出逢いと楽しみのオールイワン

毛バリの釣りといえば、西洋のフライフィッシングを思い浮かべる人が多いかと思います。しかし、我が国でも古くから毛バリを用いた釣りが存在し、明治年間の文献にはテンカラ釣りが記されています。

「トバシ」「タタキ」とも呼ばれていたテンカラ釣りは、もともと職漁師の釣りでした。そんなマニアックな釣りが広く知られるようになったのは昭和40年代のこと。ノベ竿で長い糸を操り、軽い毛バリを飛ばす釣りはシンプルかつ奥深いもので、テンポよくポイントを撃っていく独特の釣趣も手伝ってか、近年は海外でも人気が高まりつつあります。

テンカラ釣りの仕掛けにはオモリもウキも付いていません。ではどのようにして毛バリを飛ばすのかというと、一般的な仕掛けで言う道糸の部分に太めのラインを用い、これの重みで毛バリをポイントへ飛ばすのです。

ラインには『レベルライン』と呼ばれるフロロカーボンの単糸、複数のナイロン糸を縒り合わせた『テーパーライン』、そして近年開発された最も新しいテンカララインである『ストレートライン』の3つが主に用いられていますが、多少太いものを使ったとしても、オモリと比べれば頼りないほど軽いものです。軽いラインをムチのように操って毛バリを打ち込む「キャスティング」は、初心者にとって難しいものとされていました。

「キャスティングは難しそうに見えますが、ちょっと練習してコツをつかめば、誰でも簡単に毛バリを飛ばすことができるんです。ただし、そのためにはバランスの取れた道具を使うことが重要です」こう語るのは、テンカラ釣りの第一人者である石垣尚男さんです。

テンカラにおけるキャスティングの動作は、ラインを後方に導いて竿に重さを乗せる『バックキャスト』と、竿の弾力で毛バリを前方へ飛ばす『フォワードキャスト』の2つに大別できます。ピンピンに張った先調子の竿では、バックキャスト時にラインをうまく後方でターンさせることができません。かといって、ベロンベロンに軟らかい竿でもラインの軌道をコントロールできず、狙ったポイントへ毛バリを落とせません。

「私は各地で講習会やイベントを行っていますが、そこで出会う生徒さんのタックルを見ると、アンバランスなものを使っている人が意外に多いんですよ。硬い竿に細いレベルラインを併せても毛バリはうまく飛びません。個々の製品は優れたものかもしれませんが、竿とラインのバランスが取れていないと、キャスティングが非常に難しくなってしまうのです」

また、ラインも仕掛け巻きから引き出したままの、カールした状態で使っている人が思いのほか多かったとのことです。上級者ならば釣りを始める前にラインを軽くしごくなりして、まっすぐの状態にしますが、初心者はここまで気が回らないのだそうです。

右も左もわからない初心者が、竿やラインを単品で購入してベストなバランスのタックルを組むのは無理というもの。であるならば、初心者でも簡単にキャスティングのコツをつかめるバランスの取れたタックルを、トータルで提案する必要があるのではないだろうか。これが『テンカラBBキット』に取り組むキッカケでした。

テンカラBBキット

『テンカラBBキット』は、ラインの重さを乗せやすい竿と巻きグセの付きにくいライン、実績のある毛バリをセットにしたオールインワンキットです。これだけを用意していただければ、パッケージから出してすぐに釣りを始められます。

竿は開けた渓流域を中心に対応範囲の広い3.3m。調子はテンカラ竿の王道ともいえる6:4としました。やや胴に乗る曲がりは軽いバックキャストでも楽にラインを導き、しなやかな反発が自然かつスムーズに毛バリを前方へ運んでくれます。

既存のテンカラ竿には、8:2や9:1といった先調子の製品も存在します。もちろん先調子の竿にも使用目的があり、経験を積んだ釣り人が適切な場面で使うと効果的なのですが、先調子の竿は曲がりのスィートスポットが狭く、初心者には扱いにくいものといえます。

「現在主流となっているレベルラインやストレートラインは軽いので、『テンカラBBキット』の竿には、ラインをスムーズに運べる胴調子を選びました。キャスティングは力で竿を振るものではありません。手首とヒジの動きで曲げ込んだ竿が、自然に毛バリを運んでくれる。このフィーリングに最もマッチしているのが、6:4調子なんです」

キャスティング時のウエイトとなるラインは、このキットのために特注したストレートラインを採用しています。新素材を用いたストレートラインはクセが付きにくく、付属の仕掛け巻きから引き出した直後に、スルリとまっすぐに伸びます。カールしたラインはトラブルが多いうえ、毛バリの飛びを著しく損ねますが、ストレートラインにその心配は無用です。

「特注した部分はラインの長さと太さです。通常は4m前後の長さで売られているものが多いなか、竿とのマッチングを考えて3.6mとしています。この先にナイロン1号のハリスが1m付いており、仕掛けの全長は竿尻より1ヒロ弱長くなります。これは飛びと扱いやすさ、射程距離のバランスが最もよい長さを考えた結果です。太さはやや太めに設定して重量を持たせることで、初心者でも楽に取り回せるようにしました。竿のTENKARA BBキットともベストバランスとなる重さを求めました。」

専用テンカラライン、毛バリ4本を付属

川幅の狭い上流部では、もう少し短い仕掛けが使いやすいこともあります。逆に川幅が広い場所では、もう少し長い仕掛けのほうが射程範囲が広がります。『テンカラBBキット』で入門してタックルの扱いに慣れてきたら、仕掛けのみを買い足すのもよいでしょう。また、木の枝に引っ掛けたりしたときのために、予備のハリスを用意しておくと安心です。

「毛バリは私自身が監修した実績の高いタイプを4種類揃えてあります。ハリのサイズはフライフック換算で12番程度で、毛バリとしては標準的な大きさですね。長い経験から自信を持っておすすめできるタイプの毛バリなので、国内の渓流ではまず困ることはないはずです」

毛バリセット
①朝、夕の暗いところで有効な毛バリ
②シーズン通して有効な万能毛バリ
③テンカラの早期に効果的な毛バリ
④夏のイワナに効果のある黒毛バリ

トータルのバランスにこだわったキットだけあって、振り調子は実に軽快。この点は石垣さんも太鼓判を押します。

「テンカラは数ある釣りの中でも、特にキャストの数が多い釣りです。力を入れず、楽に毛バリを飛ばせるということは、1日振っても疲れにくいということ。力は要りません。軽く振り上げたら、その反発だけで自然に毛バリが飛んでいきます。このキットで1人でも多くテンカラの楽しさを知っていただけたら嬉しいですね」