠に叶わなくなってしまった。ならば、せめて細山さんの熱い思いを形にしたい。

しかし、一切の妥協を許さない細山さんの意志を受け継ぎ、現時点での完璧を目指してきた刀を完成させるのは容易なことではない。シマノが長年にわたって培ってきた技術の粋を集めれば、理論上ではクオリティの高い竿を作ることはできる。しかし、これが優れた竿であるとは限らない。目指すものがあってこその技術であり、竿を優れていると判断するのは、あくまで釣り人の感性であるからだ。

とりわけ『スーパーゲーム 刀』は細山さんが細部までこだわり、机上では導き出せない“味”まで追求した竿だ。細山さんとの二人三脚で創り上げた調子を継承しつつ、基本性能をどこまでブラッシュアップできるか。これがシマノへ課せられた使命であった。

あまりにも突然だった訃報。現時点での完璧を目指し、細山さんの熱い思いを形にすることがシマノに課せられた使命であった。

あくなき理想の追求

穂先が適度に入り込み、負荷に応じてしっかり胴部まで曲がりが下りてくる掛け調子。胴からしなって長手尻仕掛けを正確に振り込み、ブレがシャキッと止まる振り調子。本流ヤマメ特有の鋭く小さなアタリを見極められる感度。鋭い走りをいなす胴の粘り。長さを感じさせない体感的な軽さ。風を切り裂く細身のブランクスを有しながら、これらの要素を高次元で満たし、そのとき持ちうる技術をフルに投入して究極を追い求めてきたのが、歴代の『スーパーゲーム 刀』である。

細山さん亡き後も理想を追求する姿勢は不変である。三代目『スーパーゲーム 刀 NA』へは新たな技術を惜しみなく投入し、基本性能を徹底的に磨いた。

まず穂先は感度の向上に貢献するエキサイトTOPを採用。『スーパーゲーム スペシャル』に初めて搭載し「アタリが手元へクリアに響いてくる」と細山さんが絶賛した穂先構造だ。高弾性素材による軽量化をすることで、振り込み後のブレが速やかに収束する「トップストップⅡ」も採り入れた。

基本構造も、ナノアロイ®テクノロジーで強化したスパイラルXの進化型であるスパイラルXコアを導入。ネジリ強度、つぶれ強度が大きく向上するなど基本性能がグッと底上げされ、大きく竿を絞り込んだときの安定感が向上した。(※ナノアロイ®は東レ(株)の登録商標です。)

ブランクス成型に際しては、ブランクスを焼き上げる工程で使用する成型テープのラッピングを、極めて細かいピッチで施す「ナノピッチ成形」を採用。ブランクスをより均一な力で締め上げることによって、高強度化に大きく貢献するテクノロジーである。

三代目『スーパーゲーム 刀 NA』は、新たな技術によって基本性能を上げつつ、感度はより研ぎ澄まされ、ブランクスはより強くなったといえる。しかし細山さんは、強すぎず弱すぎず、魚とフェアな勝負ができる道具を望んでいた。こんな細山さんの思いを踏襲し、開発担当は竿としてのクオリティを上げながらも「むやみに硬くしない」「必要以上にパワーを上げない」「刀特有の腰のある調子にキレを出す」「シャキッとした操作性」の4点を念頭に置いてプロトを作り込んだ。開発サイドで納得のいくレベルまで完成度を高めたプロトが組み上がったのは、2018年3月のことだった。

しかしこれで完成とはいえない。パワーひとつとっても、ただ強いだけでは優れた竿にはなり得ないからだ。本流ヤマメを獲るに十分なパワーを有するのは当たり前のこと。そのうえで、『スーパーゲーム 刀』には“強さの質”が求められるからだ。

刀は磨かれることによって輝きを増す。細山さんの釣りを知るインストラクターのもとへプロトを持って出向き、その調子を評価してもらうことにした。

過剰なパワーは不要。細山さんは常に魚とフェアな勝負ができる竿を望んでいた。

磨かれし宝刀

まずコンタクトを取ったのは、細山さんの釣りの礎である“郡上釣り”の伝承者であり、サツキマス釣りにも精通する根来正巳さんである。根来さんには8mを手渡し、揖保川の本流と支流を釣り歩いた。

本来の郡上釣りとは、ジンタン5〜4号の軽いオモリを使って、吸い込む流れだけでなく吹け上がる流れにもエサをなじませるのだと根来さんは言う。この軽い仕掛けを正確に振り込み、筋を外すことなく操作するには6.5〜7mの本流竿としては短めの竿が適しており、氏も長きにわたって『原点流』を愛用している。

「8mともなれば振れ幅が大きいぶん、普通に考えたら投入コントロールがつけにくく、ブレの収束も遅いはずなんです。しかし新しい刀は曲がりの軌道が乱れないので、軽いオモリでも狙ったポイントへピタリと仕掛けが入ります。穂先の止まりも早く、流しの精度も落ちませんね」

この日の釣りのなかでいくつかの改良点は見つかったものの、根来さんには前モデルからの進化を感じ取っていただけたようである。

郡上釣りの伝承者である根来正巳さん。軽いオモリでも正確に振り込めるコントロール性を絶賛した。

次にプロトの調子を見ていただいたのは、源流から本流までこなすマルチプレーヤー・我妻徳雄さんだ。氏もまた刀に魅せられたひとりである。プロトを送るなり8mで47cmの大ヤマメを仕留め、開発メンバー2人が同行してテストを行った白石川でも尺上を釣り上げた。

「風切りのよい細身ブランクス、ブレやネジレが抑えられた剛性感は、前モデルからしっかり引き継がれています。そのうえで体感的な軽さと操作性が向上しているように感じます。本流というフィールドには風がつきもので、竿が長いほど風の影響を受けてしまうのですが、強風下でもスパッと振り切れるシャープさは、やはり刀ですね」

この日は数本のプロトを用意していたが、その中の1本に我妻さんと開発の評価が集中。よりリアルに調子を絞り込めたテストであった。

我妻徳雄さんはテストで47cmの大ヤマメを釣り上げ、『スーパーゲーム 刀』の実力を証明してくれた。

最後は東北の巨匠・伊藤稔さんにプロトを使っていただいた。これまでのテストで、開発担当が唯一気になっていたのが、振った際のかすかなブレ。このブレは元上節が起因していることに気づいた開発担当は、微妙に硬さを変えた元上節を数本用意し、伊藤さんに比較テストをしてもらった。

「振ったときはシャキッとしていて、魚を掛けると胴までスムーズに曲がりが入ってくる調子は見事です。普通の竿は曲がるだけ曲がったらカツンと硬くなってしまいます。刀は手元まで曲がりが下りてきても止まらず、ずっと粘ってくれるんです。これがあるからイナシが利く。用意してもらった元上のうち、1本がすごく具合がよかったんです。ここを修正したことによって、すごい竿になりましたね(笑)」

この伊藤さんの評価は、はからずも開発担当と一致していた。自分たちの感覚は間違っていなかった。こうして三代目『スーパーゲーム 刀 NA』は、いよいよ最終の調整に入ったのである。

伊藤稔さんは数本用意した元上節のうちの1本を高く評価した。開発担当の意見とも一致し、最終調整への大きな自信となった。

(次回へ続く)