2018.12.06
フェリーのゲートが下りると、朝日に照らされた標高297mの龍王山が目に飛び込んできた。ここは香川県多度津の北西7.5kmの沖合に浮かぶ高見島である。島には平地がほとんどなく、人家は島南部の山裾に浜集落と浦集落に集中している。
かつては海上交通の要衝として栄え、蚊取り線香の原料となる防虫菊の栽培で賑わったらしいが、2017年の人口は30人弱とのこと。一便のフェリーで島へ下り立ったのは釣り人が数人と、工事作業のために訪れたとおぼしき人が2〜3人。誰かが出迎えに来るわけでもなく、それぞれが目的の場所へ散っていった。
ひっそりとした朝の町。大荷物をくくり付けたキャリアーを引くのは、投げ釣りのオールラウンダー・日置淳さんである。この日はシーズンに入ったばかりの乗っ込みガレイを狙っての釣行である。
「まだ時期的には早く、場所によって釣果にムラがあるんですけどね。このあたりに詳しい釣友に聞いたところ、高見島がええんやないかと教えてくれたんです」
実績のある場所を事細かく聞いてきたとのことだが、第一候補である護岸は台風で足場が崩れてしまい、立入禁止になっていた。第二候補の石積み護岸では、同じフェリー便で渡ってきた釣り人が竿を伸ばしている。浜港の西に位置する石積み堤防で、日置さんはようやくバッグを置いた。
この日のタックルはプロサーフ振出415CXTとフリーゲンSD35標準仕様。カレイはもちろん、真鯛などの置き竿の釣りで日置さんが多用するセットだ。遊動テンビンに30号オモリを取り付け、まず2本バリ仕掛けで様子を見る。エサは本虫(イワイソメ)、塩マムシ、アオイソメ、ユムシを用意した。
沖合には瀬戸内独特の速い潮が通している。30号のオモリがあっという間に流されていく。
「この速い潮をいかに攻めるかが、瀬戸内の難しさであり、楽しさですね。カレイは潮が弛んだり、微妙に変化したときに喰ってくることが多いです」
潮の速い釣り場では、竿を欲張らないことが大切だと日置さんは言う。仕掛けが速い潮に流されると、潮下の仕掛けを上げて潮上へ打ち返したり、手前と沖の流れが異なるときは、複数並べた竿の位置を入れ替えるといった作業が必要になる。
竿を多く出しすぎると管理が行き届かず、仕掛けがオマツリしたり、運が悪いとせっかく喰った魚をバラすことにもなりかねない。日置さんは仕掛けの流され方を見ながら、2本、3本とゆっくりタックルを増やしていった。
エサ取りは多かった。ほんの数分置き竿にしておくだけでエサが取られてしまう。
「これが乗っ込み初期のカレイ釣りなんです。エサ取りが多いので、まめにエサをチェックする必要があります。それでも潮変わりなどでエサ取りがパッといなくなることがあるんですが、こんな時間帯にカレイの喰いが立ちますね」
万能の虫エサといわれるアオイソメは多くの魚が好む。エサ取りが多い時間帯にアオイソメを使うと、時合までに使い切ってしまうことがある。こんなときはエサ取りに強い塩マムシやユムシを主体にするとよいとのこと。
竿出しから間もなく、10cm足らずの真鯛が喰ってきた。この日のエサ取りはこいつのようだ。
「とりあえず今は辛抱ですね。午後2時半頃が満潮なので、この前後が狙い目です」
沖はとにかく潮が速く、仕掛けが瞬く間に右へ流される。投入した仕掛けを引いてきてカケアガリで止めてアタリを待つが、かなりの確率で根掛かりしてしまう。
「沖には3段ほどカケアガリがあるのですが、速い潮で砂が流されて岩が露出しているようなんですよ」
ここで日置さんは仕掛けを2本バリから1本バリへ変更した。少しでも根掛かりを減らすための工夫である。
速い潮ときついカケアガリに苦戦しつつも辛抱強く攻めていると、ひときわ大きいアタリで40cmクラスの真鯛がヒットした。
「1本バリの遊動仕掛けにユムシで攻めているから、これが喰ってきても仕方ないですね(苦笑)」
期待の上げ止まりもカレイからの魚信はなし。夕マヅメは浜港の堤防へ移動するも、この日はついにカレイの顔を拝むことはできなかった。翌日に期待である。
明けて翌日。高見島周辺にはカレイの群れが入っていないと判断し、大きく釣り場を移動。
高松市庵治半島の先端に位置する竹居観音下の浜に入った。ここは四国最北端の地として知られた所。高見島に比べて水深はないが、乗っ込みカレイの実績が高いとのこと。
沖には速い潮が通しているが、浜がやや奥まっているので、岬を回り込んだ反転流を攻める格好になる。仕掛けがさほど流されないので釣りやすく、前日のような忙しい釣りにはならないだろう。
朝マヅメはカレイのみならず、多くの魚に共通する好時合である。暗いうちから釣り場に入り、東の空が白む頃には第一投を振り込んでいた。
4本の仕掛けを投入し終わり、しばし雑談に興じていたところ、一番左に置いた竿の竿尻がガタンと音を立ててズレたと同時に、フリーゲンSDのドラグからラインが引き出される音が聞こえてきた。
じっくりと喰い込ませたところで大きく合わせを入れると、前日の真鯛とは明らかに違う引き。手前まで寄せてきてもなかなかオモリが見えてこない。ここで日置さんは何かを確信したようである。
「これは本命やと思いますよ!」
波口から顔を出したのは紛れもなく本命のカレイ。背中の肉がこんもりと盛り上がった30cm級の良型である。
日置さんが拳を突き上げて歓喜の声を上げた。
どれだけ待ったか、どれだけ我慢したか。丸一日の苦労が報われた瞬間だ。
「カレイは潮と時合で喰う魚です。いくらいても食性のスイッチが入らないと口を使わない一方で、いったんスイッチが入ればバタバタッと喰ってきます。朝の時合に懸けてよかった。ホッとしましたよ(笑)。
そんな朝の時合は短く、モーニングサービスはこの1尾で終わってしまった。下げ止まりからの上げっぱなもアタリはなかった。しかし心は晴れやかである。カレイの活性が上がりきらない中、苦労して釣り上げた1尾がもたらしてくれる充足感は計り知れないのである。
竹居観音下は、潮が満ちると浜が水没してしまう。頃合いを見て鎌野港横の石積み堤防へ移動。夕方の納竿までここで遊ぶことにした。
ここもエサ取りが元気だった。竿先を叩くようなアタリが何度も出たが、なかなかハリに掛からない。やや大きなアタリを合わせてみると、キュウセンがハリを口いっぱいにくわえていた。
「さっきからのアタリはこれかもしれませんね。夕方までにもう1尾カレイを釣りたいなぁ・・・」
手を変え品を変え、遠近のポイントを攻め分けて、辛抱強くアタリを待つ。お昼を回った頃に喰ってきたのは20cmほどのチヌ。結局これが、午後の釣りのハイライトになってしまった。
「カレイは1尾しか釣れませんでしたが、釣りとして見れば真鯛やチヌも釣れて、そこそこ楽しめました。カレイ一本に狙いを絞って竿を出すのもよいのですが、初冬までの高水温期は投げ釣りの対象魚が豊富な時期でもあるので、置き竿の五目釣りというつもりで釣行するのも楽しいと思います」
これから水温が下がればエサ取りも減り、じっくりと腰を落ち着けてカレイを狙えるようになるだろう。
vol.2に続く